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 このまぐわいが終わる頃には、窓際から朝陽が差し込んでいた。
 閉じ合わせたカーテンの隙間から、それでも部屋を照らしてくる陽光で、オレンジ色のランプよりもさらに明るくなった時、フォリニックの愛液によってベッドシーツは大きな大きな円を作っていた。
 お漏らしでもしたかのような、大きな濡れ染みの円は、数時間前まではイキたての温度を帯びていた。深く浸透してしまった愛液は、もうシーツを変えるだけではどうにもならず、その下のマットにかけても洗う必要があるはずだった。
 それだけ大量に染み込んでいる愛液の円は、触れればねっとりと糸が引く。
 フォリニックは全身を投げ出していた。
 それから何回イったのか、もう想像さえつかなかった。少なくとも、十回では足りないほどの、信じられない回数に至っていることくらいしか、フォリニックにはわからなかった。
 余韻が酷い。
 太いものに一晩中掻き回され、すっかり穴が広がっている感覚もさることながら、イキ果てた体にあるのは、未だに肉棒が出入りしてくるような錯覚だ。少しでもセックスを思い返して、その時の快感に意識をやろうものなら、直ちにピストンの感触が蘇り、甘い電流さえもが迸る。
 とっくにセックスは終わっているのに、未だに気持ちいいほどだった。
 肌に大気の流れが当たっているだけで、皮膚の方がそれを敏感に意識して、突起したままの乳首が硬さを和らげることもない。
 後始末は使用人にやらせるから、もう部屋に戻っていいとは言われても、疲弊しきった手足を持ち上げることさえ億劫で、フォリニックはしばらく横たわったままでいた。着替える気力すらわかず、その一方で余韻の消えないアソコの中は、未だに残留している快楽電流のせいでムズムズしていた。
 向こう数時間は天井を見上げたまま、休んだ果てにやっと起き上がる気力が出て来た後も、余韻はしつこく残っていた。
 宛がわれた部屋に戻って、一人の時間を過ごしている最中さえ、うっかりアソコに意識をやると肉棒の感触が如実に蘇ってしまうので、なるべく意識を逸らしている必要があるのであった。
 こうした情婦契約について、仲間達には話していない。
 言えることではなかった。
 だが、フォリニックに限らずグレースロートやスズランなど、他にも女っ気のある中で、もしもフォリニックが男の話を拒んでいれば、他のオペレーターに声がかかった可能性もあるのだろう。
 顔を合わせれば、スズランなどには体調不良を心配されて、どうやら何かが顔に出ていたらしいことに気づいて表情を引き締める。みんなと交わす会話の内容は、早くロドスの仲間と合流したいことであったり、帰ったら休みたい、遊びたいといったとりとめもない雑談が中心だ。
 フォリニックにはアントのこともあるが、暗い顔ばかりをしているわけにもいかなかった。
 移動手段の手配が完了するまで、正直に言ってやることがない。
 許可された範囲内を徘徊したり、出された料理の感想を語ったり、そういった時間潰しで過ごしているしかない。
 そのうち、それぞれ一人の時間を欲しがったり、部屋にでも戻ってくつろぎたがるようになってくるので、フォリニックも頃合いを見て仲間の前から離れていき、次の夜に備えて睡眠を取るのであった。

 そして、夜はやって来た。

 お互いにシャワーを浴び終え、ベッドの上で重なり合うが、フォリニックが散々汚した愛液の痕跡は、綺麗さっぱりなくなっている。シーツの取り替えは言うまでもなく、マットの方もクリーニングが済んでいるとのことである。
「掃除の得意な術師がいてね。アーツで汚れを落とせるそうだ」
「へえ、よかったじゃない」
「ああ、よかったとも。君がいくら汚しても、一日で綺麗さっぱりなんだからね」
 男は既に愛撫を始めていた。
 大きな両手に乳房が包まれ、手の平を駆使した摩擦が施されると、細胞が溶かされていくかのように気持ちいい。今日は薬用酒は出されておらず、避妊薬しか飲んでいないはずなのに、まるで媚薬の効果でも出ているような快感だった。
「んっ、んぁ……あっ、んぁぁ…………」
 突起しきった乳首は敏感に大気の流れを読み取って、風だけで甘い痺れを発する勢いで興奮している。
 まだ触られもしないうちから、もうアソコが湿り始めていた。
 男はそれに気づくとニヤリとして、嬉しそうに下へ手をやり、指先でワレメをなぞり上げているのであった。
「あぁぁん!」
 ビクっと喘いだ。
「今日もまた、簡単にイクんだろうね」
「……イカせればいいじゃない」
「イキたいのかい?」
「ふざけないで! 好きでイキたいわけないわよ!」
「ま、どちらでもいいけどね」
「んっ、んぅぅ……! んぁっ、あっ、あっ、あぁぁ……!」
 ワレメに沿ったスライド往復は、やがて膣の中へと入り込んでのピストンに切り替わり、ますます快感が増してくる。フォリニックは四肢をよがらせ、首をくねくねと振りたくっては髪を乱した。
「あぁっ、あぁ……!」
 どう足掻いても、快感には逆らえない。
 我慢によって押さえ込もうと思ってはみたものの、やはり封じ込めることは不可能だ。覚悟して受け止める以外に道はなく、フォリニックは全てを試練とでも思うことに決めていた。与えられる快感の、その辱めに耐え抜く試練で、苦行の末に精神でも鍛えると思っていなければ、そうやって何か折り合いをつけていなければ、とても耐えきれそうにはない。
 いくら気持ち良くても、好きでしていることではない。
 断るに断れない状況での、泣く泣く交渉に応じてのセックスなど、表面だけの同意で心の底まで合意しきっているはずがなかった。
「くっ、くふぁ……!」
 フォリニックは覚悟で身を固める。
 もうイカされると、そう感じたのだ。絶頂による激しい電流に備え、フォリニックは全身を固くしていた。
 だが、その時である。
「え……」
 イク直前になって、男の手は急に離れて行ったのだ。
「どうしたのかな?」
「なんでもないわよ」
「ま、なんでもいいが。今度は君が僕を気持ち良くする番だ」
 男が求めてくるのは奉仕であった。
 うつ伏せになった男は、膝だけを立てることで下半身を浮き上がらせ、フォリニックはそんな股のあいだに胴体を近づける。
 パイズリをやらされていた。
「こんなことまで……」
 もちろん、いくら知識的には知っていても、実際にやるのは初めてだった。フェラチオの時と動揺に、コツというべきコツはわからず、ただ淡々と挟んでみて、上下に動かしてみているだけである。
 男がどれほど感じているのか、まるで検討もつかなかった。
 ただ、乳肌に肉棒の感触が染み入って、接触部分から温まる。自分自身の手でさえ、皮膚は敏感に刺激を受けて、だからフォリニックのパイズリは、自分が感じすぎないように気をつけたものでもあった。
 手で乳圧を与え、挟んだ状態で上下に動かす。
 その決まりきった動作の単調な繰り返しでも、不意に指が乳首に当たったり、不要な摩擦を起こすことがある。そういった刺激に気をつけながらの奉仕をして、たまに男の顔色を見てみるものの、そこにあるのは得意げな表情ばかりである。
 人にこうした奉仕をさせ、それで喜んでいることだけは伝わってくるものの、快感についてはわからなかった。
(いつまですればいいんのよ……)
 男が感じてくれないと、延々と続ける羽目になりそうで、フォリニックとしてはそれが嫌なのだ。彼の射精や、彼の満足感に浸った表情など、それらはあえて見たいものでも何でもないが、ゴールもわからずに同じことを続けるのは、どことなく苦痛であった。
 フォリニックのそこそこの乳房では、そのサイズ感だけで肉棒を包みきることなどできはしない。肉棒の方が大きいこともあり、だから左右側面を乳房で挟みつつ、カバーできない裏面には、両手の四指を届かせていた。
 そうすることで、できるだけ包みきった状態で、フォリニックは乳房を上下させている。谷間の中から、パイズリの動きに合わせて亀頭は見え隠れしているが、その動きに伴いカリ首が指に引っかかり、それがその都度刺激を与えているはずだった。
「口も使って欲しいね」
「注文が多いわね。こっちは初めてだっていうのに」
 フォリニックはしかし従う。
 自らの胸に顔を落として、亀頭に唇を届かせる。やはり抵抗感はあるものの、昨晩の体験によって良くも悪しくも少しは慣れ、多少なりとも抵抗感は薄れていた。
 長いおかげで、唇はきちんと届く。
 先端へのフェラチオを被せながらの、パイズリも同時に行う奉仕によって、フォリニックは男に刺激を与えていった。
「んっ、んちゅ……んずぅ…………」
 顔をすっかり下に向けきり、乳房の動きに合わせて上下する。唇には亀頭だけを出入りさせ、竿には根元からカリ首にかけてを包んでいる。これだけ、まんべんなく奉仕していれば、少しは気持ちいいはずだった。
 早いところ、満足して欲しい。
 彼の満足そうな反応など、別に進んで見たくはないが、ゴールに辿り着かなければ終わらないという意味合いから、さっさと満足して欲しかった。

