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 この日は風が強かった。
 石造りの町並みを突き進み、まばらに歩く通行人に紛れていると、不意に吹き込む風がスカートを揺らしてくる。思わぬ強さに揺れが気になり、手でスカートを気にしながら歩いていると、本当により強い風が丈を襲った。
「やっ!」
 咄嗟に前後を手で押さえ、捲れ上がることを阻止したが、眩しい太ももだけは左右でチラつき、周囲の視線を少しばかりは集めてしまう。
(やだな……スパッツは穿いているけど……)
 中年にスカートの中身を狙われて以来、内側にスパッツを穿いていなければ、どうしても落ち着かない。
 だから、今日の風に対しても、最悪スパッツがあるので下着を人に見られる心配はないのだが、捲れた中身を晒すこと自体が恥ずかしい。何も見せないことに越したことはない。
「っ!」
 次にリナリーが驚き目を丸めた理由は、決して強風のせいではなかった。

 ……オジサン?

 自殺したはずの中年職員の姿が見えた。
 それは一瞬のことで、雑踏に紛れた隙間から、たまたまどこかへ突き進んでいく姿を目に捉え、近づく暇もなく消え去っていく。
 リナリーは思わず追いかけて、狙い澄ましたように風が吹いてきた。
「あっ、うそっ!」
 中年に意識を取られ、油断したと同時にスカートが捲れ上がって、リナリーは咄嗟に前を両手で押さえ込む。
 もちろん、スパッツの黒い生地がチラついたに過ぎない。
 しかし、今のは見られやしなかったかと、リナリーは周囲を気にしてしまい、すると嬉しそうなニヤついた視線の男と数人ほど目が合って、ばっちりと見られたことを悟るのだった。
「やだ……」
 リナリーは逃げるようにその場を賭け去り、赤らんだ顔で中年を追いかける。
 失踪であると聞いていた。遺書はあっても死体は見つかっていないとも聞いている。だったら、本当は生きていたのだろうか。
 確かめるべくして、中年の姿があった場所まで駆けた後、改めて周囲を見渡す。雑踏に紛れた見覚えのある後ろ姿に気づき、リナリーは追いかけた。
 少し走って見失い、また周囲を見渡すと、今度は裏路地へと消えていく姿を見つける。
「待って!」
 リナリーは走った。
 もし本当にあの中年なら、しかし一体どんな言葉で何を話せばいいのか。そんなことはわかりはしないが、とにかく会ってみなければ始まらない。

「――久しぶりだね」

 果たして、中年はリナリーを待ち構えていた。
「やっぱり、生きていたの?」
「へへ……」
「どうしていなくなったりしたの?」
「へっ、ははは……」
 リナリーはしきりに尋ね、一歩ずつ近づいていくのだが、どうにも中年は様子がおかしい。目がリナリーを見ているようで見ていない。焦点の合わない狂った瞳で、壊れそうなほどの笑みを浮かべている。
 遺書まで書いたのだ。
 妻子を失い、その末に命を断つことをほめのかし、消息を眩ませた。そんな中年が普通の様子であるわけがない。
 おかしな様子があって当然だと、リナリーは接近を試みる。
 しかし、次の瞬間にリナリーは接近の足を止め、警戒心を一気に膨らませた。

 変貌の予兆が見えたのだ。

 まるで頭が二つに割れようとしているように、顔にラインが走って見えた時、エクソシストとして戦ってきた経験と直感が、この人物はもう本当にリナリーの知るオジサンではない、アクマなのだと悟っていた。
「そんな……!」
 絶望に胸打たれ、けれど戦わねばならない使命感から、リナリーはイノセンスを発動する。 中年はおぞましい姿になっていた。
 一言で表すならイソギンチャクか。樹木のような太い幹から、おびただしい数の触手を生やして蠢かせる。その先端の形状にはいくつかの種類があり、先っぽからさらに細かい触手を生やしたもの、ブラシ状になっているもの、花のつぼみに似たようなもの、目玉を生やしたものもある。
 そして、何かの香りが充満していた。
(この匂い、一体……)
 アクマの能力だろうかと警戒する。
 もしかしたら、中年は千年伯爵にそそのかされ、そのせいで自殺などという手紙を残したのかもしれない。リナリーに対する罪の意識で、こうなるとわかって妻や子供の復活を願ったのだろうか。
 死んだ魂にもう一度会いたい思いを利用してアクマを作る。
 そんな千年伯爵の手口に、あえて乗ることが彼なりの自殺だったのか……。
 全ては想像にすぎない。答えを知ることもできない。
 今のリナリーがやるべきことは、目の前のアクマを倒して、そこに囚われた魂を解放することだ。
 悲しくてもやるしかないと、リナリーは飛びかかる。
 応じたように触手の群れがリナリーに襲いかかった。何本も、何十本も、とても数えきれない量が伸縮自在に一度に迫り、まるでドームに閉じ込めるかのように、リナリーを物量の中に囲ってしまう。正面から、頭上から、背後から、ありとあらゆる角度から迫る触手に対して、リナリーは冷静に身体を旋転させる。
 大量の触手が同時に消滅した。
 一瞬にして幾度とない回転を行いながら、黒い靴による蹴りを放ったのだ。バク宙のようにくるりと、バレエの動作のように軸足を使った横蹴りも、それら何回転にもわたるキックは一発毎に角度を変え、それをものの一秒以内に繰り出す早業に、触手の強みにもなろう手数が撥ね除けられた。
 だが、一度に半分以上もの触手を失っても、再生能力があるらしい。先端から半ばにかけてが消え去って、リーチの縮んだ触手を抜け毛のように落としていき、蒸発めいてしゅうしゅうと白い煙を上げて消えていく。入れ替わる形となって、新鮮な触手が粘液を散らして弾けんばかりに生えていた。
「本体を叩かないと、勝てない」
 リナリーは触手の大元となる幹を狙おうと、地面を蹴り抜き直進する。

「えっ!?」

 しかし、足を止めてしまった。
 ただ止まるだけではない、乙女の恥じらいのように顔を赤らめ、羞恥をあらわに急停止してしまっていた。

 リナリーのパンツが映像として突きつけられたのだ。

 触手のうちの、目玉を生やした一本から、SF映画で見かけるホログラム式の映像に似た形で、まずは画面が出現している。両手で抱えるサイズの四角形が宙に現れ、その内側にスカートの中身が映っているのだ。
「……っ!」
 リナリーは慌ててスカート丈を両手で押さえるが、目の前にある下着は、今日の下着とは柄が異なる。
 白をベースに水色の糸で花を描いた柄は、もっと別の日に穿いていたものだ。

 ……過去の映像なのだ。

 中年の記憶から出て来たのだろうか。
 実は盗撮されていて、それがアクマの中に残っているなど考えたくもないが、リナリーの脳裏にはあのハンドカメラがチラついてしまう。撮られていたことを想像して、頬に恥辱が浮かんで強張ってくる。スカートを握る拳に力が入り、気づけば歯も食い縛っているのだった。
「とっ、とにかく倒さなきゃ!」
 一本の触手が伸びてくる。
 リナリーにとって、四方八方からの触手を一瞬で消し去るのは造作もないのに、ただの一本だけで攻撃しても通用するわけがない。
 簡単に捌ける攻撃だと思って放つ上段への回し蹴りで、リナリーはその一本をあっさりと消し去ろうとした。
「えっ!?」
 ところが、できなかった。
 S字でも成さんばかりにカーブを成しつつ引っ込んで、ひょいっと蹴りをかわしたかと思いきや、空振りのキックに向かって巻きついてきたのだ。
「嘘っ!? どうして!?」
 リナリーは即座に対応を試みる。
 もう片方の足で自分自身の足首を蹴り、巻きついた触手を消し飛ばすことは造作もない。
 だが、そうしようと思った時には、地べたを這ってヘビのごとく進んできた触手がいつの間にやら巻きついて、リナリーの動きを封じていたのだ。
 片足が持ち上がった態勢のまま、左足まで固定され、いとも簡単に抵抗を封じられたリナリーは、咄嗟にエネルギーを解放する。靴から放つ衝撃波がそれぞれの触手を消し飛ばすが、消えた二本はすぐに新しく生え直す。
 そして、目の前に画面が増えた。
 目玉付きの触手からは、瞳から映像を映し出すことができるらしい。その能力によってショーツの隣に並ぶのは、スパッツを映した画面である。
 ただのスパッツではない。
 リナリーが片足を持ち上げ、その動きに伴いスカートが捲れた時の、アソコを大きく映したものだった。まるでアソコの形を透かして覗きたいかのように、アップで映し出されたリナリーは、赤らみのあまりに両手で顔を覆いそうになってしまう。
「やだ……なんなの……この能力……」
 いいや、恥ずかしがっている場合ではない。
 リナリーは恥じらいを噛み殺し、次に地面を蹴った時、今度はもっと別の理由で目を丸め、そして焦燥の汗を浮かべた。

 ……力が出ない?

 単に走ろうとしたのではなく、イノセンスの力を使った上で地面を蹴った。ならば自分自身の身体がロケットか何かの勢いで打ち出され、高速で距離を詰めることができたはず。そのつもりで動いたのに、常人がごく普通の脚力で蹴ったかのようにしか、身体は前に出なかったのだ。
「なんで!? ち、力が!」
 こんな戦闘の最中にイノセンスの力が低下した。
 その焦りの隙を突かれて、今度は二本の触手が同時に忍び寄る。それは先ほどのように地面を這った触手であったが、二本それぞれがぐるりと左右に遠回りして、後方に回り込んだ上での接近だ。
 それが足首に到達して、獲物を絡め取らんばかりに巻きついていく。
「やっ、やだ!」
 リナリーはもがき抵抗して、先ほどのようにエネルギーを解放して、衝撃波を放とうと考えたが、何故だかそれも発動しない。
「なんで!? どうしてイノセンスが!」
 黒い靴そのものは機能している。
 だったら、イノセンスそのものが弱体化しているとでもいうのだろうか。
 命のやり取りを行う場で、肝心の武器が使えなくなっている大きな焦りで、リナリーは必死になってイノセンスの力に意識を注ぐ。発動しろ、機能しろ、触手を消し飛ばせ、そんな思いを力強くぶつけてやるものの、黒い靴はただの普通の靴でしかないように沈黙している。
「くっ! このままじゃ!」
 ぐるぐると巻きついてくる二本の触手は、螺旋を成して膝にまで到達していた。その力に両脚を固定され、足を持ち上げることも、歩くことも叶わない。
 そんな状態で四方を他の触手の群れに包囲され、リナリーは頬に冷や汗を流していた。
 このまま自分はやられてしまうのだろうか。
 命を落とすことへの恐怖を抱き、歯を噛み締めていたリナリーは、目の前の触手が向かって来るなり当然のように身構える。

「え?」

 ところが、次に起こったことにきょとんとした。
 どんな攻撃をしてくるのか、どうやって自分のことを殺すなり、痛めつけるなりしてくるのか。その恐怖に対して、実際に行われたのは単なるスカート捲りである。丈の内側に潜り込み、上に払い上げる形で、一瞬だけ丸見えになった中身は、すぐさまスカートの中に隠れ直しているのだった。
 戦いとしては、トドメを刺すチャンスにも関わらず、意味のわからない行動である。
 ただ、リナリーを恥じらわせるには十分な威力を発揮していた。
「えっ、やだ! なにそれ!」
 スカート捲りはしきりに行われた。
 前から二本、後ろからも二本、四本にわたる触手の前後からの攻撃で、やってくる行為はその全てが単なるスカート捲りである。
 リナリーはそれを防ぐため、手で触手を阻止しようとした。後ろを持ち上げられる感覚に、慌ててお尻側の丈を手で押さえ、もう片方の手で必死に払い退けているうちに、しかし守り切れずにばっさりと捲られる。
「なんなの!? えっ、なんでこんな!」
 どうしてこんな攻撃をしてくるのか、まるで意味がわからない。
「やめて! そんな、おかしい!」
 ただ、スカートを捲られる恥ずかしさから、どうにかして阻止しようと触手相手に格闘する。
 こうなったら、両手で前後を押さえ込んでおこうと思いつき、がっしりと守りを固めてみれば、その瞬間に手首に巻きつき力ずくで引き剥がされる。
「やぁぁ……! そ、そんな……!」
 とうとうリナリーは四肢を全て封じ込まれた。
 身体がX字の形に固定され、腰をくねらせる程度の動きしか取れなくなると、リナリーの前にはさらに一本の目玉触手が迫って来る。
 リナリーの目の前に、目玉から一つの画面が飛び出てきた。
「!」
 それはリナリーの後ろ姿だった。
 四肢を封じられた自分自身の、腰をくねっている動きがライブ中継となって画面の中に反映されている。身動きを取るたびに、映像の中のリナリーもまた同一の動きを取る。自分の動きをそのまま後ろから確かめている形といえた。
「な、なんなの……本当に……」
 命を奪おうとしてこない。
 しかし、映像は徐々にスカート越しの尻をアップして、次の瞬間には一本の触手が映る。お尻のすぐ真後ろに、今まさに触手が迫っていると、映像によって真実を突きつけられ、しかしリナリーは実際にそれを阻止することはできない。
 イノセンスの力を意識しても、黒い靴は相変わらずの沈黙を貫いている。
「もしかして、イノセンスを封じる能力……」
 後ろの触手を気にして振り向こうとしてみても、肩越しより向こうが見えず、直接確かめることはできない。
 ただ、映像の中では間近に迫り、今に触れて来そうになっていた。
 そして……。

 ぴたりっ、

 と、触手の丸い先端が尻たぶに置かれる。
「ひやっ」
 恐怖のような、ぞっとした悲鳴をリナリーは上げた。
「やっ……いや……」
 表面に粘膜をまとったものが、それをスカートの生地に染み込ませていきながら、まるで痴漢の手つきのように尻たぶの形をなぞり始める。
「触らないで!」
 リナリーは触手から尻を逃がそうと、腰をくねくねと踊らせるが、そうすると映像の中にある尻はフリフリと振りたくられ、まるで自分が尻振りダンスを披露しているかのようで、恥じらいが増してくる。
 しかも、そうしたところで触手は尻を追いかけて、延々と撫で回す。粘着力で付着したように着いてくるまま、その上で撫でる動きを続けてきた。
 どう足掻いても、先端で尻の楕円をなぞってくる感触からは逃げられず、諦めるしかない心境で動きを止めていた。
 その途端である。

 ぺちん!

 リナリーは尻を叩かれた。
「……やっ!」
 小さな悲鳴を上げると、再び触手は振り上げられる。

 ぺちん! ぺちん! ぺちん!

 まるで無駄な抵抗をしたお仕置きのように、触手のムチで打ちのめされ、リナリーは恥辱感で顔を歪める。
「なんなの……やだ……」
 さらにスカートを捲られた。
「やっ!」
 丈がしっかりと持ち上がり、スパッツに包まれた黒い尻があらわとなって、リナリーは目の前から顔を背ける。
 目を瞑っているあいだにも、今度は別の触手の感触が腰に触れ、新たに現れた二本がスパッツに潜り込もうとしていることに気づいて戦慄する。腰の両側に、ゴムの内側に入って来る触手は、明らかにスパッツを脱がそうとするものだった。
「嫌! 脱がさないで!」
 叫ぶが、しかしスパッツは下がり始める。
「ダメ! やめて! やめてったら!」
 リナリーはそんな光景を見ないため、顔を背けたままに目も瞑り、まぶたの裏側だけを見つめていたが、それを許さないかのように唇にぴたりと、粘膜を帯びたねっとりとした感触が触れて来た。
「――っ!?!?」
 リナリーは目を見開き、するとそこにはペニスによく似た触手があった。しかも、亀頭としか思えない形状の鈴口からは、透明な糸が引いている。それが自分の唇とのあいだに引いたものであることは明らかで、リナリーはますます恥辱に震えた。
 ペニス型の触手が近づいて、頬を撫でようとしてくる。
「やだっ!」
 反対側を向くと、そこにもペニス型の触手があった。
「気持ち悪い!」
 リナリーは下を向く。
 こうなったら、地面だけを見つめていようと思いきや、なんと下からもペニス型は伸びてきていた。リナリーの顔の周りに、ペニス型は三本もたゆたっていた。
 下を向くことも、右や左を向くことも、ペニス型が許してくれない。
 それでも画面は見たくないと、前を向いたままに目を瞑ると、下からのペニス型が唇に向かって迫り、鈴口でキスをしてくる。
「んんっ!?」
 悲鳴と共にペニス型は離れていき、そして改めて目を瞑ろうとすると、またしても接近の気配を迫る。
「ミロ……」
 初めてアクマの声が聞こえた。
「ミロ! ミロ!」
 リナリーは悟った。
 どうあっても、映像を見せつけようとしているのだ。
「なんで、こんな真似……」
 そして、映像に目を向ければ、リナリーがまともに直視するまでのあいだ、下がりかけのスパッツは少しばかりショーツの色合いを見せただけ、ものの数センチのところで止まっていた。脱げていく有様を本人に見せつけるため、今まで中断していたのだ。
 それが改めて下がり始める。
 スパッツの黒色が徐々に下へと、下へ下へと、下がるにつれて白いショーツが見えてくる光景を、リナリーは見せつけられていた。
「や……やぁ…………」
 ゴムの食い込む感触が移動して、尻の中央を通過していく。
 露出面積を広げ続ける白いショーツは、ついに全てがあらわとなり、画面の中にくっきりと映し出されていた。
 お尻の側は無地でありつつ、ゴムの部分に青い飾り付けが施されている。腰の輪には青い糸が使われて、脚の輪には同じく青の、刺繍レースがぐるりと縫い付けられている。
「パン……ツっ、かわいい……パンツ……!」
 そんなことで喜ぶアクマは、急にリナリーの四肢を解放した。
「……っ!」
 思いがけず、前触れもなく自由になったリナリーは、両手が使えるとわかった途端に真っ先にお尻に手を回す。スカート丈なら、触手が離れた時点で下がっていたが、それでも反射的に隠そうとする動作を取っていた。
 次に足首に絡むスパッツを見て、リナリーは咄嗟に穿き直そうとする。
 だが、そのために腰をくの字に折った時――。

 ぺちん!

 背後からの触手に尻を叩かれた。
「んっ!」
 その上、どこからかの触手が胴体に巻きついて、その力に身体を持ち上げられ、浮き上がった足からスパッツを完全に脱がされる。どこか遠くに放り投げられ、もうこの戦闘中にスパッツを回収する暇などない。
「うそ、そんな……」
 下着を守るガードが失われ、それで満足であるように触手はリナリーを解放する。
「……それに、どういうこと?」
 何故、わざわざ自由にするのか。
 殺すなり、そうでなくてもリナリーにダメージを与える機会はいくらでもありながら、アクマは性的な嫌がらせを優先してくる。
「オマエ……イノセンス……モウ、ダメ……」
 そうだ。
 先ほどから、黒い靴がまともに力を出してくれない。
「それがあなたの能力?」
「ハジラッタ……オンナ……チカラ、ウシナウ…………」
「そんな……」
 恥ずかしがらせてくる行為に、実際に恥ずかしがった途端、イノセンスの力が低下していく。だとしたら、今のリナリーはもうただの少女も同然ではないだろうか。
「ホレ」
 二本の触手がゆっくりと、あまりにもわかりやすく迫って来るが、その二本ともが上段蹴りの位置にある。払いたければ、足を高く振り上げなくてはいけない。
「……っ!」
 リナリーは歯噛みした。
 そんなことをすれば、スパッツのないリナリーはパンチラの記録を撮られてしまう。相手の能力がわかったところで恥ずかしいものは恥ずかしく、スイッチの切り替えのようにはいかない。じゃあ恥じらいは捨てます、と、そんな風にいけばいいが、そうはいきそうにないのだった。
(一旦引くしか……)
 リナリーは背中を向け、この路地から駆け去ろうとするも、行く手を阻まんばかりの二本の触手が背後にも控えていた。
 そして、一本が仕掛けてくる。先端を槍状にして胴を狙い、もしかしたらこの攻撃は、まともに命を狙ってきているかもしれないと、恥じらっている暇はないとばかりに、リナリーは回し蹴りを放っていた。
「やった!」
 当てるなり、触手は消し飛ぶ。
 力がほとんど消えかけているとはいえ、まだ完全には失われていない。あるいはリナリーが羞恥心を捨てさえすれば、その分だけ力は復活するのかもしれない。
「だったら、やっぱりここで!」
 リナリーは改めてアクマと対峙し、二本ずつ順番に迫る槍状を右のキックで、左のキックで消し飛ばす。
(い、いける!)
 リナリーはアクマに迫ってずかずかと歩んでいく。
(今ので見えないわけがない。でも、気にしないようにできた! 戦える!)
 そう、自分は戦える。
 自分を信じて突き進み、しかしそんなリナリーの目前に、実に五本にもなる目玉の触手が現れて、その全てがホログラムの画面を宙に浮かべる。
「やっ! やっぱりダメ!」
 リナリーは顔を覆った。
 五本の触手が生み出す五つの画面、それぞれに映る画像は全てがパンチラだ。キックの際に足を振り上げ、スカート丈が持ち上がった瞬間のクロッチが少しばかり映っている。後ろからはお尻が見えている。
 そんなチラっと見えかけのものが五枚同時に突きつけられ、リナリーは赤く染まり上がってしまっていた。
「サア……」
 真っ赤な顔で頭を沸騰させるリナリーへと、一本の触手が近づいた。
「ケッテ、ミロ」
 どうぞ消し飛ばして下さいと、そう差し出された触手を見ると、花のつぼみに酷似した形状から、鋭い銀色の刺が伸びている。殺傷に使う凶器を、こんなアクマでもやはり隠し持っているのだ。
 刺されないため、身を守るため、リナリーはスカートを手で押さえながら蹴り上げる。
「ううっ」
 下着が見えるとわかっていながら、みすみすパンチラを撮らせてやるために蹴るかのようで、内心恥辱でいっぱいだった。恥じらいを噛み締めての、打ち上げんばかりのキックを当て、つま先で蹴り上げると、触手は先端だけを消滅させ、すぐさま元の花のつぼみを再生させるのだった。
「うそっ」
 イノセンスが弱まっている。
 恥じらったせいで、触手の一本を消滅させることさえできなかった。
「も、もうダメ!」
 本当に逃げるしかない。
 リナリーは今度こそ背中を向け、全力で駆け出したが、すぐさま触手が追いつき胴体に巻きついてくる。腕にも、足にも巻きついて、リナリーの動きを食い止めてくる。そんな触手の群れを相手に必死にもがき、身体をくねらせ暴れさせるが、それしきの抵抗が通用するわけがなかった。
 しまいには幹の前まで連れ戻され、手足は封じられていた。
 今度はY字だ。
 両腕は持ち上げられ、足は二本束ねたまま、Y字のように拘束され、身動きの取れないリナリーに向かって、正面からの触手がスカートへ伸びている。触手の先端がスカート丈を掴み、あとは持ち上げるだけとなった途端、首筋には刃が突きつけられた。
「メヲ、ソムケタラ、コロス」
 リナリーの前にはライブ映像が展開されている。
「うっ、やだ……」
 これからスカートを捲り、中身をあらわにするための映像には、既にスカートが大きく映し出されている。
 触手は一瞬、一気に持ち上げるかのように素早く動きかけ、しかしそれはフェイントだった。
「うぅ……!」
 リナリーがビクっとするなり停止したのだ。
 それから改めて、やはりゆっくり、徐々に持ち上げ、時間をかけてやっとのことで、三角形の一部が画面に見えているのだった。
「こんな……人を玩具みたいに……」
 スカートが捲られていくことを阻止出来ず、そして刃で脅され、映像から目を逸らすことさえ許されず、リナリーは自分のショーツが明らかにされる有様を真っ直ぐに見つめていなくてはならなかった。
 完全に捲り上げられ、白いショーツはあらわとなる。
 三角形の下半分は無地でありつつ、少しばかり上にいくと、小さな花が並んでいる。ブルーの刺繍で作る小さな花々は、ベルト状のラインを成すように並んでいる。そんなベルトは二本、ゴム沿いとその少し下とで平行に飾られている。
 そして、青い糸が目立っているが、よく見れば白に馴染んで溶け込むような、白銀めいた薄水色で、よく見れば枝や葉が表現され、それが花々の下には広がっていた。
 さらに青いフロントリボンもある。
 このショーツはリナリーのお気に入りなのだった。
「パンツ、カワイイナァ?」
 アクマが羞恥を煽ってきた。
「見ないで……」
 視姦の上に、言葉までかけられて、リナリーとしては頬を熱せられている気持ちだ。
「ヘヘッ、ポーズ……トラセテ、ヤル……」
 リナリーの身体は持ち上げられ、腰が宙に浮かされる。足首に、両膝に、片足に二本ずつが巻きついて、力ずくで開脚を強いてくる。否応無しにM字開脚を披露させられ、それはもちろんリナリー自身に映像によって突きつけられる。
「くっ、こんなの……」
 映像の中ではアソコが大きく映し出され、下着越しのワレメの形さえもが見えている。
「ううっ」
「メ、ソラスナ、ヨ」
 やはり、そうすれば殺すとばかりに、触手からの刃は首の周囲を踊っている。
 さらにつぼみ型の触手が近づくと、急にプシュゥゥっと、スプレーの噴射音にも似た音を放って、何かの気体を吹き付けてきた。
「んっ! な、なに!?」
 花の香りをリナリーは吸い込んでしまう。
 それから、数秒もしないうちにじわじわと全身が疼きだし、リナリーはとある危機感に見舞われていた。
(やだ! 嘘っ、この感じって!?)
 リナリーにも自慰行為の経験くらいはある。
 ともなれば、体中がうずうずと何かを求めているような、あるいは我慢しなくてはいけないような、この感覚の正体も当然わかる。

 じわっ、

 と、白いショーツのアソコに染みが浮かんだ。
「ヌレテ、イルゾ……」
「ちがっ、ちがうったら!」
「イイヤ……アイエキ、ダ……」
「うぅぅ……」
 誤魔化しようのない水分の存在に、リナリーは顔から火を噴きそうな思いに駆られる。
 リナリーに影響を及ぼしたのは、何も今の気体だけではない。こうして腕に巻きついている触手からも、脚に巻きついている分からも、粘液が徐々に素肌に浸透している。リナリーがそれを知るわけもないだけで、これら粘液にも媚薬効果は含まれていた。
 自分自身の濡れていく有様を観察させられ、リナリーの頬はこれ以上なく歪んでいる。耳さえ赤く染まりきり、頭の中は羞恥による沸騰で満ち溢れている。
 触手が股をくすぐった。
 アソコに直接触れることはなく、触手の先端からさらに細かい触手が生え、その蠢く糸ミミズのようなものがショーツの間近を愛撫する。生地に触れるか触れないかの、実に際どい場所を撫で、細やかなタッチを施され、リナリーは足首をよがらせていた。
「んっ、んぅぅ……やめて…………!」
「メ、ソラスナ」
 強制的に見せつけられる映像では、アソコの部分でしだいに染みが濃くなっている。最初はわずかで、よく見れば濡れていなくもなかった程度から、今となってはくっきりとした楕円が形成され、それが面積を広げている。
「んっ、やめて……やめてぇ……!」
「コレ、ツカッテ……ヤル……」
 一本の触手がリナリーの眼前に現れて、次に行う愛撫を暗に予告してくる。それは歯ブラシにも似た形状の、先端からブラシ状の触手を生やしたものだった。
「やっ、やだ! そんなの!」
 ブラシ型がアソコへ移り、ワレメに乗る。
「んんんんんんん!」
 これまでにない刺激にリナリーは悶えた。
 その動きは丁寧なブラッシングで、優しく上下に撫でるものである。
「んあぁぁっ、やだっ、やめてぇぇ……!」
 そんなタッチが下半身に電流を走らせて、内股が痙攣じみてビクビクと震えてしまう。反射的に閉じようとする脚は、しかし巻きついている触手のせいで、震わすかのような挙動に留まるだけだった。
「ビショビショ、グッショリ」
 濡れきった事実を見せつけようと、糸を引かせてブラシ型が離れると、もはやショーツ全体がまんべんなく愛液を吸い込んで、香りさえもが漂っている。
「オモラシ、ミタイ、ダ……」
「やぁぁ……!」
 あらぬ言葉を使われて、リナリーは顔を覆い隠したい衝動に駆られたが、肝心の両手が触手に縛られていた。反射的に腕をよじっただけに留まり、あとは赤らんだ顔から蒸気を上げんばかりの羞恥に表情を歪めるのみだ。
「モット、カンジテ……シマエ……」
 改めてブラシ型による愛撫が行われる。
「あぁぁぁ! んっ! ん! やめて! やめて!」
 リナリーはツインテールの長い髪を振りたくり、嫌だ嫌だと必死になって首を振り、全身を強ばらせた。腰をくねらせ、胴体を捩り回して、それだけ暴れたところで、ブラシ型は何ら関係無く愛撫を続けていた。

「あっ! あぁぁあああああああ――――!」

 そして、絶頂していた。
 ブラシ型の被さったその下で、ちょっとした放尿の勢いを帯びた愛液が垂れ流され、ショーツの中から滴となって、ポタポタと地面に垂れる。
「あっ、あぁぁ……そんなぁ…………」
 イカされたことも、言うまでもなく屈辱だ。
「ホントウ、ニ、オモラシ、ダ……」
 ただでさえの屈辱に加えてお漏らし呼ばわりで、より一層の羞恥の炎が燃え上がった。
「いやっ! 言わないで!」
「オモラシ、オモラシ」
「いやぁぁ……!」
 リナリーは羞恥のあまり涙を浮かべた。
 こんなポーズを取らされていることも、絶頂してしまったことも、それをお漏らしだと茶化されることも、何もかもが恥ずかしくてたまらない。羞恥の感情が膨らむあまり、脳が蒸発して消えてしまいそうな勢いさえあった。
「ナカ、ミテ、ヤル」
 ショーツをずらし、初々しいワレメを露出させてくる。
「くぅぅぅ……!」
 ますます表情が歪んでいく。
「ホレ、ミロ」
「やぁぁぁ……!」
 布をずらされるばかりか、細やかな触手を駆使して中身まで開かれて、桃色の肉ヒダが画面に映し出されると、リナリーの羞恥はさらにまた煽られる。
「ハダカ……シテ、ヤル」
 さらに幾本もの触手が迫り、その全ての触手の先端から、さらに細かな触手がびっしりと伸びている。それら触手の数々はリナリーの衣服を脱がしにかかった。器用にもホックを外し、チャックを下ろし、ボタンも外す触手の群れに、リナリーの肌はしだいに露出していく一方だ。
「やめて! ああっ、服……取らないで……!」
 どれだけ叫んだところで、リナリーは全裸にされていた。
 一糸纏わぬ姿となり、改めて同じ格好で持ち上げられ、アソコを隠すこともできないリナリーのあらぬ姿が映像となっている。自分自身のあられもない姿から目を逸らすことは許されず、リナリーは涙目で己の裸を見た。
「シリノ、アナ」
「ひゃっ!」
 肛門まで見せつけられ、リナリーは思わず顔を背ける。そうしたが瞬間に、首筋に鋭い刃の感触が触れ、皮膚の薄皮がかすかに切れるかゆさから、確かな切れ味を感じるのだった。
「ミロ」
 リナリーは前を向かざるを得ない。
「きゃぁぁっ!」
 向くが否や、悲鳴を上げた。

 そこにはおびただしい数の画像が、動画が浮かんでいた。

 肛門のアップが、性器のアップが、乳房のアップが、他にも今までのスパッツに、パンチラの映像や画像が数え切れないほど幾つも幾つも、画面サイズを調整してずらりと並ぶ。
 さらには赤らんだ表情の動きでさえも、リナリー自身に突きつけられ、記録映像として再生されていた。
 リナリーを羞恥責めにするための空間が出来上がっていた。
「やっ、やだっ! 見せないで! お願い! やめて!」
 左右にも画面が浮かび、見えることのない背後にさえびっしりと、上を向いても映像が動いている。例えるなら、ドームの内側にモニターというモニターの数々を貼りつけ、その中に閉じ込められた状況といえた。
 そんなリナリーをさらにペニス型とつぼみ型が包囲する。

 ドピュ!

「ひゃぁぁ!」
 精液が飛び出ていた。
 正確には射精に酷似した白濁の液体が次から次へと、リナリーの全身をまんべんなく穢そうと、おびただしく放出された。

 ドピュ! ドピュ! ドピュ! ドピュ!
 ドピュ! ドピュ! ドピュ! ドピュ!

 生温かいものが背中へと、尻へと、腹にも胸にも、手足の指にかけても付着して、もはやボディペイントで肌の色を変えようとしている勢いだ。
「いやぁぁ! なに!? なんなの!?」
 顔中にも生温かいねっとりとした感触がへばりつき、髪にまで染み込んで、こうなるとバケツいっぱいの白いペンキをかけたようなものである。青臭いツンとした臭気が全身に浸透して、リナリーは涙を流し始めていた。
「やめて! お願いやめて! オジサン!」
 無我夢中で叫ぶおり、リナリーは無意識にそんなことを口走る。
 そんなことは関係がないように、ペニス型がアソコに迫り、膣に潜り込もうとする。
「いやああああ! ダメ! オジサン! 元に戻って!」
 ますます必死に叫んでいた。
 これまでにないほどに激しく身を捩り、無駄だというのに全身を暴れさせ、どうにかして挿入は阻止しようと泣き叫ぶ。
 それても、ワレメを開き、膣口に先端を埋めつつあったペニス型が――。
「オジサン! やめて!」
 しかし、急にピタリと停止していた。

「り、リナ……リー……ちゃ……」

 それはオジサンの声だった。
「え……」
 一瞬、何が起こったかわからなかった。
 急に地面の上に下ろされ、拘束のために巻きついていた触手も離れていき、それどころかアクマまで姿を消す。今までの恥辱が中断された事実を受け止めるまで、解放されたことを理解できずに、しばらくはポカンとしていた。
「もしかして……」
 いや、そんなことがあるのだろうか。
 アクマが……そこに囚われた魂が、自らの行動を阻止するなど、少なくともリナリーは聞いたことがない。
 だが、最後のあの言葉は、確かに……。
「オジサン……」
 裸のまま取り残され、リナリーの胸に渦巻くのは、激しい恥辱の余韻であった。ここまで羞恥を煽られ続け、辱めを受け、危うく挿入までされかかった恐怖が蘇り、顔中が引き攣ってしまう。
 だが、その一方ではオジサンへの気持ちもあった。
 自分のせいで彼はああなったかもしれないような、罪の意識が胸に漂っているのだった。



 
 
 

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