とある温泉地へ向かう黒のハイエースの中、僕はハンドルを握っていた。バックミラーに目をやれば、豚と揶揄されるふっくらとした頬の顔、シャツを見下ろせば脂肪で膨らむ胸や腹部が視界の中に入り込む。
隣の席にいるのは友人だ。
彼とは小学校からの付き合いだったりするが、平気で犯罪を犯したり、人に暴力を振るう人間なので少し怖い。ヤクザのような人相で、タンクトップから凹凸に満ちた二の腕を露出しているルックスも恐怖を煽る。
そんな僕と彼の取り合わせを人が見たなら、きっとこう思うだろう。不良とパシリのような関係に違いないと。
当たらずとも遠からず、といったところだ。
僕は昔からの小心者で、人と目を合わせて話すことさえ苦手である。肝が小さく、堂々と意見を述べる勇気のない僕には、誰を相手にでも粋がる不良が羨ましくて、そういった振る舞いに憧れている部分があった。
小学生の頃、きっと彼はそんな僕の匂いを嗅ぎ取ったのだ。
普通、未成年でタバコを吸ったり、万引きを働いたり、そういった非行は褒められない。十代半ばであれば、そうしたことをさも格好いいことのように思う少年はいるものだが、僕達の青春時代には、そうした手合いがクラスや学年の中にはいなかった。
怖がったり、引いていたり、彼を誰もが遠巻きにしている中で、僕だけが憧れを抱き、彼は僕に声をかけてきた。僕と友達付き合いを始めるようになり、そんな小学校の頃から始まった付き合いは、社会人になった今でも続いているのだ。
正直、彼は本来、警察に差し出すべき存在だ。
僕を相手に犯罪を自慢して、どこでどんな女をレイプしたと、嬉々として誇らしげに語ってくる。その動画や写真まで見せてくるので、実を言うなら少し怖いが、それでも距離を置かずにいるのは、大人になった今でも憧れや願望を抱いているからだ。
暴力で女をものにするタイプの、陵辱系の漫画やAVを漁るのが僕の性癖だ。自分には決してできない悪事を働き、平然と暴力を駆使して女をものにする瞬間は、僕にとっては痛快でならないものなのだ。
そんな僕の性癖を知っているから、わざわざ犯罪を自慢してくる。僕が相手なら警察に話される心配もないという、一種の信頼もあると思う。
まあ、彼とは仲も良い。
だからこうして、休日を謳歌しようと観光地の温泉を目指して、男二人なんかで外出をしているわけだ。
さて、その時である。
「あれ? 可愛いねぇ?」
僕は見てしまった。
目的地は都心を離れた某県で、その道のりには田んぼだらけの田舎がある。そんな田んぼのあいだを通っていた時、正面からやって来る一人のセーラー服の少女を見てしまった。
自転車に乗り、風に髪をなびかせ走るあどけない姿は、まさしく僕の心をくすぐった。
こういう女子中学生が暴漢に襲われて、暴力に晒される姿がたまらなく興奮する。見た瞬間から妄想が膨らんで、たまらず顔をニヤけさせてしまっていた。
「ハイエースしちゃおうか」
気づけば僕は口走っていた。
そんな車種の車を誘拐に使ったアダルト漫画を読んだ覚えがあり、そして実際にハイエースを運転していることから、そんな言葉が口を突いて出て来ていた。
冗談半分だった。
お前はああいうのを襲ったりするんだろう? とでもいうような茶化しのような気持ちで、何となく言ってみたに過ぎない。今まで犯行に付き合ったことはないので、まさか僕のいる時にはやらないだろうと思ってもいた。
「ま、ヤってみてもいいぜ?」
「え?」
僕は驚いていた。
「オイオイ、そんな顔すんなよ。お前もたまには、漫画ばっかじゃなくて実際にヤってみろって」
「実際? え、えぇっ、どうしようかなぁ?」
急に怖くなってきた。
こういうところが小心な性格なのだと、僕自身もわかってはいるが、自分の口走った言葉のせいで、これから本当に犯罪が起きようとしている事実に薄らとした戦慄がある。
いいや、わかっていたではないか。
長い付き合いで何度も犯罪自慢を聞いてきて、レイプ動画の本物も貰っている。だったら、いつかは一緒にいる時に犯罪をやり、僕もその共犯となってしまう瞬間は、訪れてきても不思議はないものだった。
だいたい、彼にはスイッチが入っている。
きっと、止められない。
無理に止めようとすれば、僕が相手でも怒鳴ってくるだろう。
「どうせ時間もあんだろ? 旅館にゃあよ」
「そりゃまあ、少し早く出過ぎちゃってたもんね」
「ってことで、決まりでいいな」
あとは実行に移すだけだった。
彼は周囲を見渡し、獲物を狙った猛禽類のような鋭い眼差しで、どこにも目撃者がいないことを確かめる。
さすがは手慣れたで、行動もスムーズだった。
