第2話 手記一、インストラクター

     「記入者:裁判長」

 クロエに減刑機会を与える判決により、護身術のインストラクターとして働かせる。我々は護身術を教わるのではなく、我々が護身術を対策する趣旨のインストラクターとなってもらう。
 痴漢をする際、獲物に抵抗されては厄介だ。
 いかに抵抗を許さず、好きなように触りまくるか。
 その見解と協力しだいによって、どこまでの減刑をするかが決定されるものとする。
 皆、そこで手記による記録を取って頂く。
 講習には私自身も参加して、クロエの反省具合を評価していくつもりだが、具体的にどこをどう審議の材料として上げていくべきか、それぞれ考えながら当たってもらいたい。

     「記入者:A」

 クロエにはまず、痴漢に遭った際のお手本を披露させた。
 道端を歩いている最中、急に後ろから抱きついてくる。逆に前から抱きついてくる。腕を引っ張り、どこかに連れ去ろうとしてくる。人混みで近づかれ、胸やお尻など、体のどこかを触られる。
 被害のパターンをいくつかに分け、パターンごとに対処法を披露してもらう。クロエがいかなる護身術を披露するかによって、痴漢グループである我々は、それに応じた襲い方の研究を行うこととなる。
 クロエの体捌きを見ることで、私が感じたのはやはり優れた実力である。冒険に出て、魔物と戦う力を備えているのか、動きが素早く腕力もある。
 世の中、彼女のように強い獲物ばかりではないが、彼女ほどの手練れを獲物とするのは困難だ。
 まず、一人で襲ってはいけない。
 相手が一人でいるところを狙うのは基本だが、それを単独で行えば手痛い反撃を受けることとなる。それを防ぎ、上手いこと襲うためには、いつものように複数でかかるのは、そこらの普通の獲物を狙う時以上に重要となる。
 私達は日頃、元からグループで行動しているが、それにしても単独で向かうことの無謀さというものを実感したのではないだろうか。
 果たして、実力ある獲物を襲う場合、私達はどのように行動を取るべきか。
 そこで私はいくつかの案を提示した。
 まず、演じるのだ。
 被害者役と加害者役に分かれ、一対一の痴漢現場を演じつつ、その周囲には仲間を潜ませる。悲鳴か何かで誘き寄せ、ただ一人罠にかかった獲物を密かに囲み、一気に襲いかかって組み伏せるのだ。
 演習なので、クロエは自分が襲われることを事前に知っている。そこが実戦ではないことの弊害に思えた。クロエもクロエで、それが自分の役だから、まんまと誘い出された上で、囲まれることまではしてくれるが、そこから先の、組み付いて集団痴漢の餌食にするまでが難しい。
 動きが素早いので、そのままでは捕らえることが出来ない。
 動きを封じる手段が必要だ。
 魔法やアイテムなど、相手の実力に応じた作戦をもっと惜しみなく披露することが必要かもしれない。
 今後、アイディアを募るべきだろう。
 フォーメーションを練り、アイテムを使うなら予算を練り、獲物を計画的に楽しまなければ。

     「記入者:B」

 面白いことを考えました!
 クロエちゃんって、あたしたちには本気で襲う意思がないみたく思ってますよね。襲い方の訓練であって、実戦ってわけではない的な?
 ってわけで、そこを突いちゃいましょう。
 あたしはハーイって手を挙げて提案しました。
 演習だからね。演習だから? あたし達の作戦とか、襲いかかるタイミングを事前に知っているんであって、クロエちゃんの知らない作戦を仕込んじゃうっていうのはどうかなーって。
 ほら、演習自体はもう何度かやったし?
 演習じゃなくてさ、実戦にしちゃうんだよ。演習って騙して誘い出して集団痴漢、っていう作戦の演習をさ。演習と思い込んでるクロエちゃんは、自分が実戦練習の的になってるっていうのを知らずにいちゃうわけ。
 ね、よくない?
 これ、絶対良くない?
 マジでぜーったい面白いから!

     「記入者:C」

 Bさんの提案により、演習を装った襲撃の実戦を行うことになりました。
 作戦はこうです。
 まず、クロエさんには悲鳴を聞きつけ駆けつけるという筋書きを与えてあります。最初は演習通り、加害者役と被害者役に分かれた痴漢現場を演じつつ、そこから先の展開を変更します。 被害者役の子は慌てながら加害者の腕を振りほどき、助けを求めてしがみつきます。で、そのまま取り押さえるわけですが、これは被害者役の子だけでは荷が重いですね。取り押さえる意思に気づかれたら、その時点で簡単に振りほどかれます。
 なので、隠れ潜んでいた子達は、タイミング良く素早く出て行く必要がありますね。
 筋書きにはない展開で抱きつかれて、クロエさんが「え?」と思っている隙を上手く突くんです。
 それをいざ実行した時、どうやら成功しました。
 ナイスです。
 ちなみに被害者役かつ抱きつく役は私でした。

     「記入者:D」

 作戦成功により、クロエを辱めることが出来たので、その際の様子について、詳細に描写してこいかな、と。
 というわけで。
 取り押さえる役は三人だったね。抱きつく役が真正面から堂々と腕を回して、その隙に背後から二人が飛び出して、素早く腕を掴む。加害者役だった子も、すぐにクロエの痴漢に参加して、残りの隠れていた子達もぞろぞろと現れて、集団で取り囲んでの痴漢の状況が出来上がり、もうクロエは抵抗できない。
 この時の様子はね。
 クロエの驚いて戸惑った様子が面白かったね。
「え? え? 聞いてた話と違うんけど?」
 って言いながら、ちょっと動揺した目をきょろきょろさせて、二人がかりにそれぞれ腕を掴まれたところでさすがに気づいて、ますます慌てたみたいな顔になって。
 いやぁ、いいオッパイでした。
 制服の前を素早くはだけさせて、青空の下に乳房をぷるっと露出させた瞬間の、赤くなった女の子の顔って、やっぱりいつ見ても面白いよね、興奮しちゃう。
 クロエのオッパイ、すっごく可愛かった。
 リンゴくらいの膨らみかな?
 ツンって前に出っ張ってて、ちょっぴりしか垂れてない感じで、揉んだらすっごい柔らかい。クッションみたいに指が沈んで、でも力を抜いたら弾力で押し返されるの。
 いやぁ、それにね?
 乳首がすぐに突起して? そこ弄ったら、感じてるっぽい顔をしまくりだったんで、クロエはめちゃくちゃ感じやすいと思いまーす。
 あ、それから、アソコも弄ったよね。
 もうさ、すっごくパンツ濡らしてたよ?
 最初はもちろんさ、普通に乾いた状態だったけど、しばらく擦ったりしてたら、もうすぐに湿ってきて、指に糸がくっついてくる感じ?
 それにエロいの!
「あっ、ちょっ、まっ、待ったっ」
 って感じのさ、やめろ、触るな、みたいな気持ちを口走るの。だけど感じてるの。拒否ってはいるんだけど、体では気持ち良くなってるっぽいの。
 エロくない?
 マジでエロくない?
 エルフのあの尖った耳が赤くなってさ、ハァハァと熱く乱れた呼吸を始めてさ、最後らへんでは、私の腕を両手で掴んで、アソコから引き離そうとしてるんだけど、私の愛撫は止まらないの。
 だって、腕掴まれてるもんね。
 抵抗できないように、周りから抑えられてるもんね。
 だから私の腕にはろくな力がかかってこなくて、引き離そうとしてくる感じだけは伝わるけど、全然離れないからね。それで遠慮無くアソコを指先でこちょこちょって、ずーっとやり続けてたんだけど、終わった時には指が根元までテカテカってなってたねえ。
 ああ、他の子もみんな、お尻とか耳とか触りまくってるから、やっぱり他の部分でも感じてたと思うよ。
 乳首の反応も凄かったし。

     「記入者:クロエ」

 えー、インストラクターとして、指導記録を書いていきます。
 皆さん、まあ不真面目ですね。
 自分で教えろって言って、色々と付き合ってるっていうのに、お手本見せてる最中に、なーんか弄ってる子とかふつーにいるし、お喋りしてるし、授業を真面目に受けてもらえない先生の気持ちが少しわかったわ。
 とりあえず、言われたことはやったと思いますね。
 後ろから尻を触られた時のパターンとか、抱きつかれた時のパターンとか、どうやって襲われたら、どういう護身術で対処するか。それはもう、一通り見せたんで。
 で、まあ襲い方の訓練?
 うちが悲鳴聞きつけて、けどそれは獲物を誘い出す罠で、っていうノリにも付き合って、やることはやったんで。
 他に書くことは……。
 あー、一人一人の評価とか、一応書いとくんで、読んで下さい。
(女子グループの名前が順番に記入され、それぞれの態度や能力評価、上手く出来ている部分、下手な部分についての指摘が一通り並んでいく)
 さすがに書き疲れんで、この辺でええかな。
 最後の演習はなんか、ほら、あんなに上手くいっちゃって、そちらは満足だろって。うん、上出来だった。あれはガチでやられたし、お望み通りちっとは感じさせられたんで。
 うちも十分真面目にやったっしょ。
 ってことで、ここまでにしとくんで。

     *

 数日にわたる講習をこなし、改めて開かれる裁判では、それぞれの書いた手記が参照される。クロエは一体、どのくらい真面目にこなし、だからどれほど減刑すべきか、記録を元にその審議が行われようというわけだ。
(っつか、なに? 有罪前提の裁判って)
 以前と同じく、裁判長を演じる女の子は真正面で休めの姿勢、背筋をピンと伸ばしている。そして周囲を囲む裁判員は、C字状の壁を成し、クロエにニヤニヤと視線を送りつけている。
「では審議を開始していきます」
 裁判長が口を開いた。
「ええまず、皆さんはそれぞれ手記をご覧になっているかと思われます。クロエさんの書いた記録では、一人一人の評価について細かくありましたね。全員の良い点、悪い点を挙げられるほど、その取り組みが真面目であったことの証拠になると思われますが、皆さんの意見を伺っていきましょう」
「はい!」
「発言をどうぞ」
「えーっと? 確かに? そこはチョー真面目にやってもらった感じなんですけど、なんていうか? 省いていることがあると思うんですよねー」
「具体的にどうぞ」
「他の子の手記ではさ。乳首が突起した様子とか、パンツがだんだん濡れていった感じとか、そーゆーのめっちゃ書いてあるのに、クロエさん本人の手記では、肝心なところが省かれてはいないんじゃないでしょうか!」
 と、そんな力説が行われた瞬間だ。

 たちまち拍手が広がっていた。

 全員が全員とも、その言葉に賛同を示している。裁判長の女の子も、実に満足そうに繰り返し頷いている。
「ちょっ、ちょい待ちって、それ関係…………」
「クロエさん」
 裁判長は重々しい声音を演じる。
「あ、はい」
「我々は獲物をいかに濡らし、喘がせ、貶めるかを心情としています。獲物となったあなたがですね、そういった肝心な描写を省いているのは、これは評価を大変下げざるを得ない話ではありませんかな?」
「って言われましても、んなルール聞いてないっていうか」
「どうやら、主旨をご理解なさっていなかったようで。これはまことに残念です」
「そっすか」
 残念などと言われても、そういうインストラクターになってもらうから、手本を見せたり、指導をしろと言われて、その通りにしてきたのだ。
 この数日間、護身術の手本を何度も見せた。
 さらには、その護身術通りの動きをどうすれば取りにくくなり、有効な襲い方になるかの研究にも付き合った。悪事に手を貸しているはずなのに、その罪悪感は何故だか湧かず、人を痴漢を妨害してしまったことの、普通は湧かない罪悪感の方は湧くような、実におかしな内側の状況は、なおも続いている中での話である。
「私の具体的に行った描写を読み上げたいと思います!」
 一人の女の子が口頭で手記内容を告げていく。
「えーっと? まず前をはだけさせ、おっぱいを露出させ、丹念に揉みしだいたとありますね。それにより乳首が突起したこと、スカートを捲ってお尻を撫で回したこと、アソコを触った結果、たっぷり濡れたことなど、性的な描写が網羅されている一方で、クロエさんの手記をご覧下さい」
 手記はわざわざ人数分をコピーして、全員の手元に渡るようにしているらしい。痴漢されて感じた記録に全員の目を通される居心地の悪さといい、自分の書いた手記を精査される気分といい、何もかもが精神衛生的によろしくない。
「確かに性描写が省かれていますねー」
「あっちゃー」
「こりゃ駄目でしょ」
「減点! 減点!」
 どうやら、感じたり、濡れたりしたことをきちんと書かなければ、評価としては下がるらしい。
(なんなん? それ)
 納得がいかないような……などと思っていると、またその瞬間に罪悪感は湧いてくる。痴漢妨害を働いた自分こそが悪い、それなのに手記もまともに書けず……。
 頭では自分は悪くないとわかっているのに、どうしようもなく湧き広がる感情が胸にはある。
 ずきりと、額の内側が痛む。
 逆らってはいけない、悪いのは自分、正しいのはみんな、そう思う気持ちが、考え方が芽を出して、脳に根を張り、葉を広げる。おかしいのはみんなの方がという、正常なはずの考えが、このまま覆い尽くされていく勢いだ。
「では判決を下します」
 ごほんと、裁判長は気取った咳払いを行って、その瞬間に女子全員が口を閉ざした。
 しん、と。
 一気に場は静まり、誰もが裁判長の言葉を待ち望む。いつしかクロエも空気に飲まれ、自分に下される判決を緊張ながらに待ち構えていた。
 身構えながら、耳を澄ませていた。
「判決は……」
 心臓の鼓動が早まる。
(判決は……)
 減刑とやらは、されているのか。一体、元々はどのくらいの罪が想定されていて、どのくらい減っているのか。

「クロエに肉バイブの系を言い渡す」

 意味がわからなかった。
「えっ」
「うひゃぁ、あれかぁ!」
「めっちゃええやん!」
 女子達は盛り上がっている様子で、その意味をよく知っているようなのだが、クロエにはピンと来ない。
(えっと、バイブは確か、エロい系のアイテムだっけ。そんで、じゃあ肉って何?)
 その意味が、クロエの頭の中では上手く繋がっていなかった。
 だがいずれにせよ、アダルトアイテムを使った刑に処されることが決まったらしい。
 生きた心地がしない。
 静止がかかっているわけではないが、味わっている気分はおよそそういうものなのだった。