前の話 目次




 羽矢子は飛び出すタイミングを伺っていた。
 木陰から外を覗き見て、未だに自分のことを探してフラつく拓也の存在に、本当は助けを求めたい思いが駆られる。
 ここで名案を浮かべられれば、大声を出しつつも、木陰には近づかないように言いつけるアイディアでもあれば、姿を見せない上で助けを求められたのだが、異常な状況に置かれた羽矢子は、それを思いつくことができずにいた。

「ゲームしよっか」

 絶頂後、オジサンが最悪な提案をしてきたのだ。
 荷物や薬を返して欲しかったら、男子トイレの一番奥の個室に入ってこい。そうすれば返してやると言われて、羽矢子は一人置き去りにされたのだ。
 そして、助けの呼び方も思いついていない以上、ならば見つからないように移動を果たし、どうにかしてトイレに飛び込むしかなく、羽矢子はタイミングを伺っていた。
(なんで――こんなの無理……)
 そうは思いながら、拓也の姿がタコドームの裏に隠れる瞬間に、羽矢子は思いきってかけ出していた。見られずに済むように、必死の祈りを胸にして、大慌てでトイレへ駆け込むと、そこが男子トイレであるに関わらず、密閉空間の内側というだけで一定の安心感を得るのだった。
 もっとも、全裸には変わりない。
 びゅーっと、また風が吹いた時、たったそれだけでビクっと肩は跳ね上がり、濡れたままのアソコも冷やされる。乳首すら、風の摩擦で甘い痺れを発してじんじんと、大きく尖っているのだ。
(一番奥……)
 生きた心地がしていない。
 オジサンの待つ奥の個室へ足を運んで、するとそこには便座を下ろし、それを椅子代わりにして待ち構える姿があった。
 ここに一歩入ってしまえば、先ほどのドームどころではない、より確かな密室で二人きりになってしまう。その恐怖にビクビクと足が竦んで、まともに体も動かない状況だったが、外から吹き込んでくる風が、何故だかスイッチとなって体を動かす。
 そして、完全な二人きり。
 個室の中、自らの手で鍵をかけされられ、戸に背中を預けた羽矢子は、むしゃぶりつくような勢いのオジサンに、まず全身を撫で回された。薄らかな乳房を揉まれ、アソコにも指が絡みつき、その刺激に羽矢子は苦悶する。
 気持ち良くての悶絶なのか、気持ち悪くての悶絶なのか、本気でわからなくなってくる。
(やだ……やだよ……)
 指に乳首が嬲られている。
 イモムシのように蠢く指は、ワレメの上でも這い回り、愛液のぬかるみを纏って膣の中にすら潜り込む。アソコにはピストンが始まって、乳首にも快楽電流が走り回って、ビクっと腰が跳ねてしまう。
「んっ、んぅぅ……んぅぅ――――」
 オジサンのことを押し退けたいようにして、両手をシャツの胸に添え、押し返す力を僅かにはかけているものの、本当に押し退けてしまう勇気はなく、その力はだらっとしている。
「んぅっ、やっ、あぁぁ――」
 感じているせいでもあった。
 性感帯が刺激されれば、それによって媚薬ウイルスは活性化して、どう足掻こうとも体は必ず悦び始める。頭の中にすら甘い痺れは走り始めて、苦悶の顔で髪を振り乱し、羽矢子は再び絶頂に迫りつつあった。
 そして、イった。

「んぅぅぅぅ――――!」

 より一層の苦悶と共に、腰をビクビクと震わせて、愛液さえ噴き出していた。そんな絶頂の膣に向け、オジサンはなおもピストンを繰り返し、乳首への愛撫もやめていない。その終わり知らずの快感に振り回され、いつしか羽矢子は腰を前後に動かしていた。
 空中で腰を前後するように、くの字にしては前に突き出し、戸板に尻を何度も打ちつける形となる。
 だが、そんな快楽に飲まれた羽矢子が、不意に正気に返る瞬間が訪れる。

「はーあ、やっぱ先に帰ったのかな」
「――っ!」

 拓也の声だった。
 よりにもよって、拓也が入ってきた上に、隣の戸の開く音が聞こえてくる。壁一枚を介したすぐ向こう側に、拓也は座っているはずだった。
(そんな――えっ、なんで……木戸くん…………)
 嬲られているこの状況で、助けを求めることなど思いつかない。
 むしろ羽矢子が思ってしまうのは、やはりこの状況を知られたくない、どうにか気づかれることなく済ませたいということだった。
 先ほどからも、無意識のうちに声は抑え、周りにバレる可能性を極力減らそうとしていた。
 拓也がそこにいることで、その意識はよりはっきりしたものとなり、羽矢子は片手で口を押さえ、自分の声を封じ込めようとするのであった。
「ねえ、羽矢子ちゃん」
 そんな羽矢子へと、ニタっとしたおぞましい笑みが迫った。反射的に顔を背けた羽矢子の頬に、キスでもしたいように近づく唇が掠めていた。
「後ろを向いて、お尻を突き出してくれるかな?」
 その要求が何を意味しているのか。
 それに従ったが最後、一体どうなってしまうのか。
 迫る運命を直感した羽矢子は、背筋を凍りつかせていたが、逆らう勇気があればこんなことにはなっていない。バラされたくない、薬を返して欲しい、逆らうことで怒らせて、暴力を振るわれたくもない。
 泣く泣く尻を突き出して、立位気味のくの字の姿勢になった時、早速のように短パンや下着を下ろす衣擦れの音が聞こえてくる。
 そして、アソコに亀頭が当たってきた。
 こんなことは生まれて初めてのことだったが、石のように硬い先端部は、しかし亀頭がぷにりとしていることは想像の範疇だった。

 こんな……私、こんな形で…………。

 悲しくて悲しくて仕方がない。
 まさか、こんな形で初めてを体験するなど、考えすらしたことがなかったのに――。

 肉棒が押し込まれ、穴が一気に拡張された。

 その痛みにまずは脂汗が噴き出てくる。
 穴の幅より大きなものが侵入して、肉を引き裂かんばかりに内側から押し広げる。その苦しさと痛みによって、感じる余裕もなく苦悶する。快楽よりも痛みに喘ぐ羽矢子に向かって、オジサンは腰を掴んで動き始めた。
 肉棒が出入りしてくる。
 妖怪のような相手に挿入されているそれは、おぞましいものにしか感じられずに、羽矢子の全身には鳥肌が立っていた。痛くて、悪寒も走って、気持ちいいことなど少しもないはずなのに、ピストンが続けば続くだけ、何故だか痛みが薄らいでいく。
 痛みを取り除く薬でもあるように、すーっと引いていく。
 媚薬ウイルスの活性化は、あくまでも快楽を優先して、神経を走る感覚が徐々に塗り変わっているのであった。

(んぅぅぅ! んっ、やっ、やだ! やだ!)

 本当なら、もっと声を出して喘いでいる。
 津波のように押し寄せる快楽は、脳すら塗り潰す勢いで激しく走り、悶絶しきって激しく強張る表情で、羽矢子は必死になって声だけは抑えていた。
(んっ! ん! あっ、やっ、やぁ!)
 いつしか、口を右手で塞いだまま、歯も食い縛っての我慢は無意識のものとなる。気持ちいいあまりに何を考えることも出来なくなり、意識的な行動など何一つなくなっても、なお羽矢子は我慢していた。
(んぅぅ!)
 ビクっと、背中が震える。
 イってしまったと同時に膣内へ吐き出され、しかし今の羽矢子には、妊娠の恐怖について考える余裕もなく、肉棒が抜けると同時に、ただただ、その場にへたり込む。
 完全に放心しきっていた。
「じゃあ、お隣はもう行ったみたいだし、オジサンもこのあたりで失礼するよ」
 そう口にするオジサンの声も、事後の写真をパシャパシャと、勝手気ままに撮り尽くすシャッター音声も、何もかもが届いていない。ただぼーっと、魂の抜けた顔で虚空を見つめ、せっかく戻って来た荷物がそこにあるのに、着替えることすらせずに、目から光を失ったままの死人の顔であり続けた。

 羽矢子がやっとのことで気力を取り返し、それでも死人めいた表情で家に帰ったのは、一体何時頃になっただろう。両親には酷く心配され、様子がおかしいあまりに犯罪被害にでも遭ったのかとすら聞かれたが、何も話すことなどできなかった。

     *

 羽矢子、どうしちまったんだろうな……。

 事が事だけに、羽矢子は決して、その日の出来事について話さない。
 だから拓也も、これからきっと、急にあの時消えてしまった真相について、永遠に知ることはないだろう。



 
 
 

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