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 ――翌朝になった。
 学校だるい、行きたくない。
 あたしは今まで、学校はまあそれなりには楽しいというか、別につまらないだけの場所でもないかなー、ぐらいには思ってたよ。嫌いでもなかったし、だから不登校予備軍でもなんでもなく、ただ日常を平凡に過ごしていた。
 それがあの、地獄のような身体測定……。あんなの受けたら、さすがに不登校どころか退学して引きこもりになって、なおかつ家族や親友の同情を集めて回っても少しはおつりがでるんじゃないかと思う。
 もっとも、その退学が出来ない仕組みだから問題なわけで、ちなみに不登校児への対応もご丁寧に行ってくれるようだから、犯罪者が警察から逃げるような逃亡劇でも始めない限り逃げ場はない。
 それでもちゃんと授業の支度をして、いつか自分を辱めた連中全員に仕返ししてやりたいと考えているあたしって、意外と精神強くない? っていうか、そうだと思って自分を褒めておかなければ、やっていけないよ。
 本っ当、いずれ誰か刺してやる。
 今のところ、あたしの殺してやりたい奴リストに名を連ねているのは、汗臭いデブの内木と、エロすぎで四六時中ズボンの中を膨らませている岡部の二人。もちろん他の連中も許せないけど、明確に目に物見せてやりたい対象は主にそいつらだ。
 頭の中で復讐のイメージを浮かべながら通学路を歩く。
 あたしの通う黒坂高校はちょっと遠いが、変わりに無料送迎バスが出ている。バス停が徒歩圏内にあるのに加え、かかる交通時間を考えれば、実際の距離は遠くとも実質近いようなもんだ。
 ただし、みんなが乗るから混んでる。
 バスがあたしの地区にやってくるのは、だいたいの生徒を回収し終わった後なんだと思う。
 あたしが乗車する頃には座席は埋め尽くされていて、しかもつり革もまでもが満員になっている。というわけで、ドア付近にある手すりを掴んで立っているしかなかった。
 で、外の風景を眺めていると。

 ――さわっ

 スカートの上に、誰かの手の平が乗っかってきた。
 痴漢だ!
 この痴漢は随分遠慮が内容で、ためらいなくお尻を鷲掴みして揉んでくる。
 あたしはあいにく、黙って触らせてやるほど親切でもなければ気が弱いつもりもない。即座にバッグでお尻をガードし、肩越しに振り向いて背後にいた男を睨みつけてやる。
「おはよう、咲夜君。今日もいい尻ですなあ」
 いたのは、岡部だった。
「セクハラ痴漢教師」
 言ってやった。こいつ、マジで捕まればいいのに。
「そういう口を叩けるのが咲夜君、キミの魅力ですよ?」
 お前に褒められても腹が立つっての。
「ふふっ、咲夜君。このバスはね、週に一度自由に痴漢を行っても良いことになっているのです。男性にしか通達は来ないので、それが何曜日の話になるかは女子にはわからない仕組みなんですよ」
 男にとって都合の良い仕組みをドヤ顔で語ってくる。周囲を見れば、確かに女子生徒達は恥ずかしそうに身をもじったり、必死に堪えたりしていた。
 まったく、あたしはてっきり校舎内でしかエロイベントはないものと思っていたのに、まさかバスにまで手が回っているとは。これは電車通学か自転車通学を真面目に検討する必要がありそうだ。
 とりあえず、バッグでお尻のガードを固めたまま、ドアに胸をくっつけた。これならば、岡部も大事な部分には手を入れにくくなるはずだ。
「悪くないディフェンスですね、咲夜君。ですが、これならどうでしょう」
 岡部はあたしの背中に抱きついて、耳に息を吹きかけてきた。
 気持ち悪い! 全身に鳥肌が立つ。
「到着までのあいだ、存分に楽しみましょう」
 岡部の舌が、あたしの耳をぺろりと舐めた。

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