「えっ、あ……あ……あぁ…………」
恐怖ともパニックともつかない顔で、怯え紛れに開いた口から、咥えていたスカート丈がばっさりと落ちる。しかし、衝撃のあまりにアソコから指を引き抜くことは忘れて、すっかり血の気の引いた顔で固まっていた。
「君、オナニーしてたね?」
オジサンが入って来る。
頭部の前側だけが綺麗に禿げて、左右や後ろ側にはまだ髪を残した中年に、ランニングシャツを脂肪のたるみで膨らませ、汗の臭いを漂わせてくるオジサンが、その身体を少しずつ前に進めて、内側へと入って来る。
それが羽矢子には妖怪の登場に見えた。不審者が目の前に現れる光景は、それほどにおぞましかった。
「どうしてオナニーしてたのかな?」
「え、あの……これは……これは…………」
悪いことをして、その場面を見られてしまい、何の言い訳もできずにパニックだけを引き起こす。それが今の羽矢子の状況だった。
「ねえ、どうしてかなぁ? 君、近くの中学の子だよね? 中学生なら、こんなところでオナニーするべきじゃないって、わかるはずだよねぇ?」
声が粘ついていた。
聞いているだけで、肌に汚い粘液でも塗られるような、耳に妙な感触の残る声である。
「どうしてかなぁ?」
その嬉しそうに上擦った声は、行為を咎めるというよりも、セクハラのネタを見つけて大喜びでからかうものなのは明らかだ。
だが、オナニーにしか見えない場面を見られた上で、ドーム状の内側という擬似的な密室の中で、変質者にしか見えない中年の男と二人きり、恐怖しないわけがない。全身がガタガタと震えるあまり、しばらくはまともな受け答えができなかった。
膣に入れた指を抜くことすら、羽矢子は延々と忘れたままでいた。
「どうしてかなぁ?」
と、繰り返し聞かれるうちに、ようやく心が恐怖に耐え、まともな受け答えを可能にしていた。
「あの……。それは、あの話題の蚊で……刺されて、症状が出て、急がないといけなくて……」
それにしても、いつもの羽矢子ならもっと要領良く、要点を押さえた説明ができるはずである。動揺している最中に、まとまった言葉を作り出すことは叶わず、しどろもどろな答えをやっとのことで吐き出していた。
もっとも、今ので伝わっていたらしい。
「そっかぁ、わかるよ? あの蚊ね? 話題になったし、つい最近また出たんだってねぇ? 」そっかそっかぁ、すぐそこにトイレがあるのに、間に合わないと思ったのかな?」
「は、はい…………」
だから決して悪いことをしていたわけではなく、これは仕方のないことだったと、言い訳をしたい気持ちが半分。猛獣に狙われた獲物の心境で、どうか見逃して欲しいと祈る気持ちが半分だった。
「で、この薬を塗っていたわけだ」
いつの間に、薬がオジサンの手に渡っていた。腕を持ち上げ、獲物でも自慢してくるようにして、ニヤニヤと誇らしげに見せびらかしていた。
「か、返して……!」
咄嗟に叫ぶ羽矢子へと、オジサンはさらにもう片方の手を持ち上げる。
それはスマートフォンの画面であった。
しかも、そこには何かの動画が流れていて、それが自分自身の映像とわかった時の戦慄といったらない。
「そんな……!」
オナニーにしか見えない映像だった。
壁に寄りかかり、立ったままオナニーしている映像そのものだった。
今の羽矢子のアソコには、あと少しだけ薬が足りていない。放置してはまずいのに、肝心の薬がオジサンの手に渡っている。
二重の人質を取られたようなものだった。
脅迫のネタを見せつけられ、羽矢子は完全に凍りついていた。
*
生きた心地がしなかった。
目の前に立っているオジサンは、凶器こそ持っていないが、生殺与奪を握られた恐怖に飲まれ、その言葉に逆らえない。
「返して欲しかったら、服脱ごうか」
逆らえば生きて帰れないと思った。
ここが広々とした平地なら、一目散に逃げ出していた。陸上で鍛えた脚を駆使して、全力疾走をしただろうが、このタコのドームは場所が悪い。まずは四つん這いになり、トンネルをくぐって出て行かなければいけない。
密室で不審者と二人きりも同然の、恐怖しかない状況で、羽矢子は青ざめながらワイシャツのボタンを外し始める。服は脱ぐから、お願いだから酷いことはしないで欲しいと、ほとんど命乞いの思いであった。
「はぁ……はぁ……! 可愛いねぇ、君はなんて名前なのかなぁ?」
ボタンを外している最中に、やはり粘つきのある声と眼差しで、いやらしく尋ねてくる。目が人の体を舐めまわし、じっくりと品定めしているのは明らかだった。
汗と加齢臭の混ざった臭気が漂って、不快感に顔を歪めそうになる。
硬く勃起をしているのか、見れば短パンの股間部分が膨らんで、内側からテント状に押し上げようとしているのだ。妖怪のような人物が自分を性の対象に見る上に、勃起までしてくる気持ち悪さは、ゴキブリの巣でも見てしまったおぞましさとよく似ている。
手が震えた。
真冬の冷気で、全身が冷え性になっているように、ガチガチの震えと共に動きも硬く、脱衣への抵抗感も手伝って、ボタンを外すだけの作業に手こずっている。
「早く脱いで欲しいなぁ」
「う、はい……」
恐怖から、なるべく速度を上げてしまう。
(なんで? なんでこんな! そうだ木戸くん――お願い気づいて、木戸くん助けて!)
頭の片隅で思い出す。
拓也の前から駆け去る直前、ちょっと待っていて欲しいようなことを、確か口走っているはずだ。
しかし、どう心で念じてみても、助けが現れる気配はない。拓也はおろか、たまたま遊びに来た子供の気配すらなく、外したボタンの数ばかりが着実に増えていく。ついには最後の一つまで外しきり、恐怖と圧力に屈してワイシャツを脱ぎ去った。
(は、恥ずかしい……)
ブラジャーを見せた時点で、もう顔が赤らんできた。
「ほら、スカートも」
そう言われ、羽矢子はスカートのホックを外す。命乞いそのものではないが、似たような感情でチャックを下げてばっさり落とし、足の周りにリング状の固まりを作り出す。
ドーナツの輪から足を片方ずつどかしていき、下着姿になった恥ずかしさで、さらに頬を赤らめていた。
「可愛いねぇ?」
褒め言葉が効いた。
「うっ」
それは人を食べる妖怪から美味しそうだと言われた感覚で、嬉しさも照れくささも湧いてこない。
羽矢子が身に着けている下着はスポーツ用だ。
可愛さ目当ての下着も持ってはいるが、日常的な部活動のため、通気性の良い運動向きの方を多めに所持している。上下ともにグレーの無地で、ゴムの部分にはメーカー名が英字で印字されている。
「じゃあ、最後まで脱ごうか」
やはり生きた心地がしない中、羽矢子はスポーツブラジャーをたくし上げ、スポーツショーツも脱いでいく。その脱衣作業は躊躇いと抵抗に満ちたものとなり、日常的な着替えに比べて、随分とぎこちないのは、もはや言うまでもない話だ。
全裸になった恥辱感で、無意識のうちに拳には力が籠もる。悔しくて悲しくて、どうしてこんなことになったのかと、運命に向かって非難の声を浴びせかけたい思いのあまり、力んだ拳が震えていた。
強張る肩は持ち上がり、今にも泣きそうに頬も歪んだ。
