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 しかし、寸止めの回数を重ねれば重ねるほど、ララの顔には少しずつ疑問が浮かぶ。
 どうして繰り返されるばかりなのかと、疑うような気持ちが着実に育っているのだろう。
「んっ、んぁ……あぁぁ…………!」
 指をピストンさせるにつれ、愛液をかき混ぜる水音がよく目立つ。クリトリスの反応も良くなって、脚がしきりに弾んでいる。足踏みが活発に、髪を振り乱す動きも大きくなり、いよいよ次の絶頂を迎えると見た瞬間、中年はすかさず愛撫を停止した。
「え……」
 数回目の寸止めに至って、ララはそんな声を上げていた。
「おや、どうしました?」
「だって、もう少しで――」
「もう少しで、どうなりました?」
 中年はさも何も気づいていない、わかっていない風にして肩を竦める。
「あ、やっぱりなんでもないよ!」
 どうやら、絶頂については口に出せない羞恥心があるらしい。
 乳房を出すのも、尻を見せるのも平気だというのに、それ以上となると少しずつ乙女らしさが見え隠れするようだ。
「そうですか。では改めまして」
「んぅぅぅ……!」
 くちゅりと、水音が聞こえて来る。
 ララの吐息は熱っぽく、ともすれば熱にうなされでもしているような面持ちで、悩ましげに首を振りたくる。脚の開閉が活発に、足首もその都度反り返り、愛液の香りは部屋中に充満しつつある。
 アロマポットから漂う香りは、いつしか愛液の匂いに掻き消される勢いだった。
「あっ、あぁぁ……!」
 喘ぎ声のトーンが上がる。
 反応の活発さが目に見えて変化して、次の絶頂が近いとわかるなり、中年は寸止めの構えを整える。
「あっ、んぅぅ……今度……こそ……!」
 そして、そこを狙った。
「えっ、なんで……!」
 次に愛撫を停止した時、切なくてたまらない、疑問でならない眼差しが向けられていた。
「どうしました?」
「だって――」
「わかりませんね。何かおありなのですか?」
「それは……わたし、今もう少しで――」
 と、そこまでは言うものの、そこからは口を噤んでしまう。
「もう少しで?」
 中年はわからないフリを続けつつ、ララ自らの意思で絶頂を求めるまで待ち侘びる。どうかイカせて下さいと、ララの口から言わない限り、絶頂はさせないつもりでいた。
「そ、そうだ! オジサン、次はわたしがいいって言うまでやめないで?」
 思いついたようにララは言う。
「何故です?」
「いいから、もう一回!」
「ええ、まあいいでしょう」
 中年は指のピストンを再開させ、左手でもクリトリスをくすぐった。
「んぅぅぅ……!」
 すぐにララは喘ぎ始める。
 甘い声を吐き散らし、振り乱した髪は額の汗で皮膚に張りつく。股の周りに広がるぐっしょりとした円は、もう少し前までならオイルが染みただけだったが、今となっては愛液がたっぷりと含まれていた。
 シーツに触れれば、そこから糸が引くに至っていることだろう。
 お漏らしでもしたように、背中や手足のオイルが移った染みに比べて、アソコの周りだけが明らかに色を濃くしているのだった。
「んぁっ、あぁ……あっ、んぅぅっ、んぁぁ…………!」
(しかし、そう来るとはね)
 許可が出るまでやめないように、などとよく思いついたものではあるが、その通りにしてやる必要はない。
 やはり、絶頂が近づいたら、その時点で愛撫を止めるつもりでいた。
 口約束など、守らなければいいだけだ。
「んぅぅぅ……!」
 脚が小刻みに動いている。
 指の動きを見てみれば、足首をしきりに上下させると同時に、やたらにグーパーさせながら、激しい開閉を繰り返していた。
 指に感じる膣の鳴動も活発に、汁気も激しくなっていく。
「んあっ、あん! あぁん!」
 そろそろか。
 頃合いを見計らい、ララのイキそうなタイミングに合わせて指を引き抜き、クリトリスを弄っていた左手も離してやる。

「えっ、うそ――なんで、やめないでって言ったのに――」

 信じられないものを見るような、欲しかったものを得られなかった表情が、真っ直ぐに真正面から向けられていた。そこには若干の非難がましさも入り交じり、どことなく睨んだような目つきでもあった。
「とは言われましても、そろそろ別の施術に移ろうかと思いまして」
「別のって――」
「ええ、全身のケアですからね。また背中や胴体をやっていき、リンパやツボを刺激していきたいと思います」
「でも、アソコが――」
「ですから、何かあるというのなら、仰って頂かないと」
「それは……わたし……」
 さて、言えるだろうか。
 イキたい、絶頂したいと、果たして口にできるのだろうか。
「うぅ……」
「さあ、教えて下さい。アソコがいかがなさいました?」
「それは……」
「それは?」
 重ね重ね尋ねると、ララは唇を結んだまま、しばしのあいだ黙り込む。言うか言わぬか、少しの葛藤の沈黙が流れた挙げ句、ララはようやく白状した。

「――い、イキたい」

 ララは恥ずかしそうに告白した。
「イキそうになるたびに手が止まるんだもん! もうイカせてよ!」
 思い切っての告白は、恥ずかしいことを打ち明けるのに、かえって大声になっていた。
「なるほど、イキたいと」
「いいでしょ?」
 告白をしたことで、かえって吹っ切れたのか。
 今度は期待の眼差しが向いてくる。
「さて、まあ構いませんが」
「ホント?」
 ララの瞳が輝いていた。
 期待の色が強まっていた。
 この密室で初めて会う男にアソコをさわられ、絶頂させられることに関しては、本人はどう捉えているのか。やはりマッサージとしか思っておらず、性的な快感さえも、施術が気持ちいいことの延長なのか。
 当人の心はどうあれ、これでイキたい願望を白状させることに成功した。
 もっと言うなら、そんな風に追い詰めることに成功した。

「しかし、ここはエステですよ? エッチをする場所ではありません」

 中年は高ぶっていた。
(楽しい……楽しい……!)
 白状させた上で、その欲望を非難する。
 その一体なんと興奮することか。
「えっ、エッチって……でも、マッサージで……」
「そうですよ? お尻も、胸も、アソコも、全て施術のために触っています。全ては美容効果のためなのですが、ララさんはそれで性的な快楽を感じた上に、イキたいと仰っているわけですね?」
 説教のようにして言葉を重ね、微妙な圧をかけていると、ララの態度は萎れていく。
「そうだよ。だって、あんなに何回も、直前で止められちゃったら……」
 声が弱ったものになっていた。
「四つん這いになって下さい」
「え? それは、いいけど――イキたい……」
 弱々しい声でララは言う。
「イカせて差し上げます。ですが、まずは四つん這いになって下さい」
「うん……」
 ララはそしてポーズを変え、施術台の上で肘を突く。
 尻の突き出た姿勢での、お尻がまんべんなく光沢を纏った景色は、見ているだけで精液の出そうな絶景に他ならなかった。

     *

 ララは肘と手の平をべったりとシーツに付け、尻をやや高めにしての四つん這いとなっている。
 中年はそれを眺めて、施術台の横合いに立っていた。
 尻たぶを手で掴み、好きなように撫で回しても、ララはおそらくマッサージの一環と捉えている。ただの猥褻目的で触られているなどとは、きっと夢にも思っていない。中年はそれをいいことに感触を味わって、オイルによって滑りの良い、ぬかるみを帯びた肌の質感を堪能していた。
「ではララさん」
 中年はホログラムウィンドウを起動する。
 四つん這いという姿勢のため、壁や床ばかりを見ているララは、自分の背中に何が浮いているかに気づいていない。浮遊する画面の中で、ララはただただ不安そうな、もどかしそうな顔をしているばかりであった。
(さーて、どんな顔をするのかな)
 中年は楽しみでウキウキしていた。
 これから行うのはお仕置きだ。
 エステを受けているはずなのに、性的な快楽を感じただけではなく、あまつさえイカせて欲しいとまで要求する。そんなイケナイ行為に対して、ちょっとしたお仕置きを加える目論見に、これ以上なく唇が吊り上がり、ニヤニヤが止まらない。
 もし今、このタイミングでララが振り向こうものなら、中年の表情は一瞬にして悟られてしまうことだろう。
「ご希望の絶頂については、せっかくですので対応させて頂きましょう」
 声は一切、不審ではなかった。
 自分の表情がどれだけ豹変して、それを隠しきれなくなっているかの自覚はあるが、声色は接客用のそれを保てていた。
「よかったぁ……」
「ですが、これは本来いけないことです。そんないけないララさんには、特別な施術を行いたいと思います」
 お仕置きとは言葉に出さない。
 口先では施術の一つと言っておくが、しかしララの表情には緊張を帯びた固さがある。普通の施術では済まない、何か特別なことが起こる予感をしていることだろう。
 そして、それはその通りだ。
 普通はやらない、特別な行為を今から中年は行うのだ。

 ぺちん!

 中年は尻を叩いた。
「やっ……!」
 ララが驚きに目を丸め、小さく軽い悲鳴を上げる。

 ぺちっ、ぺちん! ぺち、ぺち、ぺち!
 ベチッ! ペチッ、ぺちん! ぺちん!

 平手打ちの繰り返した。
 振り上げた腕をぶつけ続けて、鳴り響く尻からの音がリズムを刻む。ホログラムウィンドウの中に動く表情は、驚きと困惑に満ちたものだった。
「えっ? えっ、施術なの!?」
 慌ただしさのある顔で瞳を震わせ、どことなく恥辱も滲ませているララの様子は、期待通り見ていて面白いものだった。
「そうですよ?」
「でも、これって――」
「お尻の筋肉に衝撃を与えることで、細胞を活性化させています」
「そ、そうなんだ……」
「ですから、多少お嫌でも、我慢して下さい」
 改めて振り上げて、平手打ちで尻を打楽器に見立てて楽しんだ。

 ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!

 果たして、デビルーク星にはお尻を叩くというお仕置きは存在するか。
 一体、ララはどんな気持ちでいるか。

 ぺちっ、ぺちん!
 ぺちん! ぺちん!

 ホロウィンドウを見てみれば、戸惑い混じりの複雑そうな表情で、ララは唇を固く結んでいた。口角に力が籠もり、頬の固さを見てみても、歯を食い縛っている様子が伝わってくる。いかに耐え忍んでいるかが表れた顔付きに、中年はすっかりいい気になっていた。
「もう片方もいきましょうか」
 反対側の尻たぶを叩くため、中年は向こう側へと回り込む。
 腕を振り上げ、打ち鳴らした。

 ぺちん! ぺちん!

 尻尾が反応を示している。
 叩くたび、叩くたび、電気でも流れたように、軽く弾み上がっている。

 ぺちん! ぺちん!

 腰が微妙に動いていた。
 モゾモゾと、何かを求めてやまない気配を醸し出し、切ない気持ちを放出しながら、かすかながらにフリフリと、尻は振りたくられている。

 ぺちん! ぺちん!

 オイル濡れの尻である。
 平手打ちの衝撃を帯びることで、僅かな滴が周囲に散っているものの、こうまで厚く塗りたくっているのである。いくらスパンキングを繰り返しても、オイルの層が剥がれきる気配はないのだった。
「オジサン――もうイキたいよぉ……」
 ララは切実に訴えてくる。
「おや、我慢できませんか?」
「だって、ずっとイってないし……」
「ではもう少し待って下さい? こちらにも施術を行いますから」
 中年はおもむろに尻尾を掴む。
「ひゃん!」
 たったそれだけで、甘く大きな声が上がっていた。
 やはり、尻尾が弱いというのは事実らしい。
「こちらの施術はまだ一度もしていませんでしたからね」
 中年はマッサージを装いながら、握った尻尾を揉み抜いて、ハート型の先端を指で擦ると、ララは腰をぶるぶると震わせていた。
「やっ! だめっ、し、尻尾は……!」
 まるで性器を愛撫しているように、ララは激しく感じていた。
「あっ、いやぁ……!」
 大きな喘ぎ声を上げながら、身体を丸ごと反応させて、両手がシーツを握り締めていた。足の指にも力が籠もり、足でも拳を作っていた。尻がやたらに振りたくられ、左右にフリフリと動いていた。
「んっ、んぅぅ……! んぁっ、やっ、あぁぁ……!」
 まるで肉棒をしごくようにして、根元付近を握った手では上下に擦り、ハート型の部分は指を絡めて揉みしだく。
「んぅぅぅぅ………………!」
 ララの肩が震えていた。
 内股にぐっと力が入り、何かを我慢して見えた途端、中年が咄嗟に連想したのはオシッコの我慢であった。尿意を堪えんばかりに股を意識し、抑え込もうとしているような気配であると感じられた。
 だが、きっとトイレではない。

「んぅぅぅぅぅぅぅ――――――――――!」

 その瞬間、尻が痙攣のように震えていた。
 さながらバイブやローターになりきったように、尻がぶるっと震えるや否や、内股には大量に滴が伝っていた。何滴も何滴もの、おびただしい数の滴が表皮を伝い、筋を伸ばして下へ下へと流れ落ちていた。
 ララはイったのだ。
 そろそろ構わないとは思っていたが、まさか尻尾で絶頂するとは思ってもみなかった。





 
 
 

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