前の話 目次




 次に現れた客は、ヴィーヴルの傭兵だった。
「よお、同じ種族のよしみでよろしくな」
「……ええ、よろしく」
「どうした? さすがに疲れてんのか?」
「そいうわけでもないかな。あたしもヴィーヴルだし」
 だから体力や身体能力は高いので、そう疲弊しきっているわけでもないが、心理的には疲れているかもしれなかった。
(声……また、声が大きく出すぎたりしたら……)
 ジェーンは意識してしまっていた。
 動画として、声が外に聞こえる証拠を突きつけられている以上、気をつけなければまた似たような動画を撮られるかもしれないと、心の底で恐れている。どんなに声を抑えようと思ってみても、今まであれだけ気持ち良かったのなら、外での撮影がわかっていても堪えきれずに、やはり喘ぎ声は出てしまうのかもしれない。
 果たして、声量を抑えきれるか否かの不安は大きなものだ。
 それに、乱暴された軽いトラウマ。
 イラマチオをされたことから、次の男も同じことをしてこないか。あるいはもっと乱暴なことをしてこないか。そんな無意識の警戒をしてしまい、その様子がないとわかるたび、強張った緊張の糸が少しだけ緩むのだ。
 このヴィーヴル傭兵はどうだろう。
 その警戒心が緩まないうちからは、心の底から安心した顔はしていられず、笑顔や平静を装った表情は、いかにもぎこちなくなってしまう。
「俺も外から見てたぜ」
「そんな……もう、諦めるしかなさそうね……」
 もはや泣きたい。
 来る人来る人、みんなが幌の影を見て、興奮しながら勃起してきている。ヴィーヴル傭兵もまた同じ手合いとわかるなり、ジェーンは思わず本当に手で頭を抱えそうになってしまっていた。
「でよ。立ってくんねーか? 後ろからしたいんだわ」
「バックはいいけど、立ってするのは……見ていたなら、わかると思うんだけどな……」
「揺れのことか? 何とかなんだろ。少なくとも、腰振ったせいで車軸がやられるとか、そんな馬鹿な話はねーって。心配しすぎだ」
「そうなのかな……」
「そうそう。早いとこ始めようぜ」
 どこか納得がいかないまま、ジェーンはベッド上に立ち上がる。ヴィーヴル傭兵の求める体位になるために、背中を向けて上半身は寝かせていき、尻を突き出すポーズを取った時、後ろから両手の手首を掴まれて、腕を後ろに引っ張られながらの挿入が始まった。
「あぁ……んぅぅ…………!」
 立ってのプレイが始まった。
 抱えられ、持ち上げられての立ちプレイは一度あったが、ジェーン自身も両足でシーツを踏み締めて行う結合は初めてだった。
「あぁ……あぁぁ…………!」
 両手を後ろに引かれながらの、尻をパンパンと打ち鳴らしてくるピストンに、ジェーンは髪を振り乱しながら喘いでいた。腰振りによって尻を打たれて、その衝撃で身体が前のめりになりつつも、腕を引かれて直ちに引き戻られているような感覚があった。
 この体位なら、きっと垂れ下がった乳房の揺れも影となり、外で盛り上がっている男達の、目の保養となっているだろう。
 しかも、やはり馬車は揺れ動いた。

 ぐらぁ――……

 と、傾きを感じた時、ジェーンは自然と片足に重心を寄せ、バランスを取ろうと試みていた。浮き上がった方向に重心をやることで、まるで条件反射のようにして、体の方が傾きを直そうと動いていた。
 そんなジェーンの尻に向け、構わずピストンは行われる。

 パン!

 と、尻を打ち鳴らされれば、ジェーンの喉から甘い声がせり上がる。
「あぁん!」
 その声を聞くために、ヴィーヴル傭兵は何度でも腰を振り、勢いを帯びて打ちつけ続けた。

 パン! パン! パン! パン! パン!

