第5話 最終日を越えて

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 最終日はメイド服を着せられていた。
 普段通りのツインテールで、昨日のように髪型は変えていないが、ケンがどこからか用意した衣装で、しかも胸は出しておくように言われている。乳房だけを丸出しに、スカートの中は何も穿かずにノーパンで、クロエは奉仕を命じられていた。
(最後の最後まで……!)
 目の前のペニスに顔を近づけ、ぺろりと先端を舐めながらも、クロエはケンを睨め上げる。

 キッ、

 と、鋭い視線を送った瞬間だ。
「ひっ! お、お前! 逆らえないくせに!」
(こんなにビビっちゃってまあ)
「ばらすぞ!? 本当だからな!?」
(しょーもないガキ……)
 こんなに簡単に怯えて萎縮する少年の、肝の小さいところを見ていると、こんな奴に屈する自分は何なのかと余計に泣けてきてしまう。
「あむ……」
 仁王立ちするケンに向かって、一〇歳そこそこの、決して太すぎることのない逸物に対して奉仕を始める。顔を前後に動かしながら舌も振るうと、クロエの口内で肉棒は左右に暴れる。他ならぬクロエ自身の舌使いで動き回って、まもなくカウパーを染み出させているのだった。
 青臭い味を感じた時、クロエは微妙に眉を顰める。
「あむぅ……んっ、んぅ……んぅ…………」
 しかし、嫌々ながらもクロエは続けた。
「ふじゅぅ……はじゅぅ…………」
 唾液の音を立てながら、無心になって奉仕する。
 いっそ心を殺して無になりきっていた方が、したくもないフェラチオも少しは気が楽になるような気がした。
「はじゅぅ……ずりゅっ、じゅりゅぅ…………」
 しばし、クロエは奉仕を続けた。
「ずりゅっ、ちゅじゅぅ…………」
 続ければ続けるだけ、しだいに舌に広がる青臭い味の気配は強まって、ケンの身悶えするような挙動も何となく伝わって来た。目を瞑り、まぶたの裏側に引きこもる気持ちでこなしていたが、ちょっとした仕草からなる衣擦れや息遣いから、そうした感じが心なしか読めてしまった。
 そして、頭に手が置かれる。
 逃がすまいとするかのような握力が籠もってきた時、クロエは悟る。
(飲めってか……)
 最悪の瞬間に頬を強張らせ、クロエは来たるべき瞬間に備えていた。

 ドクゥゥ! ドクッ、ビュルン!

 口内で跳ね上がる肉棒から、より濃い味が放出され、舌の表面に広がっていく。下顎に溜まる白濁は、たちまち唾液と混ざり合い、体液と粘液の混ざり合ったものが舌の根元を水面に閉じ込める。
 クロエはそれを嚥下した。
 こくこくと、喉を鳴らして飲み込むと、内側を流れ落ちてくるおぞましい感覚に、クロエはこれ以上ないほど顔を顰めていた。
 唇を離す時、亀頭とのあいだに糸が引く。
「気持ち良かったわー」
 ケンはご満悦だった。
「こっちはサイアクだから。もういい加減にしてくんない?」
「まだまだ! 俺、姉ちゃんのことたっぷり堪能したいからさ!」
「はぁ……」
 深々とため息をつくクロエを前に、ケンは自らの欲望を優先して、次のプレイに使うらしいものを用意する。
 そして――。

 クロエの身体にはクリームが塗られることとなった。

 テーブルの上に寝そべって、脚をM字に広げた上で、乳首とアソコをクリームで飾り付けている。ケーキに乗せる時であるような、苺型の白いクリームが乳房のてっぺんに、アソコの方ではクリトリスを隠さんばかりの位置に膨らんでいた。
「どーやって思いついたわけ」
 呆れればいいのか、嫌悪すればいいのか、もはや何もわからない。
「ま、いいじゃんいいじゃん! それよりさ、さっそく味わっちゃおっかなー!」
 ケンは早速のように乳房に吸いつき、クリームもろとも乳首を頬張る。ちゅぶりと音を立てながら、一瞬にして口内に吸い取ると同時にして、ケンはそのまま乳首を味わう。まだ表皮に味が残っているかのように、執拗に舌を動かし、乳輪をぐるぐるとなぞり続ける。
 それがもう片方の乳房にも行われ、どちらの先端も唇に舐られると、クロエの乳首はそれぞれ唾液濡れとなっていた。
(サイアク……)
 始末の悪いことに、気持ち良かった。
 こんな形で受ける愛撫だというのに、クロエの体はそれでも快楽信号を発した挙げ句、次に来るであろうアソコへの刺激に合わせて、膣の奥からウズウズとした何かが込み上げる。体にスイッチが入ってしまい、今に快感を待ち侘びる状態へと、アソコが勝手に切り替わってしまっていた。
 これでアソコを舐められれば、乳首以上の快感になるのは言うまでもない。
(ああもう……なんで感じなきゃいけないんだか……!)
 ケンの顔が下半身へと移っていく。
 仰向けで天井ばかりを見ていたクロエが、それに合わせて顔を上げると、股のあいだに埋まろうとしてくるケンの頭が視界に飛び込む。もう鼻先が触れそうな距離感にまで迫った上、表皮に息まで吹きかかっていた。

 きゅぅ……

 と、下腹部が引き締まる。
(期待せんでええっつーの)
 クロエは自分自身の反応にさえ嫌悪を浮かべ、ぐっと歯を食い縛る。

 ぺろっ、

 まずはワレメを舐められた。
 その瞬間にビクっと脚が反応して震えてしまう。接した舌はクリームに触れることなく離れていき、スタート地点にって戻って改めて下から上へスライドする。二度目も、三度目も、やはりクリームに触れずして元の位置に戻っていき、同じような舐め上げが数十秒か、あるいは一分以上は続くこととなっていた。

 ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、

 それにより、クロエのワレメとその周囲の皮膚は、だんだんとケンの唾液をまとってヌラヌラとした光沢を帯びていく。愛液さえ染み出して、快感を隠すことすら出来ずに、クロエはせめて手で口だけでも塞いでいた。
「んぅ……」
 感じた声が出そうになる。
 だが、ケンなんかのためには喘がない。

 ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、

 クロエの上がる声はせいぜい、息の乱れに交じってごく僅かに、「んっ」と聞こえる程度のものだけだった。
 だが、声こそ抑えきってはいても、愛液の量は増えていく。
 ケンが一度顔を離して、今のアソコの有様を眺める頃には、テーブルの表面にまで水気が広がりつつあった。
「声出したっていいんじゃない?」
「うっさい」
「まあいいけどさ……ちゅぶぅ……」
 とうとう、ケンはクリームに吸いついた。
「んっ……!」
 今までよりも大きくはっきりと脚を弾ませ、クロエは刺激に顔を歪める。より強く歯を食い縛ろうと、顎が震えるほどの筋力を行使しながら、唇を手の平でぴったりと隙間無く、完全に覆い隠していた。
 だから、クロエが喘ぐことはない。
「ちゅっ、ちゅぅぅ――ちゅぶっ、ちゅるる――――」
 ただ、体の反応にのみ、快感は表れていた。
 ビクビクと筋肉が弾むせいによっての、執拗な脚の開閉が繰り返される。よがらんばかりに足首が反り返り、髪も微妙に振り乱す。気持ちいいあまりの脂汗が滲み出て、いつしか額に前髪が張りついていた。

「くぅぅ――――――!」

 ビクっと背中が弾み上がった。
 頭が一瞬真っ白に、手で封じていなければ、この刺激ばかりに対しては、間違いなく喘ぎ声を出していた。
 クロエはイカされた。
 潮まで出て、それがケンの口内に直接噴射されたはずだった。

「イったねぇ?」

 勝ち誇った顔で、ケンは手の甲で口を拭う。
「うっさい……イったから何」
 クロエはそっけなくそう返し、顔を背ける。
「へへっ、ところでさ。謝ってくんない?」
「は?」
「この前のさ、邪魔してくれたじゃん? その謝罪だよ」
 満面の笑みで言ってくるケンに対して、改めて怒りが込み上げる。自分がセクハラをしておきながら、そんなことを謝れという神経には虫唾が走った。
「あんた……!」
 怒りが表情に滲み出た時、さしものケンも狼狽える。
 だが、二言目にはこれだ。
「こ、校則! 校則!」
 そう唱えれば助かるかのように、必死になって二文字を唱える。
「……ちっ」
 自分でも不思議に思うほど、それを聞くなり怒りを堪えなくてはならないような気になって、つい怒るのをやめてしまう。本当はきちんと注意して、延々と説教すべきではないかと重いはしながら、それを実行することができなかった。

