第2話 はじまる調教

 モスティマの監禁生活に不便はなかった。
 窓もない窮屈な部屋の中、地下何階かもわからない深さで、太陽の光などまず拝むことのない生活にはなったものの、快適なベッドがある。トイレやシャワーのような基本的な設備はもちろんのこと、食事やゲームといった注文であれば、何でも用意してもらえた。
 ただし、今のモスティマは薬で力を失っている。
 アーツ阻害、筋力抑制、二種類の効果が決して途切れることのないように、日常的に薬を投与され続ける。そのおかげで運動能力さえも低下して、自分の世話に現れる娼婦にさえ、力ずくでやり込められる始末である。
 モスティマの面倒を見たり、注文を聞いたりするのは、もっぱらお抱えの娼婦達だった。
 ボンテージやネグリジェを着た種族や髪の色それぞれの娼婦達は、いずれもルックスに優れた女ばかりで、実に色とりどり揃っている。ボスの贅沢ぶりが窺えるが、その上モスティマのことまでお抱えの一人にでも迎えようというわけか。

「さあ、今日の調教の時間よ」

 朝、目を覚ますなり現れた娼婦により、この生活が始まってからの、モスティマに対する日課の時が訪れた。
「毎日毎日、ご苦労なことだ」
「ボスの命令なのよ」
「私を性奴隷とやらにする努力をする。なんて言ってはいたけど、どうやら肝心の努力は人にやらせるみたいだね」
「金で私達の腕を買ってるまでの話よ。あなた、いずれ必ず堕ちるわ」
「どうかな。君達の調教ってやつが気持ちいいのは、不本意ながら認めざるを得ないけど」
「無駄口を叩いてないで、さっさと来なさい。それとも、力尽くで連れて行って欲しいのかしら」
「わかったわかった。すぐに行くよ」
 モスティマは億劫そうに毛布をどけ、ベッドの上から立ち上がると、薄く透けきったネグリジェの身体を曝け出す。黒のネグリジェではあるものの、繊維の網目が薄いあまりに、内側の身体はくっきりと見えており、着けている下着の色も明確だった。
 透け具合のせいで、黒というより灰色と呼ぶべきネグリジェの、その内側にあるショーツとブラジャーは、確かな黒としてその部分だけの色を濃くしていた。
 モスティマは娼婦と共に部屋を出る。
 長い廊下を突き進み、そこへ辿り着いた瞬間から、モスティマの中で緊張感が膨らんでいく。
 まだ、初日は大したことがなかった。
 二日目も、三日目も、さしたる変化は感じなかったが、四日目を過ぎたあたりから怪しくなり、七日目を迎える今日に至っては、自分がこれからどうなるか、もはや事前にわかっているも同然だった。
 必ず、イカされる。
 娼婦の手によって行われるキスや愛撫は、どれも熟練の技なのだ。年齢も異なる娼婦達が毎日毎日、代わる代わるにモスティマの肉体を撫で回し、その愛撫を受ける日々の末、ついにはイキやすい体が出来上がっていた。
 この一週間続いたメニューを今日もこなして、モスティマの感度を鍛える。
 少しでも性奴隷に近づけていこうというわけだ。
「いつも通りよ。わかったら脱ぎなさい」
 モスティマの調教役である今日の娼婦は、着くなりネグリジェを脱ぎ始め、さっさと下着まで外していく。モスティマもそれに倣って脱ぎ始めるが、好きで従っているはずもなく、今の自分では娼婦の誰も倒せないためである。
 逆らっても、力ずくで言うことを聞かされる。
 それがわかっているために、仕方なく裸になっていくのだが、やることはいつも変わらない。
 まず、最初に入浴から始まる。
 モスティマが行き来しているこの調教部屋には、三角木馬やバスタブに、病院にあるような診察台など、様々な設備が整っている。ゴムやローションも常備され、男が女に教え込むための道具も揃っているが、今のところのモスティマは、娼婦の調教しか受けていない。
「さ、いくわよ」
「はいはい」
 部屋は段差によって場所を切り替え、風呂やシャワーを扱う水場と、ベッドや三角木馬を置いた調教コーナーに分けている。モスティマは腕を掴まれ、引っ張られていく形で段差を降りてシャワーを浴び、既にお湯の張られた湯船へと浸かるのだった。
 もちろん、一緒に入るのだ。
 女同士、裸で同じ湯船に入る。
 よほどの仲良し同士ならありえるのかもしれないが、モスティマの背中に乳房を当て、後ろから両手を回してくる娼婦は、名前すら知らない相手だ。どうせ日々入れ替わってばかりいて、特定の相手と仲が深まることもないので、無理に知る必要はないのだが、しかし初めて会う相手との入浴である。
 抵抗があるかないかで言えば、ある方だ。
 それにモスティマは気づいている。
(媚薬、ってやつなのかな)
 この湯船には、特別な入浴剤が入っていた。