まず、車と自転車ですれ違おうとしている形のため、そのタイミングに合わせて速度を落とす。歩くのと変わらないまでにゆっくりと進みつつ、そのいあいだに彼は後部座席へ移っていく。
タイミングを見計らい、彼は急にドアを開いた。
この車は後部座席のドアがスライド式で、狭い道ですれ違いざまの女を攫うには適している。彼は手口そのままに襲いかかって、力ずくで運転を食い止める。驚き慌てふためく女子中学生に、ドスの利いた低い声を聞かせてやり、恐怖で萎縮させて抵抗を抑え込む。
発見が遅れるように自転車を田んぼに蹴り落とし、沈んでいくのを確認してから、女子中学生を車内に連れ込み、速やかにドアを閉ざした。
あっという間だった。
素早いプロの動きに、僕は呆気に取られてしまっていた。
*
女子中学生は急に思い出したように暴れていた。
七月も半ばを越えた今の時期なら、きっと夏休みの直前だ。
この女の子はいつもの気持ちで当たり前に、こんなことが起きるだなんて想像もしないで自転車を漕いでいたに違いない。地元では見かけない、余所から来たこの車に対して、どんなことを思っていたかまではわからないが、少なくとも平然とすれ違おうとしてきていたので、そういった警戒心はなかったはずだ。
最初は妙に大人しいというべきか、バックミラーで見ていて思ったのは、まるで等身大の人形でも運び込んだかのようだというものだ。
しかし、思い出したように暴れ始めて、わけのわからないことまで口走っていた。パニック状態に陥って、無我夢中で叫び暴れる人間など、今の今まで映画や漫画の中でしか見たことがなく、僕は背後で怒る暴力に騒然としていた。
「オラッ、黙れ」
本当にドスが利いている。
声色一つが、銃やナイフに匹敵する立派な凶器で、十分な脅し道具になっていた。その次の瞬間に聞こえるのは、頬を引っぱたいたのか、ビンタで肌を打ちのめす音だった。
「手こずらせるな。殺すぞ」
すっと、静かになる。
座席やドアを蹴って殴っての、パニックのままに暴れ続けていた身体から、急にスイッチが切られたかのようだった。
どんな分野でも、プロというものはコツやツボを掴んでいるが、彼の場合はどんな風に脅かせば女の子を黙らせて、抵抗を封じ込めることができるのか。そういう熟知をしているのだ。
僕はスピードを上げていた。
とにかく、怖かった。
目撃者がいないかどうか、僕だって周囲に目を凝らし、注意はしていたが、もしも通報されていれば、警察が追いかけるのはこの車のナンバーだ。僕が乗り、運転しているこの車こそ、犯人の車として扱われる。
そう気づいた瞬間には、心臓が凍りついたような思いがしていた。
僕はもう、立派な共犯者だ。
例えば脅しに脅されて、恐怖に押し負けた上で犯罪に加担させられているのなら、情状酌量の余地もあるだろう。しかし、僕達の場合は立派な友人関係で、いくら犯罪自慢を聞いても咎めることはなく、レイプ動画まで受け取りさえしているのだ。
そんな僕が共犯者でないはずがない。
いくら実行犯が彼であっても、警察に捕まった場合は彼と同じになるような気がして、逃げたい思いでアクセルを踏んでいた。少しでも早く現場から遠のくことで、捕まる可能性から距離を開きたかった。
頭ではわかっているのだ。
犯行現場からの物理的な距離を離したから、それで発覚の可能性が薄れていくわけではない。
わかっていても、僕は衝動のままスピードを飛ばしていた。
「名前はなんていうんだ?」
そのあいだにも、彼は少女を脅し続けている。
「わ、わたし……おねがいします……許してください……」
「ああ? 名前を聞いてんだよ! 名前を!」
運転で前だけを見ている僕には、声だけが聞こえてくる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「謝れって命令してんじゃねぇ! 名前を言えって命令してんだ!」
「さ、沙樹――水野沙樹……」
「ほーう? んじゃ、沙樹ちゃんはいくつぅ? 学年はぁ?」
「十四……さい、で……二年……せい…………」
「二年生かぁ。夏休みかぁ?」
「それは、あ、明日から…………」
聞いていて、僕は感じた。
声も、武器なのだ。
作家のペン、料理人の包丁といった具合に、ドスを利かせた低い声は、彼が犯罪を働くために用いる商売道具だ。周りの物を蹴ったり殴ったり、時には身体に直接危害を加える行為も、全てが彼の道具なのだ。
もしかしたら、目つきや顔付きにかけてまで。
そう思うと、やはり僕には犯罪なんて、実行犯だなんて絶対に無理だと痛感する。
だから、漫画やAVで十分なのだ。十分なはずだった。
いや、本当に十分だったか?
