目次 次の話




 ――いいかい?
 ――蓮宮数乃ちゃん。

 私の記憶の中には、優しく言い聞かせてくるような先生の声がある。顔は陰り、輪郭もぼやけているから、その容貌も背丈も体格も、何一つわからない。

 ただ、彼は男の人だ。

 ――君は女の子だ。
 ――もう中学三年生の春になって、これから受験に忙しい。

 そう、私は女の子。

 ――さて、思春期の数乃ちゃんには、今のうちに学んでおくべき『常識』があるね。
 ――今はまだ関係ないって思うかもしれないけど。
 ――早いうちに知っていかないと、後々になって恥をかくかもしれないからね。

 私が学ぶべき科目は、理科や数学だけではない。
 性における常識を、これから知らなくてはならない。

 ――性教育の実施には、必ず顔を出すように。

 先生は包み隠さず全てのことを教えてくれる。
 もっとも、いくらでも情報が手に入るご時勢で、中三にもなる私に何の性知識がないわけもなく、生理周期や受精のはたらきについては概ね承知している。
 しかし、実践経験は無し。
 学ばなくては……。

 ――近いうちに実技講習を行うことになる。
 ――いいね?

 いいねも何も、授業の一環である以上はサボることはしない。
 私は必ず、全ての教科を完璧にこなし、通知表で最高の評価を得るつもりでいる。

 ――これで君は催眠にかかった。
 ――全てが真剣な課題だと思い込む。



 
 
 

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