リリは世界旅行と称して各地へ趣き、方々でストリートファイトを嗜んで回っているが、とある土地で戦う相手を探していた時、いかにも弱そうな肥満の男が現れる。挑んできた彼は実際に大したことがなく、一蹴して終わりのはずだったが・・・・・・。


前編後編


 男は噂を聞いていた。
 なんでも、どこぞのお嬢様が世界各国に旅行と称して現れては、現地の格闘家に勝負を吹っかけて回っているという。
 しかも、かなりの美女だとか。
 その話を聞いた時から興味を抱いていた。
 どんな味がするだろう。
 是非とも、その女を抱いてみたい。
 そんな男の元に、ある日突然のように情報は入って来た。

 ――例の女がここに来ている。

 では歓迎してやらねばなるまい。
 男はそのための準備に取りかかり、そして女の味を想像しながらニタニタと、ヨダレを垂らして笑っているのだった。

     *

 リリはその地で降り立ち闊歩する。
 壁の落書きが目立つ広場から立ち去る彼女の、その後方には数人の男が地に伏していた。高身長で細身、背は低いが筋肉質、体格それぞれの男達が平等に――倒されている。
「面白くもありませんわね」
 他にもっと楽しいものでも探すようにして、悠然と歩む彼女は裏路地を突き進んだ。
 ブロンドの髪を揺らし、白いワンピースの輝きで目立ったリリは、あらゆる人目を引いている。すれ違う何人もが思わず振り向いているのだが、その誰一人として声をかけない、挑みに行かない。
「あなたは?」
 ふと立ち止まってリリの方から、たまたま目の合った男に声をかける。だがその男は壁に背中をぶつける勢いで後ずさり、激しく首を振っていた。
 皆、先ほどの戦いを見ていたか、既に伝聞で伝わっているのだろう。複数人の男を倒したリリに、次は自分だと意気込む度胸の持ち主がここにはいない。
「まったく、退屈だこと」
 リリはため息を突きながら、他に誰かいないのかと、さらに先へと突き進む。
 戦いの喜びを覚えたきっかけは、もう四年も前に遡る。
 ある時、営利目的の誘拐犯に襲われて、車で攫われそうになった時、リリは必死に抵抗した。その果てに運転士を倒して、ドアを内側から蹴破り脱出した時、誰かを倒すことへの快感が身に染みた。
 人質にされ、恐怖する側だったはずの自分が、逆に相手を蹂躙した時の気分といったらない。
 もっと戦いたい。
 戦いでなら、あの時と似たようなものが味わえる。
 しかし、父親は争いを極端に嫌う温厚な性格の持ち主だ。

 ――お父様には嫌われたくない。でも、もっと戦いたい。

 その衝動を抑えきれずに、旅行と称して自家用ジェットで世界各地へ趣いて、ストリートファイトに興じるようになったわけだった。
 そして今日、その一環として某国の地に降りて、適当な男に勝負を吹っかけたはものの、どの相手とも簡単に勝負がついて終わっている。他に誰も挑んで来る者がいないので、このままではただ散歩をしただけで終わってしまう。
(どこかにいませんの? もっと楽しめる相手は)
 やはり、ここは『彼女』にリベンジを果たしに行くしかないか。
 そう思ったリリの前に、一人の男が立ちはだかっていた。まるで人の行く手を塞ごうとするように、ニヤニヤと待ち構えているその男は、妙に恰幅がよく手足が太い。頬も大きく膨らんでおり、見るからに戦いには向かない体格の持ち主だ。
 筋肉が見当たらない。
 シャツからはみ出るほど大きな腹も、四肢の太さも、全て脂肪ではないか。
 それに顔が醜い。
 容姿の醜悪さだけではない、もっと表情にも心根の表れた下品な笑みに、リリは引きつつあった。相手が強く見えたわけでも何でもなく、生理的拒否感が理由となって、一歩後ずさっているのであった。
「アンタがここいらで暴れるお嬢さんかい?」
「ええ、それが?」
「次は俺が相手になってやろうと思ってね」
「無理だと思いますわ。あなた、ちっとも強そうには見えませんもの」
 仮にも何人もの格闘家を相手にして、大会に出場した経歴まで持っているのだ。向き合いさえすれば、戦わずとも多少は強さの見分けがつく。
 この男は雑魚だ。
 先ほど倒した複数人とそう変わらない。
 自分の実力もわからずに、さも格上に勝てるような気でいる滑稽な肥満児など、相手にしようとは思わない。
「ビビったのか?」
「どいてくださる?」
「次の相手を探していたんだろ?」
「それはあなたではありませんわ」
 彼と戦っても時間の無駄だ。
 もっと別の、手応えのある相手と戦いたい。
「そっちのその気がなくても、こっちはアンタと戦ってみたくてウズウズしてるんだ」
 どうやら問答無用らしい。
 リリが拒んでいようと関係無く、肥満の男はずかずかと勢いよく迫って来る。その自分自身の体重に振り回されているような、肩が左右に揺れ動く歩き方からしてみても、強者の格というものを微塵も感じ取ることが出来なかった。
 肥満の男のパンチが来る。
 本人としては力を込め、踏み込みもきちんと行い、腰の回転を活かした威力の出やすいフォームで放ったつもりだろうが、リリにはそれが止まって見えた。
 横へ一歩ずれてやるだけで、その拳は顔の真横を通り抜け、逆にリリの放つパンチが相手の鼻に埋まっていた。
「ごふっ」
 随分と呆気ない。
 たった一撃で倒れていき――と、思えば、鼻血を流しながら立ち上がる。
「打たれ強さだけは一人前みたいね」
「それはどうも」
 肥満の男は手の甲で鼻血を拭う。
「まあ、いいですわ。少しは暇つぶしになりそうだもの」
 リリは改めて構えを取る。
 強くもなんともない男だが、倒しても起きてくるなら、サンドバッグの代わりにはなるだろう。サンドバッグを殴っていれば、それで少しは退屈を紛らわせる。
 肥満の男が再びかかってきた。
 先ほどと同じ、真正面から顔面を狙うストレート――体の中でも面積の小さな部位が狙いなら、回避に必要な移動量も最低限で済んでしまう。
 やはり、一歩横にずれれば十分だった。
「学習しないのね」
 相手のパンチが顔の真横を突き抜けて、頬に風を感じた途端、こちらからのカウンターを叩き込む。今度はもっと多くの鼻血を流させてやるつもりでいたが、しかしリリは驚愕した。
 手首が掴まれた――だけではない。
(え? 力が……)
 彼の手にはあまり握力が込められていない。豆腐でも扱うような淡い力で掴まれても、リリの拳はそれを突き抜け、お構い無しに相手の鼻へ到達するはずだ。
 なのに、拳が停止していた。
 まるでたったその程度の力しか必要がなかったように、さして強くもない握力がリリの拳を食い止めていた。
「な、なんで……」
 力が入っていない。
 弱々しい握力を突き抜けて、その先の顔へ届かせるための、十分な力がそもそも入っていないのだ。
 リリは咄嗟に拳を引っ込めた。足で地面を蹴り、飛び退く力を込めた上で肘を引き、握力に囚われた拳を引っこ抜き、ついでのように一旦は距離を取る。
 どうして、必要なだけの力が入らなかったのだろう。
「急に逃げ腰になったね」
「逃げ腰? とんだ勘違いですわ」
「じゃあ、逃げないでよ?」
 男は勢いよく迫って来た。
 掴みかかってくるつもりでいたのだろうが、リリはすぐに足を振り、鳩尾に爪先を入れてやる。
「うげぇ!」
 くの字に折れていた。
(よし、今度は――)
 きちんと力が入っている。
 リリは素早く膝を引き、相手の前のめりの姿勢が元に戻るより早く、即座に膝蹴りを放っていた。前に出ていた無防備な顎を蹴り上げると、その勢いに打たれた男は、今度は逆に仰け反って、後ろに大きく背中を反らした。
(このまま片付ける!)
 追い打ちをかけようと地面を蹴り、一気に距離を詰めるべくしての、移動の勢いを乗せた拳を叩き込む。それを額に命中させ、そうして倒れ込んでいく以上、これで勝負はついただろう。
(本当に、ついた?)
 そのはずだが、自信が持てない。
 リリは自分の拳を見つめていた。
 当てる瞬間、先ほどと同じ違和感があったのだ。弱々しい握力で、こちらのパンチを止めるだけの、十分な力などこもっていなかったはずなのに、何故か拳を止められた。
 そして、その時と同じ違和感が腕にある。
 確かに男は仰向けに倒れているが、まるで元からバランスの崩れたところを押してやったに過ぎないような、勝負をつける意味で倒せているかの疑問が抜けないのだ。
 案の定、男は立ち上がった。
(……タフね)
 ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら、男はリリに向かって構え直していた。
「ほらほら、僕なんて雑魚なんでしょ? そういう態度が見え見えなんだよ。その雑魚を倒す割りには、随分と手こずっているんじゃない? ほら、今後こそ倒してみせなって、ほらほら」
 挑発してきていた。
 どうせ無理だと言わんばかりの、人を嘲った表情まで向けられて、リリの怒りに火が点いた。
「ええ、お望み通りにしてあげますわ」
 また踏み込む。
 風を切り裂く素早い回し蹴りで、リリは男の側頭部を狙っていた。回転する足が狙いの位置へと触れた時、しかし男はびくともせず、痛くも痒くもないように、ただ平然とニヤニヤしているのだった。
 リリ自身の足の甲にはキックをぶつけた衝撃が走っていても、男は何も感じていない風な顔をしていた。
「あれぇ? お望み通りにするんじゃなかったの?」
 そして、男は足首を掴んで来た。
 ――まずい。
 勝負において、こんな形で体の一部を掴まれては危機である。リリは素早く足を引っ込めようとするのだが、男の握力から足が抜けない。
(だったら――!)
 残る片足をバネに空中へ舞い上がる。さらには宙で胴体を寝かせていき、もう片方の側頭部へ、二度目の回し蹴りを放つリリだったが――。
 がしっ、
 と、今度は止められた。
 やはり、大して強い握力がかかっているでもないのに、リリの一撃は通らなかった。
(まさか……!)
 これだけ似たような疑問が積み重なれば、さすがに気づかないはずもない。
 理由はわからない。
 向こうからは一撃も浴びていないのに、そういう作用のある技という事はないはずだ。だが、だとしたら他にどんな理由でそうなるのか。
 見当もつかないが、起こっている事は理解した