 お湯の色は変わらないのに、何やら良い香りは漂っている。最初は匂いのためだけの入浴剤だと思っていたが、だんだんとそうではないことに気づいてきた。
 きっと、ただのお湯ではない。
 媚薬成分でも入っていて、このお湯のせいでモスティマの感度は上がっている。
「んっ!」
 後ろから手が伸びて、乳房を鷲掴みにされた瞬間、びくりと肩が弾み上がった。驚くほどに電流が弾ける快感で、モスティマは目を丸めていた。
「言ったでしょ。あなた、必ず堕ちるんだから」
「ど、どうかな……?」
「強がってないで、素直に喘いでなさい」
 揉みしだく指遣いで、モスティマの胸は細やかな変形を繰り返した。細い指先が優しく食い込み、丁寧に形を変えて捏ね合わせ、水面の下で皮膚に摩擦を与えている。娼婦の指は乳首にも及び、胸から弾ける快感にモスティマはたちまち息を荒げていた。
(駄目だ……本当に、どうにかなってしまいそうだ……)
 頭が快楽に染まりそうだ。
 乳房の内側が甘ったるい何かに満たされ、それが全身へと行き渡る。快楽の生産工場と化した乳首の周りで、性的快感を伝えるための信号が体中に向けて発信され、脳や爪先にまで届くのだ。
「あぁ……あっ、ふぁ……あぁ……あぁぁ…………」
 顔がとろけきっていた。
 表情がだらしないことをわかっていながら、モスティマ自身にはそれをどうしようもないのだった。
 肌にお湯から染み込む成分で、体が火照っていた。
 神経が活性化していくことで、皮膚が敏感になったモスティマは、ちょっとした摩擦でさえも必要以上に如実に感じる。ほんの少しの空気の動き、お湯の揺らめきさも察知できそうなほど、ひどく発達させられてしまった肌は、愛撫によって快楽信号を嫌というほど溢れさせ、全身に行き渡らせる。
 脳天から爪先にかけて、体中を甘い何かが満たしていく勢いだ。
 これをモスティマは初日から体験している。
 初めて媚薬風呂に入った時、こんなにも早く効果が出ることはなかった。薬が入っているらしいことを効かされても、その効果をまるで実感しなかったが、二日目、三日目と繰り返すうち、確かな効果が現れていた。
 このお湯に浸かれば、確かに感じやすくなる。
「あうっ、んぅ……んぁぁ……はっ、はぁ……」
 いとも簡単に息が乱れた。
「ほーら、だから堕ちるって言ってるのに」
「う、うるさいな……快感なんて、大したことないよ……」
 痛みによる拷問なら、心の折れる余地はあるだろう。
 だが、気持ち良いだけなら、むしろそちらの方が耐えられる。見知らぬ娼婦と肌を合わせ、体を触られる不快感にだけさえ耐えていれば、あとは気持ちいい時間が続くだけで、心がどうにかなることはない。
 モスティマはそのつもりで我慢していた。
 もちろん、脱出の手立てはないか、隙さえあれば窺ってはいるものの、肝心の薬が切れない限り、どこの誰にも抵抗できない。
「さっ、こっちはどうかしら?」
 娼婦の右手が下へと移る。
「んぅっ!」
 その電流が走るような刺激に、モスティマの肩はビクっと弾み上がった。
「あら、もう濡れてる」
「そのようだね……」
 ワレメを指でなぞられて、その程度の刺激があまりにも気持ちいい。触る前から出ていた愛液で、娼婦の指にはぬるりとした感触が付着しているはずだった。
「あっ、んぅ……んぅぅ…………」
 愛撫され、その快感にモゾモゾと肩を動かす。
「こんなものはただの挨拶だって、もうわかっているんでしょう?」
 娼婦は耳元で囁いてきた。
 耳の裏側に当たってくる吐息さえ、皮膚の敏感な神経を刺激してきた。ぞくりとうなじが震える感覚は、やはり快楽によるものだった。
「なら、そろそろ挨拶は終わる頃かな?」
 息が荒い。
 走ってもいないのに、全力疾走で息切れをしたかのようになっている。火照った顔でハァハァと、今のモスティマは誰が見ても興奮していた。
「そうね。上がるわよ」
 媚薬風呂を切り上げて、湯船から立ち上がる。
 ちょうど良いお湯の温度から出て行くことで、体に当たる大気がひんやりと感じられてもいいはずが、むしろ体中が熱っぽい。体の芯から発熱して、モスティマ自身の存在が部屋の空気を暖めそうだ。
 バスタオルで体を拭き、ベッドへ移れば、本番が始まることになる。
 この一週間、モスティマに行われてきた調教は、もっぱらマッサージが中心だった。たまにピンクローターやディルドが出てくるくらいで、基本的には全身を丁寧に撫で回し、肩や背中をほぐしていくうち、やがて乳首やアソコを中心とした攻めが展開される。
 いわば性感マッサージというものらしい。
 オイルを使うマッサージに、今日もモスティマは溶かされることになる。

     *

 ベッドでうつ伏せになった時、尻の上へと娼婦の体重が乗ってくる。
 小瓶の中から背中へと、ひんやりとしたジェル状のものが垂らされると、皮膚の上に広がる円が両手によって塗り伸ばされる。お湯を吸ったばかりの皮膚の、潤いに満ちたところへオイルが広がれば、たちまち表面がパックされていく。
 ぬらぬらとした輝きに表皮は包まれ、それがマッサージの進行につれてだんだんと、全身へと広がっていくこととなる。
「んっ、んぅ……んんぅぅ…………」
 既に心地良かった。
 神経が敏感に発達して、空気の動きでさえも読み取れそうな皮膚の上に、女を知り尽くした指が這っているのだ。本人も娼婦だからこそ、自分がどうされた時に気持ち良く、どんな風に喘いだり、イったりするかも熟知している。
 娼婦は日替わりなので、かけられる言葉はいつも違う。
「ねえ、いつまで余裕な感じでいる気?」
 今日はこんな感じだが、もっと優しくリンパを流し、健康にしようとしてくれたのは初日の子だったか。
 二日目の娼婦は、モスティマをボスに引き合わせたあの無口な女だった。
 三日目はお喋りで、四日目は眼鏡の似合ったインテリ派だった。
「でも、好きよ? そういうの。勝ち気な奴とか、余裕を気取った奴とかが、結局はヒィヒィ言っちゃう瞬間って、すっごく好き」
 今日は気の強めな娼婦というわけだ。
「不本意ではあるけど、ご要望には応えることになるんだろうね」
「そうよ。何回イキたい? 十回? 二十回?」
「それはほどほどにお願いしたいね」
 モスティマはある程度、快感を受け入れていた。
 というより、逃げ出すことも、抵抗する手段もないのだから、そうする以外に仕方ないので受け入れているだけなのだが、無理な我慢はしていない。耐えるとしたら、見ず知らずの相手に肌を触られるという点のみで、快感まで堪えようとは思っていない。
(媚薬ってやつが、あることだし)
 どうせ、どんなに気持ち良い愛撫をされたところで、それで心がどうにかなるはずはない。たっぷりとイカせてもらったり、体中がとろけるほどの快感を得られたからと、それを理由に性奴隷になるはずがない。
(無理に手籠めにしてこないのは、ボスのこだわりっていうものかな)
 背中を撫で回す手つきにうっとりと、目を細めてしまいながら、モスティマはボスの存在に思いを馳せる。
 今のモスティマは、品質調整を受けているようなものだ。
 ボスが気に入る品質になるように、丁寧に磨き上げ、感度をしっかり鍛え上げる。
 単にモスティマとセックスをして、楽しんでみたいだけなら、それは既に可能なはずだ。抵抗力を奪われているのだから、モスティマがどれだけ抗おうと、力ずくでどうとでもなってしまう。
 それをしてこないのはありがたい。
 ありがたいが、代わりにこういった目に遭い続けている。
(さて、だんだん快感が大きくなる頃合いだ)
 自分の息の乱れも、体の火照りもわかっている。
 このうつ伏せの姿勢で、シーツに押しつけてある乳房には、とっくの昔から突起しきった敏感な乳首が疼いている。触られてもいないのに、勝手に甘い痺れを解き放ち、乳房の内側には何かピリピリとしたものが走っている。
 お尻も、アソコも、まだ触られもしないうちから、何かを求めるように信号を放ってしまっている。愛撫が欲しい、撫で回して欲しい。モスティマの心に関係無く、体は欲望を満たしたがっていた。
「ところで、今日はボスがお見えになるわよ?」
「……なんだって?」
「あなたの調教がどこまで進んでいるか、見てみたいそうよ」
「へえ、それはそれは」
 調教が気持ちいいことは認めよう。
 こうしている今にも、アソコを滅茶苦茶にして欲しいと思ってしまう自分がいる。
 しかし、だから何だというのか。
 もし再び、同じことを言われても、きっぱりと断るだろう。

 ――性奴隷になれ。

 そう言われるが否や、下らない言葉を一蹴する準備は、心の中に出来ていた。
「時間よ。そろそろボスが来るわ」
「会うのは一週間ぶりってわけだ」
 あの小綺麗なスーツの男が来ると聞き、そういえばとモスティマは気づく。
 これまで、娼婦にしか裸は見せていない。
 異性の目に肌を晒したことはない。
(となると、恥ずかしい思いをしてしまいそうだ)
 娼婦の身体がモスティマの胴から離れていき、その体重から解放される。
 そして、娼婦がドアの方へ向かって行くと、そのドアノブを握り締め、時間通りに現れたのだろうボスを迎え入れていた。

「やあ、モスティマ」

 上等なスーツを着込んだボスは、うつ伏せのモスティマを見るなり目を細め、にやりと唇を吊り上げていた。
 当たり前だが視線を感じる。
 うつ伏せの姿勢のおかげで、胸やアソコをすぐさま晒すことにはなっていないが、とはいえ男の前で丸裸だ。
「私が奴隷になりそうか、見に来たそうだね」
 いつものように振る舞うが、女同士で裸になるより、やはり男の前にいる方が恥ずかしい。
 頬が赤く染まり始めるのをモスティマは感じていた。
「ああ、今の気分だどうだ?」
「なんて言い返してあげようか、考えていたところさ」
「なるほど? まだまだ、心が奴隷になる日は遠いらしい」
「そんな日は来ないと思うね」
「ま、今日は仕上がり具合を見に来ただけだ。元々、一週間で堕ちるなどとは思っていなかったからね」
 ボスはそう言って椅子に座ると、言葉通りに見学を決め込む。
「それはどうも」
 そう返した時、ボスの目は娼婦に向けられていた。
「では続けてくれたまえ」
「ええ、ボス。見ていて下さい」
 改めて、勝ち気な娼婦は迫って来る。
 ボスに見られながらの状態で、先ほどまでのようにオイルを塗られる。背中は既に仕上がって、だから腕や両足を中心に、その都度瓶の中から垂らされて、指遣いによって塗り伸ばされる。ふくらはぎを包み込み、軽やかなタッチで塗りたくるタッチでさえも、必要以上に気持ち良かった。
 つい、うっとりしそうになる。
 まだ本格的な愛撫には入っていない、オイルを塗られているだけの段階は、マッサージとしての純粋な心地良さがある気がする。その気持ち良さに溶かされて、目が満足そうに細められていきそうだった。
「仰向けになりなさい?」
 その言葉で、モスティマは内心身構える。
 身体の向きを変えれば、今度こそ胸やアソコが見えてしまう。異性の視線に曝け出されて、視姦されることになってしまう。
 その覚悟を密かに固め、モスティマは天井に視線を向けた。
「ほう? いい胸だ」
 すぐさま、乳房に対する感想が聞こえて来る。
「それはどうも」
「それに、恥ずかしそうだ。羞恥心は強いようだね」
「……さ、さあ? 人並みじゃないかな」
 頬の赤みを指摘され、そのことが恥ずかしかった。
 恥じらっている事実を暴かれ、わざわざ指摘されることにより、赤面具合が増してしまいそうだった。
「全身テカテカになるわよ?」
 娼婦は言う。
「肌中にオイルが染み込んで、全身いたるところが光を反射するようになるわ。光沢を帯びた乳房、ヌルヌルになった尻。そういうものが、男にとってどれだけエロいかわかる? あなたはボスの前でそうなるのよ?」
 モスティマのことをどんな風に仕上げるか、その宣言をした上で、娼婦はオイルの続きをこなしていく。
 瓶からヘソへと垂らされた。
 とろりとした液体が真っ直ぐに腹に刺さって、瓶から垂れていくことでの、透明な細い柱が出来上がる。その柱を通じて瓶から腹へと、中身が移り続けて、モスティマの腹部で円は徐々に面積を広げていく。
 そして、また娼婦の両手が肌を這う。
 手の平と皮膚のあいだを隔てるオイルは、ヌルヌルと滑りを良くしている。皮膚を擦ればあっさりと、ぬるっとした勢いで指は滑り動いていく。産毛だけを辛うじて撫でるかのようなタッチでヘソ周りを撫で回し、脇腹や肋骨にかけても塗り広げ、モスティマの体は輝きを纏い始めていた。
 肩にもオイルが垂らされる。膝にも、太ももにも垂らされる。
 それらオイルが塗り伸ばされ、手足を撫でる際には指の一本ずつまで丁寧にやっていくのが娼婦のやり方だった。
 ついにモスティマは仕上がっていた。
 全身をオイルによってコーティングされ、潤いを帯びた皮膚の全てが輝いている。ヌラヌラと光を反射し、張りの良い乳房は必要以上に艶めかしく、太ももの眩しさも普段のそれを遥かに上回った。
「ほう?」
 ボスは嬉しそうに表情を変えていた。
「じっくりと見てみたいね」
 と、要望が出た瞬間だ。
「立ちなさい」
 娼婦はモスティマに命じてくる。
 ベッドの上から立たされて、椅子で膝を組んでいるボスと、立ち尽くすモスティマとで向き合うと、その視線は頭のてっぺんから爪先まで、実にねっとりと舐め回すように這ってくる。
 本当にじっくりと、品定めをしていた。
 顔つきも、乳房の形も、鑑賞して楽しんでいた。
「実にエロティックになったじゃないか」
「……そう、言われてもね」
 モスティマはかすかに目を背ける。
 じろじろとした男の視線を浴びていると、せめてこの両手で胸やアソコを隠したくもなってくる。
 だが、それはしなかった。
 指示に逆らっても、どうせ力ずくで思い通りにされるだろうと、そう予感しての思いもあったが、それだけではない。隠す素振りを見せたら負けのような、微妙な意地がモスティマにもあるのだった。
(無意味な意地なのはわかっているけど……)
 ただでさえ、恥ずかしい。
 視姦されることで煽られる羞恥心は、隠す素振りを見せてやったら、ますます大きく膨らんでいくことだろう。そんなに恥ずかしいのかと、そう気づかれてしまうことにより、何か弱点を掴まれたような気分になり、心境が余計に下へと落ちそうなのだ。
 だから体を隠さない。
 見たいなら見ればいいだろうと、毅然と振る舞っていながらも、赤面を誤魔化しきれるわけではないのだった。
「恥ずかしいんだろう?」
「羞恥心があるのは、普通のことじゃないかな」
「本当は手で隠したい思いでいっぱいなわけだ」
 見透かされ、心を覗き込まれた気持ちになる。
「ま、好きで見せるはずはないからね」
 普段と変わらない振る舞いを続けはするが、結局は羞恥心を煽られ刺激され、心の中で恥じらいの熱は上がってしまった。
「だが、私には見せてもらうよ。君が存分によがり狂うところをね」
「ぞっとするよ」
 ひとしきり話したところで、ボスは娼婦に合図を送る。そのアイコンタクトに応じて、モスティマの腕は彼女に掴まれ、ベッドへ引き戻されることとなる。
 そして、肝心な部分へのマッサージが始まった。

