【前編】
この私、天月めぐるはピンチです。
どういうピンチかっていうと――。
ぐっへっへっへへぇ!
なーんて、ものすごーく下品な笑い方をした男の子達に追い詰められている最中です。放課後に用事があるっていうから、夕方の教室に来たまではよかったのですが、まさか用事がそういう用事だとは思わなかったのです。
な、なんと!脅されました!
ツインエンジェルに変身するところを見られていて、しかも写真に撮られていて、秘密をバラされたくなければ、って脅かされてる最中です。
どうしよう! どうすればいいの!?
*
遡ること、チイチ島。
かつて、溺れかけている子供を目撃した時、けれど助けに行こうにも、怖くて体が動かなかったことがある。放ってはいけないけれど、かといって向こうへ行けば、自分も一緒に溺れるかもしれない想像から足が竦んで、動くに動けなかったのだ。
そんな時、二人組の少女が颯爽と救い出し、何も言わず去っていくところを見て以来、天月めぐるは正義の味方に憧れるようになっていた。自分には出来なかったことを軽々とやってのけ、グライダーによって飛び去る姿は、胸の内側に深く深く刻まれていた。
あの人達みたいな正義の味方に――。
「いつかなるぞぉぉぉぉ!」
引っ越し前、島の海に向かってそう叫んでみるくらいには、めぐるは正義の味方というものに憧れていた。
そして、チイチ島から東京へ引っ越して、聖チェリーヌ学院に編入した天月めぐるは、学校のイベント中に起きた事件をきっかけに、ハリネズミのみるくちゃんにスカウトされ、なんとツインエンジェルに変身することになったのだ。
正義の味方になりたいとは言ったけれど、まさか変身までしてなってしまうだなんて驚きである。
それから、幾度かの戦いを経て、一緒にツインエンジェルに変身する仲間、如月すみれとの仲が深まったのは良かったけれど、つい先日の戦いで、たまたま一人で変身して戦うことになった際、その変身を密かに覗かれていたらしい。
クラスメイトの男子に声をかけられ、放課後に用事があるから来て欲しいと言われた時には、さて一体なんの話やらと、首を傾げるばかりであった。
その男子が一人であったら、愛の告白でも想像しただろう。けれど三人組からの用事なわけで、三人揃って同時に告白してくるとはさすがに思えず、つまり用事の内容がちっとも掴めないので、これはもう行ってみて、実際に聞いてみるしかないと思ったわけだ。
そんなわけで指定された時間、夕暮れの教室に足を運ぶと、さてその三人組から実際に用事の内容を告げられて、それはそれは顔中いっぱいに引き攣っていた。
「ほーら、見てごらんよ!」
「こういうのって、弱みを握ったって言わなーい?」
「秘密を守るのがセオリーだよねぇ? セオリーですよねぇぇ!?」
三人揃って一斉にスマートフォンの画面を突きつけ、めぐるに向かった突きつけてきた写真は、どこからか撮った変身の際のものだった。制服姿のめぐるが体を光らせ、ツインエンジェルの姿へ変わり、そして敵に向かって飛び込むまでの、一連の流れが大きく分けて三枚に、三人組のそれぞれのスマートフォンに表示されていた。
「えっ、あの? えっと、もしかして私の秘密――――」
めぐるが狼狽するのも無理はなかった。
「そうそう! そうなのよ!」
「変身ヒロイン? マジ? 本物!?」
「チョー驚きなんだけどさァ! 変身ヒロインがさァ! 実在するってことはさァ! 秘密を守るってセオリーもさァ! もちろんあるはずっすよねェ!」
三人組は恐ろしく下品である。
見るからに鼻の下を伸ばしきり、人の唇とはそんなに変形するものなのかと驚くくらい、激しく口角を釣り上げて、鼻息荒い呼吸でハァハァと、血走った目で興奮している。下品極まりないとしか言いようがない、下劣で最低な男子三人が、そうやって秘密を握って迫ってくる。
これはもう恐怖だ。
か弱い女の子のように悲鳴を上げ、「きゃー!」と、逃げ出したいくらいには、さすがに恐怖なのである。
「えっとね!? あのね!? こういうのって、よくないと思うよ!」
だが、めぐるは正義の味方だ。
正義の味方として、あるべき道徳を説こうと必死になった。
「ほう? 良くない?」
「脅迫? 脅迫は犯罪だと?」
「犯罪は悪いことだと?」
しかし、三人組の表情は変わらない。
変わるわけがない。
「そうそう! 犯罪! 悪いこと! やってはいけないことなのです!」
めぐるは負けじと声を上げ、悪いことはよくないことだと、モラルと道徳でどうにか押し切ろうと頑張っている。実に気合いを入れているが、三人組も三人組で、今日はそれ以上に気合いを入れてやって来ている。
「残念だけどぉ! 俺らって悪者なんですぅ!」
「そーですそーですぅ!」
「だって善良な市民が変身ヒロインを脅すわけないじゃん! 悪役なの! 俺ら悪役だから、変身ヒロインを脅すのは当たり前なの!」
完全に開き直っていた。
犯罪だとわかってやっていますが、それが何か?
というのが、彼らの態度の全てである。
「なんで!? どうして? 悪いものでも食べちゃった!?」
めぐるはますます狼狽した。
「いいから言うことを聞けい!」
「脅しに屈せよ!」
「さもなくば、君の戦っている敵勢力に情報を流す! 正体はわからないけど、とにかく頑張って見つけ出して、正体をバラす!」
一体、どうやってめぐるに不利益を与えるのか。
具体的な方法――とは言い難いが、ともかく三人組にとっての、本人達なりのプランが明かされると、めぐるはますます狼狽していた。
「だ、駄目だよ! そんなの困るよ!」
「ではまず!」
「スカートをたくし上げ!」
「パンツを見せなさい!」
そしてもう、弱みを盾に具体的な命令を下してくる段階へと突入していた。
「で、でも……恥ずかしいし……」
「駄目でーす!」
「やらなきゃバラしまーす!」
「君ねぇ、ちゃんと考えてる? あなたが敵に倒されてね? 正義のヒーローがいなくなったらねぇ? 困るのは一体誰ですかァ!? 俺らの言うことを聞かないと、敵に正体がバレるんですよォ!」
相手の正体もわからないのに、とにかく三人組の中では、敵に情報を流すんだということになっている。
めぐるもめぐるで、そんなことになっては困るという点ばかりに頭がいき、それは無理だろうという指摘が浮かんでいない。
「で、でも! でもパンツって――」
「シャラァップッ!」
「今君は、敵に自分を売ろうとしている!」
「我々に逆らうことは、敵に自分の情報を流すのと同じなんですよォ!」
どこか無茶苦茶な理論である。
しかし、言うことを聞かなければそうするのだと、そういう意図を持っているのは確かなわけで、それを強く言われれば言われるだけ、めぐるの心は追い詰められる。
「もぉう! わかった! わかったから!」
プレッシャーがかかるあまりに、勢いでそう答えてしまい、そして答えた直後になってから、めぐるはみるみるうちに表情を染め変える。その「しまった!」と叫ばんばかりの顔は、もうそうするしかなくなって、逃げ道を失ったも同然の焦りを帯びた表情だった。
追い詰められているめぐるである。
心理的な状態を言うのなら、後ろからどんどん追いかけられて、どんどん焦らされているようなものであり、だから自分の言ってしまった言葉をすぐさま撤回することなんて、思いつきもしていない。
自分でそう言ってしまったなら、そうしなくてはいけないような思い込みに陥っていた。
ありもしない落とし穴に、勝手に落っこちたというのが、めぐるの今の思い込みの状態なのだ。
「言いましたね? 正義の味方に二言はありませんね?」
「さあ、約束は守ってもらおうかァ!」
「約束を破るようでは、変身ヒロイン失格ですからなァ!」
三人組の言葉もそれはそれで、勢い任せのものに決まっている。約束を破ったら失格なんて定義も、彼らが勝手に勢い任せに言い出しているだけである。そういう意見をどこかで聞いたわけですらない。
ただただ、変身して敵と戦うなら、とりあえず正しくあれというような、極めて大雑把なイメージをそのまま口にしているだけだ。
そんな勢い任せの言葉であっても、狼狽しきっためぐるは押される。
言われれば言われるだけ、めぐるは押される。
まるで押しに弱くて断れない性格になってしまったように、めぐるには効いてる。
「じゃあ、見せたら……その写真、消してもらうから……」
めぐるはスカートの丈を握り締める。
「お?」
「おお?」
「来るぞ来るぞ?」
その瞬間に圧力として降りかかる期待の眼差しに、羞恥心はいくらでも煽られる。ただ布を掴んで持ち上げるだけの動作だというのに、スカート丈が異常に重くなっていた。躊躇うあまりに腕の動きは硬くなり、まるでカクカクとしか動けないロボットであった。
めぐるは本当に躊躇ってばかりであった。
それだけ抵抗に満ち溢れた腕であっても、たくし上げようとさえしていれば、スカートの丈からだんだんと太ももの見える面積は広がるわけで――。
「おおお?」
「来るか? 来るか?」
「何色なんだァ?」
大きな声まで上げながら、異常に大きく期待を膨らませる三人組を前にして、途中までは持ち上げたスカートを、めぐるはつい元に戻してしまう。
「あぁ……」
「ちっ、まだか……」
「だが必ずや見せてもらうからな」
三人組のテンションは大きく下がり――。
「おおおお?」
「来るか来るかァ?」
「何色なんだァ!?」
持ち上がった分だけ、また激しく興奮して――。
「あぁ……」
「あぁぁ……」
「はぁ……」
異常なほど、三人組はテンションを上げ下げする。
これではもう、スカートの上げ具合が三人組のテンションを調整するノズルのようになっている。だからといって、めぐるはそれで遊んでいるわけではなく、本当に躊躇ったり恥じらったりしているから、途中までは持ち上げたのを、元に戻してしまっている。
このテンションの上げ下げは何度か続いた。
その繰り返しの末、めぐるはやっとのことで「えい!」と、勢いに任せたように、思い切ってスカートを持ち上げる。
可愛い可愛いピンクが三人組の目に焼き付いていた。
薄らとした色合いをベースにして、その上にイチゴのプリントを散りばめている。可愛らしくデフォルメしたフルーツがランダムに張り付けられ、赤いフロントリボンを沿えた華やかさで、めぐるの下着は実にキュートな仕上がりとなっていた。
「おおお!」
「イチゴだぁ!」
「イチゴパンツ! イチゴパンツだ!」
ただでさえ恥ずかしいのに、このテンションである。
ごく普通に見せるだけでも、きっとじわじわと頬は温まり、桃色に染まってくるであろうに、三人分の視線が一斉に突き刺さっている上で、ここまでわかりやすくテンションを上げている。もうそのせいで恥ずかしさは何割増しか。
「ううう! 終わり! はい終わり!」
羞恥心に煽られた両腕は、その勢いでスカートを元に戻していた。拳を自分の太ももに叩きつける勢いだった。羞恥心がそのまま燃料に、両腕がエンジンを噴かせて加速していた。
だが、三人組はそれを許さない。
「はぁぁぁ!?」
「ありえなくね? ありえなくね!?」
「舐めてんすか! こうなったら全裸だ全裸!」
そもそも、ものの最初から、パンツを見ただけで満足するつもりはなく、もっともっと激しい要求を考えている三人組だ。
悪者になるのだと、覚悟というか、何というかを決めてきた三人組だ。
こんなものでは済まさずに、めぐるのことをもっともっと辱めようと、一人一人が躍起になって鼻を荒くしているのだった。
【後編】
めぐるの顔が染まっている。
恥ずかしいあまりに下を向き、床に視線をやってしまうのは、前を見ていると三人組の表情が目につくからだ。みんなで口角を釣り上げて、その上で鼻を伸ばした唇の形は、もうブーメランみたいになっていて、とてもとても見ていられないからだ。
一体どれだけいやらしい目で見てきているか、丸わかりにもほどのある目つきに耐えきれなくて、めぐるは下を向いている。
俯いた分だけ、その首の角度に合わせたように、サイドテールの髪は垂れ下がる。今のめぐるの顔を右から見れば、そんな垂れたサイドテールに頬が隠れて見えることだろう。
「さあさあ」
「見せてもらおうか」
「再びイチゴパンツを」
三人組はスマートフォンを向けていた。
動画撮影モードの状態なわけであり、スカートを上げれば中身が撮られることをわかっていて、なおも平然と下着を出せるかといったら、まさかそんなはずがない。ついさっきですら、耐えきれずに思いっきり、勢いよく元に戻したのというのに、今度は撮影されながらだなんて冗談じゃない。
冗談じゃなくても、そうしなければ絶対に解放されない。
地獄の出口はそれしかないと、めぐるはやった。
「……え、えい!」
思い切って持ち上げた。
ぎゅっと目を瞑り、まぶたに力を込めながら、めぐるは大胆にスカートを持ち上げた。上下一体構造の、セーラー服に近しい形の襟をした、真っ白な制服のスカートから、先ほどの下着を丸晒しにしていた。
(やっぱり恥ずかしいよ! 耐えられないよ!)
めぐるは今度は横を向く。
窓を背にして立っていためぐるは、顔を横向きにしたことで、振り回したサイドテールの毛先をガラスにぶつける。その小さな音が一瞬鳴ると、後は真っ赤な片頬だけを向け、羞恥に歪みきった表情で、下着を撮られる状況を堪えていた。
「次は全裸なり!」
「へ!? ムリムリムリムリ!」
めぐるは思いっきり、それも高速で首を振る。
「甘えたことをぬかすなァ!」
「敵に自分の情報を流したいのかァ!」
それに対する男子の言葉は、まるでめぐるが悪いことをしたような、叱りつけるかのような口調であった。
「だ、だって全裸って――――」
「ええ? 裸にならないと変身ヒロインの正体がバレるんだよ? つまり、朝起きて学校に行って授業受けて下校して、その日々の生活のね? いつどのタイミングで奇襲攻撃を受けるかわからないんだよ? つまり、ここで俺達に逆らうのは自殺行為だよ? で、何? 正義の味方が悪に負けていいとか思うわけ? ねえ、そうなったら困るのは誰なわけ? 大勢の罪のない人々だよねぇ! 正義の味方が本当にそれでいいわけぇ!」
無茶苦茶な理屈である。
だが、どんなに無茶苦茶でも、その順序の通りのことになったら大変だと、めぐるの立場では考えてしまっていた。
下手に考えてしまったことで、大勢の人々を人質に取られた気持ちにすらなってきていた。
「じゃ、じゃあ、今度こそ! 次で許してよね!」
いや、許されるはずがない。
「ああ、考えてやろう」
嘘に決まっている。
だがその答えを聞き、めぐるは制服を脱ぎ始める。
考えてやろう、としか言っていないが、それを真に受けてか脱ぎ始める。もちろん、スカートをたくし上げることにさえ、あれだけの抵抗感を示しためぐるである。しかもカメラは向けられたまま、ストリップの動画まで撮られようとしているのに、するするとスムーズに脱げるはずはなく、やはり時間がかかった末に、やっとのことで制服を手放した。
上下一体構造のそれを、非常に躊躇いながら、実にぎこちない震えきった手つきで脱いでいき、随分とかかった末に下着姿を晒すのだった。
「おおおお!」
「おっ、おっ!」
「おうおうおうおう!」
ますます興奮して、テンションを上げ、三人組は撮ろう撮ろうとスマートフォンを握って迫る。興奮した犬にたかられる状況そのもので、めぐるは引いた顔をして肩を小さく縮めていた。
「素晴らしいナイスバディ!」
「好みなんだよねぇ! めぐる氏の体つきは!」
「うんうん、なんという肉体美!」
称賛されても、喜んでいられる状況ではなかった。
めぐるのブラジャーもまたピンク色で、イチゴのプリントを散りばめつつ、カップ上端のカーブ部分にはパッチワークのレースを縫い付けている。見栄えする下着姿に一人一人が鼻息を荒くするあまり、その荒っぽい呼吸が豚の鳴き声にまで似てきていた。
(いやぁぁ! ムリムリ! こんなのいつまで続くのォ!?)
「では下着も外して頂こう!」
(そうだったぁぁぁぁ!)
涙が出ているわけではない。泣きこそしていないが、めぐるはもう心の中では大泣きで、滝の涙を流す気持ちになって、両手をブラジャーのホックに回している。
もちろん、おいそれと脱げるわけがない。
大いに躊躇い、ぎこちない手つきで苦戦しながら、やっぱり時間をかけて脱いでいく。わざと焦らしているわけではなくて、好きでゆっくり楽しませているわけでもなくて、恥ずかしいあまりに体中が強張って、動きも鈍くなってしまって、そのせいで時間がかかっているのであった。
(うわぁぁ……裸が……胸もアソコも見られちゃうよぉ……!)
心で悲鳴を上げながら、やっとのことでブラジャーを外した瞬間、めぐるは大歓声に襲われることとなる。
「おおっ、美乳! 美しい茶碗サイズだ!」
「ああ実に良い! もう少し小さければ貧乳であるような、しかしそこを微妙に持って、普通っぽいサイズまで押し上げてあるこの感じ! そう、うちの茶碗くらいのサイズこそ至高! この美乳こそが見たかったのだ!」
「芸術的なフォルム! ツンっと丸っこく突っ張った美乳に生える可愛い可愛い乳首が、もうなんと可愛いことか! おおっ、可愛い!」
三人組は興奮のあまりに言葉を尽くし、そして途中までは語彙力を発揮していたのに、最後の最後で可愛いを連呼することしかできなくなっている。その語彙力の枯渇自体が、まさしく三人組の興奮を物語っている。
ここまで大喜びしてくるせいで、どれだけ興奮しているかが必要以上に伝わるから、めぐるの羞恥心はそれだけ強く煽られていた。
(あああ! 見せちゃった! っていうか撮られてもいるし!)
めぐるは頬をさらに赤くして、耳すら真っ赤にしながら激しく恥じらっていた。
三人組が早口で語った通りの、下垂など知りもしないで、手前に丸っこく突き出た茶碗のカーブに近いフォルムの、その先端には桜色の乳首を生やしている。きめ細かな肌の質感を大いに飾り立て、美乳の芸術性を高める乳首の色は、それぞれのスマートフォンのメモリへと、こうしている今にも一秒ずつ刻まれている。
「そしてパンツだ! 最後の一枚が残っているぞ!」
「もう逃げられはしまい!」
「それも脱がなければ、こちらには服を持ち去って教室から駆け去るという手段もある!」
三人組は脅し文句を追加して、めぐる的にも余計に脱がないわけにはいかなくなる。
(ムリなのにムリなのにムリなのにムリなのにムリなのに――――)
下着のゴムに指を入れ、下げようとした瞬間の、途方もない反発力といったらない。脱ごうとする行為自体に、磁石の反発力によく似た力が働いている。そんな幻の、ありもしないパワーを如実に感じてしまうほど、めぐるはこの最後の一枚を手放すことに、大きな大きな抵抗を感じているのだ。
しかし、脱ぐ。
どんなに強く躊躇っていても、もう他に道がないかのように追い詰められ、わけがわからなくなっているめぐるである。反発力を押し返して、それが重労働であるように、苦悶を浮かべながら脱いでいく。
「おおぉ!」
「我々は奇跡を見ている!」
「素晴らしい……なんと素晴らしい……!」
下着が腰を離れ、太ももを通って膝を通過し、足首へと向かって行く。脱衣動作における下着の移動を目の当たりに、三人組は宇宙の奇跡でも目撃しているような、感動にさえ打ちのめされた表情で、この撮り逃すわけにはいかない景色に、なおも動画撮影モードを向け続けている。
そうして、めぐるはとうとう全裸になった。
「気をつけェ!」
「隠すことは許さない!」
「隠したら脱いだものを没収する!」
気をつけの姿勢を強要され、もはや恥ずかしさ一つでパニックにすら陥りながら、巡るは肩の上がった状態で天井に顔を向けていた。硬く強張りきった両肩は、面白いほどに高く持ち上がり、しかも天井へ向く表情は、唇がぐにゃりと変形して、まぶたにも大胆に力の籠もった特上の、恥じらいだけで苦悶しきった赤面の顔つきとなっていた。
三人組はめぐるを思う存分に視姦する。
スマートフォンは決して下ろさず、一秒でも長く撮ろうとしながらアソコを見る。胸を見る。後ろに回って尻を見る。
アソコと尻も、やはり可愛らしく美しい。
いかにもふんわりとしていそうな、マシュマロを思わせる尻肉は、見ているだけで触れた感触をイメージさせる。手前にある綺麗な綺麗な一本筋は、ヘラで彫り込んだかのようである。染み一つない綺麗な体を撮ろう撮ろうと、三人組はめぐるの周囲を思い思いに回っていき、尻にレンズを近づけたり、アソコの接写を行ったりと、そんなことを繰り返した。
*
さて、それからである。
スマートフォンを片手にした三人組に、体中いたるところを視姦され尽くし、撮影までされてしまってからのめぐるは、まだまだ地獄の続きを味わっていた。
エンジェルローズへの変身まで要求されたのである。
変身後の姿が見たい、変身した後の体に触りたい。そんなことを言われて変身させられ、エンジェルローズとなった上、めぐるは机の上に寝かされていた。
「こんなのやだぁ……!」
滝の涙すら流したい心境は続いている。
机をいくつか合体させて、ベッドの代わりとしたその上に、めぐるは寝かされているわけだが、この流れで寝かされれば、一体どんなエッチなことが始まるのか。それを想像できないはずがない。
「それでは……」
「い、いざ」
「エンジェルローズの柔肌へ!」
三人は童貞だった。
インターネットではない、目の前の生身の裸など本当は初めてだった。その上、しかも思い通りの衣装を着せてから、その体に触ろうというのである。触る段階になってから、彼らは急に自分が童貞であることを思い出し、今更になって緊張しながら、そーっと、恐る恐るといった具合に手を伸ばす。
そして、指一本でも触れた途端、最初だけは驚いたように手を引っ込め、めぐる――エンジェルローズもビクっとしたりしていたが、次の瞬間には手という手の数々が、三人分の計六本にわたる腕が肢体を這い回った。
「やぁぁ! ムリだってばぁ! もう許してよぉ!」
エンジェルローズは懇願する。
エサに群がる群れに襲われ、体中が啄まれているような状況である。ムリッ、無理ィ! と、エンジェルローズが泣きたそうに首を振り、髪を振り乱すのも無理のないことだった。
「いいや駄目だ駄目だ!」
「ここまで来れば、どこまでも堕ちてやる!」
「性犯罪者と罵られようと一向に構わぬ!」
目が血走っていた。
「構ってよぉ!」
そんなエンジェルローズの叫びを無視して、三人組は乳房に指を食い込ませる。腰のくびれを撫で上げて、手の平を太ももに這い回らせる。スカートの中に指を入れ、下着越しの割れ目すら触り始めた。
「おおっ、なんという感触だ!」
「手が幸せになる!」
「おっぱい! 太もも! おお、素晴らしい!」
手が興奮していた。
触れる感触に細胞が喜んで、這い回る動きは見るからに活発化していた。
「私は幸せじゃないよぉ!」
そんなエンジェルローズの叫びは届かない。
最初は興奮と勢い任せに、活発かつ無造作に這い回っていた六つの手は、徐々にエンジェルローズの反応を覚え始める。タッチの具合によって、微妙に気持ちよさそうにして見えたり、「んっ」と小さな声が聞こえることに気づいたのだ。
童貞の自分達でも、もしかしたら快楽を与えられるかもしれない。
そう思った三人組は、時間が経つにつれて指先に技巧を凝らし、皮膚や乳房を撫で上げるタッチが進化していた。エンジェルローズ自身の肉体も、触られ続ける分だけ感度を上げ、反応を示すようになっていた。
「おおっ」
「手の平に乳首が当たって来る!」
三人のうち二人は、乳房を集中的に揉みしだいていた。その指はあまりにも柔らかく、骨の代わりにゴムでも通したようなしなりを効かせ、踊る五指によって美乳を変形させている。黒とピンクの色が使われたその部分の、コスチュームもろともパン生地のような変形を繰り返し、エンジェルローズの大きさであり得る分だけ、捏ね合わされての様子をたっぷりと披露した。
「こちらにも汁気があるようだなァ!」
残る一人はスカートを捲り上げ、スパッツの生地にも似た下着越しに、同じく柔軟性の過ぎる指遣いでワレメを上下に撫でしごいている。指先を巧妙に絡めつけ、摩擦を与え続けることで、エンジェルローズの太ももは徐々にもぞもぞと動き出し、だんだんと少しずつ、愛液の気配すら浮かべている。
最初はしっとりと、微妙に蒸れたような気配から、しだいにはっきり、くっきりと愛液の染みを浮かべて、しまいには指とアソコのあいだに糸すら引くようになっている。
「もうたまらん!」
その時だった。
乳房の方に集中していた二人の、うち片方が急に暴走して唇へと食らいつく。
「何ッ!?」
「キスだと!?」
他ならぬ三人組の、仲間内すら驚く光景に、エンジェルローズはもっとそれ以上に大きく目を見開きながら、ねじ込まれようとする舌に抵抗して、必死になって唇を引き締める。閉じ合わさったラインに合わせ、ディープキスが出来ないのなら表面だけでも、とばかりにベロベロと、その少年は舌先でエンジェルローズの唇を舐めまわす。
「くっ、迂闊だったな」
「まあいい。エンジェルローズには俺達の性奴隷になってもらうんだ。遅かれ早かれ、俺達のファーストキスはみんなエンジェルローズに……!」
(いやいや! 嫌だよぉ! ああっ、このキスだって、初めてだったのに! こんな形でするなんてサイアクだよぉ!)
「じゅぶっ、ちゅるぅ――」
エンジェルローズが嫌がっても、そのキスは止まらない。
息継ぎのためなのか、たまに離れるタイミングがある以外、その少年はすっかり唇にのめり込み、少しでも激しく貪ろうと食らいつく。唇を口内に収めようと、大きく口を開いて頬張って、隙間が空けば入り込もうと、隙すら伺う舌先で、いくらでも舐め回す。
もはや猛獣。
たまに引かせる唾液の糸は、肉食獣が獲物を食い千切ろうと、繊維を引っ張る瞬間にさえ似てきていた。
そのあいだにも、一人は乳首に集中している。
「感じるのだ! エンジェルローズ!」
指先を突き立てて、上下に素早く擦り抜き、コスチュームの表面に微妙に浮き出た硬い部分を刺激する。
「そして、こちらも喰らってやる!」
下半身を責めていた少年は、急にエンジェルローズの脚を持ち上げる。その上でベルトを外し、ズボンを脱いでいる衣擦れの音に、エンジェルローズは気づいていない。逸物を取り出して、その上でショーツをずらしていることにも気づいていない。
抜け駆けめ!
と、憎らしいものへの視線を送るのは、ファーストキスも処女もどちらも逃し、新品にはありつけないことの決まった少年一人だけだった。
しかし、構わず挿入。
(んぅぅぅ! う、うそ! え? え? え? え?)
入り込んで来た感触に、エンジェルローズはますます大きく目を見開く。
(ええっ!? うそうそ! わ、私! こっちの初めてまで取られたぁ!)
その最高の悲劇に、ますます泣きたくなって首を左右に振り回し、エンジェルローズは大きな声で三人組を非難する。
「バカバカ! っていうか痛いよォ!」
「痛いのは最初だけだ!」
「そういう問題じゃなくてぇ!」
「慣れろ! 慣れれば大丈夫だ!」
「だ、だからぁ!」
エンジェルローズがいくら何を言ったところで、腰を振り始めた少年の、ケダモノのような活発さは変わらない。行為の内容がピストンというだけで、その精神状態は獲物を捕らえた空腹の肉食獣と同じであった。
「あっ、あうぅぅ!」
「感じているか! 感じるかエンジェルローズ!」
「だ、だから痛いんだってばぁ!」
エンジェルローズはそう叫ぶが、血走った眼差しで行われるピストンは、せっせとその肢体を打ち上げ続けるばかりである。腰がぶつかってくる衝撃で、エンジェルローズの肉体は微妙に揺らされ続けるばかりである。
「はじゅぅぅ――――」
「ちゅぶぅぅ――――」
そして、アソコをやられる一方で、二人の唇が乳房へ移る。キスをためにした少年と、指での責めから切り替えた少年の、二人がかりでどちらの乳首も咥えられ、歯や唇を駆使した激しい刺激が与えられ、胸には甘い痺れが充満した。
「あっあぁ!」
エンジェルローズはあらゆる意味で喘いでいた。
胸には快感が走っていても、気持ちいいせいで喘いでいるのか、初体験の痛みのせいなのか、悲劇に対する泣き声なのか、もう自分でもわからない。
「んぅっ、んぅぅ!」
とにかく、エンジェルローズは喘いだ。
(正義の味方が――)
ただ体を嬲られたショックだけではない。
脅されたり、犯されたショックだけではない。
(正義の味方がこんな目に遭っちゃいけないのにぃ……!)
エンジェルローズの心はそういう理由で揺らいでいた。
犯されるだけでも最悪なのに、パンツを見せたり、ストリップを披露してから、この状況に至るまで、ちっとも快感がなかったと言えば嘘になる。反応してしまったことも相まって、エンジェルローズは感じてしまった自分自身のことすら気に病んで、大いに打ちのめされているのであった。
…………
……
それから、数週間後。
よくよく考えてもみれば、脅迫に屈して体を許せば、それを撮影されることにより、ますます弱みが増えるに決まっていた。
私のバカ!
なんて後悔しても、もう遅い。
(っていうか、私――――)
夕暮れの放課後に、また同じように呼び出され、天月めぐることエンジェルローズは、屋上の手すりを掴んで後ろから突かれていた。
「あぁ! あん! あん! あぁん! あぁん!」
すっかり感じて、喘ぎ声を吐き出しながら、鉄格子でも掴むように柵を握って、バック挿入によるピストンで身体を揺らされている。
「あっあっあっあっ!」
大きな大きな喘ぎ声を出しながら、エンジェルローズは思うのだ。
(なんでセックスにハマっちゃうのぉ!)
そう、ハマってしまった。
犯されたせいで快感を覚えてしまい、エンジェルローズは心のどこかでこの時間を楽しむようになっていた。二回目や三回目の時までは、まだアソコがセックスに慣れていなかったので、ここまで大きな快感はなかったのもの、数週間後の今となっては、肉棒に抉られれば大きな声が出て来てしまう。
そして、一人が挿入しているあいだ、三人組の残る二人はスマートフォンの撮影モードを向けてくるのが、いつも通りのお決まりの状況と化していた。
「あぁぁぁ――――!」
絶頂しながら、エンジェルローズは大きく仰け反る。
「ふぅ――」
すると、一人目の少年は射精を済ませた肉棒を引き抜いて、装着していたコンドームを取り外す。
「よし、次は俺だ」
二人目に交代する時、体位の要求で姿勢を変え、地面にしゃがむ少年に対して上から跨がり、対面座位で自らの身体を跳ね上げる。
「あっ、あん! あん! あぁん! あぁん!」
喘ぎながらの小刻みで小さなジャンプは、サイドテールの髪も一緒に跳ね上げていた。
「あっあっあ! あぁっ、あぁん!」
少年の肩に両手を置いて、もうすっかり慣れてしまった腰使いを披露すること、数分のうちに射精に至り、膣内でコンドームは大きく広がる。
するとまた交代して、三人目のために正常位へ姿勢を変える。
その正常位が済んでもなお、二周目が開始となって、セックスは長々といつまでも、いつまでも続いていき
すっかり日が沈んだ頃、変身ヒロインたるエンジェルローズの、ぐったりと寝そべった周囲には、いくつものコンドームが散乱していた。
「気持ち良かったぁ……あぁ、私もう駄目だぁ…………」
快楽の余韻に浸りつつ、すっかり堕落してしまった自分を思う。
エンジェルローズはいつまでも、これからずっと、三人組の性奴隷なのかもしれない。
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