目次 次の話




 結城リトの胸はざわついた。
 嫌な予感がするせいで、落ち着きを失っていた。
「あーもう。手につかない」
 机にかじりつき、宿題をやってはいたが、集中力を欠いて続かない。他の事柄が気になって気になって、頭の中にそれがチラついて仕方がないせいで、ノートの上で解きかけていた問題も、途中でペンが止まっていた。
 理由は昨日、ララが部屋に飛び込んで来るなり、颯爽と一枚のチラシを嬉しそうに見せつけてきたからだ。

「リトー! 見て見て!」

 元気にはしゃぎながら突きつけてきたチラシの内容は、地球の言語ではなかったせいで大きな見出しの文字が読めなかったが、ペケが言うには美容エステの宣伝らしい。
「宇宙に名だたる有名なエステティシャンが地球を訪れているようなのです。来訪ついでに宣伝を行い、地球に滞在している宇宙人を客にするつもりなのだとか」
 ペケがチラシの内容を述べたところで、ララは途端に誇らしげな顔をしていた。
「待っててね? リト! わたし、すっごくツヤツヤで綺麗な体になってくるから!」
 と、そんなやり取りがあり、今頃はそのエステとやらを受けている。
 ララは今より綺麗になった体を見せに来ると、期待感を煽るようなことを言っていたので、そのせいで煩悩を刺激されているのも、あるといえばあるのであった。
 だが、気になるのはやはり施術の様子だ。
 チラシに載っていたエステティシャンは、地球人と変わらない外見の、とても綺麗な女性であった。施術をやるのはきっと女性だとは思うのだが、チラシに書かれた内容によれば、美乳や美尻を目指したエステもあるらしく、つまり乳房や尻への接触がある。
(ま、まあ……仮に男だとしても、やるのは施術……なんだよな……)
 そう、だから心配はいらない。
(そもそも、男なんてわけないよな)
 それなのに、気にしすぎても仕方がない。
 しかし、いくら気にするまいと思っていても、もわもわと頭に浮かんで来るのは、男のエステティシャンがララの乳房を揉みしだくイメージだ。あらぬ光景を想像してしまうせいなのか、数学の問題を解こうとするシャープペンシルは、一向に式の続きを書き綴ることがなく止まっていた。
 そんな風に胸がざわつく一方で、ララのことだから、綺麗になった体を見せに来ようと、裸で突入してくるのではないかと、怖いような楽しみなような、そんな気がしてしまう部分もあって、本当に落ち着かないといったらない。
「ったく、何考えてんだ。オレの馬鹿……!」
 こんなことでは宿題が進まない。
 無理にでも頭から振り払い、集中しようとしてみるものの、どうしても集中力が発揮しきれず、手の止まった時間ばかりが続いていった。

     *

 リトが宿題に苦戦している一方で、ララはとある宇宙船を訪れていた。
 既に予約の連絡は入れてあり、エステティシャンが滞在している船内を訪れると、地球の店や病院でも見かけるような受付のカウンターに職員が立っていた。その職員に名前と予約時間を告げた後、待合用のベンチで待った末、ララは施術室へ向かっていくこととなる。

「ようこそ。ララさん」

 施術室で待っていたのは、地球人と類似した外見の、小太りの中年だった。
 目つきがいやらしく見えるのだが、それ自体は素の顔付きである。タレ目なせいで何かを視姦して見えやすく、ルックスとしても頬はふっくらと、腹も丸く飛び出るなど、顔やスタイルが良いとは言えない。
 美容を売りにしようというのに、本人のスタイルが悪いのは説得力に欠けるものだが、それでも彼がエステティシャンとして乗船しているのは、やはり十分な腕前を持ってのことである。
「今回はご予約ありがとうございます。ご希望のサービスは、全身の素肌のケア、美乳、美尻エステで間違いはございませんね?」
 物腰の柔らかい、手慣れた接客態度であった。
「うん! よろしくねっ、オジサン!」
「ではララさん。早速になりますが、施術用の下着に着替えて頂けますか?」
「いいよー。これだねっ」
 施術用のベッドには、一つのカゴが置かれていた。
 その中にこそ下着は入っていたのだが、ララが持ち上げたショーツといったら、布がほとんどないTバックだ。後ろが紐でしかない上に、前側の布も三角コーンのように細長い、二等辺三角形なのである。
 こうまで際どい下着が出て来た上に、しかもブラジャーは入っていない。
 つまり、この中年が言っているのは、ショーツ一枚のみの格好となり、裸でベッドに横たわれということだが、ララは何も疑問を抱いていない。乳房やお尻のケアも行うエステなら、そういうものだろうと考えて、あっけからんとした顔で脱ぎ始める。
 シャツを大胆にたくし上げ、平然とした顔で乳房も外していた。
(の、ノーブラ!?)
 ジーンズを脱ぐにも躊躇いがなく、元のショーツから施術用のショーツへ替えると、オイルを使う関係上、ララは頭の後ろに髪をまとめる。髪に付着することで、肌用の成分が髪を傷めることを阻止するため、団子状の髪型へと切り替えていた。
 それら準備が終わったところで、ララは施術用のベッドに横たわる。
「では施術を開始していきますが、今回使用しますのは、デビルーク星の方々に合わせた調合となります。また、エステの効果を高めるため、アロマポットで香りを焚いていきたいと思います」
「うんうん。楽しみだなー」
 ララは実に微笑ましい笑顔を浮かべて、エステによる美容効果を心の底から楽しみにしていた。今よりもツヤツヤに、魅力的になった体を見せることで、リトは一体どんな反応をするかと思うと、ワクワクしてならないのだ。
 中年は近くの台でアロマポットの用意をして、まずは香りを焚き始める。
 そして、一つの瓶を手に取ると、その中のオイルを手の平に垂らしていく。小さな円を作り上げ、それを両手の中に擦り合わせることで皮膚に馴染ませる。オイルの染み込んだ両手によって、いよいよ施術を開始した。
 最初は指からだった。
「ララさん。全身の肌ケアということなので、末端から順番に、細かくやっていくことになりますよ。指、手首、肘、二の腕と、パーツごとに丁寧にやっていき、足の方も同じく指から順に進めていきます」
「時間がかかりそうだねー」
「ええ、ですがその分、必ず効果が出るでしょう。今でも十分にお美しいとは思いますが、その美貌がより一層のこと輝くでしょう」
「そっかー。へへっ」
 ララの指にオイルが塗られる。
 親指から順番に一本ずつ、細かく塗り込んでいく作業は、実に丁寧なものだった。単にオイルを塗るのでなく、そこにはツボを狙った指圧も交えてあり、マッサージながらの塗り方で、どれだけ時間がかかろうと構わないかのように進めているのだ。
 右側の五指にオイルが浸透して、一本一本が光沢を帯びるだけでも、実に数分近くの時間が経過していた。それからやっと、手の平や手の甲といった部分へ移り、さらに手首から先を進めていくが、そのパーツごとへの指圧も丁寧だった。
 十分以上が経過して、やっとのことでオイルの光沢が肘まで及ぶ。
 中年は反対側へと移動して、今度は左側をやるために、自身の手の平にオイルを足す。こちらも親指から小指まで、一本ずつ順々にやっていき、同じく十分以上をかけて肘までオイルを塗り伸ばす。
 どちらの腕も指から肘まで光沢を帯びた時、その先へ進むのかと思いきや、中年は足の方をやり始めた。
 もちろん、指から一本ずつである。
 足の甲、足の裏側、かかとに足首、脛にふくらはぎと、パーツごとにツボ押しの指圧を兼ねて塗り伸ばす。やっと膝までオイルを広げ、光沢を与えたところで、もう片方の足にも同じく時間をかけ始める。
 施術は始終、そういった具合であった。
 肘から先、膝から先をやるにもじっくりと、時間をかけてオイルを染み込ませる。一度浸透させた上から、さらに塗り直すことにより、表皮にぬかるみのコーティングを広げる作業は、長々と続いていった。

     *

 中年は興奮していた。
 ノーブラだったララのシャツは、豊満な膨らみによって押し上げられて、丸っこさを主張していた。シャツ越しに見た時から、今にも目が血走りそうで仕方がなくなっていた。
 その上、乳房を丸出しにされてしまってはもうたまらない。
(これは……楽しむしかない……!)
 女性の施術を担当してきたことはあるものの、ララのような外見――地球人と変わらないタイプの外見を担当したのは、片手で数えるほどしかない。宇宙に名を知られる店のため、様々なタイプの宇宙人がやって来るので、地球人タイプとは容貌の異なる客が多かったのだ。
 中年の好みは、地球の人間とほぼ同一のルックスである。
 好みの少女がやって来たのは本当に久々で、しかもストライクゾーンを貫く顔立ちに、よく膨らんだ乳房やくびれた腰など、全身が魅力に溢れている。こんなエステなど来なくても、顔もスタイルも初めから整っていた。
 もちろん、来たからには施術を行い、肌の質感をより良くしたり、美乳や美尻効果を狙ったタッチは施していくのだが、それだけでは中年の方が満足できない。ズボンの内側が石よりも固くなり、下着を突き破らんばかりに膨らんだ今、やってはならないことをしたくてたまらない。
(ララ……デビルーク星のララ……きっと、王女様だ……)
 ララ・サタリン・デビルークといったら、かつては父親の方針で毎日のようにお見合い相手を募り、早いところ結婚させようとしていたが、いつからかお見合いが行われることはなくなっている。
 中年はその際に顔を写真で見たことがあった。
 自分がお見合いに呼ばれたわけではないが、有名人の顔を見た覚えくらいは何度かある。記憶の中にある王女の顔と、目の前のララの顔は一致している。これで別人ということはないだろう。
(つまり、格式の高い……本来なら、決して触れることのないオッパイ……)
 今は施術に集中しようと、乳房に触れることは避けているが、ふっくらと可愛い丸っこさから、桃色の乳首がツンと立ち上がっている。綺麗な乳輪を咲かせた胸の、なんと綺麗なことであろうか。
 早く触りたい。
 しかし、あからさまに怪しい動きをすれば、疑われてマッサージどころではなくなりかねない。困った事態を避ける意味でも、中年はまだまだ施術行為に忠実に、ツボ押し効果を狙った指圧混じりに、じっくりとオイルを伸ばし続けた。
 瓶の中身を何度も手の平に広げ直して、それを塗り伸ばしていくことで、ララの四肢は根元まで光沢を帯びている。次にはも腹部にオイルを伸ばし、ヘソの周りも少しずつ輝かせ、表皮の光沢を広げていた。
「はぁ……気持ちいいなぁ……」
「おや、そうですか」
「うん。アロマの香りもすっごくいいよ」
 ララは満足そうに目を瞑り、極楽の時間に浸っている。
 中年がどんな下心を抱いていても、それに気づく様子は欠片もない。本人は風呂でくつろぐことと変わらない気持ちで、この快感に浸っているわけだ。
 アロマポットから漂う香りは、中年自身の鼻孔にも流れ込む。
 しかし、その真の効果は女体にしか発揮されない。
 香りの中には媚薬成分が含まれており、成分が浸透していくにつれ、徐々に興奮してくるはずなのだ。触るまでもなく乳首が突起して、アソコには愛液の気配が現れるのが効き目の目安で、即効性ではないので時間がかかる。
 まだまだ、効き目は出ていない。
 逸る気持ちをぐっと堪え、焦らないように丹念に、腹から肋骨へ塗り広げる。脇下にも指を差し込み、次に鎖骨といった具合に、乳房に直接触れることなく、その周囲だけにオイルを広げ続けていく。
「うつ伏せになって頂けますか?」
 光沢が広がったところで、身体の向きを変えてもらうことにした。
「今度は背中だね」
