前の話 目次 次の話




 やっと終わる……。

 クリトリスへの触診が終わった後、医師は宣言していた。
「はい、今回はここまでにしようか」
 全身の強張りが抜け、手足の力が緩んだ。待っていたとばかりに開脚を解こうとしたものの、まだしばらくポーズは保って欲しいと言われたせいで、瑠璃は未だ恥ずかしい姿であり続ける。全裸だけでも恥ずかしいのに、M字開脚によって羞恥心は増幅され、今にも耳まで燃え続けている。
 この恥ずかしさからも、早く解放されたかった。
 ここまでと言ったからには、しかしあと少しの辛抱のはずだった。
「愛液は拭き取っちゃうから、その後で症例写真を撮って終わろうね」
「え……」
 瑠璃は固まった。
 症例、写真?
 つまり、胸やアソコを撮るということだろうかと、困惑に満ちた表情でまず固まった。そのきょとんとした瑠璃の表情は、徐々に歪み尽くしたものとなり、顔から火を噴き出す勢いの羞恥心をあらわにしていた。
(写真って! 写真って……!)
 盗撮疑惑がある以上、そもそも一連の映像が撮られているであろうことはわかっている。その覚悟もしてきているが、明確にカメラを向けられ、はっきりと撮られることまでは、瑠璃は想定していなかった。
「とりあえず、拭いちゃうからね」
 まずはガーゼでアソコが拭かれる。
 一度は離れた顔が改めてぐっと迫って、至近距離から性器を見られる恥ずかしさを味わいながら、しかも体液を拭き取られる。この歳にもなってオムツの世話でもしてもらっているような、幼児扱いの屈辱が込み上げていた。
 そんな歳じゃないのに……自分でやるのに……と、そう訴えかけてやりたい気持ちは、瑠璃の中で切実だった。
(んっ、やだ……)
 ガーゼ越しの指が肉ヒダに押しつけられ、肉貝や肛門すらもなぞられる。ざらっとした摩擦を感じることで、世話をされている感覚は一層強まり、いっそ殺して欲しい気にすらなってきていた。
 こんな摩擦すら、気持ちいいのだ。
 せっかく拭き取ったとしても、あまり長く擦られると、また新しく愛液が出て来そうな、自分自身の感度に対してさえ、思うところでいっぱいだった。
「ほら、こんなに取れたよ?」
 しかも、見せつけてきた。
「や……!」
 小さな悲鳴と共に、瑠璃は顔を背けていた。
 医師のわざわざ広げてくるガーゼは、端から端までまんべんなく水分を吸収していた。お漏らしというわけではないが、湧いてくるのは小便に濡れたシーツを見せつけられる屈辱も同然で、お前はこんな歳になって漏らしたのだと、そう言われている気分ですらあった。
「まあ仕方ないよ。オナニー、する子だもんね」
 フォローにならないフォローをされると、ますます惨めで恥ずかしい。
「すみません……」
 口を突いて出て来る言葉はそれだったが、一体何を謝っているのだろうと、自分でもほとほと思う。余計に情けなくなってくるだけだった。
「いやいや、とにかく症例写真だね。早いところ済ませちゃおうか」
 医師は改めて診察台の傍を離れて、瑠璃の視界から消え去るなり、デスクの引き出しをがらりと開けて、その中身を片手に戻ってくる。医師の握ったデジタルカメラに、瑠璃はさっと強張っていた。
 どこかに隠されていたり、ペン型をしているわけでもない、はっきりとした明確なカメラの存在は、緊張感を煽るものだった。
 裸の状態でカメラなど、身構えないわけがない。
 溢れ出る警戒心と、これから患部を撮られるのかという恥ずかしさで、心の中まで緊張で固くなる。
「胸から撮るからね? 大丈夫、顔は撮らないから」
 とは言うが、きっと顔すら、とっくに撮られている。どこかにカメラは隠されていて、ものの最初から瑠璃の顔は撮られている。
 壁か、天井か。
 場所までは特定できないが、盗撮用のカメラによっても、瑠璃の裸体は撮られている。症例写真の撮影という、今これからの場面すらアダルト動画の一部となり、投稿先のサイトで視聴者を悦ばせることだろう。
 そんな未来を想像するに、瑠璃の頬から炎が噴き出す。
 覚悟してきてのこととはいえ、秋月にも、不特定多数にも、自分のあられもない姿が見られてしまう。
「はーい。じっとしててね?」
 医師はカメラを近づけてきた。
 レンズを上から、乳房に近づけられ、瑠璃はより一層のこと強張った。顔というより、乳房の真正面にカメラは位置して、角度からして確かに顔は写らないことだろうが、乳房だけをピンポイントで撮られるのも、本当はたまったものではない。
(やだ……こんなの……!)
 本当は拒否したかった。
 しかし、裏稼業のためと思い、今だけは耐え忍ぶ。

 パシャ!

 シャッター音声が鳴り響いた。
 その音を聞くことで、自分の胸がデータとなって、画像として内部に保存されたのだと実感した。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 医師は何度か、胸にシャッター音声を浴びせてくる。
 その回数分だけ、メモリーの中には画像枚数が増えている。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 摘み取られている気分であった。
 物理的には何も失っていないのだが、自分の大切に育て上げた何かを、他人に勝手に収穫されている気分になった。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 微妙に位置を変えていた。
 カメラを右にずらした上で、微妙に接近させてきていた。右の乳房だけを集中的に撮っているのだ。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 ならば、左の乳房にも、同じく接近してきていた。
 どちらの乳房も至近距離で撮られてしまい、この短い時間のあいだに、一体何枚の画像が生まれてしまったか。
「次はアソコだからね」
 あまりにも辛かった。
 今度はM字開脚のアソコにカメラは映る。自身の股に視線をやれば、接写しようと迫るカメラが視界に飛び込で、モニター越しに覗き込まれていることが如実にわかる。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 まずは外性器だった。
 毛の一本も生えていない、綺麗に剃り落としたツルツルのアソコへと、執拗なまでにシャッター音声は鳴り響く。
「中身も撮るからね?」
 と、また再び、瑠璃はその指で肉ヒダを公開することとなり――。

 パシャ! パシャ! パシャ!
 パシャ! パシャ! パシャ!

 その恥ずかしさは、もはや脳を焼かれるようだった。
 脳神経に火が点いて、頭蓋骨の内側で火災でも起こっているように、顔中が熱くて熱くてたまらない。恥ずかしいという感情だけで、自分がどうにかなりそうな、パニックにでも陥るのではないかという予感が本気でしていた。

 パシャ! パシャ! パシャ!
 パシャ! パシャ! パシャ!

 一体、何枚撮るのだろう。
 炎の渦が巻くほどの、脳の激しい熱に耐え忍んでいるうちに、ふとした拍子に撮影は終了する。性器からカメラは遠のき、今度こそ解放されるかと思いきや、顔の真横まで移動してきて、医師はモニター部分を見せつけてきた。
「ほら」
「やっ!」
 瑠璃は悲鳴を上げていた。
 モニターに映っているのは、毛のないアソコの、瑠璃自身の指でぱっくりと開かれた肉ヒダだった。自分の目では確認しにくい、鏡でもなければ覗けない場所が、画面は小さいものの高画質で、粘膜が光を反射してキラキラと輝くところから、膣口にある白い膜状の、何か穴を塞ぎはしないが狭めているもの――処女膜すら、くっきりと写っているのであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA