前編後編



     *エピソード:孤島激震より

           †

 マンスフィールド監獄は移動監獄である。
 物資の補給や囚人の収容を行う時以外、基本的には都市に停泊することがない。普段は荒野を移動している監獄は、だから監査の目が届かず、どんな囚人の不当な扱いを行っても、それは発覚しにくいのだ。
 そして、それは看守同士においても例外ではない。

「……ふん」

 サリアは丸裸で立たされていた。
 アンソニー救出のため、看守として潜り込み、囚人達の様子や監獄の内部を内側から探るべくして、潜入のためにやって来たサリアだが、この監獄において女の新人に対する扱いの保障はされていない。
 かといって、騒ぐこともできない。
 サリアの目的は、監獄の実態改善などではない。
 アンソニーを脱獄させるという大局を見失うわけにはいかないのだ。
 それに潜入という立場のため、下手な注目を浴びたり、厄介者として目を付けられるわけにはいかない。
 だから押し黙っているサリアだが、腹の底では憤然としていた。
(これがマンスフィールド監獄というわけか)
 サリアという新人にまず待っていたのは身体検査だ。
 看守を務めるに相応しい人物であるかを見定めるため、妙な傷跡があったり、タトゥーが入っていた場合、その理由を追求して精査する。暴力関係の人間を弾くため、厳正な措置を図っていると、もっともらしく述べてはいたが、要は女を裸にしたがっていた。
(これでは、まるで私が囚人だな)
 密室に入れられて、そこで脱衣を要求された時、周りにいたのは男だけだった。
 バインダー留めの書類を片手に、しきりのボールペンを走らせて、何かのチェック用紙に記述を行う男がいた。脱いだものを調べ上げ、内側に問題ある物品が隠れていないかを調べる男がいた。
 そして、サリアの目の前に立つ肥満男は、下品な目で肉体を視姦していた。
 そんな中で裸になり、こうして裸体のチェックを受けている最中なのだ。
(ゲスな男め)
 ストリップを楽しんでいたのは言うまでもなく、一糸纏わぬ姿となったサリアに対し、ニヤニヤとした表情を隠しもしない。腹の出た肥満男は、ご丁寧に鼻息まで荒くして、胸やアソコを視姦していた。
「随分と、まあ筋肉質じゃないか」
「鍛えているからな」
「はっ、頼もしいことだ。この体なら、囚人が暴れても問題あるまい?」
 肥満男がおもむろに手を伸ばし、サリアの乳房に触れてくる。
(……チッ)
 だが、騒ぎを起こさないため、ここはぐっと堪えていた。
 彼の言うように、サリアは全身を鍛え上げ、いたるところに筋肉の凹凸が見受けられる。まず腹筋は割れており、二の腕も筋肉による膨らみがあり、女としてはガタイがいい。そもそも身長も高いため、これでか弱い乙女のように見て来る者はまずいなかった。
 脚やふくらはぎにかけてさえ、力さえ込めれば筋肉量のほどがわかる。
 そんないかにも筋肉質な体を見て、萎えてくれれば都合が良かったが、残念ながら目の前の肥満男は、決して興奮を収めることはしていない。
「なかなか、こういうのもありじゃないか?」
 男の一般的な好みは、何となくだが知っているつもりだった。
 だが生憎、目の前の肥満男にとって、サリアの体も興奮の対象らしい。
「ありとは何だ。早く検査を済ませて欲しい」
「ははっ、ならじっとしていろ」
 もう片方の手が伸びると、左右の乳房が同時に揉まれた。
 不快感が迸り、それは胸から肩を伝って、指先にまで流れていく。肥満男の手の平から、何かが流し込まれるように、神経を通して不快感が広がるのだ。体が生理的な拒否反応を示し、今にもこいつを殴り飛ばして後悔させてやりたい気持ちが膨れ上がった。
 もし、反射的な衝動に任せていたら、とっくに手が出ていたことだろう。
 サリアはそれを抑え、静かに唇を結んで肥満男を見据えていた。
「何か言いたそうだな。うん?」
「いいや、問題ない。これが検査だというなら続ければいい」
「少々、生意気なようだ。ま、それも近いうちに躾けてやろう」
 ひとしきり揉みしだき、ようやく肥満男は手を引っ込めた。
 しかし、これで検査が終わったわけではなく、次に肥満男が要求するのは、前屈のように上半身を倒した上、自分の足首を掴むポーズだ。
 屈辱的なポーズである。
 尻が高らかとなり、アソコも目立つ。
 実に卑猥で恥ずかしいポーズを取らされるとわかった時、この男をどうにかしてやりたい衝動はますます膨らみ、サリアはそれをぐっと堪えた。怒りの宿った指が震え、歯を食い縛る力も自然と強まっていたものの、潜入という本分を果たすためにも、やはり騒ぎを起こさず黙って従う道を選んだ。
 背中を向け、言われた通りに上半身を倒していき、サリアは自らの足首を掴む。

 じぃぃ……

 当然、肝心な部分に視線を感じた。
 股の向こうに見える景色は逆さまに、しかし肥満男の様子などわざわざ視界に入れたくはなく、床の方に目を映す。床の模様や素材を観察することで、どうにか羞恥心を抑え込み、屈辱感を意識の外に押し出そうとしてはみるものの、心に湧き出るものを思うようにはコントロールできなかった。
「さぁて、調べてやる」
 ぺちんっ、と。
 叩かんばかりの勢いを帯びて、手の平が尻に置かれた。
「わかるか? この姿勢はな。尻の割れ目が開いていて、肛門が丸見えになるんだ。今のお前はケツの穴もアソコの穴も、両方丸見えにしてるってわけだ」
(……黙ったらどうだ)
「気分はどうだ?」
「それを聞くとはいい趣味だ」
「なるほど? 気分は悪いと見える。だがな、こういう時には、私の汚い部分をご覧頂き、ありがとうございます。とでも言うのが上司への礼儀じゃないか?」
「聞いたことがないな」
「ここではそうなんだよ。覚えておけ」
 ぺちんっ、と。
 指導か何かのつもりのように、再び尻を叩いてくる。その軽い衝撃を感じた次の瞬間、肛門にひんやりとしたものを感じた。
 ゼリーを塗って、滑りを良くしているのだ。
 続けて肛門には指が入り込む。
「くぅ……」
 その異物感にサリアはますます強く歯を食い縛り、より赤らんだ顔で屈辱を堪えていた。頬から火花でも散らしたような、熱く恥じらいきった表情を床に注いで、肛門の内側を掻き回す指に耐えていた。
 そして、こんな風に肛門を調べるなら、次はもちろんアソコだろう。
 指が引き抜かれていくと、後ろで聞こえるビニールの音で、専用のビニール手袋を付け替えている気配がわかる。そしてすぐにでも、肥満男の顔がワレメに迫り、指でひとしきりなぞられた挙げ句に膣の中へと挿入された。
 前の穴も、後ろの穴も、こうしてどちらも調べられ、やっとのことで検査が終わる。
 しかし、この監獄において、これが全てではなかった。
 サリアにはまだ、恥辱の続きが残されていた。

