第5話 最終刑、動画配信
クロエは映写魔法用の石版を前にさせられていた。
与えられた刑の内容は、動画チャンネルでの配信。もちろん、ただ顔を出し、適当に喋っていれば済むものではなく、それ相応の恥辱を伴うものなのだ。
どうやら、彼女ら痴漢グループが元から持っていたチャンネルで、これまで何人もの獲物を出演させてきているらしい。その被害の内容を思うと、過去餌食になった少女は今頃どうしているのか、この痴漢グループは何の疑問もなく同性を追い詰め、動画再生数を稼ぐネタにしているのか。
様々な疑問が、思いが吹き荒れるが、その中には罪悪感が紛れている。痴漢妨害罪を働いた自分は、それなりの刑を受けるのが当たり前であり、という、頭ではおかしいとわかっていても、不思議なことに心がついて来ない状態は今なお継続中だ。
しかも、新たな洗脳までかかっている。
インタビューを受ける場合、制服着用の上、片膝を立てながら、必ず正直に話さないといけない。
効果は限定的とはいえ、行動操作の魔法にかけられており、だから動画配信がスタートして、何らかの質問があった時、嘘をつくことが出来ないのだ。
(個人情報とかマジでかんべん)
顔出しの上、学校名でも喋らされては最悪だ。
クロエが然るべき不安を抱いている中で、石版に浮かび上がる動画は流れ始める。視聴者から見た画面の状態が、クロエ自身にも突きつけられる形となった。
まるで鏡でも見ているように、自分の顔がまず映る。
その隣には、視聴者がコメントを打った場合の、コメント欄の表示があり「期待」などという、一体何をどう期待しているのか、さっぱりわからないことが書かれていた。
(なに、期待って。意味わからんから)
ということを、ついつい声にすら出しそうだった。
「あー。えっと、なんこれ、もう始まってる系?」
見れば画面内には、視聴者数を示す数字も表示されている。たった今まで「一」だった表示は、「二、三、四……」と、ゆっくりと増え始め、「二〇、二五、四一――七八――」やがて人数が雪崩れ込むようになってかカウントが飛び、数字が一気に増えるようになっていた。
ここで求められているのはアダルト配信だ。
このチャンネルには、主に気が強かったり、芯の強い女の子を出演させ、何かを嫌々やらされている姿を視聴者に披露するものらしい。だからチャンネル登録者も、ほとんどがそれを期待しているとか。
「えっと、こーゆーん? 初めてだから、何すりゃいいんだか、さっぱりなんだけど」
クロエはそう言葉にしつつ、眼差しでも訴えかけた。
いるのだ、向こう側に。
映写魔法用の石版は、設置用の土台を使い、小さなテーブルの上に置かれているのだが、その石版の向こう側にこそ、裁判の時には裁判長になりきる子が、その子をリーダーとした取り巻きが、ずらりと顔を並べている。
裁判長の子が声を出した。
「まずは出演のきっかけから」
なるほど、自分達は顔こそ出さないものの、声くらいは入れるらしい。
「きっかけ? あー、そだね。うちさ、痴漢? に遭ってる友達を助けようとしたわけなんだけど。そしたら逆に捕まったっていうか。で、こんなチャンネルに出演させられて? ってカンジなんだけど」
出演のきっかけを話終わって、早速ネタがなくなったように感じたが、すかさず裁判長が言うのである。
「そういえば、あの子って変な口癖してませんでした? ほら、ちぇるーんみたいな?」
「はいはい、ちぇるーんね。ちぇるってやつね」
「真似して下さい」
「はい? いや、うちはあんま、ああいうテンションしてないっていうか。真似とか言われても困る系なんすけど」
「真似して下さい」
「なにその有無を言わさないカンジ。やんなきゃ駄目ッスか。そっすか。やらせようってわけですか。そっすか、あくまで真似しろと。じゃあえっと、やるんだけど……ちぇるーん」
「力がこもってませんね」
「力込めろとか言われてもね。困るから」
「もうちょっと頑張って」
「いや、どう頑張れと。あー、えっと。じゃあ、この配信、ちぇるっとこなしていきたいと思うんでヨロー」
仕方なく少しは口癖を声に出してはみるものの、どうしても乗り気ではやれなかった。こうウケ狙いを強要されるのは、何とも嫌な話であった。
「仕方ありませんね。ではチャンネルの本題に入りましょう。これから、コメントに流れたリクエストを拾っていくので、その質問に答えたり、視聴者に向かって披露などして頂きます」
「へいへい、質問とか披露ね」
クロエは顔を顰めていた。
ストリップの強要、性的な質問、これから始まる内容はそういうものに違いない。
「ではまず、えーっと? オナニー経験についての質問が届いているので答えなさい」
裁判長の手には、手の平サイズの石版が握られている。そこに配信用の動画も、コメント欄の内容も流れているのだろう。
「オナッ……なにその、いきなし答えにくい質問。えっ、わかっちゃいたけど、段階すら踏まんのかこの配信は」
「お答え下さい」
「はぁ、えっと? まあ、なくはない? みたいな」
「なんですか? その曖昧な回答は」
「あー、うん。あるね。あっちゃいかんの? みんなそういうもんでねーの」
クロエがそう答えた瞬間に、コメント欄に表示される文章から、見るからに熱が伝わってきた。
「うわぁ……」
思わず引いた。
『すげっ、エルフのくせにオナニーすんのか』『いつからオナってるんだろ』『感じやすい? 感じやすい?』『週に何回やってるのか知りたいです!』『めちゃくちゃ熱中しながらやってそう』
など、早速流れて来たコメントをはじめとして、興奮をあらわにしたものがいくつもいくつも、それこそ顔中が引き攣るほどに溢れてくる。
(当たり前だけど、見られてんよね。大勢に)
この画面、映写魔法の向こう側には、視聴者である男が何十人もいるはずなのだ。不特定多数の顔も名前もわからない相手から、こちらの顔や声は知られているのだ。
好きでこんな配信をしているわけではない以上、気味の悪さのようなものをクロエとしては感じざるを得ないのだった。
(ってか、なんで片膝? ああ、映ってる映ってる。マジで最悪だわ)
スクロールでかけられた洗脳のおかげで、質問に対して嘘をつくことができない。しかも制服着用という指定があり、片膝を立てるという謎のポーズ指定もあったのだが、石版に映る自分自身を見て納得した。
そう、白が見えている。
スカート丈を短くするように言われているため、だから映っているのだ。
(ハッズいわ)
過去にはもっと恥ずかしい目や屈辱に遭っているのに、今更こんな下着くらいで、どうやら頬が少しは染まる。いくら顔は見えなくとも、相手が大勢とわかっているからなのだろうか。
「では次に、リクエストを拾います。えー、実際にオナニーをやってみせて欲しいです」
「はい? マジに言っとんのか」
「マジなのでやってください?」
「はぁ……」
気乗りしない、するわけがない。
「脱いでからやるのですよ? 脱いでから」
「へいへい」
クロエは深々とため息をつきながら、まずは一度膝立ちの姿勢となり、スカートの中からショーツを下ろす。先ほどから、ずっと見えていただろうに、それでも丈の下まで出した途端、コメント欄には下着の色に言及したり、脱いでいる仕草がエロいとする内容が溢れかえった。
(はあ、きっつい)
見知らぬ人間達が喜ぶのだ。
そこに大集合している痴漢グループの女子一同はもちろんとして、配信の向こう側にいる不特定多数も、人のオナニーを見ることでこれから喜ぶ。何なら男性がズボンを脱ぎ、クロエのことをネタに逸物を握り始めるかもしれない。
想像だけでぞっとする。
自分という存在によって、不特定多数の性欲を刺激して、射精に導くことを思っただけで、穢らわしい何かを見たような、気持ち悪いものにでも触ってしまったような、引き攣らずにはいられない気分になる。
(マジでやりたくねぇ……)
左手で丈を握って、スカートをほんの少しだけ持ち上げるが、アソコは見せないように意識している。性器を露出しろとまでは言われておらず、せめてもの恥ずかしさの軽減をしているわけだが、恥辱の思いは変わらない。
どうして、こんな真似をしなくてはいけないのか。
大勢の前でオナニーなど死にたくなる。
(ともかく、やるけどさ……)
実に嫌々だった。
あまり不本意そうにやったらやったで、それはそれでチャンネルの趣旨に合い、配信の向こう側で誰とも知れぬ連中が喜ぶのだろうと思うが、どうしても好きでやっているわけではない。
こんな反応をあらわにしたら、かえってみんなを喜ばせる。
そう念頭にありながら、それでも痛みを堪えたような、苦悶の表情を浮かべずにいることができない。楽しんでいるフリ、気が狂って大喜びでやっているフリでもしたら、逆にみんなを萎えさせることができないか、という思いつきが浮かびはしても、それを実行など出来ない。
(ったく、さいってー)
少ししか持ち上げていないスカート丈の、配信の向こう側には見えない影の下、クロエは自身の性器に指を置く。まずはゆっくり、たどたどしく、軽いタッチで上下に動かしていた。
すりすりと、皮膚に淡い摩擦を与える。
「喜んでますね? みんな」
「うっさい。知らんわ」
コメント欄がどのように盛り上がっているかなど、知りたくもない話だ。クロエは俯きがちに、石版など見ないように、テーブルの足や床ばかりに視線を向けていた。こうして下さえ向いていれば、申し訳程度とはいえ、少しは表情も隠していられるような気がした。
(はぁ……やりたくねぇ、感じたくねぇ……)
しかし、生理的反応は正直なものなのか。
指を動かし始めてから、すぐにアソコの内側は熱っぽく湿り気の分泌を開始していた。さすがにまだ、ワレメ野曽とにまでは出てこないが、膣壁の表面には愛液が存在しているはずだった。
「えーっと? エロい、エルフのオナニーバンザイ、エルオナ、既に感じてそう、めっちゃ羞恥心あるやん、アソコ見せないようにしてるの逆にエロいっすよ、全裸より服着てた方がエロい的にアソコ見えないのがエロい、きちんと真面目にオナってるな、確かにやってるフリじゃなくて本当にオナってる感じわかる」
裁判長はなんと、コメントの読み上げを始めていた。
「そろそろ濡れてんじゃね? クリトリスが突起を始めているはずです! 指への汁の付着が今まさに」
実に嬉々としての、上擦った声音であった。
(くっそっ、うっざいわ)
読み上げてくる行為も、人のオナニーで興奮している配信の向こう側にも、恨めしい感情の一つや二つ湧いてくる。
好きでオナニーしているわけではない。
やらされているのだ。強要されているのだ。
それをわかっているくせに、人のオナニーで興奮するなど、なんて人の心がないやつだと、視聴者に対しては非難の気持ちでさえも湧いている。
だが、濡れてくる。
(なんでだし、濡れんなし)
思わず自分の体に言い聞かせたくなる勢いで、愛液はしだいに溢れていた。最初は乾いた皮膚をなぞっているだけだったのに、いつしか指への付着が始まり、するとすぐにでも肉貝に塗り広げている状態にまで至り、その気になれば簡単に糸を引かせることが出来るまで、アソコは湿っているのだった。
「視聴者が増えてますよ? 二百、三百、結構な数が見ていますねえ? あ、それにこれ、九割は男性ですよ? 男の人があなたのことを見ながら逸物を握り、精液を出そうとしているし、頭の中では体にぶっかけていると思いますよ?」
(ほんっと、マジでうるせーし)
「あ、質問がありますね。どれくらい濡れているのか教えてください、だそうですよ?」
急に質問が読み上げられる。
そうなると、嘘をつくことが出来ない。
「あ、えっと。どれくらいっつわれても、これくらい? 伝わるか知らないけど」
嘘はつけずとも、出ている量を表現する言葉が咄嗟には出て来ないので、だからクロエは一旦スカートから手を出して、濡れた指先を披露していた。
第二関節までべったりと光沢をまとい、ぬらぬらと光を反射している指を見せるなり、コメントが沸き立ったらしい。
「濡れてる濡れてる、感じまくり? 見られながらオナニーするのは気持ちいいね、露出狂の素質有り」
またしても、読み上げてくる。
「ええって、そのコメントの数々は」
読まれるたび、恥辱感が煽られる。
だいたい、露出狂の素質有りとまで言われることの、なんと屈辱的な話だろうか。そんな趣味を持ったことは一度もない。裸はもちろん、過剰に露出度の高い格好で出歩く想像も、数人以上の相手に下着を見せびらかす想像も、何もしたことがない。
なのに、そんな評価を下される謂れなど……。
(くっそ、マジで最悪)
クロエはますますの苦悶を浮かべる。
こんな顔をしていること自体、やはり視聴者を喜ばせているとわかっている。先ほどの思いつき、とても実行は出来ないが、いざ実行出来たなら、さぞかし萎えさせることが出来るだろう振る舞いが改めて脳裏に浮かぶ。
そのタイミングであった。
「ちぇるーっていう物真似のリクエストが来てますよ」
「はい?」
「真似してください」
「またか。くだんな、何が面白いんだか」
本当の本当に、クロエの口から「ちぇる」っという言葉が出て、何がどう面白いのかがわからない。
「リクエストはリクエストですよ? さあ、さあ」
裁判長は期待に満ちた眼差しをしていた。
他の面々からさえ、期待に溢れた目を向けられる。
そうやって、思わず顔を上げてしまっていたせいか、コメント欄の文字がいくつか目に飛び込んだ。
『期待』『期待』『期待』『期待』『期待』『期待』
一体、何十人で同じ言葉を打っているのか。
期待、期待、期待――それが向こう数秒間、本当に延々と、数え切れないほどに流れていた。
(マジでくだんな)
しかも、封殺された気分である。
チエルの物真似というわけではない。別にチエルの口癖などではなく、ただわざとおかしなテンションになり、痴女が無我夢中で見せびらかすような振る舞いでもすれば、ドン引きしたり萎えたりするだろう。楽しませることが癪なのなら、そうすればいいと、思いつくだけなら思いついていたところにだ。
実行できない、それは無理だと、もちろん思っていたわけだが、思いつきはしていた矢先、口癖を真似しろというのである。クロエの想像した振る舞い方に比べれば、たかが口癖に過ぎないのだが、わざとおかしな行動を取るという、その趣旨が封じられた気持ちになった。
命令された以上、それに従い、嫌々やる。
そういうことになってしまう。
「ちぇ、ちぇるっと? とりま、もうちょい続けんで、ちぇるっとご視聴よろ? えっと、こんな感じで」
そもそも、どんなテンションでそうすればいいかもわからず、実にぎこちなく口癖を真似たクロエは、ほとんど淡々とスカートの中に手を入れ直し、オナニーを再開しているのだった。
律儀に指を挿入している自分がいる。
改めて顔を俯け、表情をあまり見せすぎないようにはしているが、すると裁判長はコメントの読み上げを行うのだ。
「絶対指入ってる、ピストンピストン、くちゅくちゅ音が鳴ってるんだろうなー」
(ま、マジか……)
様子を直接は見せていないはずなのに、指が入っていること自体はわかるらしい。
「我慢できなくて入れちゃった? 強要されてるはずなのに思わず指入れてるのエロすぎ、淫乱の素質有り!」
(誰が淫乱だ!)
