次の赤いラインの先には、無数のディルドが生えていた。
そのリアルな造形と色合いは、生きた男性器をそのまま生やした奇怪な光景でさえある。身体の一部を切り取って、どこかに飾っておくというのは、ホラーやサスペンスにおける猟奇表現の一種である。二人がディルド畑に感じたのは、そういった種類の不気味さだった。
しかし、次の瞬間に二人は思う。
そこへ進んでいかなくてはならないのだ。
まるで壁から棒が生えているかのように、ジャングルジムの鉄棒部分から、肉棒という肉棒が玉袋をぶら下げ生えている。よく見れば、生えるというより、洗濯バサミの原理で挟み、向きや角度を固定していた。
本当に数え切れないほどの男性器が並んでいる。
そして、そんなおぞましい光景に引き攣る頃には、二人はショーツ一枚にまでなっていた。
衣服を失った身体には、なおもローションがぶつかり続け、背中や肩がしだいにぬるぬるにされていく。乳房の表面を透明なコーティングが覆い尽くして、体中のあらゆる箇所が光沢を放つようになっていた。
『エッチだねぇ?』
『全身テカテカじゃない!』
男達の興奮した声が届いてくる。
『ヌルヌルに輝く乳房!』
『スケスケで丸出し同然の尻!』
思い思いに良いと思う箇所について声を上げ、彼らはそれがいかに官能的であるかを語り始める。
『ローションでヌルっと光った感じの体って、本当にエロいんだよねぇ! 腰とか太ももでも十分にエロいのに、それがオッパイだったりした時には、もう鼻息がこう、すっごく荒くなっちゃうわけぇ!』
お手本を示さんばかりに、わざとらしい鼻息を聞かせてくる。それが過剰になるあまり、もはや豚の鳴き真似だった。
『それにアソコも濡れてるねぇ? ほら、ローションが当たる前から、最初から濡れてたもんねぇ? 興奮してるんだねぇ? 二人とも!』
「し、してない!」
「違う!」
即座に否定する声は、いかにも悲痛なものである。
『違うって言っても、そのハァハァした息遣い、エロくてトロっとした表情! 興奮してないわけがないでしょ?』
愛野による指摘に、二人は思わず自分の顔を確かめていた。
四分割の画面の一つに、表情を映し続けているものがある。その顔付きを見ることで、自分がいかに悩ましげに、快楽にうっとりしたかのように目を細め、気持ち良くなっていたかを痛感した。
もちろん、本気で快楽に浸っていたわけではない。
悲劇に苦悩する顔付きではあったのだが、そこに不純物が混ざるかのように、愛野が言うような表情の気配が見え隠れしていた。
「ち、ちがう……」
円香の声が弱くなる。
否定しきれない自分がいて、泣きたくなった。
『さあ、早く進まないと、パンツもなくなっちゃうよ?』
そう言われ、二人は進む。
もうこんな格好にまでなってしまった恥ずかしさに、穴があったら入りたい気持ちを本当に味わっていた。どこかに本当に穴があり、飛び込むことができたなら、すぐにでも裸を隠せるのに、などと切実な願望を胸にしていた。
頭に羞恥の熱が溜まっている。
脳が沸騰するのは時間の問題であるように、その表情は羞恥に歪む。
二人はペニス畑の領域に突入した。
「うぅ……」
「気持ち悪い……」
二人は完全に引き攣っていた。
セックス未経験の二人であるが、人間の皮膚に触れた感触くらいはわかる。生温かい、生きた男性の一部のような感触は作り物による再現だ。触感もさることながら、内臓したバッテリーが体温まで再現して、その表面には血管を浮かせている。
よく見れば、形状や大きさに個人差はなく、全て同一の規格のものだ。
生きた人間の一部にしか見えないそれだが、見た目が同じであることに、辛うじて製品らしさを感じられた。
ペニスの生えていない箇所などない。
当然、避けて進みたいが、触れずに済むだけのスペースがどこにもない。存在する四角形の辺の全てに必ず二本は生えている。場所によっては三本以上も同時に生え、角の部分に生えていることもあり、接触を避けることは不可能だった。
少なくとも、手で触ることはないように、気をつけながら手を伸ばす。
まずは眼前を通り過ぎた。
鼻先に亀頭が触れてきそうなギリギリを通過していき、さらにその下にある胸や腹に擦れていく。接触は避けきれず、生肌に亀頭のぷにりとした感触は当たってしまい、ぞわりと鳥肌が立っていた。
そして、一本のペニスを通り過ぎても、またすぐに次のペニスが、それを通り過ぎてもまた次が、いくらでも控えている。
最悪なのは、接触を避けようと気をつけるあまり、ジャングルジムと胴体を離しすぎれば落ちそうな点だった。手足だけを棒に残して、胴体だけを遠ざけるようにしすぎると、ヌルヌルとした感触で滑りそうになるために、どうしても怖くて距離を離しきれなかった。
