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 また、アイドル達は移動する。
 斜面を登っていく最中、やはり人の視線がチラチラと集まって、吹いてくる風も気になる。文香の格好まではいかずとも、胸とアソコをわざわざ解放してある形には、だから内側に入り込むのだ。
 乳房に当たった風がそのまま入り込み、背中や胴体すら大気によって撫でられる。アソコを通った風もまた、尻の側へと流れてくる。
 視線や風を感じながらの移動の末、四人は目的地へ辿り着き、寺の中へと入って行く。
 この撮影現場において、尺を持つお坊さんの前で、置いてある像の前で、こんなにも不謹慎な格好で畳の上に上がるのだ。お釈迦様とお坊さんが見ているのに、それぞれ思うところがありつつ靴を脱ぎ、畳を踏み締めるのだった。
 ここで行うのはデッサンだ。
 寺に来たからといって、瞑想をしたり、宗教に関係のあることをするわけではなく、番組の意図するところとしては、お釈迦様の前ではしたないポーズを取らせ、恥ずかしい思いをさせてみよう、というものがある。
 四つの台が置かれていた。
 それは四つん這いで手足を置くのにちょうどいい、やや広めの面積をした台で、高さでいうと椅子の座板よりも位置は低い。そんな長方形の台が四つ、中央に頭を向けた形で置かれ、アイドル達は外側に尻を向けることとなる。
 しかも、スカートは捲り上げ、ショーツ後ろ側が穴あきなので、体勢によっては中身の肛門が見える。そうして肛門を丸出しにするため、四つん這いのポーズも頭や肩はなるべく低く、腰だけを高らかにすることが求められていた。
 恥ずかしいポーズが完成したところで、ここでの出演者達がぞろぞろと集まる。
 学ランを着て、腕にはデッサン帳を抱えた男達は、中学生から大学生まで、実年齢は様々であるものの、設定上は高校生の美術部だ。昭和チックで古めかしい、黒の学ランという記号を着て、美術部員達はそれぞれのポジションで絵を描き始める。
 肛門丸見え、性器も丸見え。
 この状態で包囲され、描かれている心境といったらないだろう。
 その描いている内容だが、デッサンのテーマは番組によって決められている。
【アナル描きコーナー】
 と、そういう名目である。
 彼らが行うデッサンは、全身を描くわけではない。肛門の皺だけを紙面いっぱいに、実物以上のサイズに拡大して、大きく描くというわけである。
 静かな時間が始まった。
 皆がそれぞれのポジションから、種類豊富な鉛筆を走らせる。濃い色の出やすいもの、薄くしか描けないもの、そうした種類を使い分けつつ、美術部員達の動き回っている手という手の数々は、紙の表面にだんだんと、デッサン対象の形を浮かべていく。
 お尻の割れ目、溝のラインに存在する皺の窄まり、その放射状のものがしだいしだいに出来上がる。細かな陰影をつけきって、最後まで仕上げるには、まだある程度の時間はかかるが、ものの数分も経つ頃には、何となくそれらしい形が出来上がっていた。
 三十分も経つ頃には、細かな調整ばかりが行われた。
 影のかかった部分は暗く、光のあたった部分は薄塗りと、色の細かい加減を分けながら、モノクロ写真にしか見えない出来映えへと、時間をかけて近づけている。それが肛門の絵だというのは、もうとっくに誰の目にもわかっていて、ただ細かな調整にこそ長い長い時間がかかる。写真の領域に近づける作業こそ、単に形だけを仕上げるだけよりも、ずっと大変な技術であった。
 そして、その時間のあいだ、誰にもアウトの判定は出ていない。
 一時間は経とう頃になっても、カメラマンは黙々とカメラを向け続けている。この光景を見守るお坊さんも、静かな視線だけを走らせている。実際の放送で、この黙々とした時間をノーカットで流すはずはなく、数分間のシーンだけを抽出して使うわけだが、とはいえカメラ自体は延々と回り続ける。
 だが、それで終わるはずがない。
 ただ黙々とデッサンが続いた光景だけで、ここでの撮影が終わるはずはない。必ず何か仕掛けてくると、四人それぞれ思ってはいたものの、それがなかなか現れず、時間ばかりが流れているので、アイドル達の誰もが油断をし始める。
 肛門を描かれている。
 その恥ずかしさ以外、特に何も起きようとしない。
 淡々とした時間の流れに、やはりここでは何もなく、ただ描かれて終わるのだろうかと、中にはそんな風に思い始める少女もいた。
 しかし、その時である。
 美術部員の一人が立ち上がり、畳を踏み歩いて突き進む。一人の少女の真後ろへと、肛門から数センチへの距離へと顔を近づけ、彼女はお尻に急接近した気配にさっと強張る。
 渋谷凛は緊張の面持ちに移り変わった。
 どこか慣れてしまってきて、赤らみの薄れ始めていた恥ずかしさが、至近距離という理由で急速に蘇る。
 凛は畳しか見ていない。
 他のアイドル達もそうだがみんなして、基本的には畳の目にしか視線をやってはいない。自分の肛門を描く群れの方など、見ても恥ずかしいだけであり、少しでもアウトの可能性を避けるためにも、わざわざ見ないようにしていた。
 しかし、たった数センチの距離からジロジロと観察されては、皮膚をレーザー照射で熱されでもしているような、熱さのような痒みのような、それともムズムズとするような、表皮に何かの走る感覚を覚えざるを得ない。
 しかも、それだけではなかった。

 ふぅー……。

 と、息まで吹きかけられる。
「ひぇっ」
 おかしな声が出てしまった。
 純粋に体がびっくりしたことと、息をかけられた恥辱とで、凛は出してはいけない反応を表にしてしまった。
 そんな己の失態に気づいた途端、その宣告は下される。
『渋谷凛! アウト!』
 途端に小型のローターが震え始める。
「んっ、んぅぅ……んっ、んぅ…………!」
 すぐに凛の口から声は出た。
 ローターの刺激に翻弄され、凛のお尻はモゾモゾと、まるで左右にフリフリと動こうとするように、小さく振りたくられている。その動きが面白く、複数いるカメラマンの一人は、これは撮らざるを得まいと、途端にその尻を拡大していた。
「んんぅっ、あっ、んぅぅ…………!」
 刺激が強い。
 我慢しようとは思っても、どうしても尻は動いてしまう。強い電流に筋肉が反応して、嫌でもピクピクと跳ねるようにして、小刻みなダンスを披露した上、やがてとある一瞬だけ、その一回に限って大きく弾んだ。
「――――っ!」
 イったのだ。
【渋谷凛、お釈迦様の前で絶頂】
 そうテロップが付く予定もさることながら、その瞬間ににこやかなお坊さんが歩み寄り、尺を振り上げているのである。

 ペシィン!

 その一撃は、凛の尻たぶに薄らとした赤みを作った。
「神聖な畳の上で絶頂とは、恥を知りなさい」
 イったことへのお仕置きだった。
 今ここでは、アウト時にローターが震えるだけでなく、お坊さんにまで叩かれるという、追加の罰ゲームまであるというのだ。


 となると、塩見周子は緊張していた。
 渋谷凛がアウトとなって、その直後の周子の元に、また他の美術部員が顔を接近させてきている。尻の真後ろ数センチの距離から来る気配に、顔中を歪め尽くしているものの、不幸中の幸いとでも言うべきか、表情はカメラやスタッフから見えないはずだ。
 顔が理由でアウトになる恐れはないが、しかし肛門を視姦されている。
 じー……っと、まじまじとした視線が突き刺さり、そこに針でも刺されているような、けれど本当の痛みとはまた違う、痛いけれど痛くはない、しかし何かを感じてならない感覚は、延々と肛門に降り注がれる。
 堪えているうち、いつしか拳に力は籠もり、爪が軽く食い込み始める。
「ふぅー……」
 息を吹きかける。
(うっ、駄目……何するの……)
 小さく小さく、ほんのかすかに、周子は尻を反応させてしまう。
「ふぅー……」
 二回目だった。
 番組意図としては、そうすることで周子をアウトにするため、逆に周子自身はアウトを避けるため、羞恥を煽る行為と我慢のぶつかり合いで、明らかに周子は押されている。表情を見られていれば、とっくにアウトになっているほどに、耳すら赤く染まり変わった苦悶がそこにはあった。
 ただ身体的な反応だけは最小限に抑えているから、今のところはまだ、アウト判定は出ていない。
 だが、その時である。

 スマートフォンの電子音声により、撮影が始まったことを周子は悟る。

 カメラ自体は始めから、テレビ撮影なので回っているが、尻の真後ろの美術部員の手によっても、新たにカメラが回っている。スマートフォンでペチペチと、軽く叩いてくる行為は、おそらく撮影機器の存在を周子に教えるためだった。
(しゃ、写真? いや動画?)
 どちらにせよ、肛門などアップで撮られたい場所ではない。
 写真をパシャリと撮られたのか、それとも動画撮影が続いている最中なのか。どちらにせよ周子の苦悶はより大きく、激しいものに移り変わって、頭の沸騰さえ感じ始めた矢先、後ろから声はかかってきた。
「動画だよ」
(い、いやぁ……動画かぁ……参ったなぁ……)
 本当に参っている。
 頭の沸騰のあまり、このままでは本当に脳に火が通り、頭蓋骨の内側がどうにかなってしまいそうな思いに駆られている。
「ヒクヒクさせてくれない?」
「え? な、何? ヒクヒクって」
「肛門括約筋に力を入れて、ヒクヒクさせるんだよ」
「意味がよく……」
「いいからいいから」
「いやぁ、でも本当に意味がよく……」
 要求に対して、周子が躊躇ってばかりいる時、急につかつかと歩んで来る気配が迫る。それがお坊さんだとわかったのは、次に瞬間なのだった。

 ペシィン!

 尺で叩かれた。
「お釈迦様の前で何事だ!」
「え、えぇ!?」
 叩かれたことへの驚きと、意味不明の理屈に対する困惑が入り交じり、そういう番組意図だから、従わなくてはならないものだと理解するまで時間がかかった。数秒感の放心と、もう数秒感の困惑の末、周子はやっとのころで指示を飲み込み、泣く泣くながら、肛門括約筋に力を入れる。
 きゅっ、きゅっ、と、肛門を動かした。
 力を加えることにより、皺を内側に窄めさせ、脱力によって縮めたものを直ちに伸ばす。その延々とした繰り返しを披露した。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 何回やれば、いつまでやればいいのかがわからない。
 終わりのわからない行為を繰り返し、周子の脳は沸騰の勢いを増していく。これが比喩でなく本当の沸騰なら、一体どれほど大きな泡が出ていることか。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 ストップの指示がでない。
 やめたいけれど、やめどころのわからない、恥ずかしさを増幅する行為の繰り返しで、しかし唯一幸いなのは、これでアウトにはならなかったことである。


 再び、渋谷凛の元に美術部員の誰かが迫る。
 中学生から大学生まで、年齢幅のあるうちの、誰がやって来たのかは、わざわざ振り向くつもりもないのでわからない。ただ気配だけを感じ取り、またしても、ふーっと息を吹きかけられる恥ずかしさに、歯を強く食い縛る。
 スマートフォンがぺたりと、尻たぶの上に置かれた。
 それは一瞬。
 すぐに離れていくわけだが、その一瞬の接触こそが、凛にスマートフォンの存在を教えることとなる。続けて聞こえる電子音声で、撮影が始まっていることを悟った上、先ほどあった周子と美術部員のやり取りも聞こえていた。
 きっと動画だ。
 そう悟った次の瞬間、美術部員は告げてくる。
「アナル運動をお願いします」
「え……」
「アナル運動」
 まさか、周子がやっていることと、同じことを凛にもやれというわけなのか。
(最悪……)
 大いに恥を忍ぶ気持ちで、凛もまた肛門括約筋に強弱をつけ始める。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 そして、それは文香とアナスタシアにまで及んでいった。
 残る二人の元にも美術部員は接近して、それぞれにスマートフォンを構え始める。動画撮影の旨をあえて伝え、お前の肛門を撮っているぞと知らしめた上、肛門運動の支持は入るのだ。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 これを全員が行っていた。
 力を加えることで、皺を内側に丸め込む。収縮した肛門は、脱力によって元の形に皺を伸ばして、その脱力から直ちに収縮状態へ、また脱力状態へ、そこで呼吸でもしようとするような、ヒクヒクと蠢き続ける運動を、四人全員が繰り広げた。
 その恥ずかしさは言うまでもない。
 誰しもの頭が沸騰して、首から上は茹で蛸のように染まり変わり、悶絶めいた表情と共に顔中から熱を噴き出す。温泉で肛門を洗われたり、目の前にショーツを突きつけられた時に匹敵して、大きな羞恥心を四人は味わい尽くす。
 しかも、スタッフのカメラすら迫って来る。
 肩に担ぐほどの大型カメラで、わざわざ一人一人の尻の真後ろに接近して、順番に拡大撮影を行っていく。このスタッフの気配はそのまま、肛門ヒクヒク運動が放映にも使われる事実を四人に伝えており、アイドル達の羞恥の苦悶はさらにより一層のものとなっていた。


 最後に四人は並んでいた。
 完成したデッサンイラストをそれぞれ渡され、それで胸やアソコを隠すことのないよいに腹部の位置に持たされて、アイドル達はお釈迦様を背に横並びとなっている。
 渋谷凛はいかにも惨めな思いを味わい、塩見周子も苦悶か悶絶のようなものを浮かべて、アナスタシアや鷺沢文香は無念でならないものを滲ませている。それぞれ、微妙な違いを帯びた表情は、共通して茹で蛸のように染まり上がって、耳まで綺麗に赤色をしているのだ。
 全員が全員とも、自分の肛門を持っている。
 鉛筆で描かれたイラストの、モノクロ写真にも匹敵する写実性の高さを手に持って、四人は自分の肛門をカメラに向けて整列している。
 どれも綿密だった。
 集合写真のような遠巻きの撮り方をした上で、一人一人にカメラを近づけもするわけだから、その綿密さは必ずや視聴者にも伝わることとなる。肛門を直接観察するまでもなく、絵を見るだけで皺の形や本数が伝わることとなる。
 ファンに肛門を詳しく知られる運命が決定されて、四人の誰一人として明るい表情はしていなかった。



 
 
 

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