 ララは疑いなくうつ伏せに変わると、ほどよい厚みを帯びた可愛い尻が、ぷりっと上向きになっていた。尾てい骨の位置よりも、もう少し高い部位から尻尾を生やし、それが尻の割れ目に沿うかのように垂れ下がる。
 まずは背中にオイルを垂らした。
 とうとう瓶の中身を使い果たして、二つ目の瓶を開け、それを背骨に直接かけた上、やはり手の平で塗り広げる。腰から肩甲骨の位置にかけ、手圧と指圧を同時に与えながらのスライド往復を繰り返し、量が物足りないと感じたところへ、さらにオイルを垂らして広げていく。
 背中がまんべんなく光沢を纏ったところで、残った箇所は尻とアソコに乳房など、恥部のみとなっている。
「ではララさん。次はお尻にも塗っていきますからね」
「あ、オジサンっ、尻尾には触ったダメだからね」
「尻尾ですか? ええ、気をつけましょう」
 確か尻尾は敏感だと聞いたことがある。
 触ってみたいが、今はまだ早い。
 中年は改めて手の平にオイルを落とし、小さな円を作った上で、尻たぶを撫で回す。ぷりぷりとした肉厚の丸みそれぞれに、体重をかけんばかりに手の平を沈めると、尻の心地良い感触が手の平から指先にかけて染み渡る。
(おお……!)
 興奮が一気に高まった。
 肌に触っている時から鼻息は荒かったが、尻という決定的な箇所に触り始めて、いよいよ股間の怒張は誤魔化せない。ズボンの様子など見せはしないので、気づかれることはないとは思うが、あまりにも綺麗なテント張りが出来上がっていた。
(これは、なんと良い感触……おっと、指圧効果を忘れてはいけないねぇ……?)
 中年は実にニヤけきっていた。
 あからさまな表情をしていれば、いくら無警戒に見えるララでも、中年に対して疑念を抱くことになりかねない。うつ伏せという姿勢をいいことに、今なら目つきなど見えはしないと、思う存分に顔付きを豹変させていた。
 鼻の下を伸ばしきり、尻をじっくり視姦する。
 Tバックの紐が割れ目に入っているだけで、中年が用意した下着では、とてもでないが肌を隠すことなどできない。丸出しも同然の尻たぶにオイルをまぶし、撫で回すことで皮膚に擦り込み、しっとりと水分を帯びたところに、またオイルを足してやる。
 吸水の限界を迎えた皮膚は、それ以上はオイルを吸収することはなく、ただ尻の表面がヌルヌルとした輝きの層を纏うだけである。
 しかし、そのオイルの層を作ることこそ、中年の目的だった。
(エロいよねぇ?)
 オイル濡れとなり、ヌラヌラと輝く尻ほど卑猥なものはない。
 手足や胴体に行う施術より、明らかに時間をかけて、尻を丹念にほぐしていく。肉付きを味わいながら、ツボ押しのための指圧を忘れずに、マッサージとしての体裁は守りながら、丁度よく楽しんだ。
「次はもう一度仰向けでお願いします」
 そう言うと、やはりララは疑いなく身体の向きを変え、天井に視線を投げかけていた。
 次は乳房だとしか思っていない。
 男におっぱいを揉まれるのは、地球に暮らす思春期の少女の感覚では、重要な出来事と捉えるのが普通と聞く。地球以外にも似たような貞操観念の星はそれなりにあり、乳房へのタッチを拒む客もいるのだが、ララにその様子はない。
 ララの中では、施術以外の何でもないのだ。
 足腰のケアをしてもらい、その次にやってもらう箇所が胸である。メンテナンスの部位が変わったに過ぎない感覚で、本人は特別なこととして捉えていない。
「いよいよ美乳効果の施術をやっていきます」
 表情はとっくに元に戻して、接客用の人当たりの良い笑顔を浮かべていた。
「わーっ、わたしのおっぱいが今より綺麗になるんだよね」
「ええ、そのように努力します」
「楽しみだなー」
 ララは一貫して、施術による効果が出ることを楽しみにしていた。




 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA