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 時代の変化というものは、テレビ番組の内容にも様々な移り変わりをもたらした。かつては乳首がお茶の間に流れたと言われるが、規制の波によって一度は昔の出来事となり、やがては「そんなことがあったなんて信じられない」とする世代の人間が現れる。
 規制という方向で変化が進めば、それは当然のことだった。

 ではもし、逆行する形で時代が進めば?

 規制を解いていく方向に変化が進み、かつてのものが取り戻されていく形となれば、今では滅び、かつてはあったお色気番組の数々も、やがて復活の兆しが訪れる。
 原因は何でもいい。
 規制をやりすぎればいいというものではない、とする主張が登場して、それがひょんなことから主流となる。セクシーを売りにする女性が「もっと大っぴらにアピールする権利がある」と言い出して、その意見に同調する者が現れる。
 何らかのきっかけで歴史に変化が生まれていき、そして規制が解かれていった。
 これはそんな世界での出来事である。

     *

 湯煙の漂う温泉は、山から見渡す緑の景色を名物として、外の涼しい風と共に湯加減を味わうのが醍醐味とされている。
 入浴時、タオルは巻かないことがマナーらしい。
 そんな正真正銘の全裸で入るべき温泉に、四人のアイドル達もまた全裸で、それぞれシャワーを浴びようとしていた。
 お湯に髪を浸さないため、体には巻かないものの、頭にはターバンのようにタオルを巻きつけている渋谷凛に、鷺沢文香も同じくターバンを巻いている。元から髪の短い塩見周子とアナスタシアは、対して頭には何も巻かない。
 頭部の状態は綺麗に二人と二人で分かれているが、周囲の視線を気にした状態だけは、四人そろって似たようなものだった。アソコを見せたくないあまり、自然と腰はくの字気味に、乳房も隠したい思いがあるので、肩も内側に丸まっている。
 誰が見ても、恥じらっている仕草である。
 だが、スタッフはこれを見逃し、今のところはアウト判定を出していない。叩かれることのない四人は、まず揃って椅子に座り、入浴前に身体を洗うことになる。
 洗い場は岩壁だった。
 ごつごつとした岩の中から蛇口を突き出し、シャワーホースも生やしたそこは、鋭利な部分は削り取り、できるだけ丸っこく磨き抜き、平面に近づけてはあるものの、完全な平面になりきることなく、岩壁としての趣を残した凹凸が見受けられる。
 鏡だけが、岩壁の中でも数少ない、綺麗な平面だった。
 四人のアイドル達はそれぞれ座り、周りでは男がシャンプーをしている中で、少女達は体を洗うのだが、この番組の企画上、彼女達は自分の手で洗うことが許されていない。柔肌に手を触れて、泡を塗りたくる役目は、番組が用意した男にこそ与えられていた。
 湯煙の漂う中、並ぶ四つの白い背中に、同じく四人の中年がぞろぞろと集まるなり、少女達の真後ろに陣取っていた。
(うわっ)
 渋谷凛が引き攣った。
(いやぁ……)
 塩見周子も唇を引き締める。
(……緊張、します)
 鷺沢文香は硬く背中を強張らせる。
(もうアウトなりたくないです)
 アナスタシアも似たように固まっていた。
 四人揃って、これから中年に体を触られ、いたるところをまさぐられることに対しての、それぞれの思いを抱いている。どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか、けれど仕事なのだし、アイドルとしてこなさなくては――それぞれに、複雑なものを抱いている。
 そして、視線が鏡へ行くことで、四人の誰もが背後の様子に気づいていた。
 ――ペニスだ。
 中年達の勃起した逸物が鏡に映り、肩越しに大きな亀頭が見える。鏡に映る自分の顔の、その真横に逸物が浮かんでいるのが、彼女達の見ている光景だった。
 あからさまな緊張も仕方がない。
 これから中年に手に触れられて、体中に泡を塗りたくられようというのに、思春期の少女が平然とした顔などしていない。まして彼らは全裸であり、興奮の証拠を硬く剥き出しにしているのだ。
 とんだ我慢ゲームだ。
 恥ずかしがってはいけない、恥ずかしがったと見做されれば罰ゲームという趣旨の企画で、これは単なる辱めだ。裸体を視姦したり、下着を眺めて恥ずかしがらせるといった、羞恥心を煽る行為とはまた違うのではないか。
 そんな思いが四人それぞれの中には大なり小なりあるわけだが、もう撮影に参加してしまっている以上は、それを言い出しても仕方がない。
 四人それぞれ、緊張の面持ちを浮かべている。
 その後ろに膝を突き、シャワーを握り、石鹸を泡立て始める中年達は、逆にこれから行う楽しみにニヤニヤと鼻の下を伸ばしていた。
 彼らの手は、四人のアイドル達の背中に触れる。
「――っ!」
 ビクっとしながら、凛は強張りきった表情で、唇を内側に丸め込む。屈辱を堪えた顔で耐え忍び、太ももの上に固めた拳を震わせていた。
(やだな……これ……)
 周子も似たような面持ちで、肩すら硬くしながら目を瞑り、辛抱強く堪えている。
 文香も、アナスタシアも、みんなでこの状況を我慢して、逆に中年はアイドルの柔肌を楽しんでいる。泡をまぶした背筋に手を滑らせ、塗りたくっていきながら、くびれや二の腕を撫で回す。
 それら手つきは当然のようにいやらしく、彼らは愛撫のことすら意識している。
 背中を流すだけであったら、嫌は嫌でもまだマシだった。
 だが、どの中年も尻のカーブに指をやり、四指で泡をぬりぬりと、すりすりと可愛がる。背中に抱きつく真似までして、肌に体温の触れてくる嫌悪感を四人は堪え、背後から回り込む両腕の、乳房に絡む両手にさえ耐えなくてはいけなかった。
 まさに辱めに対する我慢である。
 恥ずかしさの我慢とは、どう考えても趣の異なる状況に、しかしアイドル達は黙して堪え、この時間が過ぎ去るまで、辛抱強くあろうとしている。肘から指先にかけて泡を伸ばされ、太ももに手が置かれ、ふくらはぎや足首が現れる。その全身を余すことなくタッチしてくる感触に、苦痛に耐えるような顔すらそれぞれ浮かべていた。
 人に体を洗われて、それを撮られていることの恥ずかしさはもちろんある。
 羞恥心を伴いこそしているが、それ以上にある辱めの感覚に、もっぱらそちらを堪えることの方へと、四人の心は傾いている。
 しかし、とある瞬間だ。