 力が入らなくなっている。

 そして、男はこの瞬間を逃さなかった。
 リリの両足がどちらも持ち上がり、体も宙に寝かされた姿勢に対して、男は足首を同時に掴む。がっしりと、今度は強い握力を込め、男は前へと迫って来た。
 人を押し倒さんばかりに前のめりに、リリの体が落下するに合わせて身を乗り出し、その勢いで脚がM字にさせられていた。折り畳まれていきながらの落下という形になっていた。そうして開いた股には直ちに腰が押し当てられ、着衣越しのアソコには肉棒が密着してきていた。
「やっ、いや……!」
「ふひひひひ」
 男はリリの衣服を掴む。
 力強く左右に引っ張り、繊維がみしみしと音を立て、前がはだけるように引き裂けていた。
「なっ……!」
 ブラジャーが丸出しとなっていた。
 リリは即座に両腕で胸を隠すが、男はそんな彼女の手首を掴んで強引に引き離す。ろくに力が入らない、理由もわからず弱った腕では逆らい切れず、どちらの手首も呆気なく地面に押しつけられているのであった。
 にじゅり、と。
 汚らしい音を立て、男は舌なめずりをしていた。
「いや……な、なにを考えているの……?」
「なにって、そういうことだけど?」
 男はさらにブラジャーを掴んでずり上げた。一瞬にして持ち上がり、カップを上弦に乗せた形で中身が剥き出しに、すると即座に吸いついた。乳首を口内に捕らえて舐めしゃぶり、リリはその強烈な悪寒に顔を歪めた。
「いやっ、やめなさい!」
「うんうん、君のオッパイは美味しいねぇ? いっぱいチュパチュパしてあげるからねぇ?」
 男はもう片方の乳首もしゃぶり、唇の内側で舌を活発に踊らせていた。その舌先が乳首をくすぐり、リリは刺激を受けながら苦悶していた。
「やめなさい! 離して! 離れなさい!」
 リリは男を押し退けようとしているが、力が入らず肥満の体重をどうにもできない。しばしのあいだ乳首はしゃぶられる一方で、乳輪やその周囲には唾液が浸透していくのであった。
「ふっひひひひ!」
 嗤いながら、男は交互に吸引を繰り返す。
「やめて! このっ、許しませんわ!」
 リリはどうにかその状況から脱出した。ただ力任せに押し返そうとするのでなく、右手ではシャツの肩を掴んで引っ張り、左手では押し返し、そして体も回転を意識してくねらせる。転がる事で上下が入れ変わるようにして、リリは男の上に跨がり、ほんの一時的な脱出に成功していた。
 あとはこのまま立ち上がって離れるなり、それともマウントポジションを利用して拳を叩き込んでやればいい。そのどちらかの判断を取るはずだったリリなのだが、それよりも前に目を丸めて顔中を引き攣らせた。
「やっ……!」
 男に両腕を掴まれて、引っ張られた。その引き寄せようとする力により、リリは前に体を倒してしまう。しかもピンポイントに唇が重なって、まさかの形でキスをしてしまっていた。
(やっ、嫌ですわ! こんな男と!)
 すぐに頭を離そうとするリリだが、男も咄嗟に後頭部を掴んでくる。逃がさないように力をかけられ、頭を後ろにやろうにも、それ以上に男の腕力が強かった。
 顔中に鳥肌が広がっていた。醜い豚鼻の顔立ちという、生理的な拒否反応を催す相手と唇が触れ合う事の、猛烈な拒否反応でふつふつと毛穴が広がり産毛が逆立ち、肌の泡立つような感覚が広がっていた。
(離して! け、穢らわしいですわ!)
 リリは引き攣っていた。
「さあ、改めて……ふっひひひひ…………」
 不気味な笑い方をしながら、男は力をかけてくる。リリがつい先ほどそうしたように、転がるための力がかかるなり、改めてリリは地面に組み敷かれ、その上に男が乗る形となるのだった。
「ほら、オッパイを揉んであげるよ」
 男は跨がる形に姿勢を直し、その両足の間にリリの腕を挟み込んでいた。腹に体重がかかってくる上、脚の力で両腕ともロックされ、ただでさえ理由もわからず力が入りにくくなっているのに、そうして抵抗を封じられているのであった。
 両手が乳房に食らいつき、欲望のままに指を踊らせ始めていた。その揉みしだく手つきによって、リリが感じているものは嫌悪感だ。
(こんな……男になんて…………!)
 彼が戦いなど目的にしていないのは明らかで、その目論見にかかった悔しさは大いにある。それだけでも歯軋りの止まらない話だが、しかもこの男の本来の実力はリリよりも遥かに下なのだ。
 力が出にくく、まるで筋力が大幅に低下しているようなこの状況は、決して何らかの技を使われたからではない。もっと別の理由で力が発揮できないのだ。
(いつもの力さえ出せれば……!)
 こんな男など簡単に一蹴できるはずなのに、今はそれが出来ないことの歯がゆさの中で、リリは乳房を揉まれている。その大きさに指が沈んで蠢く事で、まるでパン生地が捏ねられ続けるように変形を繰り返した。
「ああ、いいオッパイだ。君みたいな綺麗で可愛い女の子の胸を好きにしていいだなんて」
「なっ、何を……! して、いいだなんて、誰がそんな!」
 人を辱めにかかってくるばかりか、誰かに許可でも貰ったような言い方までしてきている。リリの乳房を自分のもののように認識している。その言動が気に入らず、改めて抵抗を試みるリリなのだが、腕を広げようと力をかけても、それは脚力によって阻まれる。起こそうとする事はもちろん、転がるような力の使い方でも、跨がってきた男の体を押し退ける事が出来ない。
 どんな抵抗も出来ず、リリはただ胸を揉まれる一方だった。
「乳首が硬くなってきちゃったねぇ?」
 男の指遣いで血流が集まり敏感に、リリは快楽を感じ始めていた。好きで揉まれているわけでも何でもない、見下げた男に触れられる屈辱の中で感じてしまう悔しさに、リリは顔中を歪めていた。
「ぐっ、離して……離しなさい……!」
「駄目駄目、君にはもっと気持ち良くなってもらうんだから」
 男は左右それぞれの指を一本ずつ乳首に置き、その指先で捏ねるようにしながら乳房全体も揉みしだく。手の平の中で変形を続けるリリの胸は、さらに大きな快感で甘く痺れ始めていた。
「うっぐっ、いつまで……こんな事……」
 醜い顔が笑顔によって歪んでいる。鼻の下が伸びきる事で唇が醜く変形して、ハァハァと息を荒げた男の顔は、気持ち悪いとしか言いようがない。こうもおぞましい男に揉まれていると思うと身震いが止まらずに、なのに乳首は硬いまま、刺激まで走っている。
「引っ張ってみちゃったりして」
 今度は指でつままれ持ち上げられ、皮膚を伸ばした乳房は軽く尖った。その直後に男は指を離すので、落下のような勢いを帯びてぷるっと揺れる。
「これは面白いなぁ!」
 男は乳房で遊び始めた。
 引っ張って、離す。また引っ張り、そして離す。同じ行為の繰り返しで、乳首に触れられ続ける分だけ快楽が走る上、ぷるっとした揺れもその分だけ繰り返される。

 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、

 楽しい玩具でも見つけたように、男はつまんで引っ張る事ばかりを繰り返す。

 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、

 リリの心の中には屈辱が膨らむ一方だった。
(こんな……こんな男に……!)
 本来の力を発揮できれば敵ではないのに、格下に弄ばれる悔しさでたまらない。体の一部を玩具として扱われ、人間扱いされないような悔しさで歯軋りをしたくなる。

 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、

 だいたい、こんな男の指などで快楽を感じなくてはいけないなど、それもまた大きな無念なのだった。
(どうして……力が、出ないの……?)
 特殊なツボを突かれたわけでも何でもなく、本当に訳も分からず筋力が低下している。その理由にふと気づくのは、リリの鼻孔が妙な匂いを嗅ぎ取っての事だった。
 奇妙な臭気が漂っていた。
 どこかに生ゴミを捨てた腐臭でも、下水の臭いが漏れたものでもない、嗅いだ事のない臭気に今まで気づかなかったのは、それだけ臭いが薄かったせいだ。本当にふとした拍子に意識が及び、リリは一つの仮説を思い浮かべる。
(筋弛緩剤?)
 他に思いつく可能性がなかった。
 相手の攻撃を一度も浴びていない以上、もっと他の理由で力が出せなくなっている。もしや筋弛緩剤を気化したガスが使われており、男自身には耐性があるのではないか。
 この可能性に思い至ったところで、だから何をどうできるというわけでもない。リリの乳房はひたすらに、飽きる様子を見せない男によって遊ばれ続ける一方だった。




 男はベルトを外していた。
「な、何を……!」
 まさか、ズボンの中身を出すつもりかと、引き攣っているリリの前で、チャックまで下げ始める。
 乳首を引っ張る遊びが終わり、次の遊びを思いついたように男は肉棒を取り出していた。胴体に跨がられ、腕が両足の間に挟まれて、足と体重とで身動きを封じられているリリには、性器の登場を食い止める事も、これから始まる行為から逃れる事もできなかった。
「嫌っ! そんなものを近づけないで! 早くしまいなさい!」
 醜男から生えたものなど見たくもない思いから、リリは慌てたように声を荒げて目を背ける。
「パイズリターイム!」
 だが男はお構いなしに肉棒を谷間に置き、乳房を掴んで中央へ寄せ上げる。胸が肉棒を挟む形となり、男は人の体を使って快楽を貪り始めていた。
「やだっ、なんておぞましいの……」
 手で揉まれるだけでも嫌なのに、中央へ寄った乳房がそのまま上下に動かされる。谷間に挟まる肉棒の感触が肌に伝わり、その嫌悪感でリリは背筋に鳥肌を広げていた。
「気持ちいいよ? すっごく気持ちいい! ねえねえ、こんなに素敵なオッパイを使わせてくれてありがとうねぇ?」
 興奮しきった上擦った声で、男はわざとらしくお礼まで伝えてくる。
「こ、この……!」
「ふひひっ、お礼に顔を汚してあげるから待っててね?」
「顔って、まさか……!」
 人をここまで侮辱して弄んでおきながら、さらに穢そうとしてくる男への怒りで身を捩るが、やはり決して力が入らず泣けてくる。リリに許される筋力の発揮は本当に最低限で、本来の力を取り戻さなければもはや戦いは不可能だ。
「カウパーが出てきたよ?」
 男は自分の気持ち良さについて実況する。
「根元から先っぽにかけて、芯が熱くなるみたいに気持ち良くて最高だよ。もうすぐかな? あと一分もしないうちに出せると思うんだよね」
 どうにか射精を阻止したい。射精自体を止められずとも、顔や体にかけられる事だけでも防ぎたい。あとどのくらいで発射されるかもわからない危機感に駆られた体は、身じろぎを必死に行うものの、やはり抵抗が成立しない。脚を力強く振り上げて、膝蹴りで腰を打とうとしてみても、今の発揮可能な力ではマッサージにしかなっていない。
「肩叩きならぬ腰叩きかな? ありがとう」
 煽るようなお礼まで言われる始末だ。
「ぐっ、顔なんて……」
 射精から逃れたい一心で、リリは首を左右に振りたくるが、顔を上下左右のどこに向けたところで、乳房の狭間から発射されれば付着からは逃げ切れない。
 リリの乳房は上下していた。男の手の平によって動かされ、その上下が狭間の肉棒をしごいている。乳肌と竿の擦れ合いで、最悪な事にリリの方にも快感が生じている。こんな男の手でなど感じたくないというのに、揉まれる気持ち良さは止まってなどくれなかった。
「はーい、お待たせ? もうすぐだよ?」
 元気いっぱいに、男は言う。
「カウントダウンといこうか」
 すっかりテンションを上げていた。
 楽しくてたまらない表情で、うきうきと歌うようなリズムに乗って、男は数字を数え始めていた。
「じゅーう、きゅっ、はーち、なーな、ろーく、ごーお――」
 そのカウントダウンが危機感を煽る。
 ゼロになった時、顔を汚される。
 精液の化粧をされる屈辱から逃げたいあまりの、無駄だとはわかっていてもやめられない、必死の身じろぎをリリは繰り返していた。首を左右に振り回し、脚も振り上げ腰を叩いて、それだけ暴れるリリの行為は、全てが抵抗として成立していない。
「よーん、さーん、にーい、いーち――」
 来る、来てしまう。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ――――。

 ドクッ、ビュルルル! ドクッ、ドクン!

 乳房の間で跳ね上がり、先端からそれは弾け出てきた。咄嗟に避けようと顔が動いて、首を横向きにしたところで、熱っぽい白濁は頬や髪に付着するだけだった。顎のラインや首筋にまで付着して、リリはそのおぞましさに身震いしていた。
「本当に……かけるだなんて、なんておぞましいの…………」
 しかも、まだ全てが出し尽くされたわけではなかった。

 ドクン!