     *

 移動監獄での生活は、寮で行うことになる。
 サリアには専用の個室が与えられた。
 トイレやシャワーなどの設備は問題なく整っており、食事もきちんとしたものが用意されている。そういった面での不満はなく、サリアは順調に仕事に慣れ、業務をそつなくこなしていくようになっていく。
 だが、その生活には大きな不満があった。
 まず一つは下着である。

 下着は全て黒なのだ。

 それは規則による指定というのでも、色の好き嫌いという話でもない。寮で生活するにあたって、着替えなどの生活用品は欠かせない。普段は仕事着で出歩くため、私服は必要最低限でいいのだが、そこで下着が問題だった。

 持ち込んだ下着は、検査当日に没収された。

 そして、その代わりに与えられたのは、肥満男が趣味で選んだ柄や色のものばかりだ。あの男の喜ぶような、あの男の趣味に合ったものを、毎日毎日着て過ごす。そう思うと生理的な拒否感が湧いてきて、いっそ全ての下着を処分したくもなるが、本当に捨ててしまえば着る下着がなくなるのだ。
 仕方なく、肥満男が用意した下着だけで、毎日を送り始めていた。
 腹の底では気持ち悪さを感じながら、カフカやロビンの様子に目をやったり、あの例の男――ジェッセルトンの同行にも気を配り、仕事をこなし続けていた。
 その数日後だ。
 職務中、急に肥満男の呼び出しを受けたサリアは、その言葉に驚愕した。

「奉仕してくれないか?」

 それが性行為を意味することは、顔を見てすぐにわかった。
 肩を揉めだの、茶を煎れろだの、そんな意味合いであったらどんなに良いかと思ったが、そんなはずもなく、いやらしい顔でニヤニヤと人に舐め回す視線をやってきていた。
「ここで生活する女の職員はな。みんな俺に奉仕するのさ。危険な囚人でいっぱいの生活の中で、少しでも安全に過ごすためにな」
(安全の売り買いか)
 サリアは目を細めた。
 この肥満男の庇護など、自分には必要ない。
 暴力による身の危険ならいくらでも撥ね除けられるが、こうした誘いを断れば、きっと何か嫌がらせが始まるのだろう。急に仕事の量を増やされる。面倒な作業を任される。果ては別の現場に飛ばされる可能性もある。
(別の現場に飛ばされてはまずい、か)
 アンソニーの様子を窺うには、今の現場が適している。
 ここから離れるわけにはいかない。
 嫌がらせを受ける可能性も、できれば避けたいところであるが、かといって肥満男への奉仕になど時間を使いたくはない。
 そもそも、好いてもいない相手に性的な奉仕など、それほど薄ら寒い話はなかった。
「なに、やることをやればいい。それだけで待遇にも変化が起きる」
「…………」
 裏を返せば、断ればメシが不味くなるという意味か。
 この移動監獄という、監査の目が届きにくい、好き放題にやりやすい環境下では、不当な扱いを訴える機会すら得にくい。こうした要求があった事実も、具体的な証拠が残るわけではない。
「どうした? 嫌か? 嫌なら仕方がないが、上司に生意気な部下にはそれなりの教育が必要だろうなぁ?」
 いやらしく声を裏返し、楽しそうにサリアのことを見つめてくる。
 その目を見つめ返すサリアの顔には、自然と物を言いたげな色が宿っていた。今にも気持ち悪い言動を追求し、諫めたくてたまらない衝動がサリアの中には湧いていた。
 しかし、それをすればどうなるか。
 今の言葉ではっきりとわかった。
 やはり、この男は自分の思い通りにならない者に対して、何か不当な扱うを行うはずだ。その内容が読めさえすれば、あえて受け入れる選択もできるのだが、この男のせいで目的を果たせなくなってはまずい。
(……どうする?)
 サリアは考えた。
 気持ちを優先するなら、もちろん下品な要求を諫め、むしろこちらの方が教育を施してやりたいくらいである。そういうやり方も思い描いてはみるものの、頭の中に張り巡らせた計算と、そして肥満男の要求を呑む呑まないで変わる今後の状況を天秤にかけ、サリアはいよいよ結論を出す。

「最後まではしない。それでいいか」

 苦しくも、サリアはそこに線を引く。
 醜い顔立ちがひどく歪んで、にやりと吊り上がる唇を見ていると、本当は指の一本さえ触れたくない思いが吹き荒れる。ぞっとする話だが、少しは肥満男の機嫌を取らなければ、成すべきを成せなくなる事態もあり得ると、結局はそう考えたのだ。
「いい子だ。さっそくだが、咥えて頂きたいね」
 肥満男は椅子に腰掛け、ズボンの中から逸物をつまみ出す。
 そそり立つ棒の前に膝を突き、サリアは肥満男の太ももに両手を置いた。

 ……ぺろっ、ちゅくっ、ちゅくっ、

 奉仕が始まっていた。
 黒い看守服を纏ったサリアの、黒い帽子を被った頭は、天に向かって突き上がる棒へと迫っている。唇の狭間から伸びた舌先は、その先端を小刻みに舐め上げて、まずは鈴口だけを唾液に濡らす。
 そして、その様子を肥満男は満足そうに見下ろすのだ。
「あむぅ……じゅっ、じゅぅ……」
 亀頭に唇を被せると、サリアは頭を上下に動かし始める。下にいくほど口内の領域は棒に侵され、上に行くほど空間は広がっていく。慣れているわけでも何でもない、たまたま知識があっただけの上下運動を続けるうちに、肥満男の肉棒は徐々に唾液を帯びていた。
「いい気分だ」
(だろうな……んぅっ、んずぅ…………)
「実にいい。初めてか? ま、処女でも非処女でも何でもいいが、なんにしてもセンスは悪くない。何より、アンタみたいな強そうなのに咥えさせるのは、なかなかそそるものがあるじゃないか」
 奉仕するサリアに向かって、肥満男は上からポンポンと頭を叩いて来る。
(馬鹿にしているのか――じゅぅっ、ずずぅ……)
「君のやるべき作業は囚人に肩代わりさせている。勤務時間だからといって、そう心配することはない――ああ、もっとも、君がどうしても仕事熱心のようなら、きちんと君自身にやらせるがねぇ?」
(こいつは……!)
 キッ、と。
 睨みそうになった。
 気に入らなければ負担を増やすと、遠回しにそう言っている。
 さぞかし、いい気分だろう。
 人に逸物を咥えさせ、上の立場から上下関係を教え込む。看守の仕事を囚人にやらせるのも不当な話だが、ここで肥満男をいい気にさせておかなければ、サリアの負担はどうしても増えてしまい、目的を果たすのに支障が出る。
「やる気を見せればいいんだろう?」
 そうすれば満足かと言わんばかりに、サリアは上下運動を活発にした。
「んずっ、じゅずぅ――ずっ、じゅっ、ずぅ――ずぅぅ――――」
 慣れてなどいない。
 きっと、拙いはずの奉仕であるが、口を大きく開ききり、どうにか激しく活発に動かすことで、無理にでも快感を与えようと苦心していた。
「いいね。その奉仕、とっても気に入ったよ」
 可愛がらんばかりにして、人の頭を撫でて来る。
 サリアとしては、そんな手など払い退けてやりたかったが、自らの尊厳を切り刻み、我慢してまで奉仕をしているのに、結局機嫌を損ねるようでは意味がない。
 だから、サリアは堪えた。
 屈辱に耐えた先にあるものは、次の行為の要求だった。

「ズボンを脱いでもらえるかな?」

     *

 それは素股の要求だった。
 最後まではしない、と言ったサリアの言葉を聞いてのことか。肥満男は性器と性器で擦り合うことだけを求め、挿入までは求めて来ない。
 ならばと、サリアはベルトを外し、黒いズボンをいくらか下げ、黒いショーツをあらわにした。着衣状態がいいらしく、全て脱ぎきる真似はするなと、わざわざ注文をつけてきていた。
「お? きちんと穿いているね?」
「ふん、他にないからな」
「黒が似合いそうだと思ったけど、やっぱり似合うね?」
「似合ったら何だと言うんだ?」
 やはり、この男の趣味の下着らしい。
 そんなものを毎日毎日、肥満男に合わせて着用しなくてはならないなど、これほど薄ら寒い話はない。しかも全ての下着が黒の統一されていたので、サリアが今日は何色をしているのか、見るまでもなく必ずわかる。
 他にない以上、必ず黒。
 自動的に色を把握されている。
 そう思うと気持ち悪さが増してくる。
(本当にいい趣味だ)
 心の中では肥満男を蔑むが、態度を表に出しすぎれば、いつかは機嫌を損ねるだろう。程度というものを考えて、これでも少しは抑えているのだった。
「さあ、乗ってくれ」
「こうか」
 肥満男が要求するのは、さながら対面座位のような形での素股である。椅子に座ったままの肥満男に跨がって、正面から性器を押し付け合い、下着をずらしたワレメの上から、サリアは肉棒の熱気を感じ取る。
(くぅぅぅ…………)
 今にも顔を顰めてしまいそうだ。
 必要以上の不満を表に出せば、この男の機嫌を取りきれず、どんな不当な展開が待ち受けているかもわからない。それを避けるためにも、怒りや不快感のみるみるうちに滲み出そうな表情から、少しでも感情を抑えようと苦心していた。
 それでも、気持ち悪いものは気持ち悪い。
「にひひ」
 見ればそこには、人が奉仕に励む姿を見て、いい気になった顔がある。
(……気に入らん)
 ワレメに肉棒が当たるおぞましさは、身体に汚物でも塗りたくられるような、実に肌寒いものである。どんなに堪えようと思ってみても、顔を顰めずにはいられない。それを無理にでも無表情に保とうとしたサリアの顔は、さすがに我慢の様子が現れていた。
 幸い、肥満男は何も言わない。
 上機嫌そのものだ。
「ほーら、もっと頑張らないと、いつまでかかるんだ? ま、こちらとしては、たっぷりと楽しめて嬉しいがね?」
 頬の内側で密かに歯を食い縛り、サリアは身体の動きを早めていく。
 ワレメを上下に擦り付け、摩擦感の刺激を与えるためには、腰をある程度押しつけていなくてはいけなかった。圧さんばかりの力をかけ、それでいて身体も上に下にと動かしていく。その動きに慣れないサリアは、いかにも不慣れに素股をこなした。
「ところで、オナニーはするのかな?」
 下品な質問に、目を背けたくなってくる。
「聞いてどうする」
「どうもしないが? 好奇心を満たしたいのは、男として当然の衝動だよ」
「多少はする」
 これでも、性的好奇心はある。
 一般的な性知識は備えており、自慰行為も行っている。自分の回数が多いのか少ないのか、そんなことまでサリア自身にはわからないが、指でワレメをなぞっていれば、そのうち愛液が出て来る程度には、アソコの感度は鍛えられている。
「ほほう? 少しは濡れるわけだ」
(なんだと?)
「俺のチンポに君のいやらしい蜜が塗りつけられているぞ? ははっ、これはいい。君だって興奮しているじゃないか」
(誰が興奮など!)
 怒りで力が籠もりそうだった。
 ともすれば、肥満男の両肩に置いてある両手に力を込め、そのまま爪で肉でも抉り取ってやりたい衝動すら湧き起こっていた。
(くっ、堪えろ……)
 サリアは衝動を抑え込み、あくまで奉仕に徹していた。
(せいぜい感じればいいだろう)
 同じ動きを繰り返すうち、体が動作に慣れてくる。最初の数分に比べれば、サリアの身体は随分と活発に、そして器用になっていた。
 腰を押しつける力を込め、圧迫感を帯びて上下するのは、初めこそ摩擦で皮膚が引っかかり、滑りも悪いものだった。だから最初のうちは力を入れすぎず、そこそこの密着感で済ませていたが、肥満男の言うように、サリアのアソコは濡れ始めている。
 滑りが良くなっているおかげで、力を込めても上下に動く。

 ぬり、ぬり……。

 と、いつしか愛液を塗りつけていた。
 竿を目視で確認したなら、きっと表面が粘液を纏っているはずだった。
「机に寝ろ」
 肥満男は急に言い出す。
「本番は――」
「なぁに、入れたりはしない。素股にしといてやるから、体位だけでも変えてもらおう? 色んな楽しみ方をしておきたいからなぁ?」
「寝ればいいわけか」
 サリアはテーブルに横たわり、まるで正常位を始めるかのような姿勢で脚を開くと、こんな格好で肉棒が迫ってくることへの不安を感じた。間違っても挿入だけはされないように、サリアは首を持ち上げ目を凝らし、肥満男の挙動を見張っていた。
「そう心配するな。ほれ、これでいいんだろう?」
 ワレメの上に沿い合わせ、肉棒が乗せられていた。
「んぅ……」
 素股とはいえ、セックスさながらのピストンが始まると、サリアはかすかながらの声を出し始めていた。
「締めろ」
「……こうか」
 ズボンを途中までしか脱いでいない、太ももの半分よりも少し上の位置に留めた半脱ぎで、サリアは太ももを閉じ合わせる。それまでは開脚に合わせてピンと張り、その部分だけが皺無く伸びていた状態から、閉脚に合わせてズボンはたるむ。
 しかし、サリア自身の締め付けにより、決してずり落ちることはない。
「んっ、んぅ……んぅぅ…………」
 摩擦が続けば続くほど、体は徐々に興奮していた。
 気持ち悪いはずだった。
 顔も体格も醜い上に、横柄で性格が良いとも言えない。良い部分のちっとも見えない男との接触など、嫌悪感しか湧かないはずが、肉体は生理的な反応を示している。擦れれば擦れるほど気持ち良く、愛液の分泌も勢いを上げていき、しまいには表情にまで快感が表れ始める。
「なんだ? 気持ちいいのか?」
 肥満男は楽しげな顔をしていた。
 上から人の顔を覗き込み、感じたサリアの様子にさぞかし愉快そうだった。
「大したことはない」
「そうかそうか。ま、しかし声が出そうな時は遠慮なく喘いでいいんだからな?」
(誰が喘ぐものか)
 そうは思うが、肥満男が腰を振るたび、太ももの隙間を出入りしている肉棒は、クリトリスにカリ首を引っかける。ワレメの中で突起して、かすかな大きさを得ているサリアの肉芽は、そんなカリ首の刺激によって甘い痺れを拡散させる。
「んっ、んぅぅ…………」
 最初は唇を閉ざし、わざわざ喘いでなどやるまいとしていた。
 だが、やがては命令された。
「声を聞かせろ」
「そう言われてもな。そこまで強くは我慢していない」
 そう答えてはみるのだが、肥満男は繰り返し告げてくる。
「その我慢もしなくていいぞ」
(……ちっ)
 少しは喘がなくては、こんな目に遭った甲斐もなく、結局は機嫌を損ねるだろう。
(こんな奴の言いなりとは、我ながら泣ける選択をしたものだ)
 屈辱感で表情が歪みかけるも、どうにか無表情を保ってから、サリアは喉や唇の力を抜く。演じてまで喘ぐつもりはないが、出そうな声があれば出してやろう、それがお前の望みだろうと、肥満男を真っ直ぐに見据えながら息を吐く。
 もちろん、我慢をやめたからといって、そうすぐに声は出ない。
 せいぜい興奮で息が荒っぽく、乱れたものになっているだけで、はっきりとした喘ぎ声など出なかったが、長々と続いているうち、ついには線を越えていた。
「んあっ、んぅぅ…………んぁぁ…………」
 喘ぎ声が出るまでの、ある一定の線を越えるまでに感度が上がり、ついには悩ましげな声を吐いていた。
「おお? いい声が聞こえ始めたぞ?」
(黙って楽しんだらどうだ)
「はははっ、もっと聞かせろ」
(うるさい奴め)
 ピストンのペースが上がっている。
 愛液によってにゅるにゅると、滑りよくスムーズに出入りする肉棒は、活発化した速度でより一層の刺激を与えてくる。カリ首が引っかかるペースも上がり、より速いリズムで甘い痺れが拡散すると、サリアもとうとう喘ぎ声のトーンを上げた。
「んあぁっ、やっ、あぁ…………!」
「おほっ!」
「あぁ…………んっ、んぁ…………んっ、んぁぁ………………!」
「可愛い声だ。君ほど逞しい女でも、感じちゃうと可愛くなるんだなぁ?」
 肥満男は興奮で声を裏返していた。
 目が血走り、夢中になってサリアのことを楽しんでいた。
 鼻息荒く、一心不乱に腰を振り、その分だけサリアも喘ぐ。クリトリスに感じる刺激で微妙に髪を振り乱し、頬もしきりにピクピクと弾ませながら、サリアは肥満男に喘ぎ声を聞かせ続けた。
 そんな時間が一体、何分続いた頃だろう。

「ワレメを指で広げろ」

 その指示に、もちろん挿入の危惧は口にしたが、入れはしないと言って来る。完全には信用できず、見張るつもりで顔を上げ、肥満男の挙動を鋭く見つめながら開いてやった。
 自らの股の隙間に手を通し、指で左右に開いてみせる。

 かぁぁぁぁ…………!

 決して皆無なわけではない、サリアとて持ち合わせた羞恥心で、顔はみるみるうちに赤らんでいく。
 そんな肉ヒダに向かって――

 ドクゥゥ! ドピュン! ドビュッ、ドクン!

 肥満男は精液を放出してきた。
(……気持ちの悪い。今すぐに荒いに行きたいものだ)
 顔には出さない代わり、その不満を心の中にははっきりと浮かべていた。




 次の日から、サリアは日常的に呼び出しを受けていた。
 来る日も来る日も、毎回のように奉仕をさせられ、ひとしきり咥えたところで素股を要求され、身体のどこかにかけられる。それが終わるたび、サリアは即座に精液を拭き取った上、自室のシャワーで洗い流しているのだが、清潔にした後でさえ、穢された余韻は長らく残る。
 目には見えない染みが付き、皮膚の奥まで浸透してしまったかのような、実に嫌な余韻で落ち着かない。
 職務に打ち込むことで、どうにか意識を逸らして忘れてはみるのだが、休憩時間や就寝時間など、落ち着いた時間が得られれば、そんな気の緩む瞬間に感覚はぶり返す。余韻は日常的に蘇り、そして日を改めるたびに新しく精液をかけられる。
 目には見えない、突き詰めれば心理的な錯覚でしかない染みは、しかし日に日に濃くなったり、数を増やしていく。
 そして、今日は手で性器を嬲られていた。

「ほーら、気持ち良くなっていいんだぞぉ?」

 肥満男が見上げてくる。
 この日、いつものように呼び出され、二人きりになった途端、急にサリアのことを壁際に追い詰めて、ベルトの金具を外してきたのだ。下着の中に手を入れて、陰毛やワレメを執拗なほどになぞる手つきに、最初はおぞましさしか感じてはいなかった。
 しかし、壁に寄りかかり、肥満男の愛撫を我慢するうち、その我慢の意味合いは時間の経過と共に移り変わった。嫌悪感を堪えていたはずが、しだいに快感の方を堪えている自分に気づき、サリアは密かに歯を噛み締めていた。
(上手いというのか……こいつは……)
 なくてもいいテクニックを、よりにもよって持ち合わせている。
 どうせ立場や権力を利用して、無理に抱いた女で磨いた技なのだろうと、心の中では蔑みながら、口では甘い息を吐いてしまう。
「んぅ……んぁぁ……!」
 演技でもあった。
 いや、正確には演技ではない。
 声を聞きたがる面倒な要求に応えるため、声の我慢だけはしていない。喘ぎ声が出そうな時は、あえて堪えず吐き出している。本当は唇をしっかり結び、歯を食い縛って抑え込みたいのが本心でも、それを誤魔化して声を聞かせてやっている。
 喘ぎ声は本物かもしれないが、ある意味での演技を帯びているわけだった。
「んぅっ、んぁぁ……! あぁぁ……!」
 クリトリスを執拗に責めてくる。
 手マンが続くうち、肥満男は指先でクリトリスの突起に気づき、その瞬間に見るからに表情を染め変えていた。明らかに唇をねじ曲げた笑みを浮かべて、次の瞬間には楽しそうにクリトリスへを集中攻撃し始めたのだ。
 そのうち、膣に指が入り込む。
 フックのように折れ曲がり、穴へと角度を合わせた指は、サリアのショーツを手の甲で押し上げながらピストンする。
「んんぅ……! んぬぁっ、はくぅ……!」
 サリアは髪を振り乱した。
 そして、その悩ましげな顔を肥満男は下から見上げて鑑賞してきた。背の高いサリアに対して、十センチ以上も低い肥満男は、しかし自分を上回る体格の、いかにも強そうに見える女を自分の手で鳴かせることに悦びを覚えていた。
 下腹部で見えない何かがせり上がる。
「ぬぁ……あっ、な、何かが……!」
 サリアは驚きに目を丸め、瞳を震わせながら、どこか動揺したように喘いでいた。
「おやおや、絶頂しそうなのでは?」
「んっ、んぁっ、ぜっちょう……だと……!?」
「きっとそうだ。なに、遠慮なくイクといい」
 肥満男の手は止まるどころか、むしろペースを上げて膣口を責め立てた。ピストンはいかにも激しく、しかし不思議なほどに膣壁への負荷は与えない。乱暴にすれば痛いはずが、肥満男の手マンには確かなテクニックが詰まっていた。
「んんぅ……! んっ、んぅぅぅぅ…………!」
 アソコで生まれる電流は、背骨を伝ってせり上がり、脳まで激しく痺れさせる。頭まで快感に染まる感覚の中、そんな様子をニヤニヤと鑑賞している肥満男の表情が目についた。彼がいかに楽しげに、満足そうに人の様子を眺めているかが、サリアには嫌というほどよくわかった。
(くっ、しかし……これで、こいつに取り入ることになるなら……)
 ただ甘んじて辱めを受け入れているわけがない。
 こんな屈辱に耐えるからには、この男からの優遇を受け、監獄内で少しでも自由な動きが取れるように計らっている。
(い、いいだろう……絶頂とやらを受け入れれば、さぞ満足するんだろう……)
 一瞬、歯を食い縛る。
 この程度の男などに弄ばれ、イカされることへの屈辱が、僅かな一瞬のあいだだけ、隠しきれずに滲み出る。それはすぐに快楽の波に沈んで、次の瞬間にはもうサリアは喘ぎ散らし、大声と共に唾液まで散らしていた。

「あぁぁ……! あっ、あぁぁぁぁ…………!」

 そして、ついに絶頂していた。
 ビクっと体が弾み上がって、アソコの中で何かが弾ける。脳が痺れたと思った時には、サリアは潮を噴いていた。
 正確には、潮吹きをするはずだった。
 しかし、ショーツに手を差し込んでの手マンである。ワレメにフタをせんばかりに、手の平がアソコを覆っていた。そこに弾け出て来る愛液は、噴射の勢いを帯びつつも、そのまま手の平をまんべんなく汚していた。
「おお? イったイった!」
 肥満男は大満足の顔をしていた。
 大手柄を立ててやった。どうだ、お前をイカせてやったぞ。そう言わんばかりの顔で見上げられ、サリアは恥辱に染まり上がる。こんな奴にいいようにイカされたことへの思いが込み上げ、同時に湧き上がる恥じらいで、サリアは赤らんだ顔を歪めていた。
「見てみろ」
 愛液濡れの手を見せつけてくる。
 まるで水面に手の平を当て、濡らした直後のように輝く湿った皮膚に、サリアは思わず瞳を逸らした。
「ほほっ、今日はもう少し遊ばせてもらうぞ? さあ、そのままでいろ」
 肥満男は目の前にしゃがみこむ。
 人のズボンとショーツを掴むなり、おもむろに膝まで下げた。
 それで何をするのかと思いきや、次に肥満男が取る行為は、顔を近づけベロベロと、ワレメを激しく舐め回す行為であった。
 おぞましさは確かにあった。
 舌のざらつく感触が肌を撫で、皮膚に唾液が浸透してくる。それが性器に来るというのは、背中がざわざわと騒いで悪寒に震えかねない話である。
 好き合った恋人同士なら受け入れられるのかもしれないが、サリアが目を下ろした先にあるのは、醜い肥満の頭頂部だ。
「んぁっ、あっ、あぁ……!」
 しかし、実際に出て来ているのは甘い声だ。
(な、何故っ、こんなに……!)
 甘ったるい、可愛い乙女のような声を吐くなど、いかにも自分らしくもない。こうも似合わない声を出しながら、愛液を滴らせてしまっているなど、これほどの屈辱はない。込み上げる悔しさで、今にも歯を強く食い縛り、激しい歯軋りの音を立てそうだった。
 だが、そんな心境にあるというだけで、実際には口を閉ざしていることすらできない。
「はぁっ、あっ、んぅ……! んぁっ、あぁ……!」
 喘ぎ声が出てしまう。
 やがて、まもなく先ほどまでの感覚が膨れ上がった。見えない何かが膨らんで、いつしか弾けそうになる感覚に、もう二度目の絶頂が迫っていると自覚した時、その数秒後には仰け反ることになるのだった。

「あぁあぁぁあああ……………………!」

 大きく声を上げながら、サリアは後頭部を壁に押しつけていた。
 寄りかかった姿勢のサリアは、頭で身体を押し出して、仰け反ることで壁と背中のあいだに隙間を広げていた。
 そして、もちろん潮吹きにならない潮を出す。
 プシャっと、スプレーのように弾けたはずの愛液は、しかし肥満男が性器を頬張っている状態でのものだった。
「イったねぇ?」
 肥満男が顔を離す。
 その際には長々と、唇とワレメのあいだに銀色の糸が引いていた。最初は真っ直ぐ伸びたそれは、距離が開くにつれてたるんでいき、下向きのアーチとなってぷちりと千切れ消失する。
「気持ち良かったんだなぁ?」
 勝ち誇った笑みの口周りは、粘液をまとって輝いていた。
 それは決して、彼自身の唾液だけではない。
 むしろ、サリアの愛液を中心にして、肥満男の口周りは汚れているはずだった。
「……ふん」
 サリアはその顔から目を逸らす。
 大きくみっともない声を上げてしまい、そしてイキ散らした証拠が相手の顔中にべったりと貼りついているとあっては、あまり直視などしたくはなかった。
「じゃあ、もう一回イってみようか」
「な……!」
 驚愕も束の間。

「あぁぁあ……!」

 サリアは再び、喘ぎ声を上げ続けた。
「あっ、くぁぁ……! あっ、あうっ、んっ、んぁぁ……!」
 本当に気持ち良すぎた。
 今度は舌先でクリトリスをつついたり、集中的にねろねろと舐め回す。しゃぶり突き、吸うような方法も使って刺激して、肉芽ばかりを狙ってきた。
「あっ、あぁぁ……!」
 腰が左右に動いてしまう。
 強すぎる刺激から、身体が反射的に逃げようとしてしまう。それほどの快感を無意識に求めてしまい、逃げたいはずが逆に差し出し、もっと舐めてくれと言わんばかりにしてしまう。それをまた引っ込めたり、左右に動かし、逃げて差し出し、逃げて差し出し、そんなことばかりを繰り返した。
 腰を反射的に引っ込める時、しかし壁に背中を預けているサリアは、身体をくの字に折るというより、壁に尻を押しつけていた。
 またやがて、込み上がる。

「んぁぁぁぁぁ…………!」

 次に絶頂する瞬間も、アソコには大きな口が被さっていた。
 サリアが潮を散らすとしたら、その口内のはずだった。
「あっ、くぅ……ふぁ…………」
 しかも、まだ続く。
 イったばかりのアソコに対して、休む暇もなく愛撫を継続して、ねろねろと、ペロペロと、丹念に舐めてくる。じゅるじゅると汚い音を立て、激しく吸い上げる真似もしてくる。舌先で力強く突こうともしてくるクンニの技に、サリアは延々と翻弄され続けた。
 もはや愛液が枯れ、もう潮を噴くのは無理というところまで追い詰められ、さしものサリアも疲弊しきったところで、ようやく解放されるのだった。

     *

 その日は弄り合っていた。
 ズボンを脱いだ肥満男に対し、少ししか下げていないサリアの下腹部は、ショーツに至っては穿いたまま、先日のように手が内側に差し込まれる。
 着衣のままが、やはりこの男の趣味らしい。
 壁際に押しやられ、寄りかかって愛撫を受けるサリアは、その手を逸物に触れさせる。しごいてやっている一方で、肥満男の指も穴へと入って前後していた。
「んぅっ、くふぅ……」
 気持ち良かった。
 連日、こうした日々が続いていき、身体がイクことを覚えたせいか、妙に感度が上がっている。愛撫が始まってから、実際に濡れ始めるまでの感覚も、明らかに短くなっていた。初めて肥満男と擦り合った日は、濡れるにはもっと時間がかかっていた。
 それが今はどうだろう。
「くはっ、あっ、あふぁ…………」
 随分と息が乱れている。
「ヒクついてるぞぉ?」
 肥満男は根元まで指を収めて、勝ち誇った笑みで見上げてくる。
「……そうか。それは良かったじゃないか」
「ああ、よかったよかった。君に感じてもらえて、俺はとっても嬉しいよ」
「それは何よりだ」
 彼が言っているように、実際にサリアの膣壁はヒクヒクと蠢いている。脈打つような、あるいは力の強弱でもつけてしまっているような反応を繰り返し、それが肥満男の指にも伝わっているのだ。
 サリアの握る肉棒は、腰の動きと共にその先端を押しつけて、太ももに先走りの透明汁を擦り込んでくる。

「なあ、挿入に興味はないか?」

 おもむろに、肥満男は尋ねてきた。
 その瞬間、頭が噴火しそうだった。
「言ったはずだ。最後まではしない」
 声が荒っぽくなっていた。
 さすがの怒りを隠しきれていないことだろう。
「おやおや、いいのかぁ?」
 もっとも、サリアの様子を気にもせず、肥満男は押しを強くする姿勢だ。
「本番無しでも、十分に楽しませているはずだが?」
 サリアには最後の一線を譲るつもりがない。
 元々、こんな男に肌を許すことさえ怖気が走るくらいである。移動監獄という実態さえなければ、誰が相手などするものかと、心の中では何度繰り返したことか。ご機嫌取りの問題さえなければ、口にすら出していたかもしれない。
 だいたい、最初の約束を忘れていることも腹が立つ。
 本番無しという条件は、それこそはじめに付けたはずのものだった。
「でも、もっと気持ち良くなってみたいんじゃないか?」
「興味ないな」
「こんなにヒクついているのにかぁ?」
「十分すぎるほどイカせてもらっている。挿入の必要など感じないな」
 それは半ば本心だった。
 肥満男の手にかかれば、いとも簡単に登り詰め、体中が震えた次の瞬間、サリアは潮を噴いてしまっている。
 得られる快楽は十分すぎるものだった。
「なら、先っぽだけっていうのはどうかな」
「しつこいぞ。他の奉仕でいいだろう」
「いやいや、先だけ! 本当に亀頭だけでいいから!」
 急に本番交渉をしてきたと思ったら、妙な食い下がりようである。あれほど楽しんでいるくせに、まだ欲が尽きないのかと、ほとほと呆れそうだ。
(こうもしつこいと、断れば逆恨みさせるか?)
 サリアはそんな計算を働かせる。
 今の今まで本番交渉はしてこなかったが、挿入の欲は初めからあったのだろう。先っぽだけを受け入れれば、最初はそれで済んだとしても、その後も要求を繰り返して来そうである。ここまで入れたのだから、どうせ先っぽは入れたのだからと、執拗に本番を求められる未来が見えた気がした。
 しかし、ここは了承した。
「ゴムは着けろ。それから、お前は動くな。私が上になり、私が動く」
 この条件なら、約束の破りようはないだろう。
 それにもうじき、全ての決着はつくはずだ。
 カフカ達が脱獄の計画を立て、実行に向けて着々と準備を進めている今なら、ここで成すべきことはじきに終わる。用さえ済めば、もうこの男の顔など二度と見なくて済むだろう。
「ったく、しょうがないな。ま、それでいい。対面座位で頼むぞ?」
 あたかも我が儘を仕方なく聞き入れてやっているような、気に食わない態度でサリアの条件を飲み込んでいた。
 弄り合いを中断して、椅子に座り始める肥満男は、これで満足かと言わんばかりにコンドームの包装を破いて装着する。ゴムをまとった剛直を確認して、サリアもそんな肥満男の上に跨がり、望み通りの対面座位で亀頭だけを受け入れた。
「んぅ……くぅぅ…………」
 当たり前だが、指よりもずっと太い。
 先端を受け入れただけでさえ、今まで以上に穴を大きく広げられ、亀頭だけの出入りをさせても快楽は膨らんでいた。
「んっ、んくっ、くっ、んぅ……ぬぅ……」
 サリア自身が行う上下運動は、しっかりとはめ込んでいないため、すぐに穴からずれてしまう。落とした腰を持ち上げると、先端まで出かかった肉棒は、そのまま左右に動いてしまうので、ピストンを繰り返すには手で押さえている必要があった。
 股のあいだに手を伸ばし、ずれないようにしながら上下運動を行っていた。
「んっ、んぁ……あぁ……あぁぁ…………」
 不快感は確かにある。
 醜い肥満男と、たとえ先端だけであっても繋がるなど虫唾が走る。さっさと済ませたい心境の一方で、快楽も確かに膨らみ、出入りによって起きる摩擦はほどよい痺れを生み出していた。
「あぁ……あっ、ぬぅっ、あぅ…………」
「はははっ、俺のチンポに浸っているな?」
「ゆ、指の方が……はあっ、はぁっ、あっ、いい……が……?」
「無理しなくても、もう最後まで楽しんじまいな」
 その時だった。
 太ももに、手が置かれた。
 そして、サリアはたったそれに警戒心を抱くべきだった。太ももに触られるだけなら今更だと、まず先に思ったのはそんなことで、次の瞬間に起きる出来事を咄嗟には予想できていなかった。
 快感でいくらか思考が鈍っていたせいもあるだろう。

「な……!」

 サリアは驚愕していた。
 亀頭だけを出入りさせてのピストンで、持ち上げた身体を次は沈める。たった数センチだけを飲み込むための小さな動きだが、身体を下降させる際、太ももに乗った肥満男の両手も同時に動いた。
 下へと、力がかかった。
 サリアの不意を突き、腰を上に突き出そうとする動きも交え、肥満男は突如としてサリアの膣内に肉棒を埋めていた。
「何を! よ、よくも!」
 まず怒りが込み上がった。
 先っぽだけという約束をあまりにも早速破り、何ら悪びれた顔もしていない。望み通りのものをくれてやったと言わんばかりの腹立たしい表情で、肥満男はニヤニヤとサリアの顔を見上げている。
「気持ちいいだろう?」
「ふざけるな! こんな真似を!」
「ほれ、君はせいぜい感じてればいい!」
「んぅぅ……!」
 クリトリスを触られた。
 少しの愛撫で背中が反って、サリアは天井を見上げていた。
「ほーら、好きなだけ動け!」
(くっ、こいつは……!)
 サリアは屈辱を噛み締めながら、悔しげに目を瞑り、しかし上下に動き始める。今すぐにでも武力を行使して、この男を後悔させる道も思い浮かべはしたものの、結局のところサリアが選んだのはこれだった。
「あっ、あん! あぁん!」
 遺憾ではあるが、入ってしまった以上、今回ばかりはこのまま性行為を続けてやろう。
 もっとも、二度目はない。
 頭の片隅では二度と挿入させない決意を固めつつ、今だけは上下に動く。目的の達成につれ、この男に見切りをつける算段は、喘ぎ声の中に覆い隠した。
「あぁん! あん! あん! あん! あぁん!」
 ひとたび上下運動に集中すれば、頭は簡単に快楽に染まっていった。
「君も女だなぁ? ええ?」
 肥満男は立ち上がった。
 サリアの膝下に腕を通して、その身体を抱えて持ち上げながら椅子を立つ。男は立っている一方で、女の身体は宙に起き、落ちないためにしがみつく。駅弁と呼ばれる体位に移り変わって、肥満男が激しいピストンを行っていた。
「ぬぁああ! あっ、あぁぁぁぁ!」
 サリアを襲うのは、これまでとは比べものにならない快感だった。
 活発な腰振りで、サリアの膣は素早いリズムで貫かれる。肥満男の打ちつける勢いで、サリアの尻はしきりに弾み、股と腰とのあいだに隙間が生まれる。しかし、その数センチばかりの隙間は、広がった瞬間に直ちに閉じ続けた。
 例えるなら、腰を使ったドリブルだ。
 バスケットボールのドリブルはボールを上下させ続けるが、駅弁体位におけるドリブルは、お互いの股のあいだに隙間を生み出し、直ちに閉じ合わせたかと思いきや、次の正面衝突が連続のバウンドへ繋がっている。
「あぁっ、あっ! あん! あっ、やっ、あうっ、くあぁぁ!」
 サリアは無我夢中で肥満男にしがみついていた。
 快楽に翻弄され、嫌悪も何もかも忘れたまま、激しい電流に喘ぎ散らした。肉棒による激しい突きの繰り出しのたび、脳が破裂でもせんばかりの勢いに襲われて、もはや今ほどセックスに夢中になっている瞬間はないほどだった。

「あっ! あぁ! あっ、あん! あうっ、んんんん!」

 絡み合っている最中に、サリアの肉体は途中で一度痙攣を帯びていた。
 そう、イったのだ。
 ちょうど隙間の開くタイミングで、サリアの膣から噴き出た潮は、すぐ真正面にある肥満男の腰へと降りかかる。愛液がその陰毛を汚し、次に密着する瞬間、肥満男を濡らした愛液はサリアの方へと付着する。
 開閉が繰り返されるたび、隙間を覗き見たのなら、何度も何度も、執拗なまでにネバネバと、糸が引き続けているはずだった。とっくに濡れきった陰毛同士の毛先のあいだ、皮膚と皮膚とのあいだに伸びる愛液の糸は、やがて白く泡立っていた。
 そして、肥満男は射精する。

 ドクゥゥゥ! ドクッ、ドクン!

 ゴム越しとはいえ、急に内側に出されたことで、サリアは今になってようやく正気を取り戻す。
「お前……! 中に……!」
「なーにが中だ。ゴム越しじゃないか」
「それはそうだが……!」
「ほーら、まだまだ続けるぞ?」
 肥満男はテーブルの上にサリアを下ろす。
 寝かされるや否や、肉棒が引き抜かれ、その一瞬の摩擦が生み出す刺激がちょうどサリアをイカせていた。

「ぬぁぁっ」

 ビクっと腰が弾み上がって、今度こそ宙に潮は舞い上がった。
 何滴も何滴もの滴が十センチ以上は高く舞い、それが下降して降り注ぐのは、サリア自身の脚や下腹部の周辺だ。
 ぐったりと、テーブルからサリアの両足は垂れ下がる。
 イキ疲れたせいか、もはや怒る気力もなく、このまま休んでいたい欲求からテーブルに身体を預けていると、しかしその傍らで肥満男は次のコンドームの用意をしていた。
(ああ、まだ続くのか……)
 もう一回戦どころではない。
 この日のサリアは、日がな一日抱かれ続けた。
 飽き飽きするほどに感じさせられ、やっとのことで帰る頃には、股に肉棒の余韻が色濃く残ったまま、がに股気味で歩くほどだった。

 …………
 ……

 その、数日後。
 サリアの足元に、ジェッセルトンが倒れている。
 彼のアーツが生み出した黒い刃は、しかしサリアの放つ斬撃によって切断され、その切っ先を床に突き刺していた。

 そして――。

 アンソニーが脱獄を遂行するその瞬間にも、サリアの股には余韻があった。
 執拗なまでに味わわされ、アソコが形を覚え込んでしまった肉棒の、まるで今まさにハメ込まれている最中であるような感覚に、サリアは本当は見舞われている。
 そんな様子は微塵も見せず、カフカにもロビンにも、何一つとして気取られることはなかったが、サリアの脳には完全に刻み込まれていた。
 あの形が、あの快楽が――。
 あまりにも深々と焼き付けられ、夢にまで出て来た肉棒のおかげで、朝起きた瞬間のショーツまで濡れていた。

 きっと、時間さえあれば、それほどの快楽とて忘れることが出来るだろう。
 それがどれほど先の未来になるか。
 それはさすがに、想像すらつかないのだった。


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