 四人揃って立たされて、全員が同時に尻を洗われる。

 鏡には背中を向け、カメラとは正面から向かい合い、中年の手で後ろから、お尻を泡によって磨かれる。愛でるような、丁寧に仕上げようとしてくるような、さも優しげなタッチを後ろからは感じつつ、アイドル達は直立不動でカメラと向き合う。

 じぃぃぃ…………

 と、一斉に視線が集まった。
 野次馬が周囲に輪を作り、老人から若者まで、世代それぞれの男達が共通して勃起しながら、アイドル達の泡だくの裸体を視姦する。ニヤニヤとした視線の一つ一つが、好みのアイドルを中心に視姦しながら、その隣に立つ他のアイドルも、ついでのように眺め尽くす。

 四人の顔は燃え盛るように赤らんだ。

 誰が見ても明らかに、首から上だけが綺麗に染まり変わっている。トマトとも茹で蛸とも例えられる顔色で、なおもアウト判定は出ていないが、集団視姦がアイドル達にもたらす感情は明白だった。
 既に四人全員の脳が煮たって、沸騰直前のようにかすかな泡を出し始めていた。
 そこまで熱せられてしまった顔は、手の平を近づければ、温度を感じ取れてしまいそうなほど、傍から赤熱して見える。
 それでもまだ、アウト判定は下されない。
 しかし、アイドル達にカンペの指示が下されて、揃って腰をくの字にして、少しだけ後ろへ突き出した瞬間だった。

 肛門洗いが始まった。

 片方の手で尻たぶを掴み、親指でぐにっと開いての、皺の窄まりを片側だけ引き延ばした肛門に、もう一方の手が迫る。指先に絡みつく泡が塗られての、全員が顔に浮かべる苦悶は、アイドル達を羞恥の絶頂に立たせようとするものだった。
 指が皺の一本一本をなぞっている。
 その感触に激しく引き攣り、悶絶めいた羞恥の表情に至るまで、そう時間はかからなかった。

『全員! アウト!』

 たちまち脱衣所から温泉へと、ハリセンを握った黒子が四人、さながら部隊の突入のように現れる。
 そして、アイドル達は事前の取り決めによって決まったポーズを、厳密な規定はないが、叩きやすいように尻を突き出すポーズを取る。その今回の突き出し方は、みんなで鏡に両手を付き、バック挿入の直前さながらに、足を肩幅に開くものだった。

 ベチィン!

 と、渋谷凛の尻が打ち鳴らされる。
 その瞬間、凛のより激しい苦悶が浮かび上がった。

 ベチィン!

 と、塩見周子の尻が打ち鳴らされる。
 それにより、周子の壮絶に引き攣った表情が浮かび上がった。

 ベチィン!

 と、鷺沢文香の尻が打ち鳴らされる。
 すると、文香の深い深い無念の表情が浮かび上がった。

 ベチィン!

 と、アナスタシアの尻が打ち鳴らされる。
 ロシア人の美白肌などそこにはなく、赤熱と苦悶に満ちた顔こそがそこにはあった。

 これら四人の表情さえもが撮られている。
 鏡にもクリップ型の小型カメラが着いており、湯気や湿気に強いレンズで作られているために、だから表情はばっちりと、それも大きく撮られている。後で番組スタッフが編集を行う時、この四つの表情は、大画面にアップをするか、それともワイプ方式での挿入か、何らかの形で採用されることとなる。

     *

 そして、入浴シーンだ。
 お湯の中に胸まで浸し、女体の肝心な部分を水面の下へと隠せるのは、先ほどの状況に比べれば、よっぽど落ち着くものである。
 あくまで、比べれば。
 そもそも比較対象がおかしいわけで、四人のアイドル達からしてみれば、今なお異常事態が続いていることは変わらない。
 全員、配置が別々だった。
 スタッフや監督の指示により、四人が一箇所に固まる入浴は禁じられ、四人はそれぞれ四箇所に分かれている。しかも、その両隣には必ず男が配置され、横から太ももに手を置かれている状態だ。
 心の底から落ち着いて、リラックスして過ごせるはずはなく、どこかそわそわしたような、焦燥にも似た表情を浮かべるのが、四人全員に共通した面持ちだった。

 渋谷凛も太ももを触られている。

 お湯の中、カメラには映らないところで、腕がくっつくほどに近い距離まで迫る両側の、二人の男によって左右の太ももをまさぐられ、たまにアソコまで狙ってくる。その不快感を堪えるため、唇を噛み締めている凛の耳に、ふと歌声が聞こえてきた。

「ちーんちーん、ぶーらぶーら、きょーこんっ、やりー」

 それはでんでん虫虫かたつむりの、あのリズムに下品な言葉を当て嵌めて、品のない下ネタを披露する男であった。
 本当にペニスを揺らしながら歩いていた。
「おーまえの、ずーりねーた、どーこにーあるー」
 歌いながらお湯へと入り、凛の真正面までやって来るのは、この番組出演に抜擢された芸能人の一人である。彼はトーク番組では下ネタを口にして、アダルト番組では竿役を務めることもある、その手の役に選ばれやすい三十代の男である。
 その彼が何の抵抗もなく、それが自分の演じるべきキャラクターだと割り切りながら、全国放送される予定の撮影で、まさに男性器をぶらぶらと揺らしながら歩いている。チンチンぶらぶら、という言葉通りに、腰を左右に動かしながらの歩行の末、凛の真正面に辿り着いてもなお、彼は目の前で揺らし続ける。
 当然、勃起していた。
 血管が浮き出るほどに隆起した雄々しい棒は、まるで入るべき穴でも求めたような、獲物を求めた猛獣の気配を解き放ち、裸の凛としては見ていて不安を煽られる。
 だが、凛が心配するべきは、番組コンセプト上はあるはずのない本番行為より、もっと別の事柄なのだった。
 そう、どうやって羞恥を煽ってくるかだ。
 ペニスを前に、それをきちんと見ることが恥ずかしく、目を背けたい思いに駆られていた凛に対して、それは唐突に始まった。
「俺のズリネタはここかぁ!」
 彼は急にオナニーを開始した。
「は!?」
 凛は目を丸め、惜しげもなく肉棒を握り始める男に対し、思わず顔を背けてしまっていた。まさか本人の目の前で、人をネタにして自慰行為を始めるとは、さしもの凛も想像していなかったのだ。

『渋谷凛! アウトー!』

 自分の失態に気づいた時にはもう遅い。
 凛は泣く泣く立ち上がり、こんなことでアウトになった屈辱を胸に、滑らかに削り取られた岩へと両手を置く。
 その心許なさは言うまでもない。
 凛が出演しているのは、本番有りのアダルト映像ではなく、あくまで乳房や性器が解禁されているだけの、あくまでバラエティ番組に過ぎない。だから後ろから挿入される恐れはないとわかっていても、ポーズ自体はバック挿入直前のそれであり、そして凛の真後ろには、まさに勃起した芸能人がペニスを揺らし続けている。
 そして、今回アイドルのお尻を叩くのは、服を着た黒子の入浴を避けるため、その芸能人の手であった。

 ぺちん!

 と、彼は凛の真横に移動して、振り上げた腕で尻たぶを打ちのめす。
 軽快な音が鳴り響き、ハリセンとは異なる感覚に、凛は恥辱に表情を濡らし尽くした。

 そして、その芸能人は残る三人のアイドルの元へ移動していく。

 周子やアナスタシアに対しても、急に目の前でオナニーを始めたり、下ネタの言葉をかけたりしていたが、二人は反応を抑えきる。凛の状況を遠目に見ていた二人なので、予想通りの自慰行為の見せびらかしに、目を背けることはしなかった。
 よって、ここでのアウトは避けたのだが、文香の順番がやって来た時だった。

「ケツ島! お尻アイランド!」

 彼は急にお湯に潜って、尻だけを水面に浮かべ始めた。
 まさに、島。
「や……!」
 そして、それは文香にとって身に覚えのある光景だった。自分の出演した以前のエロ番組において、自分の尻がプールの水面から出ていた場面を、子供達から「ケツ島」と言われ喜ばれていたことを知っていた。
 文香の記憶に、それが蘇ったのだ。
 そのせいで思わず反応を示してしまい、反射的に顔を背けたわけだった。

『鷺沢文香! アウトー!』

 こうして、文香もまた尻を突き出す。
 バック挿入を彷彿させるポーズによって、牛のように乳房を垂らす。この時の文香が抱える感情は、まさに凛が抱いたものと同じで、挿入などないとはわかっていても、この状態で真後ろにペニスがあるというのが心許ない。

 ぺちん! ぺちん!

 隣まで移動してきた彼の手で、尻たぶが打ちのめされる。
 またも軽快な音が響き渡って、この温泉内での撮影は終了した。



 
 
 

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