「ほーら、見てもらいましょう?」

 わざわざボスに体を向け、視線を浴びるようにしながらのマッサージとなっていた。
「んっ、んぅぅ……んぁぁ……」
 ベッドの端から足を下ろして、椅子に座るかのような体勢で、娼婦がモスティマの背中に抱きついている。彼女の乳房が後ろに潰れ、固い乳首が当たって来ると、背後から伸びる両手に乳房を撫でられる。
 そのタッチは、皮膚を優しく撫でるものだった。
 下乳のラインをなぞり、産毛をくすぐるような指遣いでの刺激は、心地良くももどかしい。火照った体にはもっと決定的な刺激が欲しいところ、しかし娼婦が与えてくるのは、ほどよく気持ち良すぎない、もう少し欲しいのにそのラインを越えそうで越えてくれない、絶妙な加減を突く。
 一言で言えば、モスティマは焦らされていた。
「んくぅ……んっ、んぁ……あぅ…………」
「気持ちいいわね?」
「あぁぁ……あっ、あぁぁ…………」
「ボスが見ているのに、今乳首を触られたらどうなるかしら?」
 耳の裏側に息を吹きかけ、唇を近づけながらの囁きに、ぞわりとした感覚が全身に広がった。寒気が走るのとはまた違う。耳の裏側にキスをされ、その刺激が一瞬にして行き渡る。快楽電流による痙攣で、ぶるっと震えてしまう感覚だった。
(も、もう乳首を……)
 モスティマは危機感にも似た何かを抱く。
 乳房を撫で続けた手が一度は離れ、改めて指が迫ってくる先は、やはり乳首なのだった。

