前の話 目次 次の話




 ふー……ふー……と、荒っぽい息が出て、呼吸が決して落ち着かない。
 試合を受けることに決めた唯華は、それからレンタルコートまで移動して、料金を支払いコートを利用する流れとなったのだが、その移動の最中にさえ、延々と寸止めをやられ続けて、アソコの焦れた状況は悪化していた。
 内股の表面には、もう愛液によるぬかるみの層が出来上がり、それがへばりついている。大気の流れで皮膚が冷え、元よりノーパンノーブラであることも合わさって、スカートの内側がすーすーしてならなかった。
 スポーツウェアになど着替えていない。
 試合に適した靴や服装の方が本来いいが、その予定もなかったところでの提案で、だからラケットもお互いにレンタルである。
 公式の試合ではないので、審判はついていない。
 際どい打球のアウトやインは、全てセルフジャッジで行うこととなる。
「じゃあ、いくよ!」
 健太のサーブが迫って来た。
 大した打球ではない。インターハイならとても通用しないサーブだが、とはいえキレと勢いが皆無というわけでもなく、バドミントン歴が浅いにしては、精度と球速は優れた方と言えるだろう。
 唯華はそれを問題なく打ち返した。

 ブィィィィィ…………!

 と、振動してくる刺激に顔を顰めて、ぐっと声を抑えながらのバッグハンドで、無難な逆サイドのコーナーを狙っていた。唯華の打球はより優れた精度でもって、角のギリギリ、あと一センチでもずれればアウトであったライン上へと、正確に落としてみせていた。
 セルフジャッジという性質上、それをアウトと言い張ることは可能である。
 あるいは本当は入っていても、そうと気づかずアウトと判定を下すこともありえる打球であるが、健太はそれをしてこない。追いつき、打ち返してやろうとする意地で、素早く駆けては返球をしてきていた。
(へえ)
 そういう意地はあるらしい。
 しかし、ローターなどというハンデは要求され、卑怯なのか正々堂々なのか、どっちつかずなところはある。
 この時点で唯華の脳には、もう既にこのラリーの流れが出来上がっていた。
 きっと、素人が唯華の頭を覗き見れば、未来を正確に予知した情報が詰まって見えるだろう。もちろん超能力なはずもなく、頭脳と経験則が導き出した試合運びの、ラリーを組み立てるための計算こそが、その未来予測図の正体である。
 逆サイドを狙い、左右に振り回すことで走らせつつ、すると健太の打球は簡単に鈍くなる。唯華のフォームはフェイントを交えているので、健太の目では返球方向がギリギリまで読めないため、どうしても走り出しが遅れるのだ。
 遅れたスタートダッシュで食らいつくには、実に嫌らしい、拾いにくくてたまらない打球を唯華は放ち続けている。打ちにくい打球であれば、その返球のフォームは当然狂い、不安定なスイングからの球は狙いも勢いも甘くなる。
 インターハイであれば、この程度で崩れる選手はいない。
 瞬発力を鍛えている選手はいくらでもいて、スタートダッシュが遅れても問題なく返して来る相手がいる。目が鋭く、フェイントの通じにくい相手もいる。
 唯華が披露しているプレーは、高校を最後にしたブランクもあり、ローターの影響でフォームのブレも否めないため、相手が健太だから通用している部分はある。とても決勝トーナメントを争うキレは出せていないが、一般的な実力を叩くには十分だった。

 ブィィィィィ!