「こ、この前は……邪魔して、サーセン……。いや、すみません……」

 何をこんなことに従っているのかと、自分でも思いはするが、何故だか逆らうわけにはいかない気になっていた。
「じゃあさ。謝ったところで、ミルクのおねだりしてみてよ」
「次から次へと……」
 下らないことをよくぞ思いつくものだ。
「ほらほら、精液だよ精液。くださーいって、言ってみてよ」
 屈辱的だった。

「……精液、くださーい」

 今度こそ逆らおうかと思ったら、次はケンから言われるまでもなく、やはり校則の二文字が脳裏を掠めて、そのようには動けない。
 ただ睨む顔だけをしながら、クロエは望み通りの台詞を口にしていた。

「じゃあ、パイフェラおねがーい!」

 元気な顔で要求してくるケンの明るさが腹立たしい。
(こいつは……!)
 苛立ちを感じながらも、クロエは乳房に肉棒を挟むこととなる。

 ケンがテーブルを椅子代わりに、クロエが床に座っての奉仕を行った。

 腰を前に滑り出し、角度の調整によって肉棒をできるだけ天に向けての体勢に向かって、クロエは自らの乳房を押し当てる。谷間の中に抱き込んで、手で自分の胸を上下に動かしつつ、挟んだものへ顔を埋め込む。

 ぺろっ、れろっ、

 クロエは亀頭を舐めていた。
 両手の力で乳圧をかけ、上下に動かすことで谷間に肉棒を見え隠れさせながらの、口を使った奉仕をこなしていく。

 れろっ、れろっ、

 伸ばした舌を亀頭に届かせ、先端をチロチロと、ペロペロとやっているうち、カウパーの青臭い味が舌に広がる。

 れろっ、れろっ、

 こんなことをやらされて、屈辱といったらなかった。
 何が悲しくて、セクハラの犯人に性的な奉仕をして、悦ばせなくてはならないのか。それもクロエ自身が止めに入った際の相手だ。その時はみっともなく逃げ出したはずの少年が、いい気になって命じてきた奉仕を行うなど、苛立ちで心がいくらでも荒れそうだった。
(マジで許しておけんっつーの)
 怒りに震えながらの奉仕であった。
 鋭い眼差しで見上げた時、その視線の鋭さに、やはりケンはビクっと肩を跳ね上げる。怯える素振りは見せながら、しかし最後まで萎縮しきってくれることはない。

 ドピュゥ!

 精液が噴射した。
 谷間から噴き上がる白濁が顎を打ち、その跳ね返ったものが谷間を汚す。肌に精液が染み込むおぞましさに、クロエはひどく歯を食い縛り、顔の強張るあまりに頬をピクピクと震わせているのだった。

     *

 学校の中、教室の席につく。
 すると、二人の女子生徒がヒソヒソと、クロエのことを見ながら何かを話す。ケンにやらされた宣言で、オナニーの回数を告白して去っていくような、ただの変態でしかない行為をしたのだから、奇人変人に対するような目で見られるのも無理はない。
(諦めとこ……)
 元々、あの二人には謎に恐れられている。
 諦めるより他、仕方がない。
 ただ、余計な事を言い触らさないように、注意だけはしておこうか。
 しかし……。

「はぁ……」

 クロエはため息をついた。
 掲示板で家庭教師のバイトを見つけ、それに採用してもらった時、その契約期間は昨日までのはずだった。
 メイド服を着せられて、それが最後になるはずだったが、終わりになってケンはこんなことを言ってきたのだ。

「そうそう! バイト延長できないかって、親が言ってたんだよね!」

 満面の笑みを浮かべたケンに対して、クロエはこれ以上なく引き攣っていた。
「な、なんで……!?」
「うーん。成績、上がったから?」
「ロクに勉強してなくない!?」
「いやぁ、姉ちゃんの見てないところで地道にコツコツと――」
「なら自力で十分やって……家庭教師とかいらんでしょ……」
「俺には姉ちゃんにいて欲しいな」
 と、そんなやり取りがあったわけである。
 校則の二文字の元に従わされ、契約を更新する羽目になったおかげで、クロエは今日の放課後も、ケンの家に向かわなくてはならないのだ。
 相変わらず、あの家には親がいない。
 ケンとクロエが一緒の時間に限って、どうやら共働きで余所に出かけているらしいので、基本的に二人きりで過ごす羽目になってしまう。
 向こうしばらく、似たような目に遭い続けなくてはならない。
 いいや、それどころか……。

 もしも更新に更新を重ねられ、バイトを延々と延長させられ続けたら?

 クロエが憂鬱になるのも無理はない。
 唯一の救いと言ったら、そこそこに稼ぎが良い点くらいであった。