 うずっ、

 と、アソコがヒクヒクとしながら、何かを訴えかけていた。
 性器の主たるフォリニックの意思に呼びかけ、もっと慈悲が欲しいかのような、切実な何かを伝えてきている。
(何よ……)
 そういえば、絶頂手前で寸止めを喰らったままだ。
 そのせいか、こうして奉仕しているあいだにも、股のあいだはウズウズと何かを待ち侘びている。早く触って欲しいとばかりの思いを、クリトリスや膣壁が叫んでいる。
(冗談じゃないわよ)
 どうして、自分の意思で欲しがらなくてはいけないのか。
(ありえないわよ)
 あくまでも、嫌々応じた交渉だ。
 自ら応じた契約なので、だから頼まれれば奉仕はするが、男から与えられる快楽は、嬉しいものでも何でもない。いくら快楽があろうとも、愛情も何もない、人格に対する拒否感さえある相手との接触には、それでも不快感は残っていた。
 相反するものが同居しているといってもいい。
 甘く溶かされる快感と、腐食でも広がってくるような不快感がどちらもある。
(……やだ、この味。でも、やっとカウパーが出たってわけね)
 フォリニックは顔を顰めた。
 当然、舌に精液の味が来るのはおぞましいが、きちんと快楽を与えられていることさえわかれば、きちんとゴールの存在が見えた気がした。
「んちゅっ、ずぅっ、ちゅっ、ずちゅっ」
 亀頭に被せた唇は、亀頭だけを出入りさせ続け、だからしきりにキスの形となっていた。鈴口に唇を重ねての、ペニスとのキスが何度となく形成され、そして頬張ることで亀頭は口内へ隠れていく。
 その一方で乳房によるしごきも続けて、やっとのことで男は言った。
「そろそろ、出してあげよう」
「……ふん。そう」
 何が、出してあげようだ。
 しかし、男が一度目の射精を迎えることで、まずは第一のゴールに達した。胸の狭間に精液が広がって、顎にも青臭い飛沫がかかってきて、その不快感はたまらなかったが、挿入前に一度はイカせておいたのは、気休めぐらいにはなるだろう。
 皮膚の表面にへばりつき、胸のあいだから白濁が滴り落ちる。
 その気持ち悪さにこれ以上なく顔は歪んで、しかし拭き取る暇など与えられずに、男からフォリニックへの愛撫は再開された。

     *

 仰向けに寝かされて、指でクリトリスを嬲られる。
「あっ、くぅぅ……!」
 フォリニックは一瞬喘ぎ、直後に声を噛み殺した。
 男は人の表情を楽しそうに覗き込み、ニヤニヤと勝ち誇ってきているのだ。それが気に食わないあまり、つい表情を硬くして、少しでも感じた素振りを抑えようとしてしまっていた。反射的な意地によっての我慢だったが、それが意味を成さないほどの快楽の波に襲われると、いとも簡単に脳が溶けそうになってくる。
「あぁぁ……! あっ、んぅぅぅ…………!」
 男は指先だけでフォリニックを支配していた。
 右手を下にやりながら、フォリニックの表情を楽しむために顔を近づけ、細やかな変化をじっくりと観察している。だからフォリニックは睨み返したり、目を背けたり、あるいは表情筋を固くして、表情を消そうとしたり、男が喜ぶような反応は、少しでも減らしてやろうと苦心していた。
「んぅぅぅ……!」
 だが、それも持ちそうにない。
 感じれば感じるほど、脳に甘い痺れが溜まり、頭の中がおかしくなる。手足の先に至るまで、まんべんなく甘ったるい何かが満ちることにより、四肢でさえも内側から溶けていきそうな感覚があるほどだ。
 そして、これである。

 ……ピタッ、

 と、絶頂の直前で、必ず指は止まるのだ。
「…………また」
「どうかしたのかい?」
 とぼけた顔で、白々しく尋ねてくる。
「何でもないわよ」
「正直に言ってもいいんだよ?」
「正直? 何を正直に言うことがあるのよ。わけがわからないわ」
「なに、そのうち訳がわかってくるだろうさ」
 男の愛撫がまたしても再開されると、クリトリスへのタッチによって、激しい電流が脚を伝って爪先に流れていく。筋肉がびくりと震え、足首が跳ね上がり、フォリニックは強張りきった険しい表情ながらに喘いでいた。
「んぁ……!」
 やはり、気持ち良すぎる。
「あっ、あぁぁ……! あっ、あっくぅぅ…………!」
 歯を食い縛ってみるのだが、そんなことで快感を打ち消すことは不可能で、喘ぎ声さえ堪えることはできなかった。刺激で生まれる電流は、顔の筋肉までびくりと震わせ、そのせいで険しく固めた表情から筋力が緩んでしまい、おかげで顔付きなど意地できない。
 そして、またイキそうになっていた。
「あっ、あぁ……あぁぁぁ………………!」
 アソコの内側で見えない何かが膨らんで、弾ける直前になった時、やはり愛撫の手は遠ざかる。もう少しで絶頂できたはずなのに、得られるものが遠のいたことへの切なさだけがアソコに残って、こうなるとしばらくは触られることがなくなるのだ。
 数分経てば、またクリトリスに指が来る。
「んっ、んぅぅぅぅ…………!」
 そのさらに数分後には、甘い痺れが頭を満たし、自分がイク直前であることを悟って身構えるが、男の手は何度でも遠のいていた。
 フォリニックのイク瞬間を、男は完璧に把握している。
「あぁぁっ、あぁぁぁ……!」
 また再開され、またイキそうになる。
「おっと、手が疲れた」
 それから、フォリニックは絶頂をお預けされる。
 ある意味では拷問だった。
 痛みや苦しさとは異なるものの、与えられようとしたものが直前になって遠ざかる。それが何度も、何度も何度も執拗に繰り返され、そのたびにアソコが餓える。例えるなら空腹の状態でご馳走を見せびらかされ、食べる前に片付けられるかのように、餓えの感覚だけがフォリニックの肉体には蓄積される。
 食べ物を見せるだけ見せて片付ける。その行為を延々と繰り返し、決して食べることができずに餓死に近づく一方という状況が存在すれば、遠のくものへ手を伸ばしたくてたまらなくなってくる。
 フォリニックの置かれた状態はそれなのだ。
 アソコが切なくなる一方で、今度こそイカせてもらえるかと思いきや、そうはならずに右手は離れる。飽きもしない繰り返しは、一体いつまで続くのだろうかと、気の遠くなる思いさえしてきていた。
「あっ、んぅぅぅ…………!」
 また次の絶頂直前。
 当然のように手は離れる。
「ま、また…………」
 とうとう、フォリニックはそんな言葉を口走っていた。その直後に、しまった――と、咄嗟に開いた口を閉ざしていた。
 ずっと、意地があったのだ。
 寸止めのたび、男はニヤっと笑ったり、得意げな顔をしてくるので、その思い通りになってたまるかという思いで我慢していた。
 これだけ同じことが繰り返されれば、男の狙いはわかりきっていた。
 イカせて欲しいと、フォリニックが懇願する瞬間を待っているのだ。
 そして、そんな懇願をした時に、一体どれほど激しく勝ち誇るのか。その勝利が嬉しくてたまらない表情を見る羽目になった時、フォリニックはそれ相応の敗北感を味わうことになるのだろう。
 そんな風に、なってたまるか。
 いくら交渉には応じていて、体を許していようとも、精神的な優越感や勝敗にまで付き合ってたまるかと、そういう意地をフォリニックは張っているのだ。
「また、何かな?」
 ニヤニヤとわざとらしく、楽しみそうに尋ねてくる。
 だから、フォリニックは答えてやる。
「別に何でもないわ。いつまでそこをやってるのかって、気になっただけよ」
「そうだね。まだまだクリトリスを触らせてもらうよ?」
 豆のような突起への攻めは、飽きもせずに繰り返された。
 指の腹を使って撫で回し、時にはつまんでの刺激によって、快感を与えるだけ与えて手を休める。決してフォリニックに絶頂を許すことなく、必ず寸止めのタイミングで遠のくことが、あと何時間かけて続けられるのかもわからなかった。
 気が遠くなってくる。
 こんな地獄に、いつまで耐えていればいいのだろう。
 あまりにも長々と寸止めは繰り返され、いっそ楽になりたい気持ちがフォリニックには芽生え始めていた。

「イカせて欲しいかい?」

 ついに直接的に聞かれた時、フォリニックは咄嗟に否定できずに目を背ける。
「…………別に、どうでもいいわ」
 大きな時間差をつけ、やっとのことで答える言葉は、はっきりとした否定というより、微妙に何かをぼかしたものがあるのだった。



 
 
 

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