 ローターの勢いが強い。
 下手に走れば、股から抜け落ちるのではないかと不安に駆られつつ、唯華は球に追いつき鋭く打ち込み、その振り抜いた腕で先制点を確保していた。
(よ、よし……!)
 心理戦でもあった。
 人のアソコにローターを入れ、そのスイッチをポケットの中に握っていながら、ハンデの上で先に点を取られてしまった衝撃で、健太の心を揺らしてやる。動揺でプレーが鈍り、次からの打球は一つ一つが甘さを帯びるというのが、唯華の思い描く流れなのだった。
 手応えは感じている。
 次のサーブはフォームに微細な乱れが含まれ、最初よりも返しやすい。先ほどと同じく左右に振り回し、さらにはフェイントで逆サイドを貫いた。右、左、右、左と続けていれば相手の反応は固定され、右の次は左に違いないとなってくる。そこでフェイントを利用して、左サイドへ打つと見せかけたのだ。
 フェイントに引っかかり、左サイドへ飛び出してしまった健太の、その真後ろのコーナーを唯華の打球は貫いた。
 これで二点先取である。
(こんなものかな? 健太くん……んっ、んぅ……)
 ローターの刺激に顔を歪めつつ、唯華は次のサーブに備えて腰を落とし、すっと構える。
 唯華も唯華で乱れきったプレーであったが、健太を弄ぶには問題なく、次々と点を重ねて無失点のままゲームを取る。ワンゲームを獲得して、サービス権を取った唯華は、さらにサービスエースまで取ってみせ、健太を完全に追い詰めていた。
 動揺が手に取るようにわかる。
 健太の目算としては、相手がいくらプロ並みでも、ローターという強力な弱体効果を付与していれば、と思っていたのだろう。元々の実力差が大きいために、唯華の調子がいくら悪くても、こうして健太を翻弄することは可能であった。
 さらに二度目のサービスエースを取った上、三回目のサーブでは、健太はようやくフレームに羽根を掠めたものの返せない。
 この調子なら、サーブだけで二ゲーム目を獲得できると思ったが、次のサーブを打った時だった。
(返した!?)
 唯華は驚く――が、想像以上にキレの良い、レシーブエースもありそうな打球を前に、体は自然と動いていた。いくらブランクがあったとしても、肉体に染みついた経験則が、次は返されることを無意識のうちに読み切っていた。
 だが、読めない展開もあった。

 い、イク……!

 返球を済ませ、ラリーの展開に備えて構え直したその瞬間、今にもアソコで何かが弾け飛びそうな、絶頂の予感に駆られたのだ。
 そして、ローターはピタリと停止する。
 見れば健太は、フォアバンドの返球をこなしつつ、左手に握るスイッチを操作していた。
(あ、あの子は……!)
 唯華を相手にしていながら、片手はスイッチで塞いでいたのだ。
 いや、そうしなければ勝てないと思ってのプレイングこそ、グリップを握るわけではない、利き手と逆の手をスイッチで塞ぐ方法なのだろう。その都度ポケットに手を入れるより、握っていた方が対応は素早くできる。
 問題なのは、この距離で絶頂を見抜かれたことだ。
 試合の最中でありながら、健太はそんな観察をしてきた上に、見事に寸止めのタイミングを突いてみせてきていたのだ。
(まずい……)
 それは全く、スポーツとは関係のない技能のはずだった。
 女がどこまで感じているか、イキそうなタイミングを見極められるか。そんな目利きなどバドミントンとは無関係だが、ローターのせいで今は試合に絡んでいる。
 唯華はようやく確信した。
 このハンデは、健太に十分な勝ち目を与えるものなのだ。

     *

 荒っぽく息をして、唯華は絶頂直前に至っていた。
(い、イク……!)
 そう思った瞬間に足が鈍って、健太の打球に追いつけず、羽根が目の前をバウンドして消えていく。失点によって健太の得点となった時には、またしてもローターは停止して、唯華は寸止めを味わっていた。
(イキたい……)
 そんな心理が、欲望が蓄積している。
 ゲームカウントを重ねていき、終了が近づいている中で、唯華は最初の絶頂をきっかけに調子を崩し、健太にゲーム数を追い抜かれていた。自分が敗北に近づいていることへの戦慄で、内股を伝って筋を伸ばしていく滴は、今なら汗に見えないこともない。
 だが、暑い季節というわけでもなく、その部分だけに伝っている滴の正体は愛液だ。
 膣の奥で震えるローターに、始終引きずり出され続けている愛液が、いよいよ内股に湿り気を広げているのだ。性器の周辺は蒸れっぽくしっとりと、そして数分おきに滴が出来上がり、それは筋を伸ばして垂れていく。
 健太がトスを上げていた。
 そのフォームが最初に比べて綺麗に整い、スイングのキレも良くなっていることが、自分の優勢に調子付く健太の心理を物語る。しかも、単に整っているのでなく、それは特定のお手本を真似して、その通りのフォームを目指したものだった。
 他ならぬ唯華のフォームだ。
 唯華の真似をする中級レベルとなれば、唯華本人に敵うはずなど本来ないが、今の唯華はアソコが追い詰められている。
 その敗北の窮地に立たされた原因は、ローターだけではない。
 もっぱらローターこそがきっかけであり、それさえなければこんな状況にはなっていないが、快楽に振り回される以外にも、もう一つだけ要因がある。

 心の底で、負けてみたいと思ってしまっている。

 インターハイに出場したはずの自分が、健太のレベルに負かされて、その罰ゲームとして処女を失う。マゾヒズムに目覚めた体には、たまらない興奮をもたらすシチュエーションのように思えて、心の底ではそそられている自分がいた。
 負けてみたい、負けてみたい……その思いは、少しずつ体を蝕む毒のように広がって、心は侵食されていく。

「ゲームセット」

 そのせいか、ついに最後の得点を失って、唯華は敗北に膝をついていた。
 失点と同時にイキそうになったのだ。
 その快感のあまりに座り込み、太ももをぎゅっと引き締め、反射的に我慢しようとしてしまっていた。こんなところで盛大に潮を噴き、はしたなく体液を流してしまうのではと、急な恐ろしさに見舞われて、気づけば唯華はそんな風に膝を突き、そしてそれを見下ろす健太によって、勝者と敗者の構図は出来上がっていた。
「覚えてるよね? 僕が勝った時の条件」
「……」
 唯華は無言で顔を背ける。
(私が……負けた……バドミントンで…………)
「覚えてるよね?」
「……はい。健太様」
 自分が決定的な敗者となり、永遠に健太の格下であり続ける運命が決定されてしまったような、もう覆すことのできない奴隷の烙印を押された感覚がした。

     *

 あまり綺麗とは言い難い、壁のタイルに亀裂や欠けの目立った公衆トイレは、ドアにスプレーの落書きもあり、率直に言って環境が悪い。
 せめて綺麗な場所で、健太の部屋で――といった気持ちがないでもなかったが、かといって今から家まで移動して、焦らされ続けた体がもう持たない。
 今すぐにでもイカせて欲しい。
 そんな状況にある唯華の意思は、処女の喪失現場を妥協して、この薄汚い男子トイレで初体験を済ませることを良しとしていた。
 周囲に誰もいないタイミングを見計らい、二人揃って個室に籠もり、お互いに服を脱ぎ始めている。ここでセックスをするために、健太の射精を促すために裸になるのだ。
 シャツを脱ぐなり、ノーブラの乳房がすぐさまあらわに、大きな乳輪の黒ずみが健太の視線を引き寄せる。スカートを脱いだ内側からは、陰毛の詰まったアソコから愛液が滴って、毛先から滴がぽたりと垂れ落ちそうになっていた。
「楽しみだなぁ」
 健太がニヤニヤと表情を緩ませて、唯華の肢体を舐めるように視姦してくる。
 勃起など言うまでもなかった。
 平均サイズなど知りはしないが、きっと年相応のサイズである逸物が、極限までの硬さとなって表面に血管を浮かせている。
 それに被せるコンドームは、唯華がこの手で買ったものとなるのだ。
「じゃあさ、おねだりいってみようよ。みっともなく、下品に絶頂を請うてみてよ」
 健太は嬉々としていた。
 表情だけを見るのなら、何かを無邪気に喜ぶ少年に他ならない。可愛げある顔立ちであればこそ、それで命じてくる内容がサディスティック極まりないのが、ある種の性癖を刺激してくる。
 もう唯華はとっくに認めていた。
 こうまで従い続けてきて、処女まで明け渡そうというのに、自分の性癖を自覚して、認めずにいることなどできはしない。
「私は…………」
 すぐには言葉が出せなかった。
 惨めったらしい台詞を言い、その上で処女を明け渡すのは、辛うじて残された権利を全て健常しきるかのような、もう何も残らなくなってしまいそうな不安から、それでも葛藤がせり上がる。
 しかし、疼いた。
 やはり拒んでしまおうかと、今更になって迷った瞬間、それはいけないと主張でもするように、アソコがきゅっと引き締まる。
「私は…………」
 葛藤は徐々に掻き消されていく。
 毒の浸蝕にって薄れるように、最後まで迷っていたその気持ちは引いていき、それよりもイキたい思いが優先される。

「イカせて下さい……健太様のおチンチンを挿入して、私の処女を奪ってイカせて下さい……! イカせて頂けるのであれば、いくらでも体を好きにして頂いて構いません!」

 ついに、言ってしまった。
 最後までギリギリで残されていた権利を、欠片ほどに残されていたものにかけてまで、全て丸ごと差し出してしまった瞬間だった。

「後ろに両手をつけ」

 そういう体位が望みなのかと、唯華は素直に尻を突き出す。
 バック挿入の求めの応じたポーズを取ると、コンドームを被った亀頭がワレメに当たる。入り口が少しばかり左右に開き、まず手始めに切っ先が数センチほど入り込んで来るのであった。
 来る、いよいよ来る。
 これでもう貞操は失われ、自分はセックス経験者に変わるのだと、唯華は歯を噛み締めながら覚悟を決める。
「ところでさ」
 その時だった。

「いやぁ、薬が効いたねぇ?」

 何の話か、わからなかった。
 健太からは、特に何も飲まされた覚えがない。今日、自分の家を出てから、そして今この瞬間に至るまでのあいだ、口に入れたものは唯華自身が買ったり選んだりしたものだけで、だから飲料に何かを混ぜて飲ませるということも起こりえない。
 どうして薬などと言い出しているのか、唯華には理解できていなかった。
「ああ、昔の話ね。懐かしいなぁ? ほら、僕にキスしたことがあったじゃん」
 言われてみて思い出す。
 あの過ちが唯華の運命を変えたのだ。
 あれさえなければ、あんな衝動にさえ駆られていなければ、自分はただの当たり前の大学生として、おかしな性癖に芽生えることもなくやっていたはずだった。
「あれさ。催眠薬の効果なんだよね?」
「催眠? 何を言って……」
「今思えばさ。効果の怪しいインチキ商品そのものって雰囲気だったと思うけど、当時の僕は乗っちゃったんだよね。そういう広告に――で、買ってみて、唯華にこっそり飲ませてさ。それが効いた結果があのキス」
 やはり、何を言っているのかがわからない。
 年下の可愛らしさという魅力に心をやられ、衝動的にキスをしてしまった覚えはあっても、催眠などという怪しいものにかかった覚えはない。薬を飲ませたといっても、それは健太自身が催眠薬の効果だと思い込んでいるだけで、結局は唯華自身が犯した過ちではないのだろうか。
 いや、どうだろうか。
 よくよく思い出せば、ドリンクボトルの中身を飲んでから、急に頭がくらっとして、夢見心地のような気分になった記憶がある。
「まさか、そんなこと……」
 完全には信じられない。
 しかし、あの感覚を思い出すと、絶対にありえないとは言い切れないような気もしてくる。

「あーあー。僕の手口にかかって何年も奴隷になって、しかも処女まで奪われるね?」

 実に愉快そうに、そんなことを言ってくる。
 言ってきながら、健太はさらに腰を進めて、その分だけ膣口が広がっていた。穴が亀頭の進行に合わせて拡張され、みるみるうちに直径を広げていた。
「でさ。いいのかなぁ? こんな形でヤられちゃって」
 亀頭が収まる。
 生まれて初めて性器が入り、初体験である以上は不慣れな穴が、内側から押し広げられることへの窮屈な感覚に見舞われている。
「どうなの? 今のお気持ちは」
 きっと、そこにマイクがあったなら、大喜びでそれを向けてきたのだろう。人が泣いたり、悔しがったりしているところにカメラを向け、嬉々として質問攻めにしながら、面白おかしいものとして消費するのだ。
「そんな……私…………」
 つまり、策謀に堕ちていたのだ。
 唯華自身に落ち度があればこそ、それからの脅迫に屈することになったとばかり思っていたが、付け込まれる弱みを作ることからして、健太の作戦のうちだったのだ。それにかかったばかりに運命が変化して、こんなことにまでなっているのかと思ったら、急に悔しさが込み上げてきた。
 もし途中で気づいていれば、引っかからなかったのではないか。
 もっと違った展開があったのではないか。
 そう思えてくればくるほど、悔し泣きの涙が目尻に溢れ、滴となって頬を今にも伝い流れ落ちそうになっていた。

「で、このまま入れていい?」

 健太は改めて尋ねてくる。
 わざとらしく、嬉しそうに、質問をしてきていた。

「……はい。お願いします」

 悔しいはずなのに、悲しいはずなのに、唯華はそれでも懇願する。
「私の処女を……奪って……下さい……」
 無念に打ちのめされているようでいて、心のどこかでは興奮している。
 すっかりMになったおかげか、そうやって悔やむ気持ちがあればこそ、打ち負かされる感覚に酔い痴れているのであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA