触診はまだまだ続く。
乳揺らしが終わるや否や、今度は乳肌全体をすりすりと、指で丁寧に擦り始める。かぶれ、炎症、ニキビのような吹き出物。そういったものを調べるため、表皮を丁寧に磨くかのようなタッチが施されていた。
「うーん。やっぱり、健康な乳房に思えるね」
また前のめりになりながら、医師は左手で片方の乳房を、瑠璃にとっては左側を持ち上げている。空いているもう片方の指腹で撫で回し、いたるところを摩擦する。東半球や西半球、北半球ばかりでなく、北東や西北など、より細かい角度にかけて、すりすりと撫で回すタッチは続く。
左の乳房が終わっても、今度は右の乳房に同じ触診が始まった。
やはり左手によって持ち上げられ、右手によって摩擦行為は施される。人差し指と中指の、二本指を束ねた指腹で、瑠璃の表皮は調べ尽くされようとしているのだ。
「こっちも健康だよ」
束ねた指が北東に置かれると、ミリ単位の押し込みによって微妙に凹む。そのまま前後往復のようにして、すりすりと表面を磨いてくる。皮膚と皮膚とで鳴らされる摩擦音は、静かな診察室によく響いた。
呼吸音と同じくして、本当は目立つことのない小さな音が、静寂であればこそ存在感を獲得していた。
やがてその触診が終了しても、すぐに次の方法が始まった。
「それじゃあ」
今度は揉まれた。
「……っ!」
両手でしっかり、左右それぞれを鷲掴みにされた時、瑠璃はすぐさま顔中を強張らせ、より緊張しながら医師の指遣いを受け入れていた。
(も、揉まれて…………)
頭の中には警告信号が放たれていた。
これは診察などではない。ただ揉みたくて揉んでいるだけだ。真面目に病気を診ようとする気持ちはない。散々の警告が神経信号を行き来して、脳神経の内側にみるみるうちに拡散される。
あっという間に体中がそわそわした。
急ぎの用事があって、このままでは間に合わないかのような焦燥が、体中から滲み出そうになっていた。
指が食い込む。
揉み潰そうとしてくる指は、てっきり痛いほどに食い込むかと思いきや、痛覚が働く直前に脱力する。指全体から力が抜け、瑠璃の乳房は弾力によって左右の五指を押し返し、すると直後にはまた揉み込まれる。
医師は指に強弱をつけ、たっぷりと好きなだけ踊らせてきた。
最初はただ、きっと楽しんでいるだけに違いないことへの不快感と屈辱ばかりで、良い気持ちなど微塵もなかった。手の平の温度や感触は、気持ち悪い感触としてしか捉えられず、瑠璃はただただ堪えるばかりとなっていた。
だが、徐々に甘いものが分泌される。
乳房の奥底、乳首から胴にかけての中心を通った芯に、何か分泌機能でもあるように、乳房の内側に甘い蜜の存在を感じ始める。
(私、もしかして感じてしまうのでは……)
それは一種の危機感となった。
盗撮されている可能性が高い、性犯罪者であろう男の前で、性的快感を示しても、良いことなど何もないはずである。痴漢やレイプ相手に感じた素振りを見せようものなら、やられて悦んでいるに違いないと、都合良く解釈されては困るような、自分がますます不利になる予感から危機感が芽生えていた。
だが、瑠璃はあくまで、診察を受けに来ている。
この男がクロだと確定させるため、こうして胸を触らせている。
(耐えないと……)
瑠璃はぐっと気持ちを堪え、素直で大人しい素朴な女子高生であり続ける。
「痛みや違和感は?」
「特にないみたいです」
「ふーむ、やっぱり健康そのものなのかな?」
と言いつつ、医師は指の動きを止めない。
揉まれれば揉まれるだけ、芯から分泌される蜜は増え、乳首はしだいに突起していく。今は柔らかな乳首が硬くなれば、体の反応を誤魔化せない。
(待って――)
瑠璃は念じた。
強い強い念を自分自身の胸に送った。
(感じちゃダメ……何も感じなくていい……)
できるだけ強い念になるように、脳から高出力の何かを放ったつもりになって意識をするが、体の反応は止まってくれない。徐々に集まる血流は、乳首を呆気なく突起させ、医師の手の平を突くのであった。
「おや」
そして、医師は乳首の様子に気づくなり、すぐに手を離して確認した。
突起した乳首へと、気持ち良くなってしまった証拠へと視線は注がれ、さすがに羞恥心が膨らんだ。今の今まで、頬の桃色止まりであった表情は、もっと濃い赤へと近づいていた。
「す、すみません。真面目に診察して頂いているのに」
瑠璃は会釈気味に頭を下げる。
さすがに恥ずかしかった。
この格好自体、もちろん恥ずかしさは感じていたが、診察なのに快楽を感じてしまった上、それを向こうにも悟られての恥ずかしさが加算され、頬が熱気を高め始めた。
「いやいや、大丈夫だよ。いやぁ、それにしても、念のために聞くけど、感じちゃったのかな?」
「え……」
はっきりと聞かれると返事に困る。
セクハラでは? と、至極当然の疑問が頭に浮かび、それは強い念となっていた。
「いやね? 症状のせいで、性的な刺激がなくても乳首が突起するってケースがあるんだよ。そういうね、誤診を防ぐ意味でも、気持ちいいせいで固いのか、そうじゃないのか。きちんと判断しないといけないんだ」
医師はもっともらしい説明を行った。
「そうですよね。すみません、変なことを気にしてしまって」
「いいっていいて。それより、どうなのかな?」
改めて尋ねてくる医師の、顔は真面目そのものである。
事務的な面持ちに、はっきりとしたいやらしさは窺えないが、それが単なる仮面であり、本当は好奇心から尋ねているだけではないかと、瑠璃の中には疑いの念が膨らんでいる。相手の好奇心を満たすためだけになど、もちろん答えたくはない質問だった。
しかし、瑠璃は答える。
囮役をしっかりこなし、必ずや容疑を確定させるため、恥を忍んで躊躇いながら、瑠璃は口を開くのだった。
「か、感じました…………」
大きな無念が胸に広がる。
こうして告白してみると、神聖な診察の場で感じるという、罪な振る舞いをしてしまい、それを懺悔でもさせられた気になってくる。
余計に恥じ入りたくなってくる。
「そっかぁ。感じちゃったんだね?」
「……はい」
理不尽だった。
申し訳ないことをしてしまい、どうもすみませんとでも言うような、そんな気持ちにどうして自分がならなくてはいけないのか。
さすがの惨めさには思うところでいっぱいだ。
「まあ、仕方ない。体っていうのはそういうものだし――」
医師の手がまた近づく。
まだ次の触診が残っているのかと、思わず身構えた瑠璃に対して、行われるのは乳首をつまむ行為であった。
「んぅ…………」
刺激が走り、少しだけ声が出そうになる。
「ま、とにかくね。乳首も調べていくからね」
彼はそういって、今度は乳首を中心とした触診を開始した。
指と指のあいだに挟んでつまみ、強弱をつけ続ける行為によって、マッサージでも施されるような刺激が始まる。その指圧は実にほどよく、瑠璃の乳首を丁度良く刺激して、先ほどから出ている蜜が、乳房の内側でますます増えた。
このままでは、乳房の中は蜜だらけになってしまう。
砂糖をいっぱい溶かし込んであるように、すっかり甘ったるくなる未来を感じて、瑠璃はより一層の不安を帯びた面持ちとなっていた。
「感じちゃうのはね? 普通のことだよ」
フォローされると、余計にみっともない。
「だからね。あんまり気にしないようね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
瑠璃はそんな風に言ってしまうが、本心ではそれ以上に、快楽についての言及はやめて欲しい思いでいっぱいだ。
「痛み、違和感。気持ちいい以外の何かがあったら、必ずすぐに言うようにね」
「はい。もちろん……」
答えるなり、医師は乳首を引っ張ってくる。
指圧にかかっている力は軽いものに過ぎないので、少しでも引っ張ったら、乳首はすぐにあいだから外れてしまう。しかし、少しばかり乳房は伸びて、丸っこい形状から、尖った形状へと微妙に近づき、その上でぷるっと柔らかに、弾力を帯びて元の形状に立ち戻った。
また、つままれる。
引っ張られ、指のあいだから引っこ抜け、ぷるっと、微妙な揺れを帯びて元に戻る。
そしてまた、その三回目が始まって、乳房が伸びる分だけ持ち上がり、直後には元の下垂状態へと戻っている。張りが良く、胸筋を土台にしっかりと持ち上がっている乳房は、その垂れ具合は申し訳程度のものに過ぎないが、とにかく元の下垂具合にまで戻っていた。
引っ張られ、また垂れる。
引っ張られ、また垂れる。
垂れ具合が戻る瞬間のたび、振動を帯びたようなぷるっとした挙動を見せる。
それはしばし続いた。四回も五回も、六回も七回も、あと何回やれば気が済むのか、想像がつかなくなってくるほどに繰り返され、ぷるっ、ぷるっ、とした弾みをその回数分だけ披露し続ける。
やがて、やっとのことでそれは終わるが、乳首への触診そのものは続いていた。
今度は乳輪をやられた。
指でぐるぐると、乳首の周囲をなぞり尽くして、そんな指先からの摩擦が延々と与えられ、瑠璃はますます快楽を感じていた。甘蜜がより分泌され、乳房の内側に快楽信号が蓄積するたび、乳首は徐々に敏感になっていく。