「いい体だねぇ? そのオッパイ、薄らとした感じがかえって可愛いよぉ」
乳房を直接視姦され、性器まで見られるのは、肌にヘドロを塗りつけられるようなおぞましさだ。視線だけで皮膚が汚れるはずはなくとも、見られた箇所が汚染され、細胞が何かに侵食されている気分になる。
頬の赤らみはより広がり、顔中にまんべんなく広がっていた。
ストリップをさせられて、裸を見られている恥ずかしさは当然だが、羽矢子が味わう羞恥心はそれだけに留まらない。
「よっと」
スマートフォンをポケットに仕舞い込み、代わりのようにオジサンは人のショーツを拾っていた。こんな時でも地面に直接置くことに抵抗があり、スクールバッグの上に重ねていたスポーツショーツに手が伸びて、オジサンの手に渡ってしまった。
下着を触られる恥辱感といったらない。
普段身に着けているものに手を触れられ、身体の一部を勝手に好きにされているような屈辱が湧いてくる。
しかも、ショーツには愛液の染みがあり、グレーの無地がその部分だけ、ぐっしょりと黒に変化している。濡れた箇所に触れれば確実に、そこから糸を引くはずだった。
「よっぽど、症状が進んでいたんだねぇ?」
快楽についての、遠回しな指摘。
顔から火が出るという比喩のように、頬に吹き荒れる熱が温度を上げ、皮膚の下では燃料が燃えているように、赤面は激しさを増していた。もうこれ以上は色の変わる余地がなくなるまで、くっきりと赤らんだ顔だったが、なおも赤らもうとする顔からは、熱が噴き出るようにまでなっていた。
それに感覚も最悪だ。
たとえ一人で勝手に裸になり、露出行為をやったとしても、野外の風を乳房やアソコで直接感じる状況は、落ち着かなくて仕方がない。全身がそわそわして、他に誰かいたしりないか、もうこれ以上の視線はないかと、気になって気になって、つい周囲に意識を送ってしまう。
「それじゃあ、行こうか」
「え……行くって……」
いくら赤面しきっていても、その声は青ざめた少女の、恐怖に色づけされた震え声だった。
「せっかく裸になったんだし、外に出てみないとね」
「――――っ!」
そう言われた瞬間の戦慄といったらない。
しかし、逆らえばどうなるか、レイプでもされはしないか。こんなことは間違っている、悪いことはすべきでないと、正しさを声に出して叫びたい気持ちは薄らとあるものの、それを本当に叫ぶ勇気は出せなかった。
*
遅い、遅すぎる。
「な、なんでも! なんでもないんだけど、ちょっと待ってて!?」
と、そう言われたのは、一体もう何分前か。
随分と経っているのに、未だ戻って来る様子がないあたり、もしや先に帰られてしまったのではないかと不安になる。
(ち、ちがうよな……)
もし帰られているとしたら、それだけ自分と一緒にいるのが嫌で、耐えかねての行動ではないかと怖くなる。
(ちがうよな? 風山? ちがうよな)
お願いだから違っていて欲しい。
心からの祈りを抱きつつ、羽矢子が駆け去る直前までの様子を、拓也は一生懸命に思い出す。違うと言える材料を見つけ出し、それに縋り付きたい一心でのことだったが、脳裏に浮かぶ羽矢子の顔は、少し赤らみ気味のものだった。
(トイレか?)
女子の場合、大だの小だの、わざわざ声にするのは恥ずかしいことがあると、漠然とはわかっている。拓也が気づいてやれずにいただけで、本当はトイレでも我慢していたのかと、ピントこそ外れているが、遠からずといえば遠からずな答えに拓也は辿り着く。
(んで、だとしたら戻ってくるよな?)