 まだ、跳ねている。
 次に飛んだ精液は、顔を横向きにしているために、額の端に付着していた。前髪もろとも濡らしつつ、べったりと張りついたそれは滴となって、つーっと、下へ下へと垂れていき、リリの額には横引きの線が引かれていた。
 そして精液を放った亀頭からは糸が垂れ、鎖骨の間に当たっている。
(お、終わった……?)
 出し終わったのだろうかと、顔が汚れたせいでの険しい表情で前を向き、少しだけ首を持ち上げ亀頭を見る。出終わったかどうかを確かめたい、その何気ない行動の直後である。

 ビュルン! ドックゥ!

 また跳ねて、なおも飛び出て来た。さらに多くの精液が振り撒かれ、もう片方の頬が汚された。鼻や唇に付着した。目尻に染みつき、顎の裏側にもかかった上で、最後は飛距離も出ずにそのまま真下へ、乳房を直接汚していた。
 男は肉棒を谷間に引っ込めて、亀頭を埋没させていた。乳房の中に隠れた亀頭から、あと数回だけ飛び出る精液で、谷間にもべったりと付着していた。
 顔から胸まで汚された嫌悪感に顔中を引き攣らせ、リリは全身で鳥肌を立てていた。
「気持ち悪いですわ……早く、シャワーを…………」
 この汚れを一刻も早く洗い流したい。
 それがリリの抱く切実な願いとなっていた。

     *

 パイズリが終わっても陵辱は終わらない。
「ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ」
 またしても、しゃぶられていた。
 先ほどど同じ行為が改めて行われていた。
「どこまで人を穢せば気が済むの? こ、この……最低の醜男っ、あなたは本当に醜い豚ですわっ」
 せめてこのくらいは言わなければ気が済まないように、怒りを込めた言葉を放つも、その悔し紛れの台詞を聞いた男は、ただヘラヘラとした笑いを返してくるだけだった。
「君の乳首は美味しいよ?」
 聞いてもいない事を答え、それから男は繰り返す。
「ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――」
 乳首から数センチにかけてを頬張って、口内に収めた上で吸引力をかけている。噛む事はせず、唇と吸引力だけで引っ張って、持ち上がる所まで乳房を持ち上げ、それを途中で離しての、ぷるっとした揺れを男は鑑賞している。
 それを交互に行っていた。
「ちゅぱっ」
 と、右の乳首を吸引して離したら、今度は左の乳首をしゃぶって引き上げる。
「ちゅぱっ」
 と、離す。
 唇から解放される乳首は唾液で輝き、落下のような勢いを帯びてぷるっと揺れる。
「ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――ちゅぱ――」
 右が、左が、交互に持ち上がっては離されて、一方がぷるっと揺れれば直後にもう一方もぷるっと揺れる。
 それが延々と続くかと思いきや、やがて男はやり方を変え、ひたすらにベロベロと舐め回した。
「うっ、いや……!」
 舌が縦横無尽に動き回った。激しく舐め込み、べったりと唾液を塗りつける。その舌先によって乳首が小刻みに上下左右を向き続け、皮膚にはますます唾液が浸透していった。
「じゅる、じゅるるる、じゅるるぅ…………!」
 どちらの乳首も、その激しい舐め方で味わわれる。決して認める事のない、こんな男が自分の乳房を好きにしている屈辱で、リリは眉間を強張らせていた。
(くっ、悔しすぎますわ……)
 格下の醜い男に精液をかけられて、表皮でその乾燥が始まっている中、唾液で乳首が汚されている。体を汚染物質に侵食されるようなおぞましさでたまらない。
 しかも、乳房や精液どころではない。
 男はワンピースのスカート部分を捲り、おもむろにショーツを脱がそうとしてきていた。
「いやっ! やめなさい! そ、それだけは……!」
 最後の最後までされかねない危機感で、リリは無我夢中で両足を暴れさせ、脱がせる作業を少しでも手こずらせようと試みていた。脚力を発揮できず、蹴りが顔に当たってすらケロっとしている男だが、一秒でも時間を稼げばその間に筋弛緩剤の効果が切れてくれないかと、リリは一縷の望みに賭けていた。
 その思いも虚しく、ショーツは尻の下から引きずり出されていく。どれだけ手こずらせてみようとも、最後には足首の向こうまでいってしまい、スカートの捲れたリリの下半身はアソコが剥き出しとなっていた。
 力ずくでM字開脚のポーズを取らされて、アソコへと亀頭が押しつけられる。
「あれ? もう濡れてるね」
「そんな! そんなはずがありませんわ!」
 反射的に否定するリリだが――。

