私がお嬢様学校などに入学できたのは、特待制度による学費免除の賜物であり、本来なら私ごとき庶民が立ち入ることなどなかった場所だ。
ごきげんよう、だなんて挨拶が本当に使われている。
なんたるお嬢様ワールド!
ロイヤルの香り!
外国へ行ったわけでもないのに、軽くカルチャーショックを受けた気分だ。
だけど、担任の先生は良い人だし、この二者面談では色々と打ち明けてみようと思う。金銭感覚が違いすぎて、なんというか友達とのあいだにズレを感じたり、そんな私の事情をわかろうとしてくれる子もいれば、そうでない子もいたりすること。
あとは、何かな。
特待生としての入学だから、学力を落としてはいけないプレッシャーもある。人一倍頑張らなくてはいけないから、家でも学校でも勉強尽くし。正直に言って疲れることも、試しに愚痴としてこぼしてみようか。
話したいことを頭にまとめて、ドアをノックして担任の部屋を訪れる。
まず、部屋に入るなりアロマの香りが私の鼻腔を貫いていた。
いい! 凄くいい!
とても好みのにおいだ。
わざわざ紅茶を淹れて下さって、遠慮なく口にしたなら、体の心からぽわーっと温まるような感じがして、すっかりリラックスした私は、穏やかな気持ちで話そうとした。
しかし――。
「このライターの火を見てごらん?」
そう言われて、ぼんやりと火を眺める。
くらっと、頭が揺れた。
「すーっと力を抜いてごらん?」
なんて甘い声だろう。
まるで振り子のダンスのように、ゆらりゆらりと、私の体は揺れている。頭の中までユラユラとして、みるみるうちに意識がぼやける。
「リラックス……リラックス……」
どうしてだろう。不思議と筋肉がほぐれている。力が抜ける。肩から腕まで、だらんと脱力してしまって、きちんと伸ばしていたはずの背筋も、だらしなく猫背に曲がっていく。
「そうだよ。そのまま……どんどん……どんどん……力を抜いて――」
ああ、ぼんやりする。なんだろう。
部屋が静かなせいか、時計の針の音が聞こえてくる。
チッチッチッチッチッチ――。
と、単調なリズムを刻んでいる。そういう音は眠くなる。
眠い?
眠いようでそうじゃない。
だけどなんだか、普通の意識を保っていられない。
心が眠る。
だんだん、だんだん意識が――。
「服を脱いでごらん?」
服を、脱ぐ――。
うん、脱ごう。
脱ぎました。
「これから二者面談を行いますが、生徒と教師が理解を深め合うためには、ベッドの上で肉体的に交わることが大切です。だからセックスをしなくてはなりません」
ああ、セックスか。
セックスもコミュニケーションの一つだものね。
「立派な指導の一環です。おかしいことはありません。おかしいと思う方が、おかしいのです」
ですよねー。
おかしくない。なーんにもおかしくない。
――ハ!
え? あれ?
今まで私、どうしてたんだっけ?
ああ、そうそう。二者面談に来たんじゃないか。その最中に居眠りなんて、退屈な授業じゃあるまいのに、どうして私ってば、こんなところでウトウトしてしまったんだか。よほど疲れでも溜めていたのか。
「よし、井口。先生とセックスしよう」
二者面談といえばセックスだ。
経験がないので不安はあるけど、先生は優しいから大丈夫。
うん、きっと大丈夫。
ちょっとは緊張するけど……。
「わかりました。すぐに――って、あれ!? あれあれ? なんで!?」
どういうことか。
私は既に全裸だった!
脱いだ記憶がないんだけど?
でも、見れば机の方には、ブレザーとワイシャツとスカートが、全部畳んで置いてあるし、下着もそこに置いてある。そうだ。私はもう脱いだんだ。自分で全裸になったんだろうに、どうして脱いだ記憶がすっぽ抜けてしまったのか。
「ほら、始めるぞ」
「は、はい!」
先生の言葉に導かれ、私はベッドの上に上がっていく。
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