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 先導美樹の頭には、アダルト雑誌の内容が強烈にこびりついていた。
 段ボールには様々な雑誌があり、漫画やイラストを載せたもの、写真を載せたもの、特定の性癖を特集した号など、ものによって趣が異なっていた。絵か実写かの違いといい、趣味の違いといい、性の世界とはこんなにも広いものなのかと、美樹は衝撃を受けていた。
 あの身体測定の日、先生の手で性器を調べられ、ピンクローターまで使われた思い出は、未だに鮮明なものである。
 それだけでも、何かが長々と尾を引いている。
 恥ずかしかった気持ちがいつまでも残り火となって燻って、数日経っても自分の頬がほんのりと赤い気がしてならない。鏡を見ればそうでもないが、ふとした拍子に感情のフラッシュバックが起こり、一人で急に恥ずかしくなってしまう。
 その影響がまだ残っている中で、またしても強烈なものを見たことで、家に帰ってからの美樹はそればかりで頭がいっぱいなのだった。
「どうしたのよ。なんかおかしいわよ?」
 と、母親に心配されてしまったほどだ。
 しかし、そうした内容について口にできるはずはなく、何も打ち明けることなく部屋に引っ込んでからというもの、美樹はベッドの上で始終悶々としていた。
 美樹自身の自覚がないうちに、体には密かな火がついて、アソコさえもが悶々としてきていた。
 セックスとは、それほど気持ちいいものなのだろうか。
 美樹が捲った雑誌のページには、漫画の中のヒロインが快感に堕とされて、大喜びでペニスを咥えて奉仕しているものがあった。
 そこで初めてフェラチオというものを知った。
 きちんと性知識を得るまでは、ペニスとはオシッコを出すための存在であり、不潔な部位という認識しかなかった。それを嬉々として口に入れ、目をハートにしてまで頬張る漫画は、生まれて初めてそういった描写を見る小学生には、脳天を撃ち抜かれるほどのショックがあった。
 ――なんで!? どういうこと!?
 と、見ている最中、頭の中が「!?」で埋め尽くされる勢いだった。
 自分が何を見ているのかがわからない、漫画の中で起こっていることが理解できない。とにかく衝撃すぎて、もうわけがわからない。パニックというわけではないが、許容するには本来もっと時間がかかるものを急に受け入れ、脳が混乱してしまっていた。
 パイズリというものも、アナルセックスの存在も知ってしまった。
 性行為というのも、文面や図解による説明でしか知らなかった。性的快感も知識的にしか知らないものだったが、アダルト漫画の中で描かれた激しい絡みは、美樹に壮絶なまでの影響を及ぼしていた。
(あんなに気持ちいいって、ありえるの?)
 絶頂して、噴水のような潮を噴くコマまであった。
(漫画、だよね……大袈裟っていうか……)
 とは思ってみるも、美樹は純粋に何も知らない。
 性行為によって得られる快感はどの程度のものであり、漫画に描かれた喘ぎ方がどこまで現実にあり得るものか。その判断基準になるものがなく、ただただ漠然と、フィクションだから誇張している――かもしれない、と思うのが関の山だ。
 心の底では、あるかもしれない、とも思っていた。
 美樹にとっては未知の世界で、いわば未開拓の土地に生まれて初めて踏み込んだばかりの感覚がある。
 あんなにも激しい快感があるのだろうか。
 怖いような興味があるような、どちらともつかない気持ちを抱いてもいた。
 実写の雑誌も刺激が強く、男性器をアソコの穴に咥えた数々の写真には、恥じらいや抵抗よりも、まず衝撃の方が先に来て、呆然としながら凝視していた。
 それらの写真も、脳裏にくっきりと焼き付いている。
 バック挿入、騎乗位など、体位様々に絡む男女の写真は、実に艶めかしいものだった。
(子供を作るっていうのは、ああいうことをして……)
 子作りということに、美樹は考えを巡らせる。
 当たり前の話だが、父や母がいたから自分は存在しているわけで、その両親がこの世にいたのも、そのまた両親がいたからだ。そんな血統の連なりには、子作りが、つまりセックスが関わっている。
 そして、子孫のためだけでなく、単に気持ち良くなるためにも、セックスは行われる。
 もしも恋人が出来て、数ヶ月なり数年なり、関係が続いた末には、相手の男はゆくゆく美樹の体に触りたいと考え始めるだろう。ペニスを挿入したい、奉仕をさせたい、そんな欲求をいつかぶつけて来るわけだ。
 あの雑誌に載っていた内容は、そのまま自分がいつか体験するかもしれない内容だ。
 女戦士がモンスターに犯される内容もあったが、非現実的な展開はともかくとして、性行為そのものは美樹の未来に控えている。
 一生恋人は作らない、結婚しない。
 あるいはモテないので彼氏ができない。
 とでも言うのでない限り、必ず未来に控えている。
(私のアソコにも、入るってことだよね……)
 少なくとも、今の美樹には恋愛を拒む主義はない。
 年頃の女の子として、そこそこに憧れは抱いているので、良い相手とデートをしたい願望はないでもない。
 そして、そんな関係の相手が出来た時、いつかの未来に控える性行為の存在は、より確定した未来になる。
(っていうか、男の子ってああいうことがしたいのかな……)
 そんな思いにも耽る。
 男の子がエッチなことに興味を持つのは、ごく当たり前のことと認識はしていたが、ついこの前までの最大の性知識は、パンツを見るだのオッパイを揉むだの、その程度で止まっていた。
 だが、それしきでは済まない、濃厚なものを見てしまったのだ。
 男には皆、ああいう願望があるのだろうか。
 セックスをしたい願望があって、それで告白をしたり、彼女を作ったりするのだろうか。ということは、美樹のことを好きだという男の子が現れて、告白をしてきたら、その相手には美樹をセックスの対象に見る気持ちがあるということだ。
(私を……ああいう……)
 美樹はアダルト雑誌の内容に自分を重ねた。
 あれが男の願望なら、美樹にフェラチオをさせたい欲望が存在している。美樹と色んな体位で繋がったり、アソコの中身を覗きたい欲望が存在している。
 もちろん、美樹を性の対象に見る男子がいればなのだが、もしいたとしたら、頭の中には美樹にああいうことをさせたい気持ちがあるわけだ。
 そして、セックスの漫画があるからには、男はやはり、その内容を現実にしたがる気持ちがあるのだろうか。
 いや、スライムが女戦士を犯すという、実現の余地がない漫画もあった。
 レイプや痴漢なら実行の余地がある。触手やスライムに変身して女の子を辱めるのは、いくらなんでも実現のしようがない。
 実現の余地のない内容は、見て楽しむ以外にどうしようもない。
(実際にやりたがるとは限らないかな。だいたい、犯罪をやりたがる人がいたら、それはちょっと困るし……)
 とはいえ、セックスへの興味そのものは、美樹の中にはっきり芽生え、気づけばアソコが悶々としてきていた。
 先ほどまで無自覚で、本人も気づかずにいたアソコのムラムラに、とうとう美樹は気づいてしまった。
「どうしよう……」
 オナニーがしてみたい。
 この前は途中で不安になり、試しにやろうとしただけで終わったが、こうなったら今度こそきちんとオナニーをしてみようか。
 だって、使うかもしれないのだ。
 恋人が出来たり、結婚をすることになったら、性器の穴は必ずセックスのために使う。
 しかし、初めての性交は痛いものだと、知識としては知っている。
 あれから、美樹はこっそりと保健体育の教科書を開いたり、図書館でその手の本を探してみることで、色々と覚えてしまった。さほど詳しいわけではないが、膣壁はデリケートで傷がつきやすいと書かれていた。
 それに、穴の大きさよりも太いものが入ってくる機会があったら、それは言うまでもなくきつくて辛いはずである。
 痛みとは、どの程度のものだろう。
 我慢できるものならいいが、トラウマになるような激痛は嫌だ。
 そうなると、事前に指を入れておくなどして、多少は慣れていた方が、性交痛はマシになるのではないかと予感がしてくる。
「やっておいた方がいいのかな……」
 いつ来るかもわからない未来に対して、備えておきたい心理が働いた。
 いいや、それだけではない。
「だいたい、あんな大袈裟な感じ方って、ありえるのかな」
 芽生えた好奇心は、みるみるうちに芽から花へと、急速に成長していき、気づけばもう今からオナニーを試さずにはいられない気持ちになっていた。
