第6話 クロエの手記

 えー、っと。
 ここまで? オナニーやらされたとこまで書いたんで、次にやらされた内容いくんで。
 イった後? あれ、肉バイブ、渡されて。
 んで、それを魔法で床に固定して、下半身裸になって、上に跨がるとかやったの。で、騎乗位みたいに動けっつーから、そうしたわけよ。
 濡れてんじゃん。
 イキたくなんかなかったけどさ、イクくらいには濡れてっから、棒はすんなり入って来るし、上下に動いたら気持ちいいわで、マジでなんもいい時間じゃなかったわ。
 一人でオナニーすんのと、あんな姿を人に見せびらかすのと、全然ちゃうからな。苦痛よ苦痛、気持ちいいってことがそのまま苦痛になる感じ、おわかり? 想像つきます?
 しかもコメント欄から質問くるわけじゃん。
 あんまりあっさり入るから、実は経験者なんじゃないかって、その質問に答えるために、また言うわけよ。学園祭で女の子をセクハラから助けて? その後で家庭教師のバイトやって、そしたらセクハラの犯人である一〇歳児と再会して、って話から、いちおー解決みたくなったところまで言うんよ。
 そのあいだも動いてたからね。
 騎乗位止めるな、喋ってるあいだも動けっつーから、気持ちいいせいで集中しにくいっていうか。喋ってるせいで気持ちいい方に意識がいかないっていうか。二つのことを同時にやるから、ついついどっちか一方に意識が寄っちゃうみたいな? シーソーがあっちにこっちに傾くことの繰り返しなんよ。
 ああ、こっち意識しすぎた。こっちに傾いてる。バランス取らなきゃ、ってやった瞬間、そっちの方に傾きすぎて、またバランス取り直すみたいな、マジでその繰り返しな。
 そんな状態で、まあ最後まで喋ったわけよ。
 息が乱れたり、たまにエロっぽい声とか出しながら、前回までのあらすじを語るナレーターみたいな真似をして、その姿がまたウケたらしいじゃん。
 コメント欄、凄かったみたいじゃん。
 うちは下らないもんわざわざ見ないようにしてたけど、裁判長さんがいらんこと教えてきたり、読み上げたりしてくるから、どれくらい盛り上がっていたかは、そりゃもう嫌でも伝わってきたっつーの。
 はー、怠かったわ。
 人の犯罪被害に遭った話を聞いて? 同情とかじゃなくて、あろうことかみんな興奮するとか、マジでねーから。そういうの誘うために話したつもりとか、マジでねーから。
 ねーってのに、みんな興奮してんの。
 女子ども全員の鼻の下が伸びてる光景、わかる? うちから見たあんたらの顔、いやらしー表情がずらっと並んでる景色ってのわかる?
 想像つかん?
 エロ男子がずらーって並んで、そんで全員の視線浴びながら裸になってるのと同じだかんね。
 ハズいわ、屈辱だわ、腹立つだわ。
 もう単純に恥辱ってんじゃなくて、もっと色んな感情があった気さえしてくるわ。

     *

 一回区切ったわ、別に深い意味とかないけど、長くなってきたから段落変えるってことでヨロ。
 そんで、騎乗位まで話したけど、その後もまだ騎乗位だったわけじゃん。ただまあ、リクエストが増えて、ネクタイほどいてボタンいくつか外して、ワイシャツから胸だけ出すみたいな感じで乳房露出して、その上で騎乗位続行。
 何が目当てか、要求された途端にわかったからね。
 そりゃ、そうだろうよ。
 ぷるぷる揺れるもんが見たいんだろうよ。
 んで、うちはその通りに胸出して、あーこれでアソコもオッパイも全部見えてんな。不特定多数の、百人だか二百人だか知んねーけど、そのくらいたくさんの人達に裸見られて、腰まで振って、マジでみっともねーし、取り返しがつかねーな。みたいなこと思いまくってたから。
 なーんでうち、こんな目に遭ってんだか。
 あん! とか、きゃん! とか、喘ぎ声が出たり、息がハァハァ乱れたりとかしている最中だって、そういうのめっちゃ思ってたからね。
 あんあんあん、って?
 喘いでて、上下運動してて、その最中な。
 頭ん中は、元々は痴漢を止めに入っただけっていうか、友達を助けようと思っただけなのに、なんも悪いことしとらんうちがこういう目に遭ってるの、どうかしとらん?
 神様はこの世におらんの?
 って、そういう感情な。
 みたいなことばっか頭に遭って、でもふざけたことに罪悪感湧くわけよ。痴漢妨害罪を働いたのはうち自身、罪は償わなければ、って感情がな、あのスクロールのせいか知らんけど、とにかく湧くわけよ。
 マジでおかしいからな。
 何がおかしいって、頭ん中じゃ、その理屈はイカれてんだろってわかんのに、けど罪悪感の方を優先して、うちは行動しちゃってんの。
 我ながら、なんでこんなにうちは頭おかしくなってんのって、本当に思うじゃん。
 そゆこと思いまくりながら、腰を振りつつアンアン喘いで、イったりしてました、と。
 あとここ、他に書くことあったっけ。
 ああ、感じた具合とかだったな。
 触ってもない乳首がなんか突起してたし、クリも突起してたし、アソコだけじゃなくて、全身にスイッチが入ってる感じはまああったね。
 こんなに全身? 感度上昇? しちゃったら、気に入らん連中がみんな喜ぶってわかってんのに、なんで体の反応ってのは、こう制御が効かんのかね。
 感じたくなんかない、みたいな。
 そういう気持ちはな、ずーっとあったからな。
 それ、忘れんな?
 マジでずーっと、それ思ってたからな?

     *

 お気に入りのプレイっつわれても、知らんって。
 ほんと、マジで知らんから。
 何をどう答えりゃええのって感じの質問だと思ったんだけど、そんでもなんか答えろっつーから、うちなりの答えをどうにかこうにか捻り出した感じ。
 騎乗位、ってことにしといたわ。
 しといた、ってのは、うち自身だってお気に入りの体位とか知らんし、マジで聞かれても困るってのが一番の答えだったからな。それでも理由とか思いついて、そういう答えってことにしといたからな。
 コメント欄からの質問だったな、あれ。
 裁判長が嬉しそうに読み上げて、そんでうちが質問に答えた流れだったな。
 はいはい、答えましたとも。
 先端の当たり方を自分で調整しやすい、感じ方をコントロールしやすいって理由で騎乗位な。別に本当にそれが一番とかじゃなくて、なんかしらそれっぽい理由を捻り出して、どーにかそれが答えって設定にできそうと思ったから、そうしたって話だからな。
 ま、配信見てる連中は、いくらなんでもそこまで知るわけないから、無邪気に喜んでましたな。騎乗位好きって間に受けまくって、裁判長が読み上げなさったコメントなんかも、自分の上に跨がって欲しいとか、妄想爆発しまくりで、それマジでさ、ウケるから。
 えっと、あと次はあれか。
 過去のプレイで一番興奮したのは?
 なんて質問だったな、うん。

     *

 そこまで筆を走らせて、クロエは深くため息をつく。
「なんなん? このふざけた宿題は」
 ここまでぎっしり、紙の中には文字を詰め込んできたわけなのだが、この下らない時間を使って、これでどれほどの文字数を書いてきたことだろう。
 他にバイトをするなり、勉強に当てるなり、有効活用できたはずの時間がこんなことに奪われて、それで喜ぶのはあの痴漢グループであり、チャンネル視聴者の連中だと思ったら、どんどん腹が立ってくる。
 だが、まだクロエの中には罪悪感が残っているのだ。植えつけられたものに違いない、痴漢妨害罪を働いた自分が悪いと思い込む、その犯しな感覚がまだ。
「課題多過ぎんだろ。定期テストかっての」
 クロエはその量にも頭を悩ませる。
 過去のプレイ、つまりケンやその父親から辱めを受けていた時、一体どのプレイが一番興奮したか。その質問と回答を配信の中で行っているのだが、その時の思いを、行動を、いちいち細かく記録に残さなくてはいけないのだ。
「あーあ、どれが一番腹立ったか? なら書きやすいんけど。いや、それはそれで、逆に難しいか」
 などとクロエは思う。
 好きでやっているプレイなど、何一つない以上は、どれを一番とも決めがたい。なるほど、胸を揉まれるのと、本番まで求められるのとを比べれば、挿入された時の方が嫌だったかもしれないので、ランク付けをする余地がないわけではないのだが、それにしても一番の候補は多すぎる。
「ま、そういうんじゃなくても、あれがイラっときたか」
 フェラをやらされた。パイズリをやらされた。嫌だったり、腹が立ったりした中心は、その手の行為に関連しているが、それ以外にも苛立ったものは多くある。
 コメントを読み上げられた。
 裁判長の煽るような声音に神経が苛立った。
 それ以外にも、あの配信の締め括りだ。

「これにて、ダウナー生意気少女のクソエロ配信、終了しまーす」

 と、そんなタイトルだったらしい配信の、下らない字面を読み上げた上で、視聴者に向かって手を振って、それにて配信を締め括る。
 その際には全裸となって、下着も含めた全てを足元に折り畳んでいた。そんな状態で笑顔を強要され、手まで振ることの思いといったらない。
「きつかったわー」
 何が悲しくて、そんな下らない創作作法を守らされたのか。
 だが、それ以上にきついことが実はある。

 ……まだ、償いが終わっていない。

 いや、終わらないのだろう。
 この手記を提出した後、これで全ての償いは済んだか否かの話し合いが、またぞろ裁判と称して行われる。
 だがあのグループの目的は、魅力的と思った女の子を餌食にして、玩具として楽しむことだ。クロエは玩具として目をつけられているので、だったら手放してもらえないのではないか。
 その不安が胸を締め付ける。
 表情は暗くなり、紙に走らせていたペン先も、いつしか不意に停止していた。
「あー……だんる…………」
 気が重いあまり、そんな言葉しか出て来なかった。

「ってか、登録者数、達成してなかったわ」

     *

 ケンには記憶がない。
 一時期まで自分の家庭教師となり、勉強を教えてくれた女の子のクロエに対して、何かとても悪いことをした記憶はある。その悪いことが何なのか、どうしても思い出せず、ただ何かをしでかして、それを説教された事実だけが頭の中には残っている。
 悪事の内容も、説教の内容も、肝心なところは記憶にない。
 ただただ、そういう出来事があったという、それだけを覚えていた。数日前までは思い出そうとしていたが、どう頭を捻ったり、うんうんと唸ってみても、一向に記憶を掘り返すことが出来ないので、とうとう諦めていた。
 そんなケンが衝撃を受けたのは、映写魔法用の石版を使い、とある動画配信のチャンネルを見た時だ。
 それは有名なチャンネルだった。
 とある女子学生のグループ、それも痴漢グループが立ち上げたもので、餌食となった女の子がたまに顔を出しては痴態を晒し、悔しそうにしていたり、恨めしそうな顔をしながら、それでも愛液を垂らしている。
 本物の痴漢集団が立ち上げ、そして動画には本物の被害者が出演を強要されている。良心があるのなら、見てはいけないチャンネルだと、頭ではわかっているのに見てしまう。こんなことをクロエに知られる機会があったら、絶対に説教されるだろうな、とは思うが視聴者でいることをやめられない。
 配信回数は少ない。
 だが、気が強かったり、精神的に芯の強い女の子ばかりが選ばれて、いかにも不本意そうにしているのに、強要された自慰行為でアソコや指を濡らしたり、息遣いを乱しているのが、とてもとてもエロティックで胸を貫いてやまないので、きっとこれからもケンはチャンネル支持者であり続けるだろう。
 その配信に、クロエが出たのだ。
 次の配信はいつだろうかと、気になって情報をチェックしていたら、突如として自分の知っている女の子が現れた瞬間の、信じられない思いといったらない。
 これは夢ではないかと、何度も確認したくらいだ。
 何度も目を擦り、頬をつねって確かめて、それでもやはり現実であることを悟ったケンは、のめり込むようにしてクロエの痴態を視聴した。
 すると、何やら気になることを口走ったのだ。
 学園祭でセクハラ現場を目撃して、という出だしから始まっての、クロエが過去に体験したらしい一連の屈辱的体験には、何やら妙に覚えがあるような、ないような……。
 ともかく、目が離せなかった。
 もう家庭教師の期間は終わっているので、残念ながら顔は合わせていないのだが、それでも見知った女の子には違いない。
 それまで、出演者は知らない子ばかりであった。
 当たり前だ。
 有名人が出て来るわけではなく、たまたま被害に遭った一般人が出演するのだから、知り合いの顔が出て来る方がおかしかった。基本的にどこの誰とも知れない女の子が、しかし気丈さをあらわにしながら屈辱的な目に遭っているのが面白いのだ。
 だが、クロエが出て来た配信だけは格別だ。
 見知らぬ女の子でさえ、十分に楽しめていたところに、かつて家庭教師だったクロエが現れる。そのクロエがスカートを少し持ち上げオナニーしていた。肉バイブを使った騎乗位を行ったり、コメントの読み上げ自体が辱めとなり、クロエのことを延々と苦悶させていた。
 なんて面白い話だろう。
 なんて素晴らしい配信だろう。
 気づけばケンも、狂ったようにコメントを送っていた。スカートに隠れて手や性器は見えないのに、指が入っていることが伝わって、だから「入ってる入ってる」など打ち込んでいた。するとそれは読み上げられ、自分のコメントが配信側の目に留まった事実に歓喜した。
 それにクロエの反応も面白かった。
 顔を歪めたり、引き攣らせたりしている反応を引き出した要因の中に、自分のコメントもあるのかと思っただけで、心が舞い上がるようだった。
 是非とも、再出演して欲しい。
 そんな例は今までないので、ケンとしはただそういう妄想をしているだけ、希望のメッセージを送ることもしていないが、とにかく出て欲しい思いが湧いた。

「ああ、クロエさんのオッパイ……綺麗だったなぁ……」

 騎乗位の際の乳房が目に焼き付いている。
 あのリンゴのような膨らみがぷるぷると上下に揺れ、アソコを見れば肉棒が見え隠れする。あの光景の、なんと興奮することか。一体どれほど射精して、睾丸の中身を枯らし尽くしたことだろうか。

 …………
 ……

 無論、視聴者はケンだけではない。
 その配信はケンの父親の目にも留まっていた。かつてクロエが働かされた酒場の、店長の目にも留まっていた。そこでクロエの客となったことのあるモヒカンの目にも留まっていた。
 不特定多数の、あらゆる男性の目に、クロエは留まっていた。

 そして、翌日。

「では裁判を開始します」

 クロエのことを一体どうやって辱めるか、その内容の会議でしかない裁判がまた始まる。