目次 次の話




 四つん這いで迷路に入り、すぐさまT字路に行き当たる。
 右か、左か。
 じっくり迷う暇もなく、適当に右にでもしておいて、二人は早めに進んでいく。ゴールの検討などつかないが、まずはスライムから距離を取りたい。
 どれくらい離れただろうか。
 そして、どれくらい呑気にしていれば、後から追いついて来るのか。あんなモンスターに丸呑みにされ、内側で衣服を奪われる展開など真っ平だ。
 今はスライムから逃げることを優先して、T字路や十字路など、曲がり道を見るたび見るたび、深く考えることなく道を選んで突き進む。
 考えてもみれば、スライムの移動速度もわからない。
 それに、こちらの居場所をわかったように正確に追って来るのか、それともスライム自身も迷路を迷いながら進むのか。円香と透には何ら情報もなく、きちんと引き離せているのだろうかという不安ばかりが胸を占めていた。
『はーい。迷宮突入から一分が経ちましたので、サービスとして二人にお助けオプションを用意しちゃうよぉ!』
 愛野の放送音声が聞こえた瞬間、二人して顔を歪めた。
 純粋に役立つものなど、二人は何も期待していなかった。
「どうせ……」
 と、透はそんな風にぼやきもしていた。
『まあまあ、見てごらんよ』
 その時である。

 円香と透の前に、それぞれホロウインドウが浮かび上がった。

 SF映画など、近未来を舞台にした世界観で見た覚えがある。
 モニターの液晶画面を介することなく、空中に直接画面が浮き出て、そこに映像やプログラムの操作メニューが表示される。大抵は向こうの景色が透過していたり、投影機材の中から浮き出て来たりといった演出になっている。
 二人の前にある画面は、投影機材が見当たらない。
 向こうが透けて見えることもなく、まるでタブレットからフレームを取り外し、液晶パネルだけを宙に浮かせてあるように、それは二人の前に浮かんでいる。円香用と透用で、それぞれに出現しているが、試しに左右に首を動かすと、ホロウィンドウもそれに合わせて動いていた。
 顔の高さや方向に合わせ、座標を設定してあるのだ。
 壁に顔を近づければ、それに合わせて動くホロウィンドウは壁の向こう側に消えてしまう。何もない方向へ向け直せば、壁の中から戻って来る。
 そして、そこにはマップ表示がされていた。
 迷宮のごく一部だけがマッピングされ、円香や透の居場所は赤い点で示されている。
『それは手で触れば自由に位置を変えられるからねぇ?』
「どうも、ご親切に」
 ちっとも感謝していない顔で円香は答える。
 スライムのことを思い出し、改めて進んでいくが、どうやらる迷宮の構造は、二人が進んだ分だけ明らかになるらしい。マップ上には二人が歩いた分だけマッピングが進んでいき、残りは黒塗りになっている。
 しかし、気になることがあった。
 迷宮で地図を渡されるのは、ありがたいことではあるが、文房具の下敷きやタブレットほどのサイズになるホロウィンドウの、マップ部分が締めているのは、画面全体でも一部だけなのだ。
 画面の右側、その四分の一ほどの領域に、縦長の帯状の表示がかかっている。災害があった時、テレビ番組がL字放送になったりするが、ならばこれは右にI字を入れた形だ。
 そのI字部分に地図があり、地図の真上には制限時間の残りがカウントダウン形式で表示されている。
 左側の広い面積の中は、今のところ何も表示されずに真っ黒だ。
「なんなんだか……」
 左側には何を表示するつもりでいるのか。

「……っ!」
「やだ……」

 不意に表示され、円香と透は頬を歪めた。
 そこに映ったものは、二人の尻をそれぞれ後ろから中継する映像だった。真後ろからカメラがついて来ているかのように、前に進めばそれに合わせて映像の中の脚も動いて、その四つん這い歩行の動きに合わせてスカート丈も前後する。
 幸い、まだ中身は見えない。
 仮に際どくなっても、内側にスパッツを穿いてはいるが、だからといって見えずに済む方がいいに決まっている。
「これでゲームやらせようって、いい趣味しすぎだね」
 円香は露骨に不快感をあらわにしていた。
「ほんと、最悪……」
 透の横顔には、何か暗いものが浮かんでいた。
 先ほどまでの恐怖がぶりかえしてか、どことなく青ざめていた。
「とにかく、進もう」
「……だね」
 ひとまず、ゲームとしては一時間もの時間が用意され、マッピングまでされるなら、よほど理不尽な広さでもない限り、クリア可能な設計というわけだ。深く頭を使ったり、難しい戦略を立てるまでもなく、マッピングを進めればいつかは終わる。
 ただし、迷宮内には先ほどのスライムがいるはずだ。
 円香や透の位置は示してあっても、スライムの位置表示はなく、あれがどこにいるかはわからない。
 会わずに済むことを願って進むしかない。
 そのうち、多少は広いスペースに出た。今まで通った通路は全て、二人並べば肩が触れ合うような幅だったが、部屋に着いたとでも言うべきか。面積だけは余裕があり、しかし四つん這いでなくてはならない天井の高さは相変わらずだ。
 そんな広めの空間には、いくつもの通路があった。
 壁一面に対して二つずつの穴がある。
 たった今通ってきた通路だけが、後ろの壁だけが一つ限りの穴を空け、残る三つの壁には幅の狭い通路が並んでいる。ここから先、合計六本もある道の中から選ぶのは、選択肢の多さのせいで迷わされる。
「……っていうか」
 円香はすぐに気づいた。
「狭いね」
 透も気づき、そう呟く。
 今までの通路と違い、一人分の幅しかない。元来た道を引き返すのでなければ、円香と透はここで一度別れることになる。

『はーい! ラッキールーム到達! 今お二人がいるような、ちょっと広い空間の出るたびに、ゲームを有利にしてくれる追加ギミックや、お役立ちの情報を与えるよ?』

 愛野の声が聞こえてくる。
「へー」
『信じてないね? 大丈夫大丈夫、ラッキールームの場合はエッチなことも起きないから、心配はいらないよ?』
 場合は、という微妙な言い回しを聞くと、ならばアンラッキールームもあるのかという不安に駆られる。
「で、なら何を用意してくれるの?」
 円香は訝しげな顔で尋ねる。
『では情報を伝えよう! 二人が別れて行動する場合でも、マッピング情報は共有される。手分けして迷宮を探索すれば、それだけ早くマップが完成に近づくわけだ』
 だとしたら、ゲーム性の点においては別行動の価値はある。
 もっとも、透と一緒の方が落ち着く。一人になるのは不安が大きく、効率を重視した別行動には躊躇いがあった。
『それともう一つ。今から君達の画面に通信ボタンを用意しよう』
 二人の画面右側には、そのI字部分には、地図の真下にボタンが表示されていた。上部にカウントダウン表示がある以外、下の方は空白だったのが、受話器のマークを記したボタンが付けられていた。
『別行動を取った後、合流の合図なんかができるわけだね? これでますます、別行動を取る利点が増えたわけだけど、実際にどうするかは君達の判断しだいだ』
 そこで愛野の声は途切れた。
「どうする?」
 と、透に尋ねてみる。
「んー……なんか、怪しいけど……」
「だよね」
 一人でしか通れない通路を用意して、その上で別行動の利点を出す。露骨な誘導に思えてくるので、一人になる不安だけでなく、何か裏がありそうだという疑念も重なり、躊躇いはますます強まっていた。
「ただ、こういう一人じゃないと通れない道があるってことは……」
 透の言葉で円香は察する。
「地図、完成できないね」
 別行動をしなければ、マップ全域の網羅は不可能だ。
 運良くゴールを発見できれば、完成などさせずともさっさと外に出るのだが、円香と透の現在地点は、迷路全体の中でも中央に近い。マッピングの状況は、内側のルートばかりが表示され、壁沿いの部分はちっとも完成していない。
 ゴールの場所は、壁沿いのどこかだろう。
 その壁沿い部分に限って未完成では、ゴールを狙ったアタリを付け、ここらへんを探ってみようといった動きも取れない。
 円香は改めて通路を見やる。
 一人ずつ入っていき、前後に列を作って進んで行けば、一応別行動はせずに済む。
「列で、並んで進んでみる?」
 円香はそう提案した。
「それがいいかな。なんか、引き返すのは怖いし」
 透はすぐに頷いた。
 その視線は一瞬だけ地図を向き、後ろ側にあるまだ探っていないルートの方を意識こそしていたが、かといってスライムの存在がある。もし順当に同じ道のりを辿って来ていたら、引き返せばそのまま鉢合わせることになる。
「じゃあ、どれか適当に選んで……」
 どの道が一番良いかなど、所詮は運だ。
 直感的にこれと思った道に決め、円香は先に通路の穴へ入って行く。後から続く形で透も後ろに着いてきて、しかし透の視線なら気にならない。気にするも何も、人の尻をいちいち殊更に眺めはしないとわかりきっていた。
 後ろにいるのが異性であったら、なかなかに落ち着かない状況と言えるだろう。透を後ろにして気になるのは、透の目よりも画面に映る自分自身の尻である。
 振り向いてもカメラはない。
 しかし、絶えず尻を狙い続けるかのようなアングルで、画面の中では確かに中継が続いている。こんな密閉空間では風も吹かず、そして丈の長さからしても中身は隠しきれているものの、中身を狙われ続ける状況は実に深いなものである。
 普通では考えられない、様々な現象を体験している。
 そんな今なら、目には見えずとも、透明なカメラが浮遊していて、それが後ろから着いてきているのだろうか、という発想も浮かんでくる。
 その時だった。
「ひ、樋口……!」
 透が急に慌てたような声を上げ、円香に訴えかけて来る。
「なに、どうしたの」
「来てる……遅いけど、後ろから来てる……」
「急ごう」
 全ての説明を聞くまでもなく、円香はすぐにペースを上げた。

 ――スライムだ。

 今まで追いつかれる気配はなかったのに、急に姿を見せてきたらしい。円香の位置から振り向いても、透の身体に阻まれそれ以上の奥は見えないだろうが、透が視認できる場所までは、もうやって来ているらしい。
「あんなキモいの、触りたくもない!」
 ペースを上げれば、当然のようにスカートの揺れも大きくなる。
 絶えず目の前に浮かび続ける画面では、嫌がらせのように中継映像の方を大きくして、マップはそれより小さく表示している。尻を狙ったアングルは、嫌でも視界に加えざるを得ず、そのせいで丈の揺れ具合が気になるのだ。
 あまり激しく動きすぎれば、スパッツがあるとはいえ、中身を撮られるかもしれない。
 かといって、スライムに捕まれば全裸にされる。
 スカートの中身を守ろうと意識して、それで衣服を溶かされてしまっては仕方がない。不快感をぐっと堪え、歯を噛み締めながら円香はペースを維持した。見えそうなのが気になるあまり、今にも緩めたくなるのを我慢していた。
 透もぴったりと着いて来ている。
 マップ上の点滅表示で、後ろの透が距離を離すことなく、きちんと同じペースで進んでいるのが確認できる。
「あれは……!」
 出口、というわけではない。
 しかし、この道は先ほどのような大部屋に繋がっていたらしい。似たような構造をしていれば、大部屋に出るなり、すぐさま道を選んで飛び込めば、きっとスライムを振り切れる。素早く動けば動くほど、スライムがこちらを見失い、二人が選んだ道とは違うルートへ進んで行く可能性があると信じて、透は命からがらのような思いで飛び出した。
 続けて透も飛び出して隣に並ぶ。
 やはり、四つん這いでしかいられない天井の高さは変わらないが、畳数枚分に至る部屋面積の空間になっていた。
「え……」
「や、やだ……!」
 だが、円香は、透は、その瞬間に戦慄していた。

 ――行き止まりだった。

 ここから先に続く道がない。
 後ろからはスライムが追って来ている。
 これでは、このままでは、スライムに捕まりゲームオーバーにされてしまう。全ての服を溶かされるだけでなく、ゲームをクリアできなかった場合の、二人を性奴隷にする旨の発言も脳裏に蘇り、焦燥の汗を噴き出していた。

     *

『はーい! ラッキールームだよーん!』

 途端、愛野の声が聞こえてくる。
「何があるの! 早く言って!」
 円香は声を荒げた。
 悠長にしていては、後ろのスライムが入ってくる。
『焦らない焦らない』
「いいから早く!」
『ここでは衣服と引き換えにアイテムを獲得できまーす!』
「衣服って……!」
『あ、靴と靴下は無しね? 交換対象として認められるのは、シャツ、スカート、下着、スパッツのどれかのみ。一体どんなアイテムに替えられるかというと?』
 愛野が説明しているうちに、奇怪な水音が迫って来る。ジェルの固まりを叩きつけ、地面に引きずっているせいで起きる粘性の水音は、粘液と床のあいだの摩擦からなるものだ。その、にじゅる、じゅるり、となる音が耳を騒がせ、肌中に悪寒を走らせる。
『一つはマップ拡大アイテム! 使用した時、周囲五メートルまでのマッピングをしてくれるよ!』
「他には!」
 円香は怒鳴った。
 そんなもの、今貰ってもゲームオーバーは免れない。
『二つ目は溶解ガードバリア! スライムに捕まったり、粘液を浴びせられても、一回だけ服が溶けるのを無効にできるよ?』
 欲しいのはそれだろうか。
 衣類を差し出すのは屈辱だが、全裸になるのと一枚だけを渡すのなら、スパッツを与える代わりに無効化できた方がマシである。
 だが、無効にできるのは一回だけだ。
 この行き止まりでスライムに捕まっては、一回分の無効化だけで足りるのだろうか。
『最後はモンスター撃退ボタン! モンスターがいる時にボタンを押すと、一体まで消滅させてくれるよ? もっとも、使うと数が一体増えて、広い迷宮のどこかに再配置されるんだけどね』
 数が増える上での再配置。
 嫌なデメリットだが、そもそもゲームオーバーの危機にある今、背に腹は変えられない。
「それ! 撃退ボタン!」
『お急ぎのようだけど、欲しかったら差し出す衣服を選んで、脱いじゃってね』
「な……!」
 円香は絶句した。
 この状況で、そんな悠長なことをさせようとする呑気な言葉に、信じられないものを見るような顔をしながら、しかし振り向けば青いスライムがもうそこまで迫っていた。
 確かに、移動が遅い。
 しかし、ジェル状の固まりがナメクジのように這い進み、この空間に出てこようと迫っている。
 時間がない。
 もうこうなったら――円香は身を切る思いでスカートに手を伸ばす。その中身に指をかけ、スパッツを下ろしていくと、その脱げていく映像を円香は自分自身で確認する羽目になっていた。
「こんなの……!」
 スカート丈と膝のあいだに、片手だけでどうにか脱いでいるスパッツが下がり出て、生中継の中に映り込む。これで下着を守るものはなくなって、ここから先は下手を打つとショーツが見えることになる。
 心許なくなることにも、今は構っていられなかった。
 全裸の危機という、より重い事態が迫る今、死ぬよりは四肢のどれかを切り落とす方がマシであるような気持ちになって、本当に身を切る思いで脱いでいる。画面にショーツは映さなかったが、それでも人を脱衣に追い込んで、見事に一枚脱がせた喜びで、向こうはさぞかし盛り上がるのだろう。
 愛野しか顔を見せてはいないが、きっと残りの三人も一緒になって喜ぶのだ。
 その悔しさに歯噛みしながら、スパッツを膝まで下げた時、それは急に消滅した。パっと突然、ものの一瞬にして消え去ったのはどういうわけか。
『はーい! 撃退ボタンプレゼント!』
 今はそれより、すぐにボタンを押していた。
 画面を貫く勢いで指をやり、力強く押した瞬間、背後から気配は消える。実際に振り向いて確認しても、そこには這い跡を残したのみで、スライムそのものは影も形もなかった。
 しかし、代償としてスパッツを失った。
 今まではスパッツで下着は守られ、万が一にもスカートが捲れても、少なくともショーツは見えない安心があった。その安心感を失って、円香は落ち着きも失った。あるべきものが消えてしまった喪失感と、これからは捲れれば見えてしまう危機感とで、全身がそわそわし始めていた。
 いいや、とにかく目前の危機は脱した。
 それで良しとしなければ、やってなどいられない。
「樋口……」
 透が気にかけてくるが、どちらが脱ぐかの相談など、やっていられる状況ではなかった。先に決断して、先に脱いでしまった方がアイテムを貰うのが、一番早いはずだった。
「気にしないで」
「……うん」
 明らかに気に病みながら、透は頷く。
「はあっ、でも再配置ね」
 数を増やした上での再配置で、しかもスライムの位置はマップに表示されないのだ。あれがどこにいるかもわからずに、会わずに済むかどうかを運に任せてマッピングを進めるのはリスクが高い。
 かといって、アイテムを一つ手に入れるのに、服を一枚要求される。
 靴下が有りなら、迷わずアイテムと交換してもらうが、シャツかスカート、さもなくば下着しか認められないのなら、屈辱を堪え、身を切る思いの取引をしなくてはならない。
 裸は避けつつ、内側の下着だけを差し出すのも、思いつきはする。
 しかし、連中に脱ぎたてを与えてやるなど、寒気が走ることこの上ない。かといって、シャツやスカートを手放して、下着を晒した姿になるのは論外だ。となっては、もうアイテムの入手はできない。
「あー。あの、他にもアイテムってあるの?」
 透がそんな声を出した時だ。
『はいはーい。あるよ?』
「全部、教えて」
「……いいの?」
 何かを、入手する気らしい。
 使えるものを手に入れて、スライムと遭遇した際のリスクを少しでも減らしたいのだ。
「よくはないけど、まあスパッツだけなら、我慢しようかな」
「……そう」
 本当ならそれすら止めたいが、ゲームオーバーになった場合、スライムに捕まった場合の結末が重い。それをスパッツだけで回避できるなら、という計算にどうしてもなってしまう。
『[バリア防壁]――バリアで道を塞いで、モンスターの行き来を阻止する代わりに、君達自身も道が通れなくなってしまう。それに、ゴールを塞ぐような使い方をしたら、ゲームがクリア不能になっちゃうんだね。
[入れ替わりボタン]――別行動を取っている時、ボタンを押すことで二人の位置が一瞬にして入れ替わるよ。
[味方ゴブリン]――君達には一切の危害を加えず、別にエッチなこともしてこない。マップの中を徘徊して、スライムを見つけることがあったら撃退してくれる。ただし、ランダム徘徊だから、役に立つかどうかは完全に運次第」』
 愛野は他にも様々なアイテムを紹介するが、後に紹介されるものほど微妙であった。失った衣服を回復というのもあるが、それを衣服と引き換えに手に入れても仕方がない。スライムに溶かされた分を復活させる使い方なのだろうが、それにしても微妙である。
 結局、透が選ぶのはバリア防壁であった。
『じゃあ、好きなものを一枚脱いでね?』
 楽しげな声が腹立たしい。
 好きで脱ぐものなど、一枚もない。
 透がスカートの中に手を入れて、歯を食い縛りながら下げ始める。下着が見えないように気をつけているのも、たとえスパッツだけでも屈辱を感じているのも、その全てが体中から放出されるひしひしとした空気感で全て伝わる。
(浅倉……)
 心配そうに、円香は横目で透を見る。
『はい、ぼっしゅー!』
 膝まで下げたところで、スパッツは消失したのだろう。
 その代わりに、透の画面にはボタンが現れ、いつでもバリア防壁を貼れるようになっていた。
『ボタンを押すと、前方に貼るか、後方に貼るかの選択画面が出るから、咄嗟のタイミングで使う時は気をつけてね。ああ、捕捉として伝えるけど、行き止まりで自分自身を閉じ込めたら、それもゲームオーバーだからね』
 マップ内のスライムは二体だが、これでいつでも身を守れる。
 もっとも、行き止まりの付近で使う場合は、気をつける必要がありそうだった。



 
 
 

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