「あぁん! あん! あん! あん! あん!」

 尻からの打音と喘ぎ声は、同一のリズムを刻んでいた。
「あん! あぁん! あぁっ、あん! あぁん!」
 そうやって喘いでいるあいだにも、ぎしりと軋んだ音がなり、またしても足場は傾く。その傾きにバランスを煽られれば、立ってしている関係上、倒れ込んでもおかしくはなかったが、ジェーンは足を踏み直しただけで上手く留まり、体幹がバランスを維持しきる。
 何とか、なってしまう。
 ジェーンはもちろん、彼の方も揺れに合わせてバランスを保ちきっているらしかった。
「おいおい、こいつはアトラクションみてーだ」
 こともあろうに、ヴィーヴル傭兵は楽しんでいた。
 揺れ動く中で行うセックスの、一体何が面白いのか。公園の遊具に夢中になる男児の、うんと小さい頃の童心にでも帰ったつもりか。ヴィーヴル傭兵は揺れようと何であろうと構うことなく腰を振り、ジェーンの膣肉を味わい続けた。
「あぁん! あん! あぁあん!」
 そんな中、どんなにバランスが傾いても、二人は性交を続けることができてしまっていた。揺れるたびに体幹を駆使するのは、ヴィーヴル傭兵の方も同じであったが、どちらも種族の身体能力を発揮して、バランス感覚を保ち続けた。
「あぁん! あん! あん! あん! あん! あん!」
 きっと、内側を直接見ている者がいたなら、まるでぐらつきなど存在しないように振る舞って見えるだろう。足や胴体だけは傾きに反応して、その都度必要な動きをしているものの、ヴィーヴル傭兵の止まらない腰振りと、喘ぎ続けるジェーンの表情は、荷台の状況などお構いなしのものだった。
「んぅ! んあぁっ、あぁん! あぁん!」
 それでも、いつしかジェーンは膝立ちの姿勢に沈む。
 なおも後ろに両腕を引かれたまま、激しく膣を突き回され、その挙げ句には絶頂していた。

「あぁぁぁ――――――!」

 背中が反り上がっていた。
 あるいはきっと、幌の影を見ている外側にも、ジェーンの絶頂は伝わっているはずだった。

     *

 気持ち良すぎた。
 来る人、来る人、全ての男のセックスが気持ち良すぎて、なまじ体力のある種族に生まれたせいか、疲弊感に呑まれることなく、十人を超える人数の相手を出来てしまう。
 ベッドシーツに愛液は深く浸透していって、もはや香りが抜けることはない。そこに精液の香りも合わさることで、荷台の中はセックスの匂いが充満していた。そこで何時間も過ごした結果、髪や肌に匂いは染みつき、ジェーン自身もまたセックスの臭気を身に纏うまでに至っていた。
 そして、外の様子は絶頂を契機に変化していた。
「もうみんなでヤっちまおうぜ!」
「いいのか!」
「払えば文句ねーだろ!」
「そうだな……!」
 酒が入っていたせいもあるだろう。
 ジェーンの美貌には誰もが惹かれ、一日や二日ほどしかいない、期間限定という部分にも価値を感じて、もはやいてもたってもいられなかった。いつまでも影を見てばかりでなく、自分もジェーンの裸を直接見たいと、いつの間に列が形成されていた。
 それからはもう、一人一人がゆっくりと過ごす暇もなく、長い列を捌くため、それぞれに与えられた時間はものの十分もない。
「おーい! まだかよ!」
「時間になったら出してなくても引っぺがせ!」
 商人達のたがが外れていた。
 目を血走らせ、ほんの一瞬でもいいから自分もジェーンへの挿入を体験しておかなければ、生涯損をし続けるかのような、おかしな衝動が伝染していた。
 荷台に飛び込む商人は、たった十分のあいだに素早く挿入し、しばしピストンを楽しんで、時間切れにならないうちに射精する。済めば速やかに荷台から退去して、そんな出て行く様子を見るなり、順番待ちの次の商人は飛び込んで行く。
 荷台の中、ジェーンはもはや、ただ壁に両手を突き続けるだけの存在だった。
 代わる代わる犯され続け、一体何十人とも知れない数のために膣穴を晒し続ける。尻にかかってきた回数も、髪に染み込んできた回数も、とっくに数え切れないものとなっていた。
 あと何人残っているのか、もはや考えたくもない。
 気持ち良さという名の地獄で息をして、ひたすらに喘ぎながら耐え忍ぶ。