もはやローション弾の発射や着弾に関係無く、棒の表面は初めからヌルヌルだった。
その滑りの良さのおかげで、しっかりと握力を込めていなければ、もはや脱力さえ怖くてできない。
あまりの不快感に、背中に氷でも当たっているような寒気で震えながら、心の底から嫌そうな、泣きそうな顔をしながら上がっていく。
赤いラインを通過しきって、足までその上に行った時、もはや靴さえ消滅した。
そこから先は、裸足で上がっていくことになり、足の指にまで棒のヌルヌルが付着してきた。
「キモイ……キモイよ……」
こんなの無理だと言わんばかりの、透の悲痛な叫びが聞こえる。
配置も実に嫌らしい。
例えば、二本生えた箇所を通る時、真ん中に頭を通せば、ひとまず顔には触れてこない。ところが、そうやって通過した先には、中央配置のペニスが控えている。避けきるルートができないように計算され、どう足掻いても身体のどこかにペニスは当たる。
登っていく動きに合わせ、まずはペニスが両肩に乗せられた。
円香も、透も、まったく同じ状況となり、接触した部分に肌の泡立つ感覚を覚えていた。そのまま上に進んでいけば、まるでレバーを持ち上げるようにして、両肩がペニスの角度を上げていく。
身体の通過に合わせ、皮膚の上を擦れていく肉棒は、脇下で元の角度に向き直る。
そして、せっかく中央に顔を通して、顔への接触は避けたところで、中央配置のペニスが頭上に控えているわけだった。それをまた避けたければ、身体の位置を変え、サイドにコーズをずらす必要があるのだが、すると今度は横から頬に当たりかねない位置にもペニスがある。
腹や肩に当たるのさえ、心の底から我慢していた。
それこそ、腐敗した生ゴミに手を突っ込むことにでもなったかのような、最高に嫌そうな表情が止まらない。
嫌なあまりに泣きそうな、なのに媚薬が効いて肉体的には興奮した状況は、体と心が完全に相反していた。
他のギミックはいつの間になくなっていた。
二人の裸は十分にローションまみれで、ぐっしょりと濡れたショーツはとっくに尻を透かせている。まんべんなく光沢を帯びた状態で、かまいたちがショーツを狙うこともなく、スカートを捲る意味のないのに風も吹かない。
その代わりのようにして、また次の赤いラインが見えてきた。
そして、それより上は壁だった。
ジャングルジムに板を張り付け、今度は壁をよじ登らなくてはいけないエリアが迫ってきたのだ。
「む、無理……!」
円香は完全に引き攣っていた。
もちろん、単なる壁では指を引っかける場所もなく、上り下りなど不可能である。手で掴める突起の用意はあるが、その突起とは全てペニスだ。
信じられなかった。
「本当に……無理なんじゃ……」
透の意見も当然だ。
クライミング競技の壁なら岩の突起を用意してあるが、ペニスを掴んだり、足をかけて登っていくなど、それは可能なのかと純粋な疑問も湧く。とても人間の体重を支えるものには見えず、触りたくない上に、成立するのかさえ怖かった。
『大丈夫だよー。その先は握っても角度が変わったりしない。人間がぶら下がっても平気な設定にしてあるし、そもそも落ちたところでワープ機能で助けるからさ』
と、愛野が言う。
『そうだよ! 落下死亡した死体ってグロいでしょ!?』
『二人の可愛い体を楽しむためには、安全は保障しませんとね!』
『そういうわけだ。安心しろ』
冗談じゃなかった。
そんな言葉を信じて、おいそれと上がっていく気にはなれない。宇宙人の持つテクノロジーが優れているのは、もう十分にわかっているが、それがペニスということもあり、心理的な抵抗感は猛烈なものだった。
『ま、そのまま力尽きるまで、永遠に嫌がっていても構わないけど?』
愛野はそんなことを言い出した。
「なにそれ……」
円香は画面を睨む。
そこに四人の顔は映らないが、その向こうにいるかのように鋭い視線を送っていた。
『時間制限無しって約束だからね。ずーっとそこにいて、もう指に力が入らなくなって、落っこちるしかなくなるまでいても構わないよ? どうせワープで怪我はさせないからね』
だから、嫌なら好きにしろとばかりに言ってくる。
きっと、愛野は本気だ。
二人でこうして止まっていれば、本当に力尽きるまで放置して、落下直前になってやっと助けに入るのだ。
もちろん、その時はゲームオーバーの扱いなのだろう。
進むしかない。
「うっ、うぅぅぅぅ………………」
極限まで引き攣りながら手を伸ばし、円香は肉棒を手掴みした。
ぞわぁぁぁ…………!
掴んだ箇所の、皮膚の接触部分から、まるで腐敗が広がるかのようなおぞましさに、これ以上は引き攣りようのない表情が、なおも歪みを増そうとした。
鉄棒に足を乗せ、手足の力で身体を持ち上げる。
足で押し上げる一方で、ペニスを掴んだ手によっても引っ張り上げると、それは本当に角度が折れず、人間の体重を支えるだけの屈強さを発揮した。
「ほ、本当に……平気だなんて……」
こんな辱めの状況でなく、もっと違ったタイミングで屈強さを拝んでいれば、それこそ物でも吊したプロモーション映像でも見てのことなら、まだ素直に感心したかもしれない。
だが、今はむしろ、平気であって欲しくなかった。
構造に欠陥があるという理由ができて、このエリアが無しになれば、などという期待が腹の底にはあったのだ。
しかし、もう進むしかない。
「浅倉……本当にさ、本当にきついけど……実際気持ち悪いけど……他にないよ……」
言っていて、自分で悲しくなった。
心の底から嫌でたまらないことなのに、それをやらざるを得ない気持ちで、どんどん泣きじゃくりたくなってくる。
「はあっ、はぁ……はぁ……」
「はふぁ……あぁ……」
それとは矛盾した興奮の息遣い。
それが円香にも、透にもある。
ショーツの股の部分も、もっぱらローション弾を浴び尽くした結果としてぐっしょりなのだが、内側には間違いなく愛液が出てきている。興奮によっての濡れを帯びながら、透もまた壁のエリアへ入っていく。
始終、鳥肌が立った。
皮膚が何かに侵食され、蝕まれていく感覚を覚えながらも、ペニスを掴みながら上がっていく。ペニスの上に足を置き、次に掴むべきペニスはどれか、足を置くべき先もどれかと選びながら上がっていく。
――ペニスクライミング。
ジャングルジムだったはずが、そう呼称すべきものへの挑戦に移り変わった。
そして、その時。
ドピュン!
「やぁぁぁ!」
「なにこれ! なにこれ!」
二人の絶叫が響き渡る。
まさか、作り物のペニスから、精液が出て来るとは想像もしていなかったのだ。
*
『それは本物の精液だよー!』
愛野の元気な解説に、それこそ全身くまなく鳥肌が広がった。
もはや目玉が飛び出そうなほどまでに、極限まで見開いた眼差しが瞳を震わせ、肌中が余すことなく泡立っていた。
『数年分のオナニーで溜め込んだ我々の精液でね? ほら、鮮度を保つ技術くらいあるからさぁ! 出したてのような温かさでしょ!? 作り物は作り物でも、人工筋肉とか人口神経が使われていて、刺激に反応するようになっているんだ。で、出やすいように設定を変えたから、みんなの精液が貯蔵庫から転送されて、射精のように飛び出すんだ!』
細かな解説など、何も頭に入らない。
本物の精液だと聞いた時点で、今こうして頬に付着しているもののおぞましさが、必要以上のものになっていた。
「き、キモすぎる…………」
信じられないものに対する眼差しで、頬を伝って流れ落ちる白濁を感じ取る。
これが、あの四人のうちの誰かのもの……あるいは、四人の精液をかき混ぜた全員分のものかもしれない。
青臭い香りがツンと鼻孔を突いてくる。
「やだ……やだ……!」
透も限界直前だった。
見ればまた、泣き出していた。
あまりの地獄である。
こうして手で握ったり、裸足で触れているだけでさえ、一体どれほど我慢していることか。その上、射精までしてくるなど、どこまで尊厳を傷つけて、嘲笑えば気が済むのか。
円香も涙を流していた。
白濁の付着に涙の筋を通していき、その滴が顎から垂れる。
目の周りを泣き腫らし、涙と共に二人は進む。
ドピュウ! ドピュン!
透のショーツにかかってきた。
円香の胸にもかかっていた。
ドピュッ! ドピュッ!
上がれば上がるほど、どれかのペニスから精液が飛び出てくる。手足で触れたペニスとは限らずに、身体が亀頭に擦れる時や、眼前にペニスのあるタイミングに射精され、時間が経つほどに体が白濁にまみれていく。
二人の顔中に精液がまぶされていた。
今までローション塗れになってきた身体の、未だ輝かしい光沢を帯びた肉体は、胸にもショーツにも白濁を浴びていた。
そして、そんな自分自身の穢れようは、画面に意識を向ければいつでも確認できてしまう。
それでも、ゴールが見えてきた。
やっと、地獄に終わりが見えてきた。
「もうすぐ……もうすぐだよ……浅倉……」
「うん……!」
汚らわしくおぞましい、最悪の世界からの出口を見つけたように、ようやく顔に希望を浮かべてペースを上げる。
だが、その時だった。
ブィィィィィィ…………!
振動、していた。
「んっ、んぅぅ……!」
媚薬で火照った肉体は、その振動に悶えてしまった。
「樋口!?」
「平気! とにかく、早く終わらせよう?」
「そうだね。早く……帰りたい……」
隣の透が進み出し、しかし円香はその場に留まる。
股のあいだに、ちょうどペニスが挟まっていた。
ペニスの群れを避けきれずに、接触やむなしだったうちの一本は、いつしかアソコの真下に入っていた。まるで股を下から持ち上げるフックのようにして、浮遊画面を見れば尻と接した亀頭が映されていた。
それが振動してきたのだ。
そんな機能があるとは知りもせず、今初めて発揮されていた。
………………。
振動が、止まる。
秘所に振動を送り込み、刺激してきた感覚が中断され、快感も打ち止めになった時、円香は気を取り直して透を追う。
いつの間に、見上げれば透の尻を直接見てしまうまでに距離が開いていた。
「……樋口?」
自分だけが先に進んでいることを気にして、透は円香を振り向いていた。
「大丈夫っ、今ちょっと……すぐ追いつくから、先にゴールしてて」
「……わ、わかった……すぐだよ」
ちょうど、透の手は頂上に近づいていた。
あと数センチの距離に、その手は届いていた。
その僅かな距離を進むのに、何の妨害があるでもなく、透は無事に頂上へ到着する。円香の視界から足が消え、透のゴールを確信すると、自分も早く追いつこうとペースを上げる。
ブィィィン!
それを邪魔するような刺激が乳首に触れていた。
「んっ、んぁぁ……!」
両方の乳首に亀頭が当たり、それが激しく振動する。その震えに乳房を揺らされ、円香は悲鳴のような喘ぎ声を上げてしまっていた。
「あっ、あぁぁぁ……! あぁぁぁぁ………………!」
理解できない快感があった。
どうしてここまで気持ちいいのか、本人にはまるでわからなかった。喘ぎながら天を見上げて、自分も進まなければと頭の片隅では思うのだが、そのように体が動かない。
「ひうん!」
その時、にょきりと伸びた肉棒がワレメに当たり、ちょうどクリトリスの位置に押し込まれていた。それがやはり振動すると、敏感な箇所への刺激に円香はますます激しく喘ぐ。
「あっ! んぁっ、あ! あぁっ、あぁん!」
そればかりか、ショーツがずり下がっていた。
まるで透明人間がそこにいて、後ろから脱がせたように、誰もいないのに勝手に下がる。剥き出しになった尻目掛けて、貫くように押し当たるのは、壁から生えていたはずのペニスの一本だ。
物体を宙に浮かせて操作するなど、トゥーサッツ星人の母星にある技術では、そう難しい技術ではない。
それを駆使して、亀頭をアナルに押し当てた上、射精しながら振動していた。
「んぁああああ! あぁぁぁぁ………………!」
雄叫びのような喘ぎ声となっていた。
肛門に直接精液をかけられていることなど、快感のあまりに構っていられず、円香はただひたすらに喘ぐことだけに夢中になった。
「樋口!? どうしたの!? 樋口!?」
頂上で聞きつけて、必死になって心配そうに見下ろす透の声も、その表情さえも、円香は気づいていなかった。
「あっ、あぁぁ! やっ、やっ、やぁ…………!」
気づく余裕もなく快感に翻弄され、のたうち回る勢いで激しく髪を振り乱す。
そして、ついに……。
円香の手がペニスを離れた。
力を込めていられずに、腕が脱力してしまった結果、不意にバランスを崩した次の瞬間には、急速に透の顔が遠ざかる。
「浅倉……!」
ようやく、手を伸ばそうと必死な透に気づき、円香も夢中で手を伸ばすが、二人の距離はそもそもから足りていない。初めから届くはずのない二人の手は、落下で遠ざかる一方だった。
透の顔が小さくなり、見えなくなるまで時間などかからなかった。
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