嫌がられて、そのせいで行ってしまったのでなければ、戻っては来るはずだ。
それが戻って来ないのなら、何かしらあったのではないか。
(探してみるか)
拓也は羽矢子の走り去った方向へ小走りして、するとすぐさま公園が目に飛び込み、試しに中へと入ってみる。このあたりで一番近いトイレといえば、ここの公衆トイレのはず。
「ん?」
しかし、何故だか妙な予感がして、タコ型ドームの遊具に足を進めて、そちらの中へ入ってみる。
誰もいない。
だが、この妙な胸騒ぎは止まらなかった。
*
この公園は道路に面しているものの、タコの背中側の方向は、林のような空間になっている。ここも子供の遊び場の一つであり、賑わっている時なら誰かしらが駆け回ったり、ちょうど今のような夏にはセミの採集も行われるが、どうやら今は誰もいない。
そこで今、羽矢子はオナニーをさせられていた。
くちゅり、くちゅり、
指で膣口をかき混ぜて、粘液の水音がよく聞こえる。
肩にスクールバッグをかけたオジサンは、それを目の前にしゃがんで視姦していた。
(木戸くん…………)
助けを求める思いはやまない。
オジサンがスクールバッグを肩にかけ、わざわざ荷物を持ってくれているのは、親切心などではない。脱いだものを中に詰め込み、それを預かっておくことで、下着や制服すら人質にしているのだ。
オジサンの前を離れて、助けを求めに駆け出すことは、可能といえば可能である。
だが、それをするには全裸で町中を駆け回るという、より恥ずかしい行為に走らなくてはならないのだ。それをやる決心がとてもできずに、羽矢子はこうして従っていた。
こうしている今現在の恥ずかしさも当然だが、もう少し前までも、やはり恥ずかしさで死にそうだった。
タコのドームから出て行く時も、恥ずかしさでいっぱいだった。
トンネル部分を四つん這いで出入りする構造上、姿勢を変えないわけには行かない。出て行く際、先に出ていくように言われて、後ろからオジサンがついてきたのだ。
四つん這いの尻を後ろから見られ放題だった。四足歩行の動きに合わせ、脚の可動によって振りたくられる尻を視姦されていた。その時間は数秒たらずで済むものの、今度は広々とした空間に全裸で出ての、たまらない思いを味わった。
「――――――っ!」
顔で絶叫した。
本当に声を出してしまったら、もしや目立って人目を集めないかと、その恐怖がなければ本当に悲鳴を上げていただろう。
そこから全裸で歩かされ、全身に風を感じた。
体中が敏感に成り果てて、いつの間にか尖っていた乳首へと風が当たると、その摩擦だけで微妙に痺れる。愛液のべったりと張りついたアソコに至っては、濡れた皮膚が吹かれての、ひんやりとした感触まで襲ってくる。
どうしよう、こんなところを誰かに見られでもしたら――その恐怖で落ち着かず、体中がそわそわして、周りに人の視線はないかと、絶えず気になり続けていた。風の吹く音にすら体が驚き、一体何度身が竦んだかもわからない。
そうやって、歩かされた末に柵の裏側へ到達して、木陰に隠れた立ちオナニーをさせられているのが今現在だ。
周囲の視線を気にして発達した神経は、未だに周りを意識している。人が接近しては来ないかと、気配の探知をしようとするように、体中の神経が活性化していた。
その上であるのが、裸を人に見られ、オナニーまで見せびらかすことになっての、シンプルでわかりやすい部類の恥ずかしさだ。
「うっ、うぅぅ…………」
誰か、助けに来て欲しい。
いいや、誰にも来ないで欲しい。
この状況を人に発見されたいのか、されたくないのか。どちらなのかといったら、それは実際のところ両方だ。
だが、いざ助けの気配が現れた時である。
「風山ー? いるかー?」
この時ほど驚いたことはない。
オジサンが初めて現れた瞬間も、心臓が真の意味で飛び出すかと思うほど、ドクンとした音が力強く鳴り響いたものだったが、今こうして味わった驚愕も、それに負けず劣らずのものだった。
「き、木戸くん……!」
咄嗟に口を開け、自分はここだと叫びそうになる一方で、もう一つの思いが直後に吹き荒れ、羽矢子は口を噤んでしまう。
やっぱり、見られたくない!
全裸にさせられ、こんな見知らぬオジサンと一緒にいるところなど見られたくない。ましてオナニーをさせられて、痴態を披露している場面など、一体どう言えばいいのだろう。
「何やってんだ?」
などと聞かれたら、どう言い訳をすればいいのかがわからない。
怪しいオジサンの前で裸になり、オナニーを見せびらかすなどという、変態行為をやって見えないかを、こんな時なのに心配していた。それはしかし、今の羽矢子が抱く心理の一部分でしかなく、自分が性的被害を受けている事実など、わざわざ知られたくはないのだった。
「――――っ!」
その時、羽矢子は達した。
外で全裸という異常な状況に、かえって神経が敏感になってのことか、それとも媚薬ウイルスのせいなのか。気持ち良かったアソコがヒクっと縮み、肩すら跳ね上がり、羽矢子は絶頂しているのだった。
びゅーっと、軽い風が吹く。
その風が尻や太ももを撫でる時、内股を伝って流れる愛液の、濡れた箇所がひんやりとするのであった。
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