僕は彼から動画を受け取り続けた。犯罪だとわかっていながら、本物のレイプ動画を甘んじて受け取って、それを楽しみ続けてきた。泣き叫んだり、怯えたり、祈るような顔で大人しくしていたり、人によって微妙に異なる反応の女達は、演技ではなく本当にそういう反応をしていたのだ。
上げていたスピードを緩め、僕は胸に手を当てる。
心臓は酷く高鳴っていた。
全力疾走をしたわけでもないのに、内側で破裂しそうなほどに激しく音を立てていた。
「あ……」
バックミラーに目をやると、ちょうどスカートの中身が見えた。下着を見せないためなのか、ショーツの上から何かを穿いて、それが僕の視界に飛び込んでいた。
ハーフパンツだろうか。
彼がスカートを乱暴に捲り上げ、反射的に腕で押さえて抵抗をしてしまい、少女はそんな自分自身の行為に怯える。目の前の強面に逆らったら、いったいどんな暴力を受けるかもわからないのに、誤って刃向かってしまった恐怖と怯えがそこにはあった。
「言ったろうが。手こずらせるな」
「は、はい……すみません…………」
「そうだ。それでいいんだぜ? 大人しくしてりゃ、優しくしてやっからよぉ」
水野沙樹、だったか。
少女はもう抵抗はせず、恐怖しながらも諦めていた。男の力には敵わないのだから、せめて殴る蹴るだけはされないように、怒鳴られずに済むように努めていた。
彼はスカートを捲り上げる。
無抵抗の仰向けで、沙樹の両足がこちらに向かって伸びている。バックミラーで見るのはやめて、やがて車を停車した上、僕は座席の後ろを振り向いた。
ハーフパンツが下げられていく。
その白いショーツが現れる瞬間に、僕は興奮しきっていた。たかがパンツだというのに、どうしてか心は奪われ、それが欲しくてたまらなくなっていた。
「ね、ねえ!」
僕は思わず食いついていた。
「あん? どうした」
「そのパンツ! 欲しい!」
「あぁ? こんなもんがか? ま、いいけどよぉ」
彼は不思議そうに首を傾げつつ、ショーツの紐を引っ張り始める。両サイドをリボン結びにした紐タイプだったため、それであっさりと取り去られる。手渡されるショーツを僕は受け取り、体温の残ったそれを指で味わい、クロッチに付着したおりものの微妙な痕跡を視姦した。
さらには顔に近づけて、匂いを嗅いでみる。
少しだが、汗の香りがした。
沙樹の学校に冷房があるのかは知らないが、自転車での下校中に結局は汗をかき、それが染み込んでいたのだろう。
嗅いでいる最中に、ふとした拍子に目が合った。
「……っ!」
引き攣っていた。
ショーツの手触りを楽しんで、匂いを嗅ぐという行為を見ることで、僕に対して目を見開き、沙樹は顔面蒼白になっていた。
「か、可愛い……」
その反応に、僕はかえって興奮の度合いを高めていた。
僕が声をかけたせいなのか、ショーツを取り外すために手を止めて、彼は途中まで脱がせかけていたハーフパンツをそのままにしていた。片足だけが脱げたまま、もう片方の足には裾が通ったままだった。
*
僕が車を停めたのは山中だった。
ただでさえ人口の少ない地域で、しかも住宅地域まで離れたので、言うまでもなく誰もいない。舗装された道路は落ち葉や土を被っており、近くにバス停こそ見かけたものの、いかに交通量さえ少ないかがよくわかる。
この辺りなら、誰にも目撃されないと思ったのだろう。
「ちょうどいい。外でヤるか」
座席を倒した上でやるより、野外でのプレイを選んだらしい。
ドアを開け、沙樹の腕を引っ張り出て行く彼を追い、僕も慌てて下着をポケットに突っ込んで、車の外へ出て行った。
林の中へ少し進んで、彼はセーラー服の前をはだけさせていた。
「…………」
沙樹は物言わず、ただ震えながら受け入れている。
