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 電撃に打たれるような体験だった。
 もう二度と『シン』が現れることはなくなり、永遠のナギ節の時代が始まるという一大ニュースと比べてさえ、それは遥かに衝撃的で、眩暈すら覚えるほどのものだった。
 そもそも、永遠のナギ節という突拍子もない話など、急に言われて信じられるものではなかった。あのスピーチの場で客席に座っていなければ、もしや今でも真実として受け止めることをせず、未だに半信半疑であり続けていたかもしれない。
 そして、そこで見てしまった。
 こんなにも胸を震わせ、心狂わす美貌が世の中に存在するなど、誰かの顔を一目見ただけで心臓を射貫かれることは本当にあり得るなど、生まれて初めての思いであった。
 あれが、ユウナ?
 召喚士ユウナの名前は知っていた。美貌であることも噂には聞いていた。
 しかし、町中でどんな美人を見かけても、決して感じることのなかった強い衝撃に心を飲まれ、こうも激しい衝動に駆られたことがあっただろうか。
 あの和装が何より美しい。
 あの袴のスカートに、両腕に揺れる振り袖が綺麗でならない。いっそ神々しいまでの光を放ち、清楚な声を人々の耳に溶け込ませる存在は、天使か神にすら思えてしまった。
 魅了されたのは、服だろうか。
 ……違う。
 衣装へのフェティシズムもあるのだろうが、この感覚はきっとユウナが和装を纏っていればこそのものである。
 会場の席を立ち、スタジアムを背にする頃には、その中年は胸の動悸を抑えるために右手で胸を押さえ込む。服の上から皮膚と胸筋を握り締め、奥に隠れた心臓を沈めるためにぐっと力を込めていた。
 そうでもしなければ、何かが狂いそうだった。
 自分の中で、何か取り返しのない変化が起こっている。
 一つ、思い出していることがあった。

 ――未練を持つ死者は魔物となる。

 だから召喚士によって異界送りを行うと聞くのだが、では生者が生者のまま化けたとしたら、それを誰が止められるというのだろう。
 抑えなければ――。
 あってはならない衝動と戦って、必死に堪えようとしていた中年は、やがて己の欲と野望によって魔物となる。

     *

 頭が痛い。
 徐々に目が覚めていく中で、ユウナがまず真っ先に感じたものは、後頭部に走るずきりとした感覚だった。
 一体、自分はどうしたのだろう。
 それに、ここはどこだろうか。
 背中にある感触で、今までベッドで寝ていたらしいことはわかるのだが、見上げた先にある天井は自分の家のものではない。古ぼけた小屋の内側の、窓もない薄暗い屋内は、ぼんやりとした闇の漂いに紛れて、天井の色や材質が見えてこない。
 少しずつ記憶が蘇る。
 召喚士としての旅は終わって、だから仲間達との繋がりこそ保っていても、みんなはもうガードの役割を背負っていない。ちょっとした散歩に付き合わせることができずに、一人出歩いたのがまずかったと思い出す。
 突如、頭に強い衝撃が走ったのだ。
 その場で地面に倒れ込み、ユウナは咄嗟に起き上がろうとしていた。自分の頭を殴ったのは何者なのか、顔を見ようと振り向こうとしていたが、それよりも先に意識は途切れ、そして目覚めてここにいる。
 つまり、捕まった?
 誰かが、ユウナのことを利用するため?
 シンを倒した召喚士の力が欲しいから?
 誰の仕業で、何が狙いなのかはわからないが、捕まったのなら脱出したい。まずはこのベッドから起き上がろうとするのだが、その時になって初めてユウナは気づいていた。
「!」
 両手が、両足が、ロープによって縛られていた。
 手首と足首に巻きつけられたロープによって、手足が大の字に引き延ばされていた。無理に腕を持ち上げたり、足を動かそうとしたところで、力を込めれば込めるほど、ロープで皮膚が擦れたり、食い込んでくる痛みを感じるだけだった。
 それどころではない。
「……っ!?」
 戦慄で悲鳴を上げかけ、今更になってその感触に気づいていた。唇に食い込んで、歯のあいだにまで入り込む猿ぐつわで、声すら自由に出すことができなかった。
「ん! んんんんん!」
 反射的に上げたはずだった悲鳴は猿ぐつわに阻まれて、くぐもったものとなっていた。
 まともに大声も出せない。
 見知らぬ場所で目覚めただけでも、過剰なまでに不安を煽られるのに、声や身動きまで封じられ、いよいよ恐怖が湧き出した。脂汗を噴き出しながら、助けを呼びたい一心で声を出し、かつてのガード達の顔を順々に思い浮かべていた。
 まともな声量にはならないとわかっていても、叫ぼう叫ぼうと必死になった。
 誰でもいい。
 たまたま近くを通りかかった通行人でも何でもいい。ここで異常が起きていることに気づいて、誰かが様子を覗きに来たり、助けを呼びに行ってくれることを期待して、気づけば必死に声を張り上げていた。

「目が覚めたようだね」

 しかし、いざ誰かが来たと思えば、ユウナの表情は一瞬にして凍りつく。
 そこに誰かが立っている。
 ドアの開閉によって外の光が差し込み、その陽光のまぶしさにユウナは少しばかり目を閉ざす。次に目を開く時にはドアは閉まって薄暗く、頭を上げさえできればすぐにでも相手の顔が見えたのかもしれないが、両腕を左右に引き延ばす拘束は、顔さえ微妙に上げにくかった。
「やっぱり、美しい……美しいよ……ユウナ……様ぁ……!」
 次の瞬間、心臓が飛び出るほどに驚愕した。目を大きく見開ききった戦慄の顔のまま、ユウナは表情さえも凍らせていた。
 醜い中年が飛びつかんばかりの勢いで、顔をぐっと近づけながら迫ってきたのだ。仰向けのユウナに覆い被さり、お互いの身体が触れ合うほどの距離まで近づかれて、ぎょっとしないはずがなかった。
 目の前の視界を塞ぐのは、中年の醜い顔立ちだった。
 ボサボサの髪は枝毛にまみれ、傷んだ魚にも似た生臭い体臭が鼻をつく。ニキビやそばかすに満ち溢れ、その吹き出物弾けた汁で表皮のところどころが光沢を帯びているのも、見ていて生理的な拒否感を煽ってきた。
 異常に口角が吊り上がり、目は嬉々とした子供のように輝いている。
「ユウナ……様ぁ……!」
 開けた唇から、黄ばんだ歯が覗けて見えた。
 そこから届く呼吸のねっとりとした湿気に肌が泡立ち、臭いが鼻孔に流れ込むと、口臭のきつさに顔を顰めた。
「ちょっと待ってね? 外してあげるからね?」
 猿ぐつわの布が解かれ、ユウナの口が自由となる。
 その瞬間、すぐにユウナは問いかけた。
「誰ですかあなたは! どうしてこんな!」
 人を攫って監禁することなど許されない。
 身動きが取れず、このままでは何をされても抵抗できない恐怖ながらに、しかし戦慄の震えは押し隠して、気丈に振る舞う強い瞳で中年を見据えていた。
 見れば見るほど、あまりにも醜い。
 顔立ちが醜悪なのもさることながら、ぼさついた髪のあいだには、白いフケが溜まっているのが見える。肌中が汚らしく、着ているシャツもボロボロだ。新品の頃は純白のシャツだったのだろうが、黄ばみ尽くして穴が空き、そこから糸もほつれていた。
「へっ、へへ……ユウナ様ぁ…………」
「理由を言って下さい」
「ユウナ様がねぇ……すっごく綺麗で、一目惚れしちゃったからぁ…………」
 聞くにユウナは全身を震わせた。
 頭のてっぺんから爪先まで、みるみるうちに鳥肌が広がって、背筋には氷でも詰まったような冷気が走る。
「なんですかそれ、おかしいです」
「ユウナ様ぁ……!」
「ひっ!」
 ユウナはビクっと顔を弾ませた。
 その開いた唇から、急にぽたりとヨダレが垂れて、それがユウナの頬にかかってきたのだ。
「これでね? 二人っきりだよぉ?」
 中年の顔が迫って来る。
 その接近ぶりに、キスでもしてくるのかという恐怖に駆られ、ユウナは素早く顔を背ける。頬をベッドシーツに押しつけて、すると中年の鼻先が頬に当たった。とうとう肌が接触したことで、そこから腐食でも広がってくるような、皮膚が何かに侵食されるおぞましい感覚に見舞われる。
「すー……」
 中年は鼻で息を吸い上げていた。
「いや……やめて…………」
 あからさまに体臭を嗅ごうとしてくる行為に、より大きな嫌悪感と、そして羞恥心にも襲われた。
 ぴたりと当たっていた鼻先が、そして頬からすっと離れると、今度はその顔が首筋に近づいた。衣服の表面に迫らせて、まるで鼻先だけを触れるか触れないかのギリギリで当てているような、絶妙な距離感を保って身体の表面を滑らせる。
 乳房の山をなぞって端から端へ、腋窩から腋窩へ渡っていく。大きく開ききった瞳を見れば、それが至近距離からの視姦であるとすぐにわかって、嫌悪と拒否感は膨らみ続ける一方だった。
「い、今ならまだ間に合います! 私を解放して下さい!」
「大丈夫だよぉ? ここには誰も来ないからぁ……」
 中年は話も聞かず、指先を髪に絡めてきた。
 隠れた耳を撫でながら、手櫛を通していくように指先で髪を味わい、頬を指の腹で撫で回す。触れられている気持ち悪さで、もはや恐怖などより嫌悪の方で涙が出そうだ。
「いくら召喚士の旅を終えたとはいえ、ガードだった者達があなたを許しません。いいえ、ガードだけでなく、より多くの人々が私を探します。取り返しのつかないことになる前に、早く私を解放してください」
 気丈な警告のつもりで、ユウナは彼にリスクを説く。
 ただ許しを乞いたり、間違いについて説くよりも、ユウナを誘拐監禁したことで起こりうる未来について語った方が、この男には通じると思ったのだ。
「大丈夫だってばぁ」
 しかし、まるで通じもしなかった。
「いやぁ……! や、やめて……!」
 手が胸に置かれていた。
 もしやそういう目的ではと、既に察してはいたものの、とうとうはっきりとした部位にまで触られて、まずは全身に寒気が走った。神経を凍りつかせるような冷気が指先にまで行き渡り、体中が硬直しそうであった。
 中年はユウナの体中をまさぐった。
 胸を揉みつつ、もう一方の手では肩を撫で、そこから伝って腕に手の平を滑らせる。肘のあたりまで撫でたと思えば、その手を急に腰に移して下へ下へと、袴のスカートの上から太ももを触ってきた。
「やめて下さい……こんなの、嫌です……」
 ユウナは辛抱強く訴えた。
「へへっ、柔らかいなぁ」
「間違っています……今すぐに……」
「怖がらなくていいんだよぉ?」
「ですから、嫌なんです! やめて下さい!」
「オジサンが守ってあげるからぁ」
「だ、だから……」
 もう駄目だった。
 この人間には話というものが通用しない。
 およそ会話が成立している感覚すら得られずに、このまま醜い男に体中を好きにされてしまうのかと、最悪の運命を予感して涙ぐむ。
「誰か…………」
 今にも助けが間に合って、そのドアの向こうから飛び込んで来てくれはしないかと、心のどこかでは期待していた。別の言い方をするなら、そうあって欲しい願望を切実に抱いていた。
 しかし、次の瞬間には中年は抱きついてくる。
「ひっ!」
 ユウナは悲鳴を上げた。
 それはもう、恐怖や驚きといったものではなく、気持ち悪いものと接触した瞬間の、おぞましさに対する悲鳴であった。例えるなら気持ち悪くてたまらないものに触れてしまい、条件反射で勢いよく手を引っ込めるかのような反応だった。
 中年は全身でユウナを味わっていた。
 一生懸命になって体を押しつけ、果てはシャツまで脱いで密着感を味わうことで、全身の皮膚でユウナの感触を確かめていた。
「はっ、はぁ……! ユウナっ、様ぁ! あぁユウナ様ぁ……!」
 息遣いはみるみるうちに荒くなり、興奮していく一方の中年は、そしてユウナの胸元に手をかける。
 ぐいっと左右に開くことで、そこに隠していた黒い下着を丸出しにされてしまった。
「やぁあ……!」
 ユウナは羞恥に駆られた。
 元より、横乳の見えそうな着こなしで、下着を多少は露出していたかもしれないが、こうもはっきりと丸出しにするつもりはなかった。着こなしやファッションの域を超え、完全なただの露出となっては恥ずかしくてたまらなかった。
 このままでは一体どこまでされるかわからない。
「いや! いや!」
 ユウナは必死にもがいていた。
 皮膚にロープが食い込むことも構わずに、無我夢中で手足を暴れさせ、少しでも触りにくくなるようにと懸命に抗っていた。
 だが、すると中年は身体を押しつけて、体重をかけて押さえ込む。
 さらに袴の布を握ってずり上げて、その内側に触ろうとし始めていた。
「やめて! これ以上は許さない! 絶対に許さない!」
 どんなに必死に訴えても、決して中年は止まらない。

 べろぉぉぉぉぉ……。

 と、舌が頬を舐め上げた。
 顎の骨から頬骨まで、下から上にかけて唾液を塗りつけ、まるでナメクジの這った跡のように、表皮には光沢が残されていた。
「やぁぁ…………!」
 その戦慄といったらない。
 汚物や生ゴミの汁でも塗りつけられてしまったような、身震いを禁じ得ないおぞましさに、それだけで涙が溢れてきた。
「美味しいなぁ? ユウナ様のお肌は」
 頬だけでは済まなかった。
 首筋を、鎖骨を、脇の中身を、あらゆる箇所を中年は舐めてくる。その都度、顔を置き変えて、埋めた口から舌を伸ばしてベロベロと、皮膚に唾液を擦り込んでいく。
 その一方で右手で袴をずらしきり、とうとう下着越しのアソコに指は届いた。
 皮膚に吸いつき舐め回してきながらも、右手ではアソコを撫でる二重の愛撫に、ユウナはもはや拷問でも受けているように苦悶していた。
 与えられるものが痛みではないだけで、気持ち悪いことこの上ない。名前すら知らない男の、それも不潔極まりない顔や手で触られて、細胞が汚染されていくかのようだった。
「それにしてもさぁ? ユウナ様ぁ?」
 左手で髪を掻き分け、覗けて見える耳に向かって唇は迫って来た。
「うぅ…………!」
 ユウナは必死に堪えていた。
 もはや抵抗が意味を成さず、できることといったらぎゅっと強く目を瞑り、顔を強張らせて耐え忍ぶことくらいであった。
「なんで背中丸出しなのぉ? 横から下着も見えてるしぃ、こんな格好で男を誘惑したらまずいよねぇ? なんで? いつ誰に襲われるかわからないんだよぉ?」
 ねっとりとしていた男の声は、しだいに憤りを帯びて震えていた。
 その襲ってきた男が自分自身に当てはまるとは、中年は明らかに思いもしていなかった。
「や……や……」
「まったくさぁ!」
 その時、ユウナの顔のすぐ近くに拳まで叩き込み、中年は一人で勝手に怒り始めていた。その瞳に浮かんだ形相が理解できずに、ユウナはますます恐怖する一方だった。
「でも大丈夫だよ? ユウナ様」
 そして、表情は一変した。
 急に怒ったと思いきや、急に笑顔を浮かべていた。
「なに……なんなの……?」
「オジサンがね? ちゃんと守ってあげるからね?」
 狂気的な眼差しで、異常なほどに吊り上がった口角で、中年は真摯的なことを言い出していた。怒り、笑い、さらに表情が一変しての、あたかも真剣な熱意でも籠もったような眼差しの、その変わりようが理解できない。
 中年はおもむろに右手を離した。
 今まで愛撫されていたアソコから、やっとのことで指が離れてくれたのも束の間、今度は両手によって頬が包まれていた。その力によって顔は捕らわれ、右にも左にも向くことができなくなっていた。
 その次には顔が迫った。
 体のいたるところを散々舐められ、今度という今度こそキスをされると悟った時、ユウナは再び手足を暴れさせていた。男の筋力を前にして、無駄だとはわかっていても、強引にでも顔を左右に振り乱そうと必死になった。
 少しでも暴れることで、キスがしにくいようにと必死であった。

 ペチン!

 ビンタであった。
 そんなユウナの暴れようを見て、中年は急に平手打ちをかましてきたのだ。
「え…………」
 暴力を振るわれたショックで頭が真っ白に、それが停止ボタンであったかのように、ユウナの手足がすっと静まり、一切の抵抗が止まっていた。
 そんなユウナの頬を改めて両手に包み、中年は唇を押しつける。

 ぶちゅぅぅぅ…………。

 無理にでも押しつけて、分厚い唇で圧迫してくるキスだった。
 ただ押しつけるだけのキスに対して、ユウナは必死の必死で目を瞑り、これ以上なくまぶたに力を込めて振るわせていた。
 やがて、ただ圧迫するだけのキスから、頬張るようなキスへ変わって、中年は唇を啄み始める。大きく口を開いて飲み込んで、舌で唇の閉じ合わさったラインをなぞる。力尽くで舌をねじ込み、口内まで蹂躙しようとする中年に対して、ユウナは自然と力を込めて、唇を固く閉ざし続けていた。
 だが、中年は構うことなく味わい続けた。
 吸い上げるような力を加えたり、唾液を垂らしてみせる真似をして、ユウナの唇を存分に汚し続ける。キスをやめ、顔を離したと思いきや、ポタポタと唾液を垂らしてくる上に、改めて頬張り直してキスを続行してきていた。
 やっと、本当にキスが終わって、唇が解放された時、ユウナの口周りはすっかり汚し尽くされていた。皮膚に水分が浸透することで、唾液はある程度染み込んで、しかも多量に垂らされたものが少しは唇に入ってしまった。水滴が広がることで、頬や顎にかけても汚されて、まるで顔中に腐食が広がったようなおぞましさをユウナは味わっていた。
「じゃあ、ユウナ様ぁ……オジサンのものになろうねぇ……?」
 それが何を意味するか、わからないユウナではない。
 すっと、中年の体が離れていった。
 今まで体重を押しつけて、密着を保ち続けてきた中年の、その重みが離れていくのは、もはや次のステップへ進む予兆に過ぎない。
 ユウナは今更になって中年の体格に気づいていた。
 脂肪によって全体的にだらしがない。下垂しきった醜い乳房のようなものが出来上がり、腹も二重にたるんでいる。腹は大きく膨らんで、二の腕までぷよぷよとした体格は、間違いなく醜い部類だ。
 おぞましい人格に、醜悪な顔付きに、だらしのない体格。
 そして、頭皮にフケの溜まった不潔感。
 これでもかというほど負の要素を詰め合わせた集合体など、拒否感を感じるなという方が無理な話だ。
 そんな中年がユウナの袴を捲り上げ、その内側にある下着をずり下ろす。
「お、お願い……それだけは…………」
 もう無理だと、心でも頭でもはっきりと理解していた。
 逃れられない運命が、すぐそこまで迫っているのはわかっていた。
「やめて……私、初めてで…………」
 しかし、それは反射的な言葉であった。
 たとえ無駄だとわかっていても、まるで命乞いであるように、許しを求める言葉は口を突いて出て来ていた。
「だから……お願い……それだけは…………」
 当然、中年はそんなものを聞き入れない。
「安心してね? 優しくするからぁ!」
 中年は全てを脱ぎ捨て、その逸物をワレメに押しつける。

「あぁ――――――!」

 一瞬だった。
 これまで男を知らなかったユウナの秘所は、こうも呆気なく破り去られて、破瓜の血を流しながらも男性器を咥えてしまっていた。
 中年はすぐに動き始める。
 ベッドの骨組みを軋ませながら、ゆさゆさと行う腰振りで、ユウナは肉棒を嫌でも感じた。太いものが穴を内側から押し広げ、拡張してくる上に出入りもする。破瓜の血だけに留まらず、粘膜を保護するための分泌液も滴り溢れ、肉体の持つ機能が膣壁を守り始めるが、そんなことだけで痛みが消え去るわけではなかった。
 生まれて初めての挿入に対しての、どうしようもない性交痛がそこにはあった。
「あっ、いやぁ……あっ、んぅ…………!」
 もっぱら、痛みに喘いでいた。
「やめて……助けて……! 無理、痛い……! 痛い……!」
 ユウナはもう、ただただ無意識のうちに叫んでいた。
 誰かに助けを求めているのか、それとも目の前の中年に許しを乞うているのか。自分でもわからずに、反射的な言葉をひたすら並べ続けていた。あるいはそういう喘ぎなのかもしれなかった。
「大丈夫だよ? 痛いのは最初だけだよ?」
 そして、中年は優しい言葉をかけていた。
 まるで愛してやまない相手を労って、懸命に励まそうとしているような、実に真摯的な眼差しだった。ここに至るまでの前後の状況を全て無視して、今そこに浮かぶ表情だけを都合よく切り取れば、いかにも真剣な愛を語って見えるはずだった。
 だが、だからこそ狂気であった。
 人を誘拐して、拘束付きの監禁まで行って、それでいて真剣な愛を語った眼差しを浮かべるなど、まともな精神をした者の行動ではなかった。
「今は我慢してね? オジサンもさ、ほら。ゆっくり、動くからね?」
 その言葉を聞いているうち、涙を流しながらユウナは悟った。
「痛いね? うん、痛いね?」
 指先で、優しく涙を拭ってくる。
 きっとこの男の中では、真摯な愛でもってユウナに接していることになっている。自分の捧げる愛は真剣かつ正しいものだと、本気で信じ込むような狂気をこの男は抱えている。
「あぁ……くぅ…………!」
 そんな男の、狂った挿入にユウナの処女は奪われたのだ。
 ゆさゆさと、絶え間なく動き続ける肉棒は、やがて熱い精を解き放つ。こんな男とのあいだに子供が生まれかねない恐怖に全身が冷え込んで、心まで凍りついたユウナへと、なおもピストンは続いていった。
 射精は一度や二度で済むことがなかった。
 永遠にも思えるほど続く陵辱で、五度も六度も放出されて、ユウナは膣の奥まで完全に穢し尽くされていったのだ。

     *

 後日、捜索隊がこの小屋を発見した。
 しかし、彼らが踏み込んだ頃にはもぬけの空。杖や衣服が残されているのみで、もうどこにも誘拐犯やユウナの姿はなく、見ればベッドには血と精液の痕跡がある始末だ。
 捜索隊の面々は、ここで起こった出来事を悟ってお互いの顔を見合わせる。
「……こんなの……ワッカさんに報告できるか?」
「するしかないだろ。だって、隠したって……」
「とにかく、今はもう少し調べてみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
 誘拐犯はどこへ行ったか。
 そのヒントがほんの少しでもありはしないか、彼らは地道に小屋を探し回った。ベッドの下やタンスの裏まで、こと細かに調べ上げ、小屋周辺の足跡まで観察した。木々の枝葉を見ることで、人の通った痕跡を発見できないかと、そんな観察まで行って……。
 どれほど調べても、具体的な手がかりは何もない。
 怪しい男の目撃情報といったものもなく、捜索は行き詰まっていた。

 このままでは、ユウナは……。

 シンを倒した召喚士の、その末路がこれなのかと。
 この場に集まる誰もが暗い面持ちで俯いていた。



 
 
 

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