このバラエティ番組の撮影舞台は、山の上にある大きな旅館だ。
観光地を巡る旅行客が、バスかロープウェイで移動してくることを前提に、駅や繁華街からは遠い不便な土地に建てられている。繁華街や観光スポットを巡るには、登った山を降り直さないといけないわけで、ならば街のホテルを選んだ方が、利便性はもちろん高い。
だが、この山自体が観光スポットの一つであり、名物の滝や寺が山内の各所にある。絶景スポットの景色もあり、おまけえに旅館には内装店も用意されており、カラオケや卓球にボーリングなど、レジャー施設すら充実している。
それに山の上り下りも、そう時間がかかりすぎるわけではない。
数日過ごすのにはちょうど良い、この土地でもトップの宿泊スポットだ。。
だが、オフの日の観光旅行でなく、仕事で来ているアイドル達に、それを楽しむ余裕などありはしない。
温泉から上がって、タオルで体を拭いた四人のアイドルに、待ち受ける次の試練は、着替えが没収されているという事実であった。
【服が消えて困惑する四人】
というテロップが、放送時には着けられる予定となっている。
しばし困惑したり、場所を間違えたかと他のロッカーを確認する様子が続き、それでもやはり服が消えているとわかったアイドル達は、それぞれに脱衣カゴへ手を伸ばす。そこに置かれていた一枚のカードに気づき、その書かれたメッセージを確認したのだ。
『全裸徘徊ゲーム』
ゴールに到着した順から衣服をゲット!
※タオルで隠すのはルール違反です!
つまり、これも羞恥企画の一部である。
だとしたら、出演者はその意図に沿わなくてはならず、アイドル達はより強い困惑と、そして大きな躊躇いを胸にしながら出口へ向かうが、タオルを持つことすら許されないのでは、当然出るに出られない。
出口を前に足が竦み、その背後では男達がごく普通に服を着て、時間が経つにつれて裸の数は減っていく。いつか最後の一人まで着替えきり、全ての男が着衣を纏った時、この旅館内に存在する全裸の人間は、たったの四人となるわけだ。
全裸の状態で、同じく全裸の男に囲まれて、落ち着いていられる女はそうそういないが、逆に周りが服を着ていて、自分だけが裸という状況も、心に来るものがあるはずだ。
アイドル達はお互いの顔を見合わせ、目やヒソヒソ声で何かを相談し合ったり、一緒になって躊躇ったりしているばかりで、なかなか外に出ることがない。そんな出るに出られずにいる様子も、放送時には視聴者を楽しめるワンシーンとして編集され、良い部分を切り取ったものが適切な長さで映像に使われる。
やがて、ようやく決意してか、アイドル達は脱衣所を出た。
先ほどまでは仮にも温泉、裸でいるのが当たり前の空間にいたわけで、しかし今度は公共の場に裸で出る。人目のある廊下やロビーへ向かわなくてはならない気持ちといったらなく、四人はさぞかし羞恥と苦痛を感じていることだろう。
しかも、彼女達は四人一緒にいられるわけではない。
恥を忍んで廊下に出て、少し進んだ先の小さなロビーには、そこにはコースを指定するための看板が立てられていた。アイドルの指名と矢印が、それぞれ四つの方向を示しており、全員で別々のルートを歩かなくてはならないルールを突きつけていた。
温泉からこのロビーまで、短い一本道を歩んだのが、今の四人の居場所である。
家族連れ、友達連れがベンチ型のソファに掛け、仲間が温泉から出るまで待っていたり、この場所を待ち合わせの場として、一緒に入ったりという具合の、待合用の空間として設計された温泉前ロビーには、前後左右にそれぞれ二本以上の廊下が延びている。
温泉とロビーを繋ぐ一本道の、壁の北面にあたる方向には、その一本道の廊下しかないものの、その西と南と東には、いずれも二本ずつの廊下があり、といってもそれらの廊下は、完全に別々の行き先に繋がるわけではないい。
Hの文字やあみだくじの形のように、隣り合った廊下と廊下が左右で何度か繋がる構造で、それは小さな中庭を入れるための造りでもある。といっても、ゴールに着くまで合流できないようにコース設計は成されているので、広い空間に出た時などは、よりはっきりと離れ離れになるわけだ。
この旅館は西館と東館に分かれている。
その中央奥が温泉で、四人のアイドル達はまず東西二人ずつに分けられる。その東西に分けられた二人がさらに、別々の廊下を歩くこととなっている。
宿泊室は全て二階以上の階にある。
一階は西のレジャー施設と東のお店コーナーに分かれており、どちらにも十分なエキストラが集まっているので、普段の賑わいある日々と変わらない光景が作られている。一般人から選ばれたエキストラが大半で、その仕事ついでに旅館を楽しみに来ているので、仕事半分遊び半分の彼らの様子は、視聴者にとっては本物の一般客が映り込んだものと区別がつかない。
アイドル達は離れ離れに進んでいく。
四人の行くコースはそれぞれ、西館と東館の二手に分かれ、おおまかにU字の形を取って、また中央館に戻るものである。その道中にも、何なら今この場にさえ既に、それなりの人目が溢れている。
腕で胸を押し隠し、手の平ではアソコをぴったり覆った面々は、それぞれの方向へと散るのであった。
*
アナスタシアは肩を縮めていた。
西のレジャー施設を通過し、その上で中央館の受付前ロビーをゴールとしている彼女の後ろに、カメラやマイク機材を担いだスタッフが着いてきている。別アングルから撮るために、前方からもカメラは向られ、後ろ歩きをするカメラマンさえ着きっきりで、残る三人も身の周りのスタッフに関して同じ状況に置かれている。
一般人の視線の有無に関係無く、まずスタッフには囲まれるのだ。
そして、実際にはエキストラの途切れる場所はほとんどなく、ある程度は計画的に配置されているため、誰かからの視姦は絶えずつきまとっている。
アナスタシアはそんな周囲からの視線を大いに気にかけ、顔を赤らめながら、スリッパの足を進めていった。
中庭を通過していく。
窓ガラスの向こうには、池に鯉を泳がせた風流な景色があり、窓辺に立つ老人がそれを眺め見守っている。その杖を突いた老人が彼女に気づき、アナスタシアのような美人が裸で歩いているのを目の当たりにした時、老人は満面の笑みを浮かべていた。
はっきりとした視線に、身が縮みそうになる。
(やっぱり、ジロジロ見られてます)
アナスタシアは乳房を隠すための腕力を強め、アソコを覆った手の平も強張らせる。老人の元を通り過ぎても、他にもまだいくらでも視線があり、正面からすれ違ったり、後ろから追い抜いてくる一般人の、通行人の視線は必ずといっていいほど釘付けである。
(とっても恥ずかしくて、私、透明人間……なりたいです……)
そんな切実な気持ちを抱くのは、もちろん彼女一人だけではない。
塩見周子がファンに話しかけられていた。
コースを歩いていた最中、急に真正面から同い年の少年が現れて、緊張しきった赤い顔で告げてきたのだ。
「あ、あの! 俺、ファンなんです!」
周子はまず慌ててしまった。
裸でさえなければ、もっと普通に冷静に、そつない対応が出来たはずだが、周囲の視線が気になってやまない中、通行人からジロジロと見られるだけでなく、わざわざ目の前にまでやって来るファンがいるなど、さしもの周子も予想していなかった。
(そりゃ、何か仕掛けてくるかも、とかは思ったけど)
いかにも純情なファンである。
握手の求めにでも応じれば、感激しながら「この手は一生洗いません」とすら言ってきそうな、興奮の熱に浮かされた少年がそこにいる。裸の少女だから興奮をしているのか、憧れのアイドルに会えて、ファンだからこその純粋な興奮なのか、見ていてわからなくなってくる。
「サインをお願いできませんか!」
そして、普通なら特に困らないお願いを彼はしてきた。
プライベートを邪魔されたわけでもなく、カメラの回った仕事中のタイミングで、快くサインに答える絵を撮らせる。そこに何の困る話もないが、今の状況では「本来なら」と注釈を付けなければならない。
全裸なのだ。手で裸を隠している最中なのだ。
しかし、マジックペンと色紙を手に、頭を下げながら二つを突きつけてくる少年の、熱意ある頼みを無碍にはできない。
(い、いやぁ……でも、あたし今裸で、ちょっと……)
右腕に乳房を押し隠し、手の平でアソコをぴったりと覆った状態で、渡されたものを受け取りにくい。その二つを受け取るために、両手を使用してしまえば、つまり恥部を隠す手段が一時的に失われる。
(仕掛け? 仕掛けなん?)
「だ、駄目ですか?」
頭を下げきっているままに、首の角度だけを上げた少年の眼差しには、なんと涙が溜め込まれていた。これが演技なら大したもので、こんなに頼んでも願いを叶えてもらえない、それが悲しくてたまらない表情にしか見えなかった。
周子は全裸だというのに。
「駄目じゃない。駄目じゃないけど……」
困り果てていた。
確かに温泉では男という男に全裸を見られ、何なら肛門を触られすらしているが、恥ずかしい状況にそれで慣れきったわけではない。こうしている今にも、恥ずかしい気持ちは続いており、腕を恥部から放した途端の、いかに羞恥心が膨らむことかは、容易に想像できてしまう。
だが、かといって対応しないわけにはいかない。
「わ、わかった。わかったから」
困りながらも色紙を受け取り、マジックペンを握ったことで、それまで隠し続けた乳房やアソコが解放される。
「お、おお?」
少年のは豹変した。
今の今まで純情そのものだった可愛い目が、途端に邪悪なものへと染まり変わって、いかに演技のプロであったかを思い知る。やはり監督やスタッフが用意した仕掛け人で、周子がその存在を知らなかっただけで、この少年もどこかの役者か何かなのだ。
最初に熱心かつ純粋なファンを演じて、両手をどかさせた上で露骨極まりない視姦をする。彼はそういう仕掛けだったのだ。
露骨にじろじろ、前のめりにまでなって胸を見る。
周子がそれを気にして腕を動かし、少しでも見えにくい体勢を取ろうとしながらサインを描くと、今度は素早くしゃがみ込み、アソコに向かって大胆に顔を近づけてくるのであった。
(うぅぅぅぅ――――)
至近距離からの視姦である。
「は、はい! できたできた! あたしはもう行くから!」
突き返すようにサインを渡し、周子はすぐさま小走りで駆けていく。
だが、そうやって恥部を素早く隠し直して、少年の前から消え去ろうとする忙しさに、たちまち判定が下されることとなる。
『塩見周子、アウトー!』
しまった――と、思った頃にはもう遅く、一体どこに控えていたのか、黒子がたちまち駆けつける。その構えたハリセンに尻を叩いてもらうため、周子はその場で壁に両手をつく。
パァン!
と、何かの破裂音のように大きな音で、周囲の注目が一気に集まっていた。
(あかんて!)
叩かれる屈辱もそうだが、みんなにこの場面を見られることも、たまらなく恥ずかしい。それからの周子はかなりの早歩きでその場を去り、ゴールへと向かっていった。
渋谷凛には特別な試練もなく、ただ裸で歩き回る恥ずかしさにさえ耐えていれば問題なかった。その全裸徘徊が最悪なのだが、周子にあったようなサインせがみも何もなく、ひたすら視姦を堪えて歩き抜くのみだった。
そして、東館をぐるりと周り、Uターン構造の道を進んで中央館にあるゴールへ辿り着く。
【GOAL】
と、文字を掲げた看板は、受付カウンターから数メートルは離れたテーブルの、そのすぐ近くに立てられていた。ゴールポイントとなっているテーブルに辿り着くと、先に到着していたアナスタシアと顔を見合わせ、それによって凛は顔を引き攣らせる。
「えっと、衣装ってもしかして」
「ンー。この服、すっごく目立ちませんか?」
「そうだね」
としか言いようがない。
アナスタシアが着ているのは制服だったが、セーラー服から胸元の部分だけを刳り抜いて、赤いスカーフが乳房の狭間にかかるようにした改造衣装だ。しかもスカートの布も一部分を切り落とし、そこだけ折れ目の帯を数本抜き取ったかのように、アソコが丸出しとなっているのだ。
上下どちらも丸出しで、ブラジャーは着けていない。
見ればショーツは穿いているが、それとて穴あき構造で、性器を露出するものだ。肝心な部分を隠す役には立たない、全裸よりはマシという以上の評価を与えようがない。いや、理屈で言えばお尻だけは隠せるが、本当に全裸よりもマシなのか、その評価を素直には与えにくい。
そんな困った衣装を、自分もまた着るのかと思ったら、いよいよ頭が痛くなってくる。
スタッフに衣装を渡され、凛もそれに袖を通すが、恥部が隠れないようでは落ち着きが得られない。
しかも、ショーツには仕掛けがあった。
布を二重にした狭間に、何かが入っているようで、割れ目の上端、クリトリスの位置に硬い何かが当たってくる。一体、何を仕込んでいるかは知らないが、この番組の性質を考えれば、またろくでもない物なのはわかりきっていた。
(はあ、こんなのにいつまで耐えれば……)
凛はため息をつく。
ほどなくして現れる周子は、凛とアナスタシアの格好に目をやって、つい先ほどの凛と同じく引き攣って、何か言いたいことでもありそうな、けれど何も言わない様子で黙々と衣装を身に着ける。
「い、いやあ、裸よりはマシ?」
着替え終わって、やっとコメントを出す周子の、語尾に疑問符がつく気持ちがよくわかった。
ところで、きちんとした衣装は先着三名までらしい。
一切きちんとしていないのだが、服の形をしたものに袖を通して、スカートを穿くことのできる人数が三人ということは、最後に現れる鷺沢文香には、何かより最悪な衣装が与えられることになる。
否、衣装ですらなかった。
ブレザー用のリボンを首に巻き、あとは三人と共通の、穴あきショーツを穿かされて、それで文香の着衣は終了だった。
マジックペンで『透明制服』と腹部に書き込む。もちろん裸に見える透明服など存在せず、そういう無理のある設定というか、単なる無意味な落書きだけを与えられ、それで服を渡したことになっているのだ。
「私だけ……こんな…………」
当然の、あって然るべき反応が文香の口を突いて出る。
そのモジモジとした仕草に対してだった。
『鷺沢文香! アウトー!』
文香はテーブルに両手を突き、その尻に振り下ろされるハリセンで、ペチン! と大きな音を鳴らしていた。
四人のショーツには共通のギミックが仕掛けてある。
クリトリスに触れる位置へと、ゲームコントローラーのボタンほどの、小さなローターが仕込んであり、これ以降のアウト判定に対しては、リモコン操作によってそのローターが振動することになっている。
番組を面白くするためか、何なのか。
アウト時の罰ゲームにも変化を入れた結果だそうだ。
コメント投稿