触っているのは乳輪でも、乳首をたびたび掠めていた。
延々と回り続ける指先の、あと何十周したいのかもわからない指遣いは、コースの中心に突起している乳房に何度でも掠めている。まだ完全には突起していなかった乳首は、あともう少しだけ膨らんで、乳輪さえぷっくりと、微妙ながらに浮き上がっていた。
羞恥心が込み上げる。
仮にも診察のはずなのだ。
医師に下心があったとしても、診察という建前で乳房や乳首に触っている。名目は触診である以上、それなのに感じている自分のことが、どうしても恥ずかしくなってくる。
瑠璃の頬は、はっきりとした赤へと変わっていた。
頬の内側で温度が上がり、今に羞恥の熱が放たれようとしているのだった。
*
向こうしばらく、乳首への刺激は繰り返される。
それもついに終わりを遂げ、やっとのことで両手が離れたかと思いきや、医師は何か意味深な顔をしていた。
「うーむ」
顎に指など当て、考え込んでいる風だ。
「あ、あの……」
「たぶんだけどね。ちょっと可能性、あるね」
「そうなんですか? でも、今までは……」
「ああ、そうだね。今までは何もないと思ってたけど、乳首に触った感じがちょっとね」
そんなはずはない。
瑠璃は健康そのもので、ここ最近体調を崩した覚えも、乳房や下半身の違和感も何もない。囮役をやるためだけに、本当は何もないのに病院にやって来たのだ。
嘘の診察結果に違いない。
だが、それに乗らなければ、あえて診察を受けている意味が薄れてしまう。
「うん、色々と可能性があるんで、もうちょっと調べさせてもらうよ」
医師は改めて両手を近づけ、終わったと思った乳首への刺激を再開する。
「んぅ………………」
息の乱れかける。
瑠璃はすぐに口元を強張らせ、無意識のうちに拳を硬くする。
「そうだね。これは念には念を、詳しく調べた方がいいね」
医師が行う刺激は、両手によって左右それぞれの乳首に触れ、ピンと伸ばした人差し指で上下に弾き続けるものだった。レバーを上下させ続けるような指の動きで、乳首もまた上下に動き続けていた。
上に弾かれ、乳首もまた一瞬上を向く。その直後には下に弾かれ、また一瞬下を向く。
一瞬で通り過ぎる指遣いは、だから乳首の角度が変わる時間も一瞬で、直ちに元の形状に戻っているが、戻った直後にはまた指が衝突して、上や下を向かされている。指の何度でも通過してくる刺激のうちに、乳首はまた敏感さを増していた。
乳首に指が当たるたび、内側で何かが弾けるような感覚さえしてきていた。
「士堂さん。ちょっと横になってもらえるかな」
やがて、急に手を引っ込めると、医師は診察台を指して告げてくる。
「あ、はい。横になればいいんですね」
そして、素直に聞く。
瑠璃はすぐさま立ち上がり、診察用のベッドの前で靴を脱ぎ、仰向けとなって天井を見つめるが、内心では不安でいっぱいだ。
ショーツ一枚の格好で、男と二人きりの状態で、横になってしまっている。
これほど不安を煽る状況はなく、医師にその気があってもなくても、瑠璃の脳裏にはそういう展開が掠めている。
医師は何かを用意していた。
ガラっと、引き戸を開ける際の、レールをタイヤが転がる音で、棚から何かを取ったことが耳でわかった。さらにキャスターの音がして、何かの機材が隣に近づいていることがわかった。
「士堂さん。超音波検査といって、機材を使って詳しい調査を行うからね」
「あの、もしかして、何かまずかったりしますか?」
「大丈夫大丈夫。まずかったとしても、きちんとウイルスの種類を特定すればね、どうせ治っちゃうから」
「あ、そうでした。これはつまらないことを言ってしまって……」
「不安なのは仕方ないね。悪化すれば怖いのは確かだから」
医師が行う診察は、乳房にジェルを塗りたくり、超音波の通りを良くした上で、機材を押しつけるものらしい。店のレジにあるような、バーコードリーダーに似た形の、超音波器具を押しつけて、画面に表示される波形を見る方法だ。
その方法を行うために、医師はまず手の平にジェルを取る。瑠璃の寝ているすぐ横で、医師は瓶の中身を手に垂らし、それを塗り伸ばしてきた。
「んぅ…………」
また、少しだけ声が出る。
瑠璃の乳房には透明なゼリーが塗りたくられ、そのために揉みしだかれる。先ほどまでの感触と違い、ゼリーを纏った手の平に、指が乳肌に触れている。撫で回すようなタッチで表皮にゼリーは広がって、だから触られる感覚も、ゼリーを介したものとなっていく。
医師は何度かゼリーを足し直し、まんべんなく塗り尽くそうとしてくるが、指はいくらか食い込んでいた。塗るだけならば、表面を撫で回す手つきでもいいはずが、しかし医師は指に強弱をつけてきて、明らかに揉むような動きを取っていた。
(やっぱり、怪しい……)
クロである可能性の高さを、瑠璃はひしひしと感じている。
そして、クロであるということは……。
(動画になっちゃう……)
瑠璃自身、実は動画を確認している。
同一の投稿者がアップロードしたリストから、いくつかの映像を見たところ、ちょうど瑠璃と似たような流れで胸を出し、乳首もやられている。人によって細かい展開は違っていて、その中にはジェルを塗るシーンもあった。
それに、そもそも動画で聞こえた男の声と、この医師の声はよく似ている。
壁、床、天井。
映り込んでいた特徴も一致して、ほとんど確定に近いクロ。瑠璃としては、もう決まりで良いとすら思っていて、ただ人違いで殺すわけにはいかないという、それだけの理由で瑠璃は最後まで診察を受けようとしていた。
そういえば、古い動画ほど顔の映りが悪く、新しいほど顔まで映るようになっていた。
盗撮を一回やるごとに、カメラの位置を改善したり、工夫を繰り返しているわけだ。瑠璃のことも、男目線でいい感じに、素晴らしいAVとして編集されてしまうのかもしれない。
ひんやりとしたジェルが皮膚に馴染む。
瑠璃自身の体温と、医師の手の平によっても温まり、そんなジェルのぬかるみによるコーティングは、数ミリ近い層で乳房をまんべんなくパックしきった。そんなパックが済んでなお、あと少しだけジェルを足しつつ、医師はまたしても乳首を刺激してくるのだ。
(やだ……)
突起しきった敏感な乳首がくすぐられる。
すぐに体がモゾモゾした。
さらに感度を増した乳首は、刺激によって濃密な痺れを生み出す。乳房の芯はピリピリと、淡い電流を走らせて、細胞が溶け出すような快感に、肩や胴体が落ち着かずに、つい微妙に体を動かしてしまっていた。
そわそわしてならないような、落ち着きのない挙動を披露していた。
「気持ちいいのかな?」
などと、医師は嫌なことを尋ねてくる。
快楽を隠しようもなく、感じているのは様子でバレバレなのだ。
「あの……私、すみません…………」
答えることが恥ずかしくて、瑠璃は医師から顔を背ける。
「さっきも言ったけど、誤魔化されちゃうとね。誤診を防ぐためにも、正しい情報を伝えてほしいな?」
「そ、そうでした。気持ちいいです……すみません……」
自分でも、何を謝っているのかがわからない。
診察なのに感じてしまって申し訳ないのか、隠し立てをしようとしてごめんなさいなのか。それ以上にわからないのは、セクハラを受けているのはこちらだろうに、どうして瑠璃の方が謝っているのかだった。
受けに来ているのは診察だけで、セクハラまで受けにきたわけではないはずだ。
快楽について白状させられるのは、本当に嫌で嫌で、そして恥ずかしかった。
「じゃあ、そろそろ検査を進めようか」
医師は一旦手を拭いて、それから超音波機材が押し当て始める。
バーコードリーダーによく似たそれを握って、医師は下から上へと押し上げた。南半球の真下に置かれたそれが上へと動き、その力に乳房は押し上げられ、上向きに皮膚は伸ばされる。
微妙に位置を変え、下から上への動きは繰り返された。
端から端まで、余すところなく読み切るため、スタート位置をだんだんと横にずらして押し上げて、それがしばらく続くと、今度は逆に北半球の真上に置かれる。鎖骨の付近をスタート地点に、上から下へと向きを変え、乳房の皮膚は下向きに伸ばされていた。
「なるほどねぇ? ちょっとあれかな? 兆候があるね」
(嘘っぽい……)
「ま、胸はでも、だいたい終わりかな?」
医師は機材に付いたジェルを拭き取ると、瑠璃の胸にも布を当て、今まで広げたコーティングを今度は逆に取り払う。布に吸収させていきながら、やはり揉むような気配を出して、指で乳房を味わっている。
一通り拭き終わり、ぬかるみの感触が消えてもなお、何故だか医師は乳首をつまむ。
(んぅ……)
必要があるかも怪しい触診を、医師はしばし続けてきた。
意味もなく、ただ触りたいためだけにくすぐられ、刺激を感じる乳首から、やはり甘い痺れは拡散する。モゾモゾと肩が動いて、快楽を感じてしまっているのは、ますます隠しようがなくなっていた。
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