そんな素質があってたまるかと思うクロエだが、わざわざ反論した瞬間、大喜びで次のコメントを読み上げて、結局は辱めを繰り返してくる裁判長の、満面の笑みが目に浮かぶ。
「あ、言い忘れていたけど。クロエさん? この配信、登録者数が全部で一〇〇ほど増えなければ、刑が完了していない扱いになるので、頑張って下さいね?」
「は? 後出しすんなし!」
そう憤るクロエへと、悪びれもしない顔で答えが返る。
「今のところ、一五人です。目標まであと八五人、達成できるといいですねぇ?」
その煽るような上擦った声に苛立ちを刺激され、クロエはきっと睨み返す眼差しを向けてから、やればいいんだろう、やればといった、反抗的な態度のままにオナニーの腕を活発にしているのだった。
「んっくっ、んっ、んぅ……んぅ……んぅ…………」
聞きたくもない命令を聞き、態度だけは反抗的で、しかし腕はオナニーをこなしている。
「あっんぅ……んっ、んぅ……んぅ……」
スカートの中身こそ、膣口に入った指の様子こそ、直接は見せていなくとも、膣内への出入りは視聴者に伝わっている。だからコメント欄が大いに喜び、気に入ったコメントさえあれば、裁判長は飽きもせずに読み上げてくる。
「声がする声がする、喘いでる? 喘いじゃってる? もっとエロい声が聞きたい、耳の尖った部分も赤く見えてきた、マジでなにこのエロエルフ興奮しかない、ハッスルハッスル」
一体、今頃は視聴者数が何人なのか。
知りたくもない。
(とっとと終われし、この下らない時間)
クロエの抱く憤り、苛立ちの情は、時が経つにつれ膨らんで、女子達に向ける眼差しにも、それはあらわとなっている。不満そうな態度は始めからだが、それがより如実に、隠しようもないものとなっていた。
しかも、その時である。
「――――――――っ!」
ビクっと軽く、肩が弾んだ。
頭も一瞬、真っ白になっていた。
自分が一体どうなったのか、その自覚をした瞬間、次にクロエが抱く危機感は一つしかない。
そして、その危機感の通りの展開は、すぐにでもやって来るのであった。
「イキましたねぇぇぇぇぇぇぇ!」
きっと、それはコメントの読み上げではない。
裁判長自身の言葉であった。
見ればそこには、今にもステップを踏み始めそうなほど、ひどく嬉しそうにしている顔があるのだった。
「あらあら、イったんですね? 物凄く大勢に見られながら、興奮して絶頂したんですね? コメントが凄いことになっていますよ? もう絶頂に対する反応の嵐、あなたのことを見ながら射精した報告も大量に来ていますよ?」
「るっさ、知らんから」
「あ、ほらほら、抜いた、出した、ティッシュ使った、手が汚れたなどなど。きっとこれ、本当ですよ? 本当にあなたのことを見ながらオナニーしていて、本当にあなたのことを見ながら射精したんですよ?」
「だから、うるせぇっつってんだろが」
クロエの声は荒くなっている。
「あらまあ、怒りました? でも仕方ありませんよね。だって絶頂するだなんて、みんなが喜ぶようなことをするんですから」
「……っ!」
「当たり前の反応じゃないですか。嫌ですねえ、そんなに怒ったりして。顔がすごく怖いですよ? それじゃあ、登録者数が増えなかったりして。むしろ減ったり? あ、いえ、良かったですね。ちゃんと増えましたよ? たった今、一人だけ。残り八四人ですね? 頑張って下さいね?」
裁判長はかつてなく嬉しそうに、今までの裁判の時からは想像もつかない、興奮に満ち溢れた笑みを浮かべて、こうも口数を増やしてクロエのことを煽ってくる。
そんな言葉の数々を浴びせられ、クロエの抱く感情は膨らんでいた。今すぐに暴れるなり、ビンタをかますなりしてやりたい、報復の衝動さえ抱えていた。
だが、それを抑えるものがある。
自分は罪人であり、償いは最後までやり抜かなくてはならない。その植えつけられた使命感がストッパーに、クロエはだから衝動に任せて動くことはなく、ただ静かに歯を食い縛り、裁判長のことを睨み返しているのだった。