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 隊商の商人といっても、裕福度には違いがある。
 この隊商を作り上げ、娼婦や傭兵、医者さえ雇い入れての一団を作り上げるには、貴族さながらの財力がいる。よって隊商を率いるトップの陣営は、商売によって成り上がり、財産を築いた者達なのだが、それに着いていく大半の商人は、間借りしている身の上が多かった。
 トランスポーターの知恵を借りつつ、あらゆる町に村、移動都市への移動を繰り返す移動式の商店街は、それなりに売れ行きがいい。その土地自身が成せる物資は少なく、かといって紙幣という名の紙切れだけは稼げる場所に、つまり商売が繁盛しやすい場所に狙いを定め、各地を転々とする隊商に入っていれば、ある程度は安定してしまうのだ。
 その安定を得るための、いわば居住料のようなものを支払いながら、出店の許しを得て稼いでいる商人達は、売り上げの一割を隊商のトップに捧げる。
 しかし、本当に一割だけで住んでいるだろうか。
 女連れの商人もいるにはいるが、誰もがそういうわけにもいかず、基本的には男だらけでむさ苦しい。そんな中で過ごしていては、いくらでも女に餓える者が出て、娼婦に癒やしを求める男は何人でも現れる。
 そして、その娼婦が得る稼ぎも、トップ連中の取り分を引いた金額だ。
 出店契約の一割に、娼婦の利用料を加えれば、実質的にはもっと多くの金をトップに捧げていることになる。
 だが、そうとわかっていても、やはり女を抱かずにはいられない。
 もっとも、隊商の列に加わる娼婦には手をつけず、町の娼館まで我慢している男達も一定数いるのであった。
「お? 玉舐めが始まったじゃねーか」
「ちゅぱちゅぱ音がしてるんだろうな」
「ったく、俺も今日ばかりは行っちまおうかな」
「いいんじゃねーか? 別に上に取り分を与えるのが嫌なわけじゃねーんだろ?」
「そうだけどよ」
 五人の商人達が、影絵の動きを鑑賞していた。
 彼らはもっぱら、娼婦には金を払わず、女を抱きたければ行き先の町や村にしているが、決まったポリシーからそうしているとは限らない。強いて言えば何となく、そうした方が自分達の感覚に合っている気がしているだけだった。
 理由というべき理由のない、単なる肌感覚としか言いようのない面々は、とはいえ幌に映った影を見たい程度には、やはり隊商娼婦にも興味を持っていた。
「あの女、聞けばほんの一日だかそこらしかいないみたいだぜ」
「マジかよ」
「なら俺、やっぱ行くわ」
「ま、どうしても好みだってならよ」
「そいつは今日行った方がいいな」
 上に吸収される取り分について、具体的な不満でもあれば、また話は別だったのだろう。
 ただただ、都市の娼館を気に入っているだけの面々だ。だから見かけた隊商娼婦がどうしても気になるのなら、その時だけは例外で、やっぱり移動中に抱きたくなっても構うことはない。
 五人が並び座っていたうち、一人が立ち上がっても、だから仲間が止めようとなどはしていない。
 そうして五人は四人に減り、四人はそのまま鑑賞を続けていた。
「美人なのはわかるよな」
「俺も酒を注いでもらったが、髪がいい香りだったぜ」
「触ってみたら、かなりの指通りの良さだったな」
「尻もなかなかだった」
 影を見ながら、四人はその生肌を頭に思い浮かべる。
 棒状の影が再び顔に突き刺さっていくことで、玉袋への奉仕から、口に咥えての奉仕に戻ったことがわかると、今度はあのジェーンの口に収まった光景を想像していた。
 彼らは彼らで楽しんでいた。
 あるいはこうして、影を見て楽しみながら、ワイングラスを片手にすることこそが、オツなものだと思う感覚でもあるのかもしれない。
「そういや、サスペンションにガタがきてんのが何台かあるらしいな」
「なら、屈強な傭兵が腰振ったらどうなるよ」
「荷台も一緒になって喘ぐんだろ」
「それで車軸壊す男が現れたら、ある意味伝説になりそうだな」
 と、こうして冗談を言い交わす。
 仲間内のトークを楽しむ時間もまた、彼らにとってはそう悪くないものなのだ。
「お、やーっと乳揉みか?」
「影が重なると、ちょいちょい何してるかわかりにくくなるよな」
「サービスのいい奴だと、見栄えを良くしてくれたりすんだろ?」
「そういや、こういう客席から金払って頼む奴もいるらしいぜ」
「割りに合ってんのかねぇ?」
 口々に言葉を交わし合いつつ、彼らは鑑賞を楽しんでいた。
 影が一つに合わさるのは、抱き締め合っている時か、そう見えるまで距離が接近している時である。密着か、単なる至近距離かの判別は、予想くらいなら影の太さや大きさから想像できないこともないが、決して正確なものではない。
 男の影が座り込み、ジェーンの影と一つになって、太い影の柱が出来上がった時、その具体的な行為が見ている者には読めなくなった。抱き締め合ってのキスなのか、距離を近づけての乳揉みなのか。
 二つの頭がかすかながらに動いていた。
 影が離れるほどではないが、幌の内側では数ミリや数センチといった単位で接近と接触を繰り返しているはずだった。
「キスかぁ」
 一人がそう見抜いた。
「だろうな」
「深いやつかねぇ」
「そりゃそうだろ」
 残る三人も、口々に同意していた。
 見ているうちに、男の影がジェーンの影を押し倒す。寝かせた上での愛撫が始まれば、もう挿入は時間の問題だ。
 それぞれ、その瞬間を待ち侘びる。
 一人ずつ口数を減らしていき、ジェーンの膣穴が犯される瞬間に、それが影であろうと目を凝らしていた。

     *

 ジェーンはたまに思い出したように影の映りを気にしていた。
 自分達の影は今、外からどのように見えているのか。している行為がわかりやすくなってはいないか。目の前の戦士に愛撫を受けたり、して欲しいことを頼まれながらの時間を過ごすうち、忘れるたびに何度でも思い出し、意識の中に外のことがぶり返す。
 戦士の直接の視線は、もう気にしても仕方がないと割り切っていた。
 こうして裸を見せるどころか、最後には挿入までするのだから、視姦ぐらいを気にしていては身が持たない。それでも、行為の相手というわけではない、客ではない男が観客のように外に集まり、並びながら自分の影を見ていることを思えば思うほど、じわじわと頭は熱されていく。
 だから抱き締められた時、押し倒された時などは、ある意味では安心していた。
 金で体を売る関係は、まだたったの二回目で、慣れきってこそいないものの、覗かれていては落ち着かないかのような気持ちが拭いされれば、少なくともその分だけは落ち着くのだ。
 仰向けになることで、影がベッドと一つになれば、少しはわかりにくくなることだろう。
 あとは挿入の時の姿勢も、できるだけ上半身を前に倒して、体同士の距離が近づいてくれたなら、外からは二人の影が一つになった固まりにしか見えないのではないだろうか。
 どうせ抱かれるなら、せめてその方が良いようなことをジェーンは朧気に考える。
「さぁて、十分に濡れたみたいだな」
 戦士の指には、ジェーンのアソコから生まれた愛液が糸を引く。
「そんなに見せないで……」
 わざわざ目の前に運んできて、これみよがしに指のあいだで伸ばしてくるので、ジェーンはその恥ずかしさに赤らみながら、少しばかり目を背けた。
 ジェーンはもう濡れているのだ。
 押し倒されてからというもの、体中をまさぐられ、乳房を揉まれた。乳首を弄り抜かれた上でアソコも撫でられ、指先を駆使したタッチにいつの間にか濡れて輝き、ワレメがランプの明かりを反射するようになっていた。
 そんなジェーンの火照った体に、挿入への欲求が高まってきたのだろう。
「ゴムはあるな」
 その言葉に、ジェーンは体を強張らせた。
 緊張が頬に浮かんで、顔まで力んでしまっていた。
「……え、ええ。もらってあるわ」
「アンタの事情がどうだろうと、最後までさせてもらうぜ」
 こちらは金を払っているのだからと、そう言わんばかりにコンドームの用意をすると、ジェーンも粛々と足を広げる。長い長い自分自身の髪を背中の下に敷きながら、足をM字に広げることで、緊張ながらに受け入れる準備をしていた。
 すると、そんなジェーンのいやらしい姿を満足そうに眺めてくる。
「いい姿だな」
 女が弱点をあらわにして、挿入を待つばかりとなった姿は、男にとって面白いものらしい。
「恥ずかしい……」
 率直な思いがジェーンの口を突いて出ていた。
「その可愛い反応も気に入った。ま、続ける予定があるなら別だが、ないんだったら、そういう顔が出来るうちに娼婦なんてやめた方がいいのかもな」
 そうは言いつつ、戦士は剛直をワレメに沿える。押し当てられた亀頭の感触に、ジェーンの中で緊張はますます膨らみ、いざ挿入が始まった瞬間には、指先さえも硬くなり、全身が石と化したようになっていた。
 昨晩の挿入でも、ジェーンは似たような反応をしていた。
 それを商人は面白がり、戦士も気を良くしたような顔で見てくる。それは自分が商品として気に入られ、売り物として楽しまれている感覚を強めるもので、ジェーンは自分が染まり変わっていくのを感じていた。

 ずにゅぅぅぅ…………。

 入って来る。
 押し込もうとする力によって、閉じ合わさった綺麗なワレメを割り開き、まずは切っ先が数ミリずつ進行する。膣内という名の領域を徐々に埋め、内側を見たそうとしてくる肉棒の、その太さによって穴の幅が丸く大きく広がっていく。
「んっ、くっ、ふぅ…………」
 ジェーンは息を乱していた。
 まず、太さに穴を拡張される苦しさがある。昨日の商人よりも逸物が太く、それだけに肉棒の側面と、膣壁との密着度合いが激しい。細胞が癒着する勢いの密着は、しかし十分な量の愛液が狭間に層を作っていることで、とても動きがぬめらかだった。
 本当はもっとあっさりと、一瞬で貫くように収めてしまえるのだろう。
 それを戦士は、少しずつ、少しずつ、ご馳走をゆっくりと味わうように、本当に徐々に入れてきている。そうやって時間をかけて収まりつつある肉棒は、何十秒とわざとらしいスローモーションの末、やっとのことで根元まで収まっていた。
 股の部分に、戦士の腰がぴったりと当たって来る。
 肌と肌のあいだでは、陰茎の周囲に生えた陰毛が押し潰されている。
「ジェニー」
 戦士がジェーンの名を呼んだ。
 ジェーンのことを呼ぶ男は、誰もが愛称を使ってきた。
「存分に楽しませてもらうぞ」
「わかってるわ。優しく、お願いね」
 せめて気遣いながらゆっくりと、激しすぎずに動いてくれることだけを祈っての言葉を口にして、それがスイッチとなったようにピストンは始まった。
「んぅぅ……んぁぁ……はぁ……はふぁ…………」
 まずは手始めのように、戦士はゆったり動いてくる。
 太いものの出入りによって、密着度合いの強い膣壁には、激しく強い摩擦がかかってくるも、愛液のおかげで負荷というべき負荷は感じない。性交痛というほどのものはなく、ジェーンにあるのは曲がりなりにも快楽だった。
 甘い痺れが薄らながらに走っていた。
「あっ、んぅ……んぅぅ…………」
 ジェーンは目を瞑り、じっと終わりを待ち始めた。
 もうこれで、経験人数が二人も増えた。
 たとえ一時的な身の上とはいえ、娼婦という形によって増えたのだ。
「んぅぅ……んぁぁ……」
 自分が一般的なレディでなく、過去一度でも体を売った女となっている感覚だった。ジェーンの膣内に出入りしてくる太さはそのまま、そのような感覚を作り出す象徴だった。それに快楽を与えることで、どうあれジェーンは稼ぎを受け取ることになってしまうのだ。
「あぁっ、あっ、んぅ……んぅ…………」
 ジェーンの両肩が掴まれている。
 感じている表情が見たくてか、戦士は顔を近づけており、うっすらと目を開けば視姦してくる眼差しがそこにある。もう何十分もお互いに全裸で過ごし、こうして結合まで始まっているというのに、今更になってただ表情を見られるだけで恥ずかしいかのような気持ちになり、ジェーンはわずかに顔を背けた。
 横顔を戦士に向ければ、紅潮した頬にこそ集中的に視線は注がれる。
「いい顔だ」
 指先で髪を掻き上げながら、戦士は頬を撫でてきた。
「んぅぅ……」
 そして、腰振りを行ってくる。
 動き続けることにより、ジェーンの顔が一体どのように変化していくか。その観察をしながらの、様子を見ながらの腰振りに、ジェーンは徐々に息を荒っぽく、そして熱っぽくしていくのだった。

 ずん!

 と、不意に力強い杭を打たれる。
「んん!」
 大きな声が上がると共に、ジェーンの足も跳ね上がった。M字の形で左右へと広がっていた両足は、まるで天井に爪先を伸ばそうとするような、一瞬のキックとなっていた。
「や、やだ……」
 ジェーンは己の反応に恥じらった。
 この瞬間、ありとあらゆるものがジェーンの脳裏に押し寄せたのだ。
 今の大きく喘いだ声は、外にも聞こはしなかったか。足を反応させてしまったせいで、影の形がくっきりとして、正常位での繋がりがわかりやすく見えてしまいはしなかったか。
 それに自分の感じた表情も、一体どんな風であったか。
「この初々しさ、次には続かないんだろうな」
 戦士はそれを貴重な果実であるように、ゆっくりと味わってくる。
「ほら、顔を見せろ」
 頬を両手に包まれた。
 手の平から伝わる温度は、それが愛しい間柄から伝わるものなら、心の底から安心できるものだったのだろう。愛に身を委ね、全てを任せてしまうのが、本来あるべき男女の結合だったのかもしれない。
 今の自分にあるものはそれではない。
 買い手、売り手。
 それこそが、戦士と自分の関係なのだ。
「んっ、んぁっ、あぁっ、あっ、あぁぁっ」
 ピストンが少しばかりペースを増す。
 頬を挟まれてしまったことで、どこに顔を背けることもできないまま、アソコから走る快楽への、感じた表情を戦士には全て見られる。うっとりと目が細くなりそうな反応も、熱っぽい息を吐き出すこの呼吸も、全てが戦士へと捧げられてしまっている。
 向こうは目で食べているようなものだ。
 そして、ジェーンは望む望まぬに関わらず、逸物の出入りによって嫌でも反応が出てしまい、だから否応無しに捧げてしまっている。戦士にとってご馳走になるような、顔中に現れる反応の全てを与えてしまっている。
 頬の火照り具合も、耳に現れる赤らみも、全てが彼にとっての嬉しいエッセンスに違いなかった。

 ぎしっ、

 ピストンのペースが上がるにつれ、ジェーンの耳にはふとした軋みの音が聞こえた。
「あぁ……あっ、んぅぅ…………」
 気にも留めなかった。

 ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、

 それがどんなに頻度を増し、大きくなっていったところで、ベッドの骨組みがピストンに揺らされて、軋んだ結果聞こえる音だろうと思っていた。
 そんなことより、アソコから発せられる甘い痺れの方に意識を持っていかれるので、ジェーンには軋みの音を気にかける余裕がなかった。
「ジェニー……」
 戦士も満足そうな顔をして、おもむろに唇を重ねてくる。
 味わうこと夢中になって、彼もまた音など気にしていない。

 ぐらっ、

 ベッドの角度が僅かに傾き、ジェーンの上半身が持ち上がる。その持ち上がりが沈んでいって、倒れ込む際の衝撃で、初めて二人は馬車の具合を気にかけた。
 二人はそれまで知らなかった。
 外で見ている者からしても、サスペンションの状態や車輪の位置になど、わざわざ目はいっていなかった。



 
 
 

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