第4話 全てのデータが取得され

 鏡流の膣には改めてプローブが挿入されていた。
 今度は肛門にもねじ込まれ、上下の穴のどちらにも、台座のシャッターから伸びた機械触手が蠢いている。その先端に搭載されたプローブで、また新たにデータ採取を行っている。
「ご覧下さい」
 スキャン機能が再度働いているそのあいだ、男はホロウィンドウの向こう側へと、肛門の画像表示を行っていた。
「鏡流の尻の穴です」
「わ、我の……そんな場所まで……」
 羞恥の熱で頬が温まり、口元には苦悶が浮かぶ。
『なるほど? 3Dモデルでは、それも再現されているというのかね?』
「気になる方は、是非とも比較して下さい。お手元には性器の写真もおありですね? 3Dモデルのスクリーンショットと並べて頂ければ、いかに精巧な作りであるか、それがおわかりになるでしょう」
 悶絶ものの時間が続いている。
 膣や肛門に収まったプローブ自体は、ピストンをしているわけでも、電気を発しているわけでもない。いつしか電極用のパッドも取り外され、性的な、肉体的な意味での刺激はほとんどない。
 だが、肛門や性器を見られている。
 直接ではないにせよ、写真を介して見比べられ、3Dモデルという鏡流のコピーと比較検証がなされている。
 ホロウィンドウの向こう側で、競売参加者達の手元でどのように画像が表示され、どんな端末で比較しているのかはわからないが、身体の一部がニヤニヤと視姦されているのだ。
 買うか買うまいか、一人一人が頭を悩ませている。
「さらに3Dモデルをご購入頂けた場合、断面図の表示機能も付属します。つまり、どういうことか、おわかりですね?」
『それも再現なのだろう?』
『しかも形状とか、穴の深さとか、そういう再現だけではない』
『膣圧! 締め具合!』
 テンションが上がるあまりの、少し荒っぽい声が混ざって、それら言葉が鏡流の耳へ届いてくる。
「もちろん、アソコだけではありません。肛門の方にも断面図や内部形状の再現がありまして、そして締め具合のデータもこれより取得してご覧にいれましょう!」
 男が宣言した時である。
「んっ! あう!」
 強い電流を鏡流は感じていた。
 それはプローブの内部から発せられ、筋肉に刺激を与えるための電気であった。その電気に可動させられ、締め上げるような力を発揮することとなる膣壁が、肛門括約筋が、どちらも同時にプローブを圧したのだ。
「あっ! あっ!」
 電流が流れるたび、その刺激で鏡流は喘いでいる。
「んあ! あっ、あっ!」
 きゅっ、きゅっ、と、可動する筋肉がプローブを締め上げる。するとプローブにかかった力は測定され、鏡流の締め具合が算出される。
『おおっ、動いている!』
『いいぞ! 素晴らしい!』
 察するに、断面図が既に彼らの元には表示され、鏡流の膣壁の反応をリアルタイムに反映している。鏡流のアソコがヒクっと動けば、断面図とやらもまたヒクっと収縮している。
 さらに鏡流が受ける刺激は、そんな微弱な電気だけではない。時間が経過するにつれ、徐々に刺激は強まっていき、それに応じて筋肉の動きも活発になっている。
 締め具合が変化していた。
 筋肉から大きな反応を引き出され、最初はもっと、ちょっとした力であったのが、より押し潰そうとするような、果ては握り砕かんばかりの勢いにまで至っている。
 無論、膣や肛門の力が本当にプローブを壊すことはなく、しかし確かに、そう比喩するだけの勢いがこもっている。
「一口に鏡流の膣圧や肛門圧といっても、強弱の調整をつけることが可能となります!」
『おおっ』
『それは面白い!』
「さらに、この鏡流圧を電動式のオナホールにも再現し、生身の鏡流に挿入している感触を約束しましょう!」
 自分という存在が次々と切り取られ、売り物として扱われていく。実際に肉体を切り取られ、手足をバラバラにされているわけではないが、コピーを生成することで擬似的に、アソコも肛門もパッケージに詰められる。
 人として扱われない、徹底的な商品扱い。
 そうされることの無念さに打ちのめされ、屈辱感に拳は震えた。
『フェラホールはどうなのかね? フェラホールは』
「無論、販売致します。歯並び、舌の感触、頬の内側の感触など、あらゆる感触データを用い、生身と遜色ない製品を生み出すことこそ、我が組織の強みなのですから!」
 またシャッターの音が聞こえてくる。
「んごっ!」
 今度は口元にやってきた機械触手に、やはりプローブを挿入された。
「んっ、んぅ……んっ、んぅぅ…………!」
 膣や肛門に入っているものより太く、もしや肉棒のフォルムに近いのではと思わされる。口を大きく開いていなくてはいけない分、咥えているだけで顎に負荷がかかってくる。その疲れをいくら感じたところで、それを気遣ってくれる男などではない。
「んごっ、んぅ――んぅ――」
 鏡流が苦しげにしている姿すら、ここにいる男や競売参加者達にとって、楽しみの一環に過ぎなかった。
『フェラそのもの。いや、イマラチオの光景ですかな?』
『目隠しの上で咥えさせている分、普通よりもいけないことをしている気分になるのが面白いですなぁ?』
『確かに、まったく確かに』
 ホロウィンドウに浮かんだ顔の、一つ一つが満足そうに頷きながら、ニヤっと人を鑑賞している事実がひしひしと、空気感から不思議なほど伝わってくるのであった。
「では改めまして、乳首や乳房の刺激に参りましょう」
 また、シャッターの開く音である。
 台座に格納された機械触手が排出され、人工関節で自由自在に曲がりくねって、それは鏡流の乳房に狙いを定める。
 迫っているのは、乳房をすっぽりと覆い隠してしまえるだけの、半球ドームのような吸盤だった。その接近を感じた鏡流は、そこに乳房が包み込まれて、素材の電気可動か何かでもって、揉みしだかれるものと予感した。
 口にプローブが、アソコにも肛門にもプローブが入ったまま、今度は両方の乳房がやられようとしているのだ。
(どこまで……人を玩具に……!)
 抱いた予感の通りに、半球ドームの吸盤がすっぽりと覆い被さり、どちらの乳房も包み込む。電気可動による収縮で、口の部分を開閉させる力を働かせ、まず手始めのようにゆったりと揉みしだく。
 みるみるうちに乳首が突起していった。
「鏡流、もちろん乳房の詳しい形状を、より正確に、より綿密に取得している。突起前の乳首と、突起後の乳首の違いすら、既にたった今記録されたところだぞ?」
「んっごっ、んぅ――」
「ああ、喋れないか。そうだったそうだった」
 その言葉が続いた先で、口からプローブが抜け出て行くわけでも何でもなく、口腔への陵辱は続いている。繰り返されるピストンに、鏡流はほとんど鼻息しか許されなくなっていた。
「おっごっ、んごぉ――ほっごぉ――――」
 そんな状態で、膣と肛門へのピストンもまた続いている。二つの穴から受ける刺激が二重に背骨を伝ってきて、脳天で弾けている。
「おっと、言い忘れていた。鏡流、お前には筋力抑制や能力封印など、様々な薬を投与しているが、ついでに母乳の出る薬も打ってあってな」
(ぼ、母乳……だと……!)
「そろそろ、効果が出る頃かもしれないな」
 その時、鏡流は確かに感じた。
(これ……は……!)
 体内で何かが分泌され、それが体外へと出ていこうとしている感覚を、鏡流は母乳のそれと悟っていた。事前に言われていなければ、理解できない未知の現象に感じただろうか。尿意のような日常的な感覚とは違い、それが乳房に集まって、乳首から出ようとしているのだ。
「んっ、んっ! んっ! んぅ――!」
 口が塞がっているせいでの、くぐもった声を繰り返す。
 そのうち、胸が絶頂した。
 快感のあまりに弾け飛び、体液が出て行ってしまう感覚と戸共に、鏡流は自分の乳房に微妙な汁気を感じていた。本当に母乳が出てしまった事実を知り、こんな経験をしてしまった驚きと、薬まで使って、そうまで体を思い通りに扱われている悔しさに、顔中が歪んでいるのだった。
 そして、ただ母乳が出ただけではない。

 チューブから採取されていた。

 鏡流の乳房をすっぽりと覆い隠して、半球ドームに閉じ込めている機械触手の、そのドームの中心には、吸引機能が搭載されていた。
 乳首を吸い込み、飲み込もうとするような穴が存在して、そこから吸引力が働いていた。乳首を引っ張り、その力に少しばかり皮膚は伸ばされ、それがまた刺激となって母乳の分泌は進んでいる。
 チューブの内側を伝い、流れていく先を鏡流は知らない。
 だが何らかの容器にポタポタと、一滴ずつ垂れ落ちていることだけは確実だった。
「んおっ、んっ、んっんぅ――――」
 そして相変わらず呼吸が苦しく、鼻息だけでどうにか息を保っている鏡流を、しだいに激しさを増すピストンが襲っていた。
「んっ、んぅぅ! んっ、んっ!」
 激しい水音が鳴っていた。
 水分の溜まったものを掻き回し、だからグチュグチュと鳴るようにして、膣とプローブのあいだで音は奏でられている。その分泌された愛液が表皮を伝い、性器から肛門へと流れ移ることにより、いつしか腸の中にも愛液は紛れ込んでいるのであった。
 おかげで肛門へのピストンもスムーズに、何よりも刺激がまして、鏡流の喘ぎはより高らかになるはずだった。しかし、その大きな喘ぎ声を上げるはずの口から、やはりプローブが離れることはなく、見え隠れする部位に唾液の光沢をチラつかせ、顔の穴を犯し続けているのであった。
 三つの穴と、乳房に乳首、辱めを与えうる部位の、全てが同時に責められていた。

「んごっ、んぅぅぅぅ――――――――!」

 こうなることは決まっていた。
 迫り来る快楽に抗えず、ただ与えられる絶頂を受け入れることしか許されない。拒否などという選択肢は始めからなく、四肢を痙攣させながら、鏡流は潮を振りまいていた。
 先ほどの絶頂でも潮を撒き、少し汚していた床の上には、またさらに愛液がパラパラと降り注いでいるのであった。
「んっはぁ……はぁ……あっ、んぅ………………」
 鏡流の口から、ようやくプローブは離れていく。
『おおっ』
『なんとも艶めかしい』
 その際に唾液が糸を引き、プローブの先端から長々と、しばしのあいだ伸び続ける瞬間が、競売参加者達の目を悦ばせているのだった。
「お疲れ様」
 膣からも、肛門からも、プローブは抜かれていく。
「ようやく……終わったか……」
 どちらの穴にも、やはり今までプローブが収まって、あまつさえピストンしていた余韻が色濃い。少しでも意識をやり、つい先ほどを思い出そうとしたならば、ありもしない幻の感覚として、たちまちプローブが蘇りそうなくらいである。
 それこそ、感覚の接続により、存在しない肉棒を挿入され、擬似的にセックスを味わわされた時のようにして――。
「鏡流」
 さすがに疲労の溜まったところへと、男はすかさず迫ってくる。急に顔へ手を伸ばし、一体何をしてくるのかと思ったら、目隠しの布に指が引っかけられていた。
「それは――」
「構うまい?」
 目隠しが取り外された。
 鏡流の両目があらわとなり、初めてまともに周囲の景色を見渡すと、そこに一体いくつのホロウィンドウが浮かんでいるか、どれだけの人数に今の今まで視姦されたり、3Dモデルや写真を見られていたのかが突きつけられた。
 本当に幾つも幾つも、思ったよりも小さなウィンドウサイズが群れで漂い、実に二十や三十人の競売参加者達の、全ての顔がニヤニヤと、鏡流のことを舐め回すように眺めていた。
『いい顔じゃないか』
『目隠しも似合っていたが、素顔もいいなぁ?』
『オジサン、欲しくなっちゃったよぉ』
 次から次へと、下品な言葉がかけられる。
「鏡流、これからお前をいよいよ競売にかける。3Dモデルでもオナホールでもない、実際のお前自身を、あの中の誰か一人だけが手に入れるぞ」
 男はその手に、白濁した汁の入ったグラスを手にしていた。それを鏡流の口元へ、唇へと触れさせて、飲ませようとしてくるが、怪しげなものを拒みたいと思うのは当然だ。
 鏡流は唇を閉ざす。
「飲め」
 そこに男の命令が下される。
「飲まなければどうなる」
「さあな。だが何、これは薬でも何でもない。お前自身の母乳だ」
「趣味が悪いな」
「味わってみろ」
「……ふん」
 あまり飲みたいなどとは思わない、飲まされることの気分が悪い。その白濁した汁を受け入れるため、仕方なく唇を薄ら開き、自身の体から分泌されたものの味が口内に流れ込む。
「……」
 気分は良いものなどではない。
 それから、鏡流への白熱した入札大会が開始され、金持ち同士が必死で競り合うこととなる。一人また一人と脱落していくようにして、高い入札金額についていけなくなっていく。
 最後には二人が入札争いを行った。
 どちらも譲らぬ勢いで、もはや意地でも勝とうとする気で入札に入札を繰り返し、長らく続く競り合いには、向こう数十分をかけてようやく決着がつくこととなる。
 男からすれば、笑いが止まらないだろう。
 顧客同士の意地の張り合いは、そのまま自分達の利益へと反映される。しだいしだいに、鏡流を手に入れることよりも、勝つこと自体が目的化して思える争いほど、この人身売買の組織にとって、都合の良いものはなかったはずだ。