先輩はいてもたってもいられずに、今すぐに確認したい衝動に駆られ、トイレの中へと映像を見に行っていた。
生中継であるように、別の端末にも映像がそのまま録画され続ける設定を利用して、スマートフォンの画面から確かめていた。
サックスブルーの下着は、より明確に映っていた。
「よし!」
座りポーズの指定はいくつもしたが、その一つには正座にほど近い形となって、V字に開いた股のあいだに両手を置くというものがある。地面に対して尻は浮かせて、ついでのようにスカート丈は周りに広げる指定を言うと、その時の透は「えっ」と微妙な反応はしていながら、言う通りにしてくれた。
おかげで画面の中に映るのは、目前に迫る勢いの尻である。
接写でもせんばかりにレンズに迫り、大きく映った透の尻は、アングルのせいもあってか、おそらく実物よりも大きく見えている。
豊満な二つのカーブは、ぷりっとした厚みを帯びながら、片方だけにショーツの布を纏っている。左側だけがしっかりと布に包まれ、ゴムの食い込むべき位置も、きちんと穿いての本来的な部分である。
しかし、左側の布は食い込んでいた。
透自身が外を出歩いたり、撮影中にジャンプの要求をしたおかげもあってか、布が随分とずれ込んでいたらしい。剥き出しとなった尻たぶは、片方だけを丸出しにしたも同然に、真っ白な肌を輝かせる。
そういえば、この正座気味のポーズを頼んだ時、床カメラの位置を意識して、「もう少し後ろに」と指示もしていた。
それが思い通りにいっていれば、おそらくは映っている。
クロッチ越しのアソコは撮れていた。
この時のポーズは、両手でスカートを押さえるもののため、手前側の布は隠れているが、尻に連なる股下の布はばっちりと、接写めいた距離感で映っている。
しかも、毛が数本ほどはみ出ていた。
尻側の布のずれに巻き込まれ、クロッチも多少ずれ、ミリ単位で見えかけになっている肉貝から、ほっそりとした毛が何本か縮れ出ていた。
先輩は時間も忘れて視姦した。
きっとトイレが長いと思われて、腹を痛めたのか何なのか、やがては心配されることになるだろう。そういったことにも思い至らず、夢中で視姦してしまっていた。
もう少し映像を進めると、四つん這いにさせた際の映像から、とうとうショーツの手前側が見えていた。布の上端部分に刺繍があるのはわかっていたが、その刺繍が白い糸を使った薔薇であることが始めてわかった。
「いいぞ? これはいい!」
先輩は舞い上がる。
ここまで大きな収穫を得られたなら、後はもう数枚ほど撮って引き上げよう。
満足感を胸にトイレを出て、スタジオに戻った時、ところがそこに立っていた透の様子は、先ほどと比べてどこか一変していた。
様子がおかしい。
何か、憤っているような、信じられないものを見ているようでもある顔は、一体どうしたというのなろう。
「……先輩、これ」
透は静かに歩み出て、テーブルの上に何かを置く。
それを見た瞬間、心臓が飛び出ていた。目も大きく見開いて、先輩さえも信じられないものに対する眼差しを向け、唖然としながら透の顔を見ているのだった。
「……ははっ、なんだろうね」
無理があるとは思いつつ、駄目で元々、誤魔化そうとしてはみる。
「盗撮、ですよね」
目がこちらを非難していた。
「……」
何も言葉を返せない。
言い訳が出て来ない。
「最初から、このために私に声をかけていたんですか?」
その頬がほのかに赤らんでいる理由は、言うまでもなく盗撮のせいだろう。自分の下着がカメラに収まっているのかと思ったら、恥ずかしくて仕方がなくなり、頬に宿った羞恥心でわずかながらに染め変えている。
だが、その目つきは怒りと嫌悪の方が強かった。
「……」
「最低ですよ」
人を本気で侮蔑してくる眼差しから、かなり本気で最低だと言われては、自業自得だろうとショックは受ける。胸を打たれたような衝撃に、どくっと心臓が弾み上がって、同時に怒りがふつふつと湧き始める。
実に身勝手な怒りと言えるだろう。
せっかく上手くいっていたのに、気づきやがって――腹の底にある感情は、透の気持ちなど顧みないものである。信じても平気だろう、問題はないだろうと撮影に応じてみれば、実は盗撮されていた透側のショックなど、今の彼には想像することすらできはしない。
「気持ち悪い、ですよ」
さらにショックを受けた。
この状況を傍から判定する者がいたなら、あって当然の非難であると述べるだろうが、先輩は逆上寸前だった。
「なんだって……?」
自分がどれだけ低い声を出し、透のことを威嚇しているか、本人に自覚はない。