「……やってみよう、かな」
 美樹はパジャマを脱ぐ。
 そしてパンツも脱ぎ、下半身裸になって仰向けに、アソコを弄り始めるのだった。

     *

 美樹は手をアソコに近づける。
 考えてもみれば、身体の一部を指で擦るだけなのだが、何か大きなことでもするように、意を決している自分がいる。頭を掻いたり、背中を掻くだけで、緊張らしきものを感じる人間がいるだろうか。それがアソコとなると、不思議と心臓の鼓動が早まっていた。
 身体測定で性器の確認を受けた時、担任には毛が濃いと言われている。
 確かに陰毛は生えているが、毛むくじゃらというほどではない。
 きっと、他の女子より発育が早く進んで、そのせいで濃いめなだけだと、美樹自身はそう信じていた。人と比べたことなどないので、あまり確信はないのだが、ボーボーというにはほど遠い、小さく薄い三角形があるだけだ。
 美樹はその付近に指をやる。
 まずは毛の感触を確かめて、それからワレメに指を近づけた。
 そして、指を置いてみる。
 風呂で体を洗う時は、何の意識もせずに触っているのに、オナニーという目的のある今、これから未知の扉を開こうとしているような気持ちになり始めていた。
 快感を求める目的で、アソコを上下に擦る。
 それを今から、やる。
 脳裏に絶えずチラつくのは、アダルト雑誌にあった性行為の数々である。実写の場合は写真の女性が悩ましげな顔をしたり、快感で仰け反るような姿もあった。まさか、そんな大袈裟な快感をいきなり感じるとは思えないが、それほど感じられるものなら感じてみたい願望は、胸の内側で確かに膨らんでいた。
 いよいよ上下に擦り始める。
 皮膚の表面をそーっと、産毛だけを撫でるつもりの軽さで摩擦する。
「私……」
 エッチなことを始めてしまった。
 以前は何も知らず、最近になっても知識があるだけだったが、今度こそオナニーを開始してしまった。
 もう、先生に言われて胸を出したり、チェックのために触られているわけではない。
 自分の意思で、快感を求める目的で触っている。
 すぐには感じなかった。
 だが、数分も続けるうちに、皮膚の内側で何かムズムズするような、切ないような感覚が湧き始め、これが性的な快感なのだと実感する。
 この前、担任に乳首をやられた時もそうだったが、性的快感とはこういったものなのかと、実感と共に学んでいた。
 続けていれば、この快感が強まってくるかもしれない。
 美樹はそう期待して、時間をかけてじっくり触る。
 いつしかオナニーだけに神経を集中して、他の全ての事柄が頭の中から消え去っていた。
「あっ、んぅ…………んぅぅ………………」
 だんだん、気持ち良さが増してくる。
 ワレメの表面が微妙に水気を帯びてきていた。
 それは皮膚がわずかに汗ばんで、濡れているようないないような、そんな程度の感覚ではあるのだが、美樹は心なしか表情を引き締める。愛液、膣分泌液と呼ばれるものが、もう少しすれば出るかもしれない。
 美樹はさらにオナニーを続けた。
 頬を火照らせ、しだいしだいに膨らむ快感に夢中になりつつ、美樹はオナニーを楽しみつつあるのだった。
 性的快感にはまだ不慣れな体である。
 快感の膨らみようは、本当にゆっくりとしたものであったが、指に感じる粘液の気配は確実に強まっていた。汗ばみに似た水気は、先ほどまでは気のせいかと思う程度のものだったのが、今ははっきりとしてきていた。
 いずれ、指とアソコのあいだに粘液の糸が引くのだろう。
 その瞬間を待ち構えるつもりになって、美樹は指の動きを徐々に活発にしていた。
「そうだ……胸も……」
 担任に乳首をやられたことで、乳房で感じることもわかっている。
 美樹は一旦中止して、シャツとブラジャーを脱ぎ始めた。
 全裸になって改めて横たわり、右手はアソコに、左手は胸に置き、上下両方を触り始めた時、胸で弾ける痺れに頬を強く強張らせた。
「き、気持ちいい……!」
 乳首が感じやすいらしい。
 アソコは時間がかかったのに比べ、あっさりと快感を得られるや否や、何かのスイッチが入っていた。アソコが急に感度を増し、乳首と同じく電流の燻るような強い快感が走るようになり、美樹はそのまま余計に夢中になっていた。
(気持ちいい……気持ちいい……!)
 手がますます活発になる。
 アソコの水気は急速に強まって、指にはヌルヌルとした感触が付着してくる。美樹はそれを塗り伸ばすようにして摩擦を続け、胸の方は左右どちらも刺激していた。片方の乳首だけでなく、左右交互になるように、適度に手を移していきながら快感を味わっていた。
 もうとっくに糸が引くようになっている。
 試しに粘液をつまんでみて、顔の近くに運んで確認すると、指のあいだに銀色の糸が輝いていた。
 エッチな汁が出てしまったのだ。
 これまで一度も開いたことのない、未知の扉を開いた気になった。もう今までの自分から、オナニーを経験済みである自分へと変わってしまった。快感を求めてはしたない真似をして、アソコから粘液を出した女になったのだ。
 これは大人の階段を一つ上がったことになるのだろうか。
 いや、それは少し、わからない。
 だが、何かのラインを越え、何かの段階に達したかのような気持ちがあった。
「もうちょっと……やってみようかな……」
 美樹はアソコに右手を戻し、もう少しだけ、もう少しだけと、快楽に病みつきになってワレメをなぞる。その快感に目をとろんとさせていき、息も荒っぽく乱し始める。
 指の挿入はどうだろうか。
 とうとう、そんなことさえ試したくなり、美樹は一本の指を膣口に突き立てていた。
 指はあっさりと入っていった。
 愛液が活性油になったこと、穴に対して指一本の太さはちょうど良かったこともあり、異物の侵入を拒むことはなく、実は密かに恐れていた痛みもなかった。痛かったらすぐに抜こうと、頭の片隅では思っていたが、何の痛みも苦しさもなかった。
 一本だけなら平気とわかり、美樹はそのままゆっくりと、穴に向かってピストンを開始した。
「んっ、んくぁ……あぁ……いぃ…………」
 気持ち良かった。
 指の出し入れによって起きる摩擦は、ワレメを擦る以上の快感をもたらして、思った以上の甘い痺れに美樹は軽く目を見開いていた。
「こんなにいいなんて……あぁっ、んぁぁ…………!」
 すぐにピストンは活発になっていた。
 そのうちにクリトリスも突起していき、硬くなった性器の一部に美樹自身も気づき始める。本や教科書で得た知識から、敏感な部分の存在が頭を掠め、美樹は左手を乳房から性器へと移していた。
 両方の手でアソコを弄った。
 一方は膣口へのピストンを、一方はクリトリスの愛撫を行って、性器に広がる快感は二重のものとなり、美樹はますますオナニーに夢中になった。
「あっ、あふぁ……いぃ……これいい…………!」
 愛液はますます溢れる。
 いつしか、シーツにまで汚れが染み込むようになり、いつしか指の動きを止め、オナニーを終わる頃には、まるでお漏らしの跡だった。
「うそ……」
 それを見た美樹自身の反応は、信じられないものを見た驚きだった。
 こんなにも、ベッドを汚してしまった。
 確かにオシッコではないのだが、この歳になってお漏らしにしか見えない染みを作ってしまったショックの上には、自分はこんなにもいっぱい感じて、いっぱい濡れたのだという実感も重なっていた。
 自分はいやらしい女になってしまった。
 いや、きっと普通の範囲だ。
 誰だってそういうことには興味があり、きっとオナニーだってするに決まっている。このくらいなら、誰でもありえる範囲であり、これだけで淫乱でみっともない女になったわけではないはずだ。
 そう信じたい気持ちから、美樹はそんな思い込みを心の中に作り出す。
 とはいえ、いずれにしてもオナニーをしてしまった。
 自分はもう、性の世界と無縁ではなくなって、そういった男女の絡みを持つ存在へと変わってしまった。性など知らない無垢の領域から、そうではない世界への線を越え、変化を経験してしまったのだ。
 もう昨日までの自分ではない。
 自分はもう、エッチなことにきちんと興味を持っている。



 
 
 

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