「あん! あぁん! あぁぁん!」

 後ろから入れてくる男の、もう顔すら見ていない。
 目の前の壁だけを見ていながら、揺れた時にバランスを保つ以外に、余計な動きすら取ってはいなかった。

「あっ、あぁん! あぁん! あぁぁあん!」

 数分以上にわたって続くピストンが済まされて、肌に熱い何かがかかってくるのを合図に、ジェーンは人の入れ替わりを感じ取る。挿入される肉棒の、太さや長さはやはりまちまちなのだったが、どれであってもジェーンは喘ぎ、快楽に振り回されていた。
 もうとっくに現実感は消えていた。
 疲弊が極まれば、かえって夢見心地になってしまうのか。それとも、快楽が続くあまりに目がとろんとなっているのか。心がふわっと浮き上がり、夢の中で過ごしているような心地となって、ただぼんやりと過ごしていた。
「あぁっ、あん! あぁ……ま、またぁ……イっちゃうぅ――――!」
 声だけははっきりと、大きな喘ぎで快感を示しながらも、目や心だけはぼんやりしていた。肉体の激しい反応に対して、心は切り離されてしまっているように、ぼーっとした眼差しで自分自身を俯瞰していた。
 幽体離脱でもして、自分自身を傍から眺めでもする心地となっていた。
「あっ、あん! あぁぁん! あぁぁぁん!」
 ああ、あたしはこんなに喘いだり、愛液を垂らしたりしているのかと、どこか他人事のように思いながら過ごし続ける。
 やっと人が来なくなり、客足の一切が途切れた時には、体液まみれの匂うベッドに膝を突き、壁に向かってうなだれていた。ジェーンはそこに両手を拘束でもされているかのように、なおも壁に手の平を当てたまま、足腰ではへたり込み、ぼーっと自分自身の膝や太ももを見下ろしていた。
 やっと、終わったらしい。
 そう気づくのに時間がかかった。
 夢の中を過ごす感覚に陥りながら、そして体中に残る余韻は実に鮮明で、未だにピストンが続いているような快楽さえ続いていたのだ。それどころか、荷台の揺れさえ感じたまま、自分はまだ商人の相手をしているかのように思い込んでいた。

「あ、あれ?」

 その夢が途切れ、現実に帰ってきたのは、ふとした瞬間のことだった。
 後ろから陽射しが差し込み、日光の温かな熱を感じたという、たったそれだけの理由なのだが、急にぱっと目を覚ますと、まるで泡が弾けるようなあっけなさで、夢に感じていた全ての感覚は消え去っていた。
 自分は今まで本当に夢を見ていたのか。いつの間に眠りに落ちていて、そのあいだに見たのが後ろに続く行列だったのか。てっきり、そう勘違いしかけるほどだったが、しかしジェーンは現実を認識した。
 やはり、余韻は残っているのだ。
 本当の意味での余韻である。
 入ってもいないペニスを感じて、してもいないセックスが続いているかのような、幻術にでもかかったようなリアルな余韻などでなく、余熱が薄れていくかのような、本当に余韻らしい余韻がアソコの内側にはあるのであった。
 何よりも、ベッドに染み込んだ大量の精液と、ジェーン自身が流した愛液の、浸透しきった匂いばかりは誤魔化しが効かない。尻や髪にも、染みついた精液の痕跡は残っている。十人、二十人、あるいはそれ以上の数に挿入され、執拗に犯され続けた夜は、まぎれもない現実の出来事なのだ。

「あたし…………」

 打ちのめされたような気がして、ジェーンは暗い顔で俯いていた。
「娼婦……だったんだな……短いあいだだけでも……」
 ごく普通に生きている女が多くのセックスの経験に恵まれて、何人もの相手としたとして、その数は一体どこまでに留まるだろう。ジェーンがしてしまった回数は、きっと娼婦という生き方でなければありえない数字に至ったはずだ。
 たったの一晩のうちに、およそ尋常ではない経験を積んでしまった。
 それはまるで、自分がもう普通の女ではない証拠のように思えて、どこか悲しくなってくるのであった。

     *

 その後、それ相応の大金を受け取った。
 好きでもない、名前すら知らない男の相手をするために心を殺し、体を捧げ続けたことと引き換えに、得られた金額を数えたら、まともに働いた場合の一体何ヶ月分になるだろう。
 確かにあれだけの目に遭った。
 ヴィーヴルだから体力は保ったものの、途中からは後ろに列が出来上がり、一人何分とない挿入により、代わる代わる犯される体験など、それが順番通り一人ずつであったとしても、輪姦と何が違ったのか。
 そうして、何十人という莫大な経験人数を得てしまい、二度と取り消すことのない、色濃い過去がジェーンの記憶には刻み込まれた。
 しかし、時間にすればただの一晩で、数ヶ月分以上の額を得られてしまったことで、今にも感覚が狂いそうである。自分の肉体というものは、これほどの大金に換金しうるものなのかと、体を売る価値観が芽生えそうにすらなっていた。
 体を許すということへの価値観は、手に入ってしまった金額のせいで、大きく揺るがされそうになっていた。
 だからこそ、後悔の念をジェーンは抱く。
「よかったのかな……」
 こんなにも、自分の価値観に影響を与えてくるような、あんな体験をしてしまっても良かったのか。断る道があるにはあったはずなのに、それでも良かったというのか。今になって選択を誤った気になるが、どう考え直してみても、やはり隊商の列に加わって、途中まで乗せてもらう必要はあったのだ。
 そう、だからそこは仕方がなかった。
 仕方なかった……はずなのだ……。
 本当に、そうだろうか。
 いくら頭でわかっていても、実は他にも道があり、そちらを選べば良かったはずではないかと、疑問が湧いて消えないのだ。後悔の念は膨らんで、その一方で価値観はぐらついている。もう自分の肉体は商品か何かのような存在に変わってしまい、異性の愛を得るというより、商売道具に変化したかのような感覚がつきまとった。
 だから、どうしても思う。
 これで本当に良かったのかと、自問する気持ちはしつこく延々と湧き続ける。
 ただ一つ、確実に良かったと言える出来事は、馬車を譲ってもらえたことだ。報酬の一部として、パーツの一部が痛んだ馬車を引き取って、今後はその馬車でロドスを目指すことが可能になった。
 とはいえ、そこにはジェーンが散々に夜を過ごした痕跡がある。
 ベッドだけでも、何とか撤去したかった。
 だからジェーンは、得られた金を早速使い、それをベッドの撤去に当てた。たった一台のベッドを処理して、代わりに別のベッドを運び込んでも、金はまだまだいくらでも余っている状態だった。
 だが、確かにそれは良かったことだ。
 おかげで帰れる。
 感染者の彼女も、重傷をベッドで癒やせる。
「うん。それは良かったことに、違いないよね……」
 馬車に揺られる道のりで、車輪が石を踏む揺れで、ジェーンの脳裏には体を売った出来事が蘇る。傾きからバランスを保った自分自身の場面が浮かび、それがきっかけに別の場面も、あれもこれもと蘇り、とてもでないが頭からは払い切れない。
 湧き続けるものをどうにも出来ず、苛まれる。
 そんな状態を過ごしての、ロドスへの到着となるのであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA