前の話 目次




 アソコが切ない。
 切なくて切なくて、その限界を迎えそうな肉体は、もうどこもかしこも性感帯だ。
「ふふっ」
 悪戯な笑みを浮かべて、ヴィーヴル女はヘソをくすぐる。
「んぅぅっ!」
 たったそれだけの刺激でさえ、性器をやられたかのように気持ち良く、体が反応してしまっていた。
「ねえ、イキたい?」
「…………」
 フィアメッタは無言で顔を背ける。
「まだ、そういう態度が取れるのね?」
「……悪いかしら」
「でも、イキたいんでしょう?」
「…………」
 返す言葉がない。
 それに言い返したら、もう決して絶頂のチャンスを与えてもらえないのではないかと、心のどこかに不安があった。そんな不安を抱いてしまうほど、フィアメッタには絶頂への欲がすっかり膨らみ、もうイカなければ気が済まない状態に陥っていた。
 心で意地を張ろうとしても、体の方が絶頂を求めてしまっている。
「はぁ……あっ、あぁぁ…………」
 もはや触られていなくても、神経が勝手に甘い痺れを作り出し、それは体内を駆け巡る。突起したクリトリスが大気を浴びることさえ刺激になり、ならば上から覆い被さってくるヴィーヴル女の、身体が擦れる瞬間も、当然のように気持ち良かった。
 ヴィーヴル女は脱いでいた。
 自身も裸になることで、フィアメッタの乳房へと、自分の乳房を擦り合わせる。乳首同士がぶつかり合い、擦れ合うことにより、体がびくっと蠢いていた。
 いや、それどころではない。
(私、何を動いて……)
 フィアメッタ自身の方も、体をモゾモゾと動かしていた。
 そうすることで、乳首同士の擦れ合いから快楽を得ようと、体が動いてしまっていた。無意識のうちに太ももを擦り合わせ、股のあいだに入り込むヴィーヴル女の脚に向け、ついつい擦りつけようとしてしまっていた。
 自ら腰を浮かせることで擦りつければ、それで快感が得られるはずだと、体が勝手にうごいて気持ち良くなろうとしていた。
 もう何回、寸止めをされたのかがわからない。
 きっと、十回以上はやられているせいで、体の切なさが極限に達しているのだ。
 いっそ観念してしまいたい。
 フィアメッタの心には、そんな気持ちが本格的に膨らんでいる。
「ねえ、もう楽になったら?」
「余計なお世話よ……」
「でもほら、こんなにくねくねしちゃって、私の脚に塗りつけちゃってるじゃない」
「あ……」
 無意識に動いていた自分の腰に、指摘されてやっと気づいて、フィアメッタは直ちに動きを止めていた。言われて気づくまでのあいだ、フィアメッタは浮かせた腰を上下して、ヴィーヴル女の太ももにアソコを擦っていたのだ。
「まったく、可愛いんだから」
 ヴィーヴル女は首筋に吸いついてくる。
「あぁ……!」
 何をされても、どこに触られても気持ちいい今、フィアメッタはキスにも声を出していた。
 もう本当に楽になりたい。
 理性は溶け、意地でも堪えようとする思いが薄れていく。首筋にキスマークを付けられると、それが今度は鎖骨にも、腹部にも、いたるところに増やされて、皮膚の赤らんだ痕跡が口づけごとに繁殖していく。
 やがてまた、アソコに指が置かれた時、フィアメッタはその時点で寸止めを予感した。
「あっ、あぁ……あぁぁ…………!」
 声が出る。
 膣に侵入してきた指に、フィアメッタは髪を激しく振りたくり、脚ものたうち回らせる。
「あっ、あぁぁ……あぁぁ…………!」
 来る。もう、絶頂する。
 そう思う瞬間こそ、指が止まるはずの瞬間でもあった。
「あ……」
 やはり、イカせてはもらえなかった。
「ほーら、どうする?」
「…………」
 フィアメッタにはもう、答える余裕がない。
 言葉を返す気力もなく、ただただ耐えているだけだった。余力があれば、その分だけ態度を変えたり、何かを言ってやることもできたところを、フィアメッタは静かに唇を閉ざし、顔を背ける程度しかできなくなっていた。
「じゃあ、試してあげるね。あなたがあと、何回くらい持つのかどうか」
「…………」
 フィアメッタの膣内で、指がまた動き始める。
 それは何度でも繰り返される寸止めの連続だった。指がピストンしているあいだは、脚がしきりに跳ね回る。よがる両手でシーツを掴み、首をやたらに振り回す。そして、イキそうになればなるほど、今度こそイカせて欲しい欲望が胸に膨らむ。
(もう……イキたい…………)
 心の中では、もはや完全にそれを求め始めていた。
 切実なものが目に浮かび、懇願の思いをいくらでも瞳に宿して、イカせて欲しい思いをヴィーヴル女へと送り込む。そんなフィアメッタの心情を明らかに見通していて、それでいて決してイカせない。
(イキたい……イキたい……イキたい……)
 次の寸止めでは、それがさらに強まっていた。
 もう限界だと思う気持ちは、寸止めの一回ごとに増幅している。瞳に宿る思いも強まり、だから絶頂を求める目つきは、どんどんわかりやすい表情に変わっていった。
(お願い……イカせて……!)
 ただ口に出していないだけで、フィアメッタはもう心の底から絶頂を求めていた。イキたくてイキたくてたまらずに、下らない意地やプライドはその分だけどうでもよくなっている。それでも声に出さないのは、自覚がなくとも無意識のうちに意地を張っているせいかもしれなかった。
「い、イキたい…………」
 とうとう、声に出る瞬間がやってきた。
 そこに到達するまでに、フィアメッタが受けた寸止めの回数は、ゆうに二十回を超えている。一度の寸止めに数分はかかると考えれば、時間にすればあるいは一時間以上は堪え続けているはずだった。
「え? なんて言った? 聞こえなーい」
「くぅ……!」
「もっとはっきり言って欲しいな」
「い、言ったじゃない……」
「あれだけ素敵な銃捌きで、私達なんて敵じゃないって態度だったあなたが、今は一体何を考えているのか。もっと大きな声で、それこそ部屋の外まで聞こえるくらいの勢いで、はっきりと宣言して欲しいなー」
 ヴィーヴル女の目が輝いている。
 人の尊厳を蹂躙して、辱めたくてたまらない欲望が、ついに叶おうとしていることへの、興奮でならない火照った顔がそこにはあった。
「そんな……どこまでも……!」
 フィアメッタは怒りに歯を食い縛る。
 しかし、その憤りに満ちた表情も、アソコに指が置かれ直した瞬間には、もう別のものへと変わっていた。もう勘弁して欲しい、お願いだからやめて欲しい。もう本当に、イカせて欲しい。許しを請い、懇願もしている眼差しそのものとなっていた。
 そして、ヴィーヴル女はトドメのように、あと数回の寸止めを行った。
 とうとう、最後の一片だけ残っていたプライドにも亀裂が走り、ついにフィアメッタの中では、イキたい欲望の方が完全なまでに上回る。もう微塵も、我慢しようだの、堪え抜いてみせようだの、そんな気持ちは残っていなかった。

「イカせて!」

 フィアメッタは大声で宣言していた。

「イカせなさい! もう我慢できないわ! もうこれ以上は限界なの! ほら、あなたの望み通り、宣言したわよ! だから早くイカせなさい!」

 怒っているのか、頼んでいるのかもわからない。
 本人にさえ、どちらともつかない荒っぽい宣言は、客観的には怒りっぽく聞こえるはずだった。
「じゃあ、お望み通り」
 ついにイクことができる。
 そうとわかった瞬間の、次に指がアソコで動き、愛撫が始まる瞬間に対しては、今度という今度は期待感を膨らませていた。それまではまた寸止めに違いない、どうせイカせてもらえないという諦観がつきまとい、素直に悦ぶことのできなかった快感を、フィアメッタは悦んで受け入れていた。
「あっ、あぁぁ……!」
 もう声を抑える意志はどこにもない。
「あっ、あっ、あっ、あぁぁ……!」
 ただただ、イキたい。
 フィアメッタの頭にあるのは、今はただそれだけだった。
 しかし――。

「ごめんなさーい? 間違えて寸止めしちゃった」

 あまりにも底意地の悪い、悪魔の笑みを浮かべながらの、実に楽しそうに行う最後の寸止めに、フィアメッタは絶望のような無念のような顔をしていた。

     *

 フィアメッタは絶頂に登り詰め、弾ける直前に到達していた。
 その後、改めて指が動いて、膣内を掻き回し始めた時、フィアメッタはみるみるうちに喘ぎ散らしてのたうち回り、今度こそ絶頂できるはずの瞬間を迎えていた。
「あぁ! あっ、今度は……! も、もうっ、止めないで!」
「わかってるわ。今度はちゃーんとイカせてあげる」
「あっ、あぁぁ……!」
 それまで少しでも意地を残して、例えそうは見えなくても欠片程度のプライドは抱えていたフィアメッタが、それさえ捨ててイこうとしている。そんな光景に対しての、ヴィーヴル女が浮かべる表情は、ひたすら愉悦に満ちたものだった。
「いいわぁ? 強かった女がこうなる瞬間って、いつだって興奮するわ」
「あぁぁっ、あぁぁ……!」
 今のフィアメッタには、快楽に夢中でそんな声など聞こえていない。

「あぁぁ……………………!」

 ついに、絶頂した。
 ぷしゃっと軽く潮を噴き、背中をアーチのように反り上げて、痙攣しながら絶頂していた。何秒も、何秒もかけて脳で電気が弾けて回り、やっとそれが沈むと同時に、持ち上がっていた胴体もベッドに沈み、フィアメッタは大きく胸を上下させて、深い呼吸を繰り返していた。
「どう? イった気分は」
「……う、うるさい……わ……それで、まだ続けるの?」
「ええ、まだ続けるわ。時間はたっぷりあるんだから」
 ヴィーヴル女は道具を用意していた。
 今度はピンクローターを起動して、それをクリトリスに押し当てる。人の表情を覗き込み、感じた顔をじっくりと観察しながら行う攻めに対して、フィアメッタはヴィーヴル女にしがみついてしまっていた。
 ヴィーヴル女の首に腕を絡めて、そうしなければ快感を堪えきれないかのように、ぎゅっと力を加えて喘ぐ。
「あっ! あぁ! あぁん!」
「あらあら」
「ああっ、やっ、やぁん!」
「すっごく可愛い」
「あっ、あっ、あっ、あぁぁ…………!」
「もう最高っ」
 ヴィーヴル女がしているのは、ただクリトリスの部分に振動するものを押し当てている。たったそれだけの、何の技巧もない方法に過ぎなかったが、媚薬の浸透しきっているフィアメッタには、もうとっくにテクニックなど必要ない。

「あぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――」

 また、イっていた。
 足首を大きく反り返し、ビクビクと痙攣させた後、その痙攣が解けた直後に脱力する。
「ふふっ、何回だってイかせてあげるわ」
 そんなフィアメッタを愛おしそうに抱き起こすと、今度はローターを膣に入れ、ワレメの中からコードが出ている状態でスイッチを入れる。その駆動音と共にフィアメッタは嬌声を上げ、ヴィーヴル女に抱きついていた。
「あっ、あぁぁ……あぁっ、あぁ…………!」
 フィアメッタはヴィーヴル女の背中に両腕を回し、乳房を絡め合わせていた。無意識のうちに乳首でも快感を求めた結果、乳首同士で擦り合うように身体を動かしつつ、ローターからの刺激にも喘いでいた。
「あっ、んぅぅぅ……!」
 絶頂まで、そう時間はかからない。
「んぅぅぅぅぅ――――――!」
 今度はビクっと肩を跳ね上げていた。
 イったばかりのアソコから、ローターのスイッチを止めることなく、むしろ右手を身体のあいだに潜り込ませる。抱き締め合った密着感の隙間に腕を通して、ヴィーヴル女はクリトリスを触り始めた。
「んひぃ!」
 滑稽な声が上がった。
 フィアメッタが受ける刺激は、膣で震えるローターに、クリトリスに対する指攻めまで加えてのものとなる。乳首まで含めれば、実に三箇所からなる快感に身を震わせ、その数分後にはまたやはり肩を大きく弾ませていた。
「んぁぁぁ――――!」
 またイった。
 これで一体、何度絶頂を味わったか。
 後々のフィアメッタに、そんな記憶は残っていない。そもそも、そんなものを数えようとする発想自体がなく、後になって残る記憶は、ひたすら至福の時を過ごしてしまったような、快感でならない感覚だけだ。
 余韻は体に刻み込まれて、この時に得た快感全ては、いつでも思い出せてしまうまでに染みついていた。

「あぁぁっ、あぁぁぁぁ………………!」

 何度目かもわからない絶頂の果て、フィアメッタは失神していた。
 その直前に目に焼き付くのは、人がイキ果てる姿を見て、幸せでならない目をした興奮しきったヴィーヴル女の顔だった。人をここまで追い詰めて、辱めてやった思いに溢れての、満面の笑みが強烈に焼き付いて、それからどんなに経っても、フィアメッタの脳裏からそれが消え去ることはなくなっていた。

 …………
 ……

 フィアメッタが目覚めた時、そこはロドスの医務室だった。
 賊に囚われてからの目覚めでは、見覚えのない天井や知らない壁が目に付いたが、今は覚えのあるものだけが視界にある。
(あれ、私……)
 目覚めてまず、快楽の余韻に気づく。
 どれくらい眠っていたのかはわからないが、真っ先にそれを思い出してしまうほど、フィアメッタの肉体には深く快楽が刻み込まれてしまっている。その自覚をすることで、フィアメッタは急に恥ずかしくなったように赤らんでいた。

「お目覚めのようだね」

 そして、より覚えのあるものが、モスティマの顔が視界にあった。
「モスティマ……」
「おはよう。フィアメッタ」
 モスティマがベッドの隣に椅子を置き、フィアメッタを今の今まで見守っていたのだ。
「……ごめん」
「何も言わなくていいよ。何も、ね」
「……そう。また会えて、良かったわ」
 フィアメッタは自然と素直な気持ちを口にする。
 結果的には、一人取り残されたモスティマは、それからフィアメッタの居場所を突き止め、助け出すことに成功したわけだ。だからこうしてロドスの医務室で目を覚まし、申し訳なくてたまらない気持ちなど抱いていられるが、もしも助けが来ることなく、永遠に囚われたままだったら、自分は一体どうなっていただろう。
 拉致されて、監禁された時点で、二度と会えない可能性もあるいはあった。
 だからこそ、モスティマの顔を見た瞬間の安心感といったらなく、思わず衝動的に抱きつきたいくらいであった。
「今はまだ休んでいるべきだよ。色々と打たれた薬がまだ抜けていないって、ケルシー先生も言っていたからね」
 媚薬や筋力抑制剤、それにアーツ阻害薬もあっただろうか。
 複数の薬にやられた体だが、きっと時間さえ経てば効果は切れる。
「それに銃も取り返してある。心配はいらないよ」
「埋め合わせをした方が良さそうね」
「ま、それは追々ってことで、今はゆっくりお休み。フィアメッタ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
 起きたばかりで、まだ眠気が残っていたことに気づいて、フィアメッタは目を閉じる。すんなりと心は落ち着き、やがてフィアメッタは眠りについていた。
 だが……。
 夢に出て来てしまっていた。
 夢というのは、起きれば記憶が薄れていく。ともすれば、自分は夢を見たという記憶すら残らないものなのだが、あの強烈な記憶ばかりは薄れない。

 あのヴィーヴル女が出て来たのだ。

 このロドスの医務室にまでやって来て、フィアメッタのベッドに忍び込むヴィーヴル女は、ローターやディルドを使って辱めの限りを尽くす。
 改めて目を覚まし、今度は隣にモスティマの姿もなく、ただ一人で起きた時には、ショーツに濡れた感触があった。夢の中で受けた辱めは、そのまま現実の体を濡らし、ショーツを汚してしまっていた。
「最低……」
 あいつのせいで、忘れられない快感が今なお残る。
 フィアメッタが賊についての顛末を聞いたのは、こうして二度目に目を覚ましてから、しばらく経ってのことである。
 あの時、国の中には他にもオペレーターが来ていたらしい。
 フィアメッタが消息不明になったことから、単独での対処は困難になることを想定して、他のオペレーターの協力を得ながら潜伏先を突き止める。しかし、それを向こうも察してか、救出に踏み込む頃には撤退済みで、持ち出す暇もなかった食料や薬品に武器などの、いくらかの荷物が残されていたらしい。
 その残された中にフィアメッタや彼の銃があったのは幸いだった。
 しかし、隔離区域にさえリーダーの――ヴィーヴル女の姿は見当たらず、どうやって行方を眩ませているのか。あるいは国を離れて逃亡してしまっているかも見当がつかず、未だに発見できていないという。
 フィアメッタの心には、辱めを受けた上、溜飲の下がる結果さえ得られていないことへの屈辱感が大きく残る。
「今度会ったら……」
 その時は、絶対に許さない。
 どれだけ可哀想な身の上だろうと、この身に受けた辱めを許す理由にならない。
 だから決して容赦しないと、フィアメッタはそう心に決めていた。



 
 
 

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