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 アリシアには今の国の在り方が許せなかった。
  父は病死しているが、生きていた頃に密かに町に繰り出して、魔法力による身分差の実態をその目で見せてもらったことがある。一般市民に扮しての、奴隷を鞭打つ光景を見て回った際の衝撃は、未だに忘れることができない。
 魔力が低いというだけで、他にどんな才能があったとしても、背中を鞭で打たれながら過酷な労働をやらされる。そのまま過労死したとしても、まるで材料の取り替えのような感覚で、新しい奴隷をそこに宛がう。+
 人を人と思わぬ悪辣さには反吐が出る。
 だからこそ、父のことは尊敬している。
 父はその実態を少しでも変えようと尽力して、魔力がなくとも人は評価されるべきとする考えを広めていった。いくつかの町の運営にも手を加え、劣悪な差別を取り除く政治を見て、民のために尽くす姿に感服したのだ。
 自分もいつか、王権を継ぐ時は同じ魂を持つ女王でありたい。
 この国は権力が国王一強ではなく、権力の分散のため、ワンマンで突っ走るやり方ができない。王が悪徳であった場合には、その暴走を周囲が防げるわけなのだが、逆に王に悪政がはびこっている時、それを取り除くのは容易ではない。
 それこそ、今この国が抱える魔法による格差問題だ。
  ユミル領を訪れたのは、まさに問題解消に臨む活動の一環だが、よりにもよって王族に裸体での身体検査を強要しようとは思いもしなかった。
 ある程度の主張までなら理解しよう。
 しかし、手荷物検査には全て応じて、所持品は残らず検めさせたはずなのに、まだ何かを調べようなど不愉快極まりない。痛くもない腹を探られて、何とも思わない者はいない。まして、流れから考えるに、領主による王への嫌がらせは明らかだ。
 目上が説教にやって来るので、だったら女王が嫌がるものを用意しておこう。
 などという考えに違いない。
「お母様、こんなの受けないわよね」
 男の前で裸など真っ平だ。
 柔肌を見せるのは、婚姻関係となる相手のみというのが、王族としては一般的な貞操観念である。
 ここは何とか突っぱねて、ユミルに抗議してもらいたい。
「受けるわ」
 だが、マリエルの言葉はアリシアの期待に反したものだった。
「お、お母様? 何を言って……」
 アリシアは狼狽えた。
 それは一瞬、悪に屈する言葉に聞こえた。
 だが、その目を見れば、母にそんなつもりがないと伝わる。ならばどうして、抗議せずに受けるというのか。
「ここは耐えるのよ。検問の厳しさをこの身で体感しておきましょう」
 それを後々、何か駆け引きの材料にしようというわけなのか。
 王族に対してさえ厳しい措置を執る行為は、後で追及するための、敵の弱点とできるのかもしれないが、だからといって抵抗がなくなるわけではない。
「でも……」
 やはり、肌は晒したくない。
「わかるわ。アリシア、あなたはまだ未婚で、相手も決まっていないのだから……。だけど、ここでチェックを受けておけば、ユミルも私達の入国を拒否できなくなるわ」
 その言葉にはっとした。
「そう、ね。そうよね」
 ようやく気づいた。
 起きた事実は必ず政治の駆け引きに使えるが、何もそればかりを考えているのではない。
 こうしているあいだにも、ユミル領地に暮らす何の罪もない人々が奴隷として鞭打たれ、過酷な生活を強いられている。上がって来た報告の数々では、魔力検査で一定の基準に達しなければ、いつどんな労働現場に徴用されたり、女の子なら性奴隷として召し上げられるかもわからないのだ。
 一刻も早くユミル領の実態を崩し、奴隷を保護して新しい身分を与えなければ、今もどこかで悲鳴が上がり続けている。
「わかったわ。私も、受けるわ」
 アリシアも腹を括った。
 ユミル領地に入るのは初めてだが、奴隷扱いされる人々の姿は、これまで何度か見てきている。あんなものは、決してあっていいことではない。まずは領主と対峙するためにも、こんなところで立ち止まっている場合ではないのだ。
「ありがとう。アリシア」
「いえ、お母様。私も覚悟が足りていなかったわ」
 これで話は決まりだ。
 アリシアは老兵と向かい合い、検めて覚悟を告げる。

「いくらでも好きなだけ調べなさい」

 意思の強い瞳で兵士を見据える。
 だがやはり、それで羞恥心まで消せるわけではないのだった。

     *

 二人の王族が丸裸になっていた。
 五人もの兵士が見ている前でドレスを脱ぎ、一糸纏わぬ姿となったその肌はいずれも美しい。マリエルの肉体は三八歳とも思えぬ若々しさを保っており、肌つやもよく乳房は大きく突き出ている。
 一九歳のアリシアも、年若い肌が滑らかに光沢を放っていた。
 血の繋がりだけあって、母娘共に似通った顔をしているが、体つきでは母の方が胸と尻が上回る。
 アリシアの豊満な球体は、垂れることを知らずに手前に突っ張り、その頂点には鮮やかな乳首を咲かせている。マリエルの胸はそれより一回り大きく膨らみ、さすがに少しの下垂もしないわけにはいかず、少しばかり角度が下向きだ。
 後ろ姿を見たならば、尻の厚みはどちらもプリっと魅惑的だが、やはりマリエルの方がいくらか大きい。
「……」
「……」
 誰しも、無言だった。
 彼らは何の言葉もなく、二人の裸を凝視している。裸体の美しさに目を奪われ、役目も忘れて見惚れるのも無理からぬほどのボディには、そのまま魂まで奪われそうな勢いだ。
「は、早く……して頂戴…………」
 どこか震えた声でアリシアが言う。
「す、すみません。では身体検査を始めていきます」
 はっとした老兵は、すぐさま四人の部下に指示を出す。
 そのうちの二人は脱いだ衣服を調べ始める。
 ドレスは言うまでもなく、下着類にも手をつけられ、くまなく調べられる感覚は、何か恥ずかしい秘密を探られているかのようだ。日記を読まれているわけでも、私生活を覗かれているわけでもなく、ただ布切れを触られているだけで恥辱感は湧いてくるのだ。
 そして、さらにもう二人は巻尺を持って来る。
 それぞれアリシアとマリエルの真正面に、一体何をするのかと思いきや、こんなことを言い出すのだ。
「で、では……」
「その、スリーサイズを計測させて頂きます」
 王族相手にそんなことをしなくてはならない緊張感が、兵士達の声にはありありと滲み出ていた。
「い、いいわ。測って頂戴」
 緊張しているのはアリシアも同じだ。
 母の方は政治的な駆け引きで場数を踏み、度胸を養っているだけあって、あまり顔色は変えていない。恥じらう様子はあるものの、子持ちの既婚者ということもあり、肌を出すのは娘に比べれば慣れた様子だ
 といっても、そんなマリエルにせよ、落ち着きなく目を泳がせている。
 アリシアの赤面具合は母親よりもずっと激しい。
 彼女にはまず、性知識すらほとんどない。
 血筋柄、いずれ世継ぎを設ける必要のある立場だが、周りの者は積極的に性知識を与えることはしていない。城内の慣習では、結婚が決まった時か、二十歳を迎えてからという、いつどのように生まれたかもわからない暗黙のルールがあり、習慣的に性知識が遅れやすくなっているのだ。
 アリシアの持つ知識は、男には女の体を好きなように凝視したり、触ったりしたい欲望があるという程度のもので、性器の挿入などの行為は想像の範疇にすらない始末だ。それほどまでにウブで純粋なままのアリシアは、一九歳でありながら、もっと幼い乙女のような羞恥心の持ち主だった。

 カァァァァァ……!

 と、ただ全裸になっているだけで、既に耳まで染まりかかっている。
 さほど過剰な赤面はしていないマリエルが隣にいることで、アリシアの恥じらい大袈裟にさえ見えてくる。
 計測担当となった兵士二人は、内心では思うところがありながら、かといって乳房から目を離せるわけでもない。隠しきれない興奮を表情に滲ませつつ、彼らが母娘に巻尺をかける方法は、まるで抱きつくように上を背中に腕を回すものだった。
 親子揃ってぎょっとしていた。
 マリエルの場合はポニーテールで、髪がまとまっているだけ通しやすい。比較的にスムーズに引っかけて、脇下を通した巻尺は手前に引っ張り出されるが、ロングヘアーを背中にかけたアリシアの場合、いくらか手間取ることになる。
 髪の上からそのまま巻きつけるわけにもいかず、指で髪をどかしつつ、どうにか下へ通そうとしているが、その間中ずっと乳房に顔が接近していた。本当に抱きつくわけではないが、その直前まで体が迫った状況は、表情が露骨に引き攣ることを隠しきれない。
 やがて、どちらの巻尺も手前へと引っ張り出される。
 それぞれの巻尺が乳房に巻きつく時、その締め付けが皮膚に食い込む。親子共々の豊満な乳房は中央へと寄り合わさり、巻尺の内側で谷間のラインを形成していた。
 乳肌に目盛りが合わさり、兵士二人はそれらを読み取る。
「九五センチ」
 と、これはアリシアの数字。
「一〇五」
 続けてマリエルの数字が読み上げられると、老兵がそれを書類に書き込む。羽根ペンの先端が羊皮紙の表面を引っ掻いて、カリカリと立てる音で親子は実感する。自分達の情報が取られて、普通なら明かすことのない秘密が文書に残されている。
 裸になることに比べれば、だかが数字ではある。
 少なくとも、この親子にとっての感覚はそんなものだが、かといって積極的に明かしたいものでもないく、書かれることで心を蝕まれていった。
 続けてウエストの計測に移る。
 背中にかかった巻尺を改めて巻き直すため、二人揃って改めて抱きつくように、顔が腹に接する直前まで迫っていく。腰の後ろにかけ直し、ヘソの近くに巻きつけると、改めて数値を読み上げた。
「六五センチ」
「六八センチ」
 アリシアの方が三センチ細いらしい。
 それもまた書類の中に書き込まれ、次はヒップの測定に移るのだが、尻に巻尺をかけ直すのも、やはり顔の接近を伴った。
 親子で顔を引き攣らせる。
 汗蒸れの関係で陰毛は短く切り落とし、形は整えてあるのだが、見えない部分の身だしなみをしたからと、人に見せる機会は想定していなかった。
 夫を失っているマリエルの場合、もう性交の機会はなく、誰にも見せることはないと思っていた。娘にしても、今のところ結婚相手は決まっておらず、本来ならば他者にアソコを見せる可能性などないはずだった。
 だが、それが二人してアソコを晒している。
 非処女であるマリエルにして、初めて会ったばかりの名も知らぬ男に見られた上、顔まで近づいてくることで、先ほど以上に顔を赤く染めている。ならば性の経験がなく、ウブなアリシアの赤面ぶりはそれ以上だ。
 そもそも、ただ裸になっただけでさえ、アリシアは耳にかけてまで余すところなく赤面していた。その上さらに羞恥心の膨らむ顔は、染まる変わりに熱を上げ、いずれは沸騰のように蒸気でも上げそうな勢いだ。
 そして、巻尺は手前に引っ張り出される。
 兵士は太ももの上に目盛りを合わせ、それぞれの数字を読み上げた。
「八九センチ」
 十分に肉厚だが、アリシアの方が母より小さい。
「九八センチ」
 母親の方がウエストが三センチ太い分だけ、腰周りのラインも太ましく、加えて厚みも伴っている。二人を綺麗に並べた状態で真横から尻を見たなら、マリエルの尻の高さに隠れ、向こう側にあるアリシアの尻山が見えなくなることだろう。
 スリーサイズを全て測られ、書類に記録されてしまった感覚に母といえども歯を噛み締め、アリシアの胸にはより一層の感情が吹き荒れる。

「では続けて、身体検査をやっていきますので……」

 老兵は苦々しい顔をしながらも、使命でも背負わされているようにそう告げた。
 実際、彼らは苦しい立場だ。
 王族をこうも辱めたとあっては、後でどんな罰を下されるか。かといって、領主の意向に逆らえる立場でもなく、ユミルの定めた方式には従わざるを得ない。
 独裁的な面のある領主だ。
 幸い、この場にいる五人の兵士は魔力こそ持ってはいるが、それは上流階級に属せるほどのものではなく、上の意向に背けば奴隷の身分に落とされかねない。ある程度の魔力があっても、平均に届きそうで届かない、微妙なラインの人間に関しては、得られる立場はあまりにも不安定だった。
 その板挟みで、彼ら五人は目先の恐怖を逃れる方を優先している。
「だ、大丈夫ですよ……ご心配なさらずとも……」
 こんな時でも、顔を赤くしていながらも、兵士達の様子に気づいたマリエルは、五人のことを気遣っていた。
「お立場は理解しています。あなた達としても、心苦しいのでしょう。ですが、私達はきっと領主の悪政を正してみせます。この屈辱にも必ず耐え抜いてみせますので、どうかご自分の使命を果たして下さい」
 その言葉に心震わせるのは、何も兵士達だけではなかった。
「お母様……!」
 娘の心にも、それは響いていた。
 だが、裏を返せば、自分で大きく出た手前、次の検査内容を告げられても、引くに引けなくなるわけだった。



 
 
 

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