「んんぅぅぅ!」

 その刺激に首が反り上がり、モスティマは天井を見上げてしまっていた。
「ほう? いい反応だ」
 ボスが喜んでいた。
「あぁ……うぅ……!」
 そして、モスティマは恥辱に苛まれた。
 人の感じた様子を見て、ボスがニヤニヤと喜んでいる。感じれば感じるほど、ボスの思い通りになっているかのようで、ならば快感など感じることなく、あっけからんとしていたかったが、肉体に浸透しきった媚薬効果がそれを許しはしなかった。
「んぅぅぅ……! んっ、んぁぁ……!」
 乳首をクリクリと、指先で転がされているだけで、モスティマは髪を振り乱してしまっていた。
「ほら、胸だけでイキなさい?」
「あっ、あぁぁ……!」
「ボスの見ている前で、ね」
 ボスの存在を意識させられ、モスティマはふとその顔を見てしまう。人の喘ぎようを見れば見るほど目で喜び、嬉しそうに口元を微笑ませた表情に、ますます屈辱感が込み上がる。この男の見ている前で絶頂するなど、プライドが許さないような気にさせられる。
(いいや、無理に我慢したって……)
 最後の最後で、性奴隷とやらにならなければいい。
 いくら気持ち良くなったところで、快感に依存して病みつきになり、抜け出せなくなるようなことはないはずだ。
 それに快感そのものは、我慢しようと思って我慢しきれるものはない。
 尿意や眠気や食欲など、生理現象を永遠に我慢するのは不可能であるように、媚薬の浸透しきった肉体では、蓄積された快感の爆発からは逃げられない。娼婦の手にかかれば、モスティマは必ず絶頂する。
 我慢するだけ無駄なのなら、開き直った方がマシかもしれない。
 そうは思ってみても、あのニヤリとした表情を見ていると、やはりプライドを刺激され、イクところを見せたくない気になってしまう。
 しかし、アソコがヨダレを溜め込んでいた。
 触られたのは、まだ湯船の中だけで、そこだけはオイルも及んでいない。性器ただ一箇所だけを残して、それ以外の全てを輝かせている理由など、愛液の存在をモスティマに実感させる以外にないだろう。
 アソコが切ない。
 モスティマは無意識のうちに太ももを引き締めて、しきりに擦り合わせてしまう。
 そんな股のあいだへと、急に娼婦の手が及んでくると、指先でクリトリスをくすぐる愛撫に何かが弾けた。
「あぁぁぁ……!」
 モスティマはまた仰け反った。
 娼婦が背中に密着していなければ、もっと大きく反り上がり、上半身がカーブを成しているはずだった。
 気持ち良すぎる。
 これは本当に、我慢しようと思ってできるものではないと、そう感じた時にはもう極限のところまで登り詰めていた。
 そうなる直前となって、モスティマは天井だけに視線をやっていた。体が仰け反るあまりに首さえも反り上がり、娼婦の肩に頭を乗せて、真っ直ぐに上を見上げてしまっていた。

「あぁぁぁぁぁ――――!」

 モスティマはイった。
 体がビクンと、一瞬激しく弾んだかと思いきや、次の瞬間にはお漏らしのように多量の愛液が溢れていた。
 天井を見ながら震えた末、くたりと力が抜けた時、今度は逆に膝と床に視線を落とす。股下に広がる愛液の熱を感じて、自分の絶頂をモスティマは強く実感していた。
 ボスの前で、イカされてしまった。
 人のはしたない姿を見て、いい気な顔が目についた。
「はぁ……んっ、んぁ……ご、ご満足かな……?」
 とろけきった目で、モスティマはそれでも心に余裕を保とうとしていた。
「ああ、満足だ。君の仕上がり具合は確認できた」
「どう、だったかな」
「そうだね。この調子で続けていても、君にはメニューが軽すぎるらしい。明日からは、もっとハードな調教生活を送ってもらおう」
「それは困った話だ……」
 表面では普段通りの表情を保とうとしてみるも、心には確かな影が差し込んだ。
 こんな風に毎日入浴して、風呂上がりの体にオイルを塗られての、性感マッサージが今までの日常だった。
 しかし、一週間を契機として、次からはメニューが切り替わる。
 どんなハードな内容が待っているのか、内心では不安しかないのだった。