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 揺れの原因の一つは、戦士による腰振りの勢いである。
 彼がピストンのペースを上げるまで、ずっと何事もなかったのだ。激しく動けば揺れるような状態に、この馬車があるのは明白だった。
 では何故、そうすれば揺れるのか。
 サスペンションや車軸のガタも原因の一つだが、さらには車輪の置かれた場所が悪い。その時には気づかなかったのか、うっかりしてしまっていてか。後輪の右側が実は穴の上に浮いていたのだ。
 穴といっても、手やスコップで掘るようなれっきとした穴ではなく、単なる大地の凹凸にすぎない。大地が綺麗な平面になっていない、微妙な山なりが連なっているために生まれた浅い凹みの穴なのだが、これが少々深めであった。
 そこに車輪の一つが浮いていた。
 いわば誰も気づくことがなく、よって誰も指摘する者がいないために起こった事故のようなものである。

「ね、ねえ――この馬車――――」

 ジェーンはさすがに揺れを気にしていた。
 この馬車はどうなっているのか、どこかに故障箇所でもあるのか。そのことが気になってならなくなるも、戦士はお構いなしにピストンを繰り返す。
「なに、心配いらんだろう」
 もちろん、彼も少しは揺れを気にして、多少はピストンを停止していた。
 だが、そんなことより欲望を優先してか、再開するなり激しく動き始めたのだ。
「あぁぁ……! あっ、あぁ……! ちょっとぉ……!」
 ジェーンはすぐに大きく喘ぐ。
 激しい快感の波に翻弄され、すぐに馬車のことを言っている余裕はなくなった。最初のうちは喘ぎながらも、何とか揺れについて言ってはいたが、構わず動き続ける戦士を前に、しだいに喘ぐばかりとなった。
「あっ、あん! あぁん! あぁん!」
 それでも、ジェーンにはまだ理性が残っていた。
 快楽にやられながらも、ガタガタと揺れ動く馬車のことを頭の中では気にかけて、おまけにこんなに大きく出てしまう喘ぎ声も、絶対に外に聞こえているはずだと、恥じらいさえも表情に浮かべていた。
 羞恥心をあらわにして、快感に流されてもいるジェーンの顔は、そこに馬車の揺れに対する焦りをスパイスとして足すことで、戦士にとって実に面白い表情となっていた。
「いい顔だ」
 戦士はジェーンの表情を気に入って、夢中で動くばかりとなっていた。

 ガタッ――ガタッ――

 と、馬車全体が揺らめいている。
 戦士が腰を打ち込むことで、その衝撃が馬車全体を跳ね上げているかのように、ジェーンの背中の角度がベッドもろとも持ち上がる。そう大胆に角度が変わっているわけでもなく、それが少しばかりの変化に過ぎないにも、戦士が馬車の具合を楽観視する原因に違いなかった。
「心配するな。この馬車は走ってるわけじゃないんだ」
 だから重大な事故などありえないとばかりに、彼はピストンで激しく抉る。
「あん! あぁん! あぁぁん!」
 ジェーンは何度も、何度も何度も、宙に足を蹴り上げていた。快楽電流で足が弾んで、天井に爪先を伸ばそうとするようなキックを執拗に放ち続けてしまっていた。
 しかも、この揺れはかえって外を盛り上げていた。
 ――おいおい、どんだけハッスルしてんだ?
 ――すげーな!
 外から聞こえる声量が明らかに大きくなり、とうとうジェーンの耳にまで、言葉の内容は伝わってきた。
 しかも、ぞろぞろと気配が増えている気がする。
「……そ、外……外が……あっ、あぁん! あぁん!」
「ああ、外も楽しそうだな」
 戦士はニヤニヤとピストンを続行して、ジェーンの膣内を抉り抜く。
 楽しんでいるのだ。
 ジェーンの外に対する反応さえ含めて、全てが戦士にとっては楽しみを深めるスパイスに他ならない。
 やがて、戦士はついに放出した。
 急に奥に押し込んだまま、ぶるっと腰を震わせたかと思いきや、膣壁の内側で膨らむ何かをジェーンは感じる。それが射精であり、コンドームが膨らんだ感覚だと悟るや否や、やっと一人目との時間が終わるのかと思っていた。
 しかし、戦士はこう言い出す。
「多めに払ってあるからな。もう少しやらせてもらうぞ」
 肉棒を引き抜きながら、当然のように二つ目のコンドームを用意していた。
「……そうなのね。まだ、するのね」
 ジェーンの目の前にあるのは、衰えることを知らず、最初に見た時と変わらず太い血管を浮かせた逸物の、コンドームを被った姿であった。
「四つん這いになってくれ」
「待って? やっぱり、この馬車――」
「さあ、早く」
「あ、あのね? 別の馬車に変えてもらうのは……」
「大丈夫に決まっているだろう。心配しすぎだ」
「もう……わかったわ……このまま続けるのね……」
 いくらジェーンが食い下がろうとも、戦士も戦士でこのままセックスを続けようと、押し切ろうとしてくるのだ。それとやり合うくらいなら、いっそ折れてしまった方が楽だろうかと、ジェーンは大人しく両手を突く。
 ――お? 次はバックか?
 ――いいぞいいぞ!?
 ――またハッスルしてみせてくれよ!
 やはりヒートアップした外の声は、はっきりと幌の内側にまで届いてくる。しかもざわめきの気配に耳を傾ければ、間違いなく人数が増えていた。言葉まで伝わる声量は限られていても、ざわめく感じだけは存分に伝わっていた。
 ジェーンはやはり恥ずかしくなり、肩越しに振り向きながら懇願した。
「お願い! こんな体位じゃ、外から丸わかりよ!」
 せめて体位だけでもと、ジェーンは体勢の変更だけでも頼もうとした。
「それがいいんじゃないか」
「え……」
 そこには意地の悪い笑みが浮かんでいた。
「みんなにも見せてやろう。なに、どうせ影しか見えないんだからいいだろう?」
「ちょっと……あ、あなた……結構Sな方じゃ……」
「かもな」
 結局、体位の変更は聞き入れられず、尻の後ろから迫った肉棒に、大人しく身を捧げるしかなかった。バック挿入で押し込まれ、再びぴったりと収まってきた逸物は、すぐに激しいピストンで出入りしてきた。
「あぁぁぁ! あっ、あぁぁ……!」
 ジェーンは大きな声を絞り出す。
 馬車はガタリと揺れ動き、今度はジェーンの両手を突いた部分が沈んでいった。その入れ替わりで両足の側が持ち上がり、微妙に傾く馬車全体は、重力に引かれてなのか、直ちに元の形へ戻る。
 しかし、ピストンは絶え間なく続くのだ。

 ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ、

 揺れは繰り返されていた。
「あっ! あん! あん! あぁん!」
 そこに辱めのエッセンスが付け足される。
 ――外まで聞こえるぞ!
 ――いい声で鳴くなぁ!
 ――俺もアンタを買えば良かったぜ!
 ――よっぽど気持ちいいんだろ!
 ――こんな声なんて聞こえちゃいなかったりしてな!
 ――ははっ、そりゃあんだけ夢中で喘いでるんだ!
 ――馬車が揺れてることだって気づいちゃいねーよ!
 観客からかかってくる声の数々に、声が出ている以上は気持ちいいことは否定できないが、セックスに夢中なあまり周りの何にも気づいていないとまで決めつけられる。その不本意な言葉がジェーンを余計に辱め、顔を赤く染め上げるのだ。
 ジェーンの脳裏には、自分達がどう見えているのかが、はっきりと想像に浮かんでいた。
 幌に浮かんだ男女の影の、片方は四つん這いで、乳房の大きさに合わせて垂らした山も下垂した影となる。そこに後ろからのピストンがあることで、男の腰が尻と一体化する。尻と腰が触れ合うたび、影が一つに合わさって、L字のような形を成すのだ。
「あん! あぁん! あぁん!」
 そのまぐわいは、しばし続いた。
「あっ、あん! あうっ、あぁん!」
 尻を打たれるたびに上半身が前に揺れ、その動きに合わせて馬車も傾く、ガタッ、ガタッ、と角度を変えては、落下のような勢いで浮いた車輪が元へと戻る。その際の衝撃が軽く伝わってくる中で、戦士はやがてバック挿入での射精を済ませる。
 これで二回は出した。
 なのに、なおも元気な逸物に、戦士は次のコンドームを被せた上に、今度は騎乗位まで要求してきた。
 やはり恥ずかしい体位である。
 上に跨がって自ら弾めば、その動作は影にはっきりとした形となり、ますます観客を盛り上げることだろう。幌の向こうから伝わる反応に予想がついて、その上で仰向けの戦士に腰を下ろすのは、気が気でないというべきか、不本意というべきか。
 だが、否が応でも今のジェーンは、娼婦という立場であった。
「あうっ、んっ、んあっ、やっ、やん!」
 そして、上下運動を開始した。
 今度は戦士の行うピストンでなく、ジェーン自身の動きによって馬車は傾き、ガタガタと、ギシギシと、軋みや揺れの音が鳴る。
 それに揺られて、何度かバランスがよれてしまった。
 体幹が左右にぶれて、騎乗位の交わりに支障が出るかと思いきや、しかしジェーンにはヴィーヴル族の身体能力が備わっている。自然とバランスを取ろうとしてしまい、結果としてジェーンは問題なく、揺れなど関係ないかのように喘ぎ続けてしまっていた。
「あぁん! あん! あぁん! あっやっ、んぅぅっ!」
 外の反応がわかっていても、快感のせいで声は決して抑えられない。
 ――いいぜ!
 ――おっぱいが揺れてらぁ!
 外はみんなで悦んでいる。
 ジェーンのただ影を見ることで、無邪気にはしゃいでいる。
「あっ、いやぁぁ……!」
 聞こえた言葉の一つのせいで、外から見た自分の姿が、またしても脳裏を掠めてしまった。幌の表面に浮かぶシルエットは、きっと乳房の形をくっきりと成した上、それが上下運動に合わせてぷるぷると揺れ動くのだ。
「あっ、あぁ……いやぁぁ……あっ、んぅぅ……!」
 見ないで――そう叫んでしまいたい気持ちがあった。
 頭の片隅ではわかっている。
 娼婦となって、客に挿入を許しているその最中に、浮かんだ影を見ているに過ぎない人達に対して「見ないで! 見ないで!」などと叫んだら、それは一体どれほど滑稽か。
 叫ぶに叫べず、そもそも喘ぎ声が出るせいで余裕もなく、ジェーンはただ恥辱だけを表情に滲ませていた。
 この時のジェーンはまだ知らない。
 一体、その影に対して何人の男達がカメラを向け、写真や動画を撮っていたのかを……。



 
 
 

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