目を瞑り、静かに大人しくしているぐらいしか、暴力による抵抗では勝ち目がなく、その勇気もない少女にできることはないのだろう。強面で屈強な男に襲われるだけでも怖いのに、一応ながら僕というもう一人の男もいて、二対一では絶望的なはずなのだ。
「年の割にデケぇんじゃねぇか?」
彼は興奮していた。
前を左右にはだけた内側から出て来たのは、ぷるっと豊満で瑞々しい乳房であった。メロンのように大きなサイズ感は、ブラジャーによって中央へ寄せ上げられ、そこに魅惑の谷間を形成していた。
彼は乱暴にずり下げて、ブラジャーから乳首を露出させるなり、乱暴な手つきで揉みしだく。
少し揉んだら満足してか、その手を離すと僕に言う。
「腕を押さえとけ」
そう言われ、突き飛ばすように沙樹を僕に押しつける。僕がその腕を掴んだことで、沙樹はバックの体位に合わせた体勢となっていた。背中を押された勢いで前のめりに、腰を後ろに上半身は前に倒して、今にも挿入は始まろうとしていた。
彼は楽しみそうにベルトを外し、ズボンを脱ぐ。
後ろからスカートを捲り上げ、剥き出しの尻へと一気に突っ込む。
「ひぐぅ……!」
沙樹は呻き声を上げていた。
「あっ、あぐぅ……うぅ…………」
年齢を考えれば、きっと初めてだろう。
経験があったとしても、何の準備もないアソコに急に押し込み、それが性器に負荷をかけていそうである。
「おうおう、いい感じだぜ」
彼は嬉々として腰を振る。
ピストンによって彼の身体がぶつかって、衝撃を帯びた沙樹の上半身は、僅かながらに上下に揺れ続けていた。
腕を掴んでいることで、その体温が僕の手の平に伝わった。
この子も、一人の立派な生きた人間なのだ。
それは当たり前の話だが、こうして触れていると実感する。この子は人形でも何でもなく、血が通っていて心もある。人格ある一人の少女なのだと、当然のことに対する実感がひしひしと湧いてくるのだ。
彼はそれを物のように扱っている。
単なる性欲処理の道具として腰を振っている。自分さえ満足なら、沙樹の心や体などどうでもいいのだ。
「……………」
僕は無言で沙樹を見る。
片腕で手首を握り、もう片方の手は自然とポケットの中に潜り込み、僕は無意識のうちにスマートフォンを取り出していた。
可哀想だった。
この子のために、今からでも友人を諫め、こんなことは止めるべきだという良識が、今更になって少しは湧く。
だけど、それ以上に僕は興奮していた。
実感をしていればこそ、それが物扱いされる姿に鼻息が荒くなる。
「うっ、うぐぅ……あぁぐぅ…………」
泣きじゃくっていた。
涙を流しながら痛みを堪え、この地獄が終わる瞬間をこの子は懸命に待ち侘びている。僕はそんな少女にカメラを向け、写真を撮り始めていた。執拗なまでに何枚も、何枚も何枚も、花を散らされた思春期の乙女の涙を撮り続けていた。
今更になって気づくのは、足元にあるハーフパンツの存在だ。
車の中でも片足だけにかかっていたが、果たして脱がせるのが億劫だったのか、それとも忘れてしまってのことなのか。彼はその足首にまで落ちたハーフパンツを気にも留めずにピストンに励んでいた。
「はぁ……はぁ……!」
鼻息の荒さが自分でわかる。
もし近くに鏡があれば、そこに映る僕の顔は、酷くいやらしく醜いものになっているだろう。顔立ちなんて元から悪いが、それが尚更のものになっているはずだ。
「あぐぅ……ぐっ、あぁ…………!」
涙ぐんだ沙樹の声には、苦痛を堪える痛ましさが大いにあった。
僕は興奮のあまりいつの間に、沙樹の頬を両手で包み、真正面から見つめ込んでいた。後ろから突かれることで、前後してくるその顔は、泣きじゃくるあまりに歪みきり、頬には涙の滴が伝い続ける有様だった。
「くっ、あぅっ、ぐっ、ぐぅぅ…………!」
いつしか、僕は唇を重ねていた。
どうしてキスなんてしたくなったのか、自分でもわからないまま、衝動に任せるままに僕は若い唇を味わっていた。一心不乱に頬張って、舌でベロベロと舐め回す。唾液を塗りつけることにより、必死になって唇を閉じ合わせ、意地でもキスを拒もうとする少女の抵抗が伝わってきた。
そんなことをしても、もう唇は重ねてしまっているのだが、拒否感のあまりに反射的にやっているのかもしれなかった。
「はぶっ、じゅぅぅ……!」
僕はより激しく頬張った。
食い尽くす勢いで舌を活発に踊らせて、少しでも味が残っているなら舐め尽くそうとするように、唇の閉じ合わさったラインやその周りにかけてを舐め回した。
そして、ようやく唇を離した時、そこにある沙樹の表情は、ショックで動揺したものだった。
「え……」
僕は僕で、困惑していた。
だって、今まさに処女を失い、本番行為をやられている最中だ。処女とキスなら、一体どちらが重いかは明白なのに、この沙樹の表情は、まるで世界の滅亡でも目にしたような、信じられないものに対する呆然とした思いが込められていた。
瞳が震え、改めて涙がこぼれだしていた。
「おーう。そろそろ出すぜぇ?」
その時だった。
「い、いや……!」
沙樹はさらに戦慄していた。強張った表情で脂汗を噴き出していた。
僕にも、彼にも、こんな予定は本来なかった。コンドームを用意しているはずもなく、しかし彼は遠慮もなしに射精をしようとしているのだ。
もし中に出されたら、そんな恐怖が沙樹の顔にはよぎっているようだった。
「あっ、あぁぁ………………」
しかし、どうやら出されてしまったらしい。
奥にねじ込んだまま満足そうに、すっきりとした顔をしている彼と、逆により深い絶望を瞳に浮かべる沙樹で、まるで光と闇が対照的になっているようだった。
*
沙樹が座り込んでいる。
仁王立ちした彼の前で、膝も尻もべったりと地面につけて、その片足には未だハーフパンツが引っかかっていた。
お掃除をさせているのだ。
破瓜の血や自分自身の精液で汚れ、ぬめりの残った肉棒から、舌でそれらを拭き取らせる。僕はそんなフェラチオを後ろから見守って、何枚もの写真を撮り続けた。
「んっ、んれろぉ…………」
汚れを見つけてはその部分に吸いついて、細かく舐め取っていく作業の様子は、後ろから頭を見ているだけでもいくらかわかる。
「おっと、また出したくなってきたわ。飲め」
彼は命じる。
その瞬間、そうしなければ殺されるとでも思っているように、慌てて口の中に棒を収めて、沙樹は口内に精液を受け取っていた。
そして、飲んだのだろう。
嚥下する瞬間の、頭が微妙にぴくりと動く挙動から、僕はそう感じていた。
「さて、と」
彼はしゃがんだ。
一体、何をしているのかと思って回り込めば、膝にかかったスカート丈を持ち上げて、なんと肉棒を拭いていた。女の子を暴力で従わせ、ここまで物扱いできるのだから、人の衣服を雑巾やタオルの代わりにするなど、なんてことないだろう。
「でよ。お前もやるよな?」
そうして当然であるように、彼は僕に向かって言ってくる。
「い、いや! いいよ!」
僕はそう答えてしまっていた。
自分が彼と同じように振る舞って、一人の人格ある人間を同じように扱えるだろうか。男ではある以上、腕力を駆使すれば女の子には勝てるとしても、彼の行動をそのまま何の躊躇いもなく真似して実行できるだろうか。
いくらレイプ動画を楽しむ趣味があっても、自分で実行することはできない。
次元が違う。感覚が違う。
僕は気づいていた。
動画であれば、それが本物の犯罪記録だとわかっていても、AVだと思いながら楽しむことができるのだ。他人を躊躇いなく殴ったり、暴力で従えるためには、ただ腕力が強いかどうかだけでなく、それを実行できる感覚の持ち主でないといけないのだ。
良心という名の制約を解除できる人間、と言い換えてもいい。
たとえこの腕が筋骨隆々で、格闘家と比べても遜色ないものだったとしても、きっと肉体だけの問題ではないのだった。
「おうおう。意気地無しってか? なら撤収するぞ」
彼は沙樹をこのまま置いていくつもりらしい。
随分とスピードを出して走ったので、徒歩で家まで戻るには、相当に時間がかかるだろう。僕の中にはそういう面でも良心が働いて、可哀想だと感じてしまっていたが、彼の方はさっさと車に戻ろうとしていた。
最初から良心を持っていないか、切り替えの効く精神的な回路でもなければ、とても真似できない振る舞いだ。
しかし、僕もこれだけはやった。
撤収前に沙樹の様子を見に行って、その写真を撮るという行為である。全てが終わり、仰向けで放心している沙樹にスマートフォンを向け、レイプという記録を残すことだけは、僕のレベルでも可能な振る舞いだった。
「最低…………」
その時、小さな声が聞こえた。
「最低……死んじゃえ…………!」
恨めしいものに対する無意識の声だったのか、はっきり僕に対して言ったのか。
弱々しくも呪いの籠もったその声は、僕の胸に深々と突き刺さる。
僕は……僕も、犯罪者だ……。
それをはっきり、明確に感じさせられた。
呪いにでもかかったように、自分は犯罪者であるという感覚を埋め込まれ、僕はショックを受けていた。犯罪に加担しておいて、我ながら都合の良いショックだとは思いつつ、動揺した胸を押さえて、僕もまた車に戻って行く。
沙樹の帰りを待つ両親は、今頃心配しているだろうか。
などと、ふと考えてしまっていた。
*
運転を再開してから、僕は心ここにあらずであった。
事故を起こしてはいけないので、決定的に集中力を欠くことはしていないが、放心したような顔でぼんやりと、覇気もなくぼーっと、前だけを見つめていた。
「おいおい、そう悩むことじゃねーぜ」
そんな僕の隣で彼は言う。
「俺が捕まってないんだ。お前だって平気だろ。ってか、あんなキスしかしてねーで、勿体ないぐらいだぜ? つか、そんな顔してるぐれーなら、温泉のことでも考えとけ? 料理もきっと美味いんだろうなぁ?」
僕とは違って、彼は何一つ引きずっていない。
引きずるどころか、むしろ僕を励ましてくる。
どうしよう、罪を犯してしまった。今にも通報されて、急に警察がやって来るのではないか。そういった恐怖を抱こうともしていない。先ほどの少女がいかに気持ち良くて最高だったかを語った挙げ句、温泉や料理について口にしてからは、もうレイプのことなど忘れたように、その話しかしなくなっていた。
だが、僕の胸に突き刺さった鋭い刺は、数日経っても抜けなかった。
宿に到着してから、不意に一人で過ごす時間が出来た時、僕はスマートフォンを手にしていつの間に、一一〇の番号を入れていた。自首でもしようかと悩んでいたが、そうすれば彼も一緒に捕まると思って考え直す。
昔から不良で、万引きもレイプもやってきた男だとわかっていて、その上で友達をやり続けてきた。過去一度として彼の行いを誰にも告げ口していないのに、今になって通報というのも違う気がした。
スマートフォンをポケットに戻す時、手触りの良い布が指に触れ、僕はショーツの存在を思い出す。
ドクン、
と、心臓が弾み上がった。
写真だけでなく、この戦利品が僕のポケットには入っている。
「よ、よし……」
僕は一つの決意をした。
次があったら、その時は自分も罪を犯してしまおう。道を踏み外しての快楽を味わって、少しでも彼と同じように振る舞ってみよう。
心に決めた瞬間から、すっと何かが抜けていく。
僕の体は、呪いを受け入れたのかもしれなかった。
コメント投稿