自覚も何も、ショックで心を揺さぶられ、そのまま自身の感情に飲まれた先輩には、まともにものなど見えていない。
「人に……そんなことを言っていいと思ってるのか……」
自分が盗撮をしていたことなど、いとも簡単に忘れていた。
視野が狭まった先輩には、透のことが加害者に見えていた。人の暴言を言って、気持ち悪いなどと傷つける。透こそが加害者で、自分は被害者であるような、一種の思い込みの中に入り込んでいた。
バレたショックのせいもあるだろう。
激しく動揺した時から、精神の均衡は崩れていた。
「データ、消してくれますか?」
それは先輩にとって、決定的な一言だった。
それが身勝手で自己中心なのは言うまでもないが、先輩にしてみれば、努力の成果を放棄しろと言われたようなものだった。
透を誘うために勇気を出し、良い返事を得るや否や場所を見つけて、マイクロカメラを用意してまでセッティングを行った。リハーサルまでして、暗視機能できちんと下着が撮れそうかの確認も欠かさなかった。
苦労の末に手にした宝物を手放したくないと思うのは、いずれにしても心理としてはあって然るべきものだ。
だとしたら、それを消せと言われて怒り出す人間が存在しても不思議はない。
身勝手な主張、自己中心のクレーム。
この世の中に様々な怒りが存在する中、そして先輩もまた怒りを膨らませていた。
「何が消せだ! 人の努力を何だと思ってる!」
だから怒鳴った。
「……っ!」
その瞬間、透が浮かべた戦慄には、まるで恐ろしいものを見るような眼差しが浮かんでいた。
当然である。
性犯罪者が逆上して怒鳴ってきたのだ。
怖がらない方がおかしいくらいだ。
「お、お前……!」
だが、人を怪物のように恐れる顔は、態度は、先輩を刺激していた。どうして人にそんな目を向けて、あまつさえ批難できるのか。怒りのあまり、客観的な思考がまるで出来ない先輩の中で、いかにも都合良く透が悪者になっていた。
「ふざけるな!」
気づけば透に手を伸ばそうとしていた。
その時点では、その間違った言葉を取り消させ、意地でも謝らせようとする衝動に駆られているだけだった。
かといって、そんな細かな機微をエスパーのように読み取れるはずもない。
怒鳴ってくる相手の手が伸びて来たなら、驚いたり怖がったり、それが普通の反応に決まっていた。
「や……!」
咄嗟に身を引き、逃げようとした透の反応も、極めて当然のものといえた。
それでもだ。
「お前は……!」
それでも、先輩はますますショックを受けていた。
身勝手な動揺で、さも人を恐怖の対象のように見る眼差しと、逃げんばかりの反応までしてくる透の様子に、さらなる怒りが込み上げていた。
「俺を何だと思ってる! 何だと!」
凶悪犯だとでも思っているのか。
ナイフでも持っていて、人を殺すとでも思っているのか。
冗談じゃない、わからせてやる。
意地でも目に物見せようと、衝動のままにずかずかと歩み寄り、透はさらに恐怖してドアへと駆ける。
悪循環だった。
こんな風に迫られて、逃げない人間がいるだろうか。かといって、人様のことを過剰に恐れ、危機感のままに逃げようとする態度が気に入らない。だから、わからせてやる。そんな衝動を抱えた先輩に対して、逃げること自体が怒りを煽った。
逃げても逃げなくても、もはやロクなことになりはしない。
そして、慌てふためく透はロングスカートに足を取られて、危うく転びそうになっていた。ドアに到達するより先に、まずはバランスを崩しかけ、その瞬間に先輩は後ろからスカートを掴んでいた。
力任せに引っ張ると、そのせいで留め具が破損して、ロングスカートは脱げてしまう。
下着が丸出しとなり、しかも膝まで下がったスカートはますます足に絡みつき、動きが止まった瞬間である。
先輩は目の前に回り込んでいた。
ドアを立ち塞ぎ、逃げ道を塞いでいた。
「や……やめて……!」
「何がやめてだ!」
怒鳴り散らして、先輩は透を押し倒す。
湧き出る衝動のまま、無我夢中になって動く先輩には、もう自分が何をしているのかもわかっていない。どうすれば満足で、どうすれば収まるのか。本人ですらわからないまま、ただ感情的になっている。
先輩は透の両手を床に押しつけ、力尽くで動きを封じていた。
「このっ、この……!」
ブラウスを引き千切ろうと、乱暴に胸を掴むが、透はそれに抵抗する。
「やだっ、やだ! やめて!」
「何が! 何がだ!」
どちらも半狂乱だ。
意地でもボタンを引き千切り、前を開いてやろうとする先輩と、それに抗う透とで、必死になってお互いの腕をつかみ合う。先輩は何度も何度も、実に乱暴に手首を掴み、勢いをかけて床に押し込む。
動きを封じ、そして胸に手を移すが、その瞬間に透は自由になった手を使う。
だから、先輩は何度でも手首を掴み直し、何度でも床に押しつける。
男女の筋力差もあるが、胴に馬乗りになった状態で、そのやり取りは先輩が圧倒的に有利であった。透は無意識のうちに爪まで使い、引っ掻いてまで抗っていたが、夢中になって目も血走った先輩は、それしきの痛みなど感じてはいなかった。
ついに両手でブラウスを掴み、力の限り左右に引っ張る。
ぶちりとボタンの糸が引き千切れ、サックスブルーのブラジャーがあらわとなっていた。
「やぁ……!」
透は羞恥に顔を赤らめ、夢中になって自身のブラウスを掴んでいた。必死になって元に戻そうと、内側へ向けて引っ張っていた。
いくら引っ張ったところで抜けはしない。透の引っ張る力より、先輩の握力が遥かに上回り、その拳から布が引きずり出されることはない。
しかし、先輩は急に両手を離していた。
その瞬間に透は両手で胸を隠し、必死になって我が身を抱き締める。争いのために髪を乱したその顔で、涙ぐんだ先輩を睨んでいた。
「……この!」
先輩は両手で透の頬を包み込む。
力任せに前を向かせ、次の瞬間には顔を重ねた。
「んっ! んん! んんんん!」
透の悲鳴。
だが、決して大きな声は出ない。
強引に唇を奪おうとする行為に対して、透はそれこそ必死になって、噛み切る勢いで唇を内側に丸めていた。キスに抗い、唇を守ろうと、本当は首にも力を込めている。右でも左でも、どちらでもいい。顔を背けることで先輩の唇から逃げようとしているが、両手で頬をプレスする力のせいで、首をまともに動かせない。結果、透はせめて己の唇を丸め込み、直接触れ合うことでも避けることしかできずにいた。
そんな抵抗などお構いなしに、先輩は存分に頬張っていた。
自分が何をしているか、わかってなどいない。
悪者である透に対して、自分は意地でもわからせようとしている。怒りを晴らそうと、衝動に駆られるままに暴力に走っている。
自分が性暴力の犯人と化し、人の尊厳を傷つけていることになど、今ここで思い至ることなどありはしない。
無我夢中で透の尊厳を嬲っていた。
「んっ、んぅぅ……!」
透は激しい拒否感を滲ませていた。
まぶたを閉じるための筋肉に、恐ろしいまでの力が籠もり、眼輪筋が硬直のあまり逆に痙攣を始めている。頬が硬く強張って、唇を丸めた口も、あらん限りの力を駆使して閉ざしている。
さらに透は先輩の胸を叩いていた。
両手を使ってひたすら激しく、動作だけを見るならドアをノックしているようだが、透としては必死であった。覆い被さる先輩をどかそうと、恐怖とパニックを原動力に何度でも何度でも叩いていた。
先輩はそれを疎ましく思い、改めて手首を掴んで床に押しつけた。
「いいブラしやがって!」
仕返しの意思でも込めたように、先輩はブラジャーを視姦する。
サックスブルーの下着には、やはり刺繍で薔薇を刻んでいるが、こちらはショーツと違って灰色の糸が目立っていた。普通のグレーよりも黒よりの、暗い色合いは薄く爽やかな色を背景にすることで手前に浮き出て、その周囲にある白い糸ともデザインが絡み合う。
「どうだ! これでどうだ!」
そんなブラジャーを彼は掴む。
お前の胸を揉んでやっているぞと、そんな勝ち誇った笑みを浮かべて指を動かす。その引き攣った笑みは、唇の端からヨダレを垂らしたこの上なく醜いものだった。
「ひ……!」
透はますます戦慄していた。
胸を揉まれる不快感だけではない。そのおぞましい表情に、ただでさえ恐慌している透は、さらに色濃い恐怖を浮かべた。
「なんだよ! なんだよその目は!」
気に入らない、気に入らない、気に入らない。
こうなったら、もっと辱めてやるとばかりに、先輩は下の方にも手を伸ばす。ショーツの上からアソコの上に指を絡めて、いかにも乱暴に愛撫していた。
「やっ、やめて……!」
何の丁寧さもなく、乱雑な愛撫である。
感じるはずがない。
無理に擦ってくる痛みに、透は苦悶する一方だった。
「やってやる……最後までやってやる……!」
先輩は自身のベルトを外し始める。
なりふり構わず、後先も考えず、このまま透をレイプしようとしていた。
「やめて! 本当にやめて!」
透が絶叫する。
その時だった――。
「……なに、やってるの?」
一人の冷え切った声がかかってきた時、先輩は全身を凍りつかせていた。
その背後には、より冷たい顔で男を見下ろす円香の姿があるのだった。
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