 ずにゅぅぅぅ……!

 肉棒はあっさりと沈み込んでいた。まるで潤滑油のおかげで滑り込んで来るように、リリの中には男の肉棒が収まっていた。
「そんな……そんな…………!」
 こんな男に貞操まで穢される屈辱と、あり得ない事態が現実に起きてしまった信じられない気持ちで戦慄して、リリは目をいっぱいに見開いていた。
「ああ、気持ちいいなぁ? すっごくいいなぁ?」
 そんなリリへと男はピストンを開始する。
「うっぐぅ! やめっ、抜いっ、んぅ……! んぁぁ……!」
 最悪な事に快楽が走っている。
「お、気持ちいいんだね? 君もいっぱい感じてね」
「いやっ、あっ! あぁ! あっ、あっ! あっ、あぁん!」
 理解できないほどの大きな快感に、リリは大胆に喘ぎながらも両手を駆使して、意味のない抵抗を続けていた。手の平を相手の胸に当て、力ずくで押し返そうと無意識に抗って、しかしそれは単に男の肌に触れる以上の意味を成していなかった。
「あぁ……! あっ、あぁぁ……! あっ、あっぐぁ……!」
 肉棒が出入りする。閉じ合わさった膣壁の狭間は、その貫く一撃のたびに太さに合わせて拡張され、生じた摩擦に応じた快感が脚や胴へと駆け巡る。
「んっあっ、あぁ! いやっ、あぁ……!」
 大きな声で喘ぐ中、リリの感情は一色に染まっていた。

 悔しい、悔しい、悔しい……!

 こんな男に……!
 醜い顔の通りに心根まで腐ったような、それに本当は実力もまるでない相手である。服装を見るに生活水準も低く、リリとは圧倒的な格差のある低い男だというのに、そんな男が好きなように腰を動かし快楽を味わっている。
(こんな事っ、あっていいはずが……!)
 ピストンが加速する。
 激しくなる腰使いで刺激も勢いを増していき、逆に苦しいほどの快感に襲われる。その壮絶な嵐に晒されて、もはや無意識の抵抗もなくなって、リリは男のシャツを掴んでただひたすらに堪えていた。
 まるで強風に飛ばされないために何かにしがみついている事しか出来ないように、今のリリでも発揮できる握力が男のシャツへと込められていた。
「くっ――――――!」
 頭が弾け、真っ白になる。
 それが絶頂の感覚である事をリリは知らない。

 ドクゥゥ! ビュル! ドクン!

 そして、膣内に出されていた。
「なっ、な…………!」
 下腹部の内側で脈打って、何の遠慮もなく注ぎ込んでくる男に対して、リリは大きく目を丸めて動揺していた。震える瞳で、信じられない思いでいっぱいに、リリは青ざめた顔で男を見つめていた。
 中に出された。
 外側ばかりか、きっと子宮まで穢された。
 そのショックにリリの四肢からいよいよ力が抜けていき、だらりと大の字に投げ出される。すっかり放心しきった眼差しで、リリはぼーっと空を見上げていた。

「ふふっ、家に持ち帰って、もっと可愛がってあげるね」

 そんなリリを可愛がるように頬を撫で、男は欲望の眼差しを注いでいた。もっともっと、あとどれくらい楽しんでやろうかと、その頭の中には朝まで楽しむ目論見が膨らんでいた。


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