前の話 目次 次の話




 そして、ジェーンは娼婦としての時間を迎える。
 隊商が元より娼婦を連れていた関係上、トラックや馬車の数々の中には、そういう目的の荷台があった。荷台の一つ一つの中で娼婦は待機し、男達は空きのありそうな女を狙って金を払い、荷台の中へと入って行く。
 それら荷台は馬車のものだった。
 真っ白な幌で張られた内側にベッドを置き、木製の車輪に支えられたその上で、娼婦は男と交わることになる。
 ジェーンもまた、聞かされたルールの通りに服を脱ぎ、荷台の中で待機していた。
 待っていれば男が来て、その相手をすることになる。よほどの豪運があれば、誰に買われることもなく、ただ座って過ごすだけで終われる仕組みではあるものの、その期待は現実的なものではなかった。
「よお、来てやったぜ」
 最初に現れたのは、先ほどのフェリーンの戦士であった。
 傭兵をやっているだけあり、筋肉による凹凸に満ちた屈強な肉体を誇っており、その見栄えする体にジェーンは思わず息を呑む。
 白いシーツの上に座り込んでいたジェーンは、大きな逸物を誇らしげにそそり立てる。まるでその部分さえ鍛え抜かれたように感じられ、圧倒でもされたかのように肉棒を見上げてしまっていた。浮き出た血管の太さや反り返ったフォルムに目を奪われ、思わず性的魅力を感じてしまっていた。
 だが、それだけではない。
 この幌の内側を照らすクリーム色のランプによって、自分達の姿は外側にシルエットとして映し出されているのだ。
 ジェーンはそれを既に見ている。
 自分よりも早く荷台に入り、客を待っていた娼婦が男と繋がり始めての、バック挿入で尻を突かれる影の形を見た瞬間の、くっきりとした影の形に対する衝撃といったらない。
 荷台の周りには、見学者が集まっていた。
 つまり、直接覗かれるわけではないにせよ、影として浮き出た自分達の行為は全て、外側にも伝わってしまう。
 こうして座っているだけでさえ、身体の向きを変えてしまえば、乳房の形が外からわかる。目の前に立った男の、直接的な視線も恥ずかしいが、外からも視姦されている事実がより羞恥を煽ってくる。
 ――始まるぜ?
 ――手始めにフェラってか?
 ――撮っとけ撮っとけ!
 外からのはしゃいだ声は、ジェーンの耳にはっきりと聞き取れるわけではない。荷台との距離感と、幌の申し訳程度の遮蔽によって薄れた声は、しかし自分達のことを話題にして、盛り上がった空気感を伝えるには十分なものだった。
 自分の体が外からも見られている。
 そして、これから行う行為も全て見られる。
 直接ではない、ただの影とはわかっていても、顔はみるみるうちに赤らんでいき、初々しい少女のように、尖った耳にまで桃色を広げてしまう。
 そんな思春期の少女のような反応が面白くてか、戦士はニヤニヤと嬉しそうに微笑んでいた。
「始めてくれ」
「……え、ええ……口でいいのね?」
「そうだ。頼んだぜ?」
「……はむぅ」
 ジェーンは少しばかり距離を詰め、仁王立ちする戦士の前に膝をついた姿勢のままに唇を当てていた。まずは腰に両手を当て、上半身を前のめりに倒していくような形で接近して、キスのように当てた唇を押し進め、先端から頬張っているのだった。
 亀頭のサイズ感をジェーンは口内に感じ取る。
 大きさによって領域が占領され、塞がっている感覚を味わいながら、ジェーンは慣れないフェラチオを開始する。
 昨日もしたとはいえ、たった二回目の奉仕だ。
 技に磨きがかかるには程遠く、いかにもつたない前後運動で肉棒を慰める。
「んぅ……んっ、んっぷちゅ……んちゅぅ……んっ、むっ…………」
 こんな奉仕をする自体、ジェーンにとってはどことなく恥ずかしい。
 肉棒を口に含むなど、ひどくいやらしく、そしてはしたない真似をしている自分自身に対しての思いが膨らむ。本当にこんなことをしていていいのか、目の前にいる男からは名前すら聞いていないのにと、自問の言葉が反芻する。
 外からの、賑やかな気配も肌で感じた。
 今にジェーンのくっきりとした影絵の動きを鑑賞して、まるでみんなで映画を見るように楽しんでいる。自分がそんな鑑賞物と化していることへの恥ずかしさなのか屈辱なのか、それとも両方が混ざり合ってかの思いが膨らんでいた。
「んじゅっ、んぅ……んぅ…………」
 フェラチオは単調なものだった。
 ただただ、ひたすらに頭を前後させているばかりで、相手がどれほど満足しているのか。どうあれ娼婦として仕事に入ってしまった以上、その使命は果たせているのか。生真面目にもそんなことが気になって、ジェーンはふとした上目遣いで戦士を見る。
 彼は満足そうな顔をしていた。
(そうね。悦んでもらえた方が……)
 数十分、あるいは一時間以上、同じ空間で過ごすのだ。
 嫌そうな顔をしてくる相手と過ごすより、満足そうに楽しんでくれている相手の方が、一緒に過ごすという点では安心だ。
(だったら、もう少しだけ努力を……いいえ、それでいいのかな……)
 こうして咥えている最中さえ、ジェーンの中には迷いがある。
 少なくとも、不満を言われるようないい加減な奉仕だけは、こうなった以上はしないつもりでいる。曲がりなりにも腹を括っているのだが、かといって必要以上に努力して、一生懸命になってしまったら、さすがに淫らが過ぎやしないかと悩ましい。
 好きで娼婦をやっていたり、これからもこうした稼ぎ方を続ける予定があるのなら、プロとしての感覚を熟成させる必要があるのだろう。
 だが、ジェーンにその予定はない。
 ジェーンが思い浮かべる未来は、隊商にある程度のところまで運んでもらい、そしてロドスに到着した後、みんなの後押しを得て就任するというものである。今後も続けようとは思っていない、あくまで一時的に過ぎない身の上だ。
 その自分が、ペニスに対する熱心な努力?
 そう考えると、冗談はやめて欲しいかのような思いが漂う。
(大丈夫よ。今くらいの努力でも、きっとクレームが入るほどではないもの)
 さらに考えてもみるのなら、一時的に過ぎないのなら、リピーターを得ようとする努力すら必要ない。
 不真面目すぎず、かといって熱心すぎもしない、ほどほどの努力でいいではないか。
「れろぉぉ……れろぉぉぉ…………」
 それでも、ジェーンはやり方に変化をつけ、根元から先端にかけて、繰り返し繰り返し舐め上げ続ける方法に切り替えていた。
「舐めてくれ」
 と、戦士の方から頼まれて、指示に従ってのことではあるが、ジェーン自身が思ったよりも、もう少しだけの努力を結局はしてしまっていた。
「れろぉぉぉぉ…………」
 玉袋と竿の境目に舌先を伸ばしつけ、ぴたりと触れたところで先端を目指して舐め上げる。正座に近い姿勢から、尻を持ち上げ上半身も一緒に上がっていき、亀頭に到着すると少しのあいだキスをする。
「ちゅっ、ちゅっ」
 先端との、何度かのキスの上、また境目の部分に戻る。
 こうして肉棒を下から見上げ、鼻先にも触れてきている状態は、外に浮き出た影絵としては、一体どう映っていることか。上を向かせたこの顔に、竿を乗せてみせてでもいるような見え方だろうか。
 ふとした拍子に影のことを考えると、ジェーンの中に羞恥心が蘇る。
(駄目、考えちゃ)
 意識するのはやめようと、ジェーンは舐め上げを繰り返す。
「れろぉぉぉ……れろぉぉ……」
 と、微妙に箇所や角度を変えながら、延々と唾液を塗り続けているうちに、戦士は次に頼んで来るのであった。
「玉にも奉仕してくれ」
 彼にそう言われることで、睾丸への奉仕を悦ぶ男もいるのだと、ジェーンは初めて知るのであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA