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 私はやり残したことがあると落ち着かない性分だ。
 中学校から自宅までは徒歩十分もない距離で、帰って早々二時間ほどの勉強をするのが日課なのだが、この日は生徒を殺しにかかる勢いの宿題が出ているため、それだけの時間を割いてなお課題は終了していない。
 提出期限まで余裕はあるから、今から急ぐほどではないのだが、それでもやり残していると気になる。。
 あの次のページの問題は何か。今までの答えは合っているか。間違った部分は見直しをしなければいけない。
 色々なことが頭をチラついて、残念ながらアニメ視聴に集中できない。
「やっぱり、宿題が先ね」
 私は自分の部屋にノートパソコンを持っていて、インターネット環境も整っているのだが、やはり先にやるべきことをやらないと、余興も余興で一応集中力は必要だ。やりかけの課題を残していては、そちらに意識がいって楽しめない。
 このことをかつて友達に話したら、「えー! おかしい! 普通逆だよ!」と、軽く騒がれたことがある。
 クラスメイトの面々の主張では、漫画やアニメやゲームの続きの方が気になり、ついついサボりがちになる方が普通だというのだが、だからロクな点数を取れない生徒というものが出る。一問や二問ならケアレスミスに過ぎないとしても、赤点を取る人間の存在となると私には信じられない。
 それこそ、普通にやるべきことをやっていれば、点数など取れるものではないか。
 何故、赤点クラスの馬鹿が天然記念物ではなく、うちのクラスには普通に存在しているのか。
 私にはわからない。
 やるべきことをやらなければ、後々になって困るのは目に見えている。暗記に励まなければ単語力がつくはずもなく、教科書に目を通さなければ歴史の流れも入ってこない。結果として訪れるのは悲惨なテストの点数であり、成績を悪くする。
 何がどうしたら、先に娯楽の内容が気になるのか。
 逆ではないか?
 課題をサボればサボっただけ、後の方にツケが回るのは考えなくともわかるだろうに、だから宿題を残したまま打ち込んでも、せっかくの娯楽が楽しめない。楽しめなくては娯楽の意味など皆無であり、疲れきった精神を癒す効果も期待できない。
 だから私は娯楽を諦め、今日一日の時間はほとんど勉強に費やした。勉強をやればやるだけ、計画的に娯楽分の時間を増やせるため、いくらでも時間を使って損はない。
 それに勉強の面白いところは、積み上げた結果が明確な数字としてはっきりと視覚化される点にある。ゲームキャラクターを育ててステータスを高めていくのが楽しいように、五教科に時間を費やすのは、自分自身のスキルレベルを成長させているようで堪らない。満点を取った瞬間の快感といったらない。
 しかし、私が衝撃を受けるのは翌日だった。
 ――翌日。
 私達の中学には先週まで中間テストが実施され、当然のこと私はテスト期間中も勉強に励んでいた。そもそも、テストの有る無しに関わらず、日頃からコツコツと積み重ねている私に隙はなく、これまで返却された四教科は全て百点満点だった。
 次の国語テストの返却でも、私の手元には必ず百点満点が舞い込むだろうと想像するのは、ごく自然な流れに過ぎない。
「ええ、蓮宮数乃さん」
 名前を呼ばれた私は、教卓に立つ担任の国語教師の下へ向かう。
「さすがだな。蓮宮」
 手渡された点数を見て私は愕然とした。
 99点!?
 そんな馬鹿な――四教科全てで100点を取った私にとって、最高のリーチがかかったようなものだった。あと一教科の満点を得ればオールパーフェクトを達成していた。
 それが……それが……。
 ふらりと足に力が抜け、私はその場に膝を付き添うにさえなっていた。
 冗談じゃない。一体どこを間違えた?
 血眼になって探した結果、そこにあったのは、熟語問題の部分で棒の数を何故か一本増やしてしまっていたというケアレスミスに過ぎなかった。
 ふ、ふざけるな……。
 私はこんなミスをしていたのか。
 私は……私は……。
「あー蓮宮。理由は先生にも察しがつくが、99点だぞ? そう落ち込むな」
 まさか99点でも凄いのだから、贅沢は言うなとでもいうつもりか。ならばスポーツ大会の準優勝が悔し涙を流すのは何なのか。オリンピックの銀メダルで素直に喜んでいない姿は何なのか。あと少しで、もう一歩先のものを掴めたのに、これが悔しくないはずがない。目指すべきは頂点だ。
「期末テストだってある。そのときに頑張れ」
「そう……ですね…………」
 雪辱は次の機会に晴らすしかない。
 ならば、より一層励まなければならない。
 となると、忙しい。
「それから、特別課題のことで話があるから、蓮宮は放課後俺のところへ来るように」
「はい」
 特別課題?
 ああ、あれか。
 なんだか余計に忙しくなってきた。



 
 
 

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