身体検査がスリーサイズの測定で終わるとは思っていない。
まだ次の内容があることは、アリシアもマリエルも、どちらも覚悟こそしていたが、とはいえ聞くに抵抗感が滲み出た。
「お体に手を触れて、調べさせて頂きます」
老兵の言葉を聞いた瞬間、マリエルは予想でもしていたように、やはり、といった具合に表情を引き締める。滲み出る抵抗感は隠しきれず、その感情はひしひしと相手に伝わる。
一方でアリシアは、一瞬泣きそうになっていた。
(体に手を触れてって……もしかして、穴の中まで……)
その予感で、今すぐに逃げ出したい気持ちが湧く。
検問で行う身体検査には、違法な物品を持ち込ませないための意味があり、女であれば膣口に物を入れることも可能となる。穴に指を入れてまで行う方法は、その存在くらいは知っていたが、まさか自分で体験することになるとは予想もしなかった。
それでも、母の言葉を聞いた手前だ。
アリシアの方が辛そうに、マリエルの方が気丈に見えるも、泣きそうだった顔は徐々に覚悟で固まっていき、やがては二人共々耐え抜く決意を胸にする。
「では始めさせて頂きます」
老師の言葉が合図となり、四人の兵士が身体検査に取りかかった。
親子それぞれに二人の兵士がつくことで、身体を前後から凝視され、細やかに観察される状況の、落ち着かない感じといったらない。一人が乳房に顔を近づけ、あらゆる角度から凝視する一方で、もう一人は尻や脚を観察するのだ。
親子それぞれが視線を泳がせ、モゾモゾと肩を揺り動かす。
あまりにも落ち着かない感覚が滲み出て、二人はこうもそわそわしているのだ。
顔が数センチの距離へ迫って、皮膚の表面をまんべんなく観察しようと動いてくる。胸から肩へ移っていき、そして肩から指先にかけて下へと移る。右手の観察から左手の観察に移るため、腹を通過しながら移動して、今度は指先から肩へと上がっていく。
後ろでも尻を前や横から観察して、太ももからかかとへと、視線を移動させていく。余すところなく細やかに見ようとしてくる行為に耐え忍び、親子揃って唇を歪めていると、その観察行為はほどなくして切り上げられた。
身体の前後から兵士が離れ、ひとまずは第二の試練が終わって一息つくが、その直後にはもう次の内容に対する覚悟を決める。
きっと、穴を調べるに違いないと、二人して覚悟を決めつつあった。
「では性器と肛門を調べさせて頂きます」
老兵の告げる言葉に、二人の表情は険しくなる。
二人揃って、母娘でM字開脚を披露させられた。
テーブルで仰向けに、自らの膝を抱えた開脚ポーズで、マリエルの赤らみもいよいよ強まり、耳さえ朱色に近づき始める。アリシアの表情はさらに歪んで強張って、爆発しそうなほどの羞恥心がこれでもかというほど滲み出ていた。
上下の穴に指を入れ、内部に異物がないかを確かめる。
目的や方法自体はそのままシンプルなものであるが、それを平然とした気持ちで受けられる者は一体どれほどいることか。
兵士が指にオイルを塗る。
出入りをスムーズにするための、活性油であると説明はしているが、実際には媚薬効果を含んでいるのは、決して本人達には伝えない。
それも検問所に下されたユミルの指示だ。
悪政を正そうと訪問してくる王族に、ユミルは良い感情を抱いていない。訪問を中止させたり、先延ばしにするための手段は講じたのかもしれないが、結果としてやって来た二人に対して、厳しい検問の他に媚薬オイルの使用を決断した。
おそらく嫌がらせの一環だ。
訪問を阻止できなかった以上、せめてもの報いを与えようとしているのではと、老兵やその部下達は考えている。
そして、立場上はユミルの思惑通りに動かざるを得ない。
二人の兵士がオイルで指を輝かせ、開かれた股へと顔を近づけていた。指で綺麗なワレメに触れ、その瞬間にびくりと肩の弾む反応は、どちらも同じものだった。
指に纏ったオイルがそのままワレメの隙間に浸透して、膣へと入り込んでいる。
兵士はしばし、上下に擦った。
「こ、これって……」
それが愛撫じみていることに、性知識のあるマリエルはすぐさま気づくが、アリシアにはわからない。意味合いが想像しきれず、指を挿入する前の準備なのだろうかと、そんな風に思っておくしかないわけだった。
「どうか、ご理解を」
老兵は告げる。
その言葉を聞くことで、何かを言おうとしていたマリエルは、しかし何も言わずに口を噤んで耐え忍ぶ。
しばしのあいだ、二人のワレメは上下に擦られ続けていた。
オイルによってヌルヌルと、滑りよく指はスライドして、その愛撫が続けば続くほど、しだいしだいに肉体のスイッチは入っていく。下腹部がきゅっと引き締まり、膣の奥から熱い何かを感じる頃には、マリエルはとっくに自分の状態を自覚している一方で、逆にアリシアは戸惑っていた。
(なにこれ……なんなのよ、この感覚は……)
気持ちいいことは、アリシアにもわかっていた。
ただ、性的快楽をまともに知らず、自分が何故、どうしてこんな風に気持ちいいのか。正確なところをわかっておらず、アソコへの触れ方が良いマッサージになっているのだろうかと勘違いする始末である。
だが、間違いなくそれは快楽だった。
ならば二人の膣からは、やがて愛液が染み出して、しだいにオイルと混ざり始める。感度の良いマリエルの方が早めに、アリシアは少し遅れてアソコを濡らし、その頃になってようやく膣口に指は挿入されていた。
「んぅぅ……んぁぁ…………」
マリエルが甘い声を出してしまう。
「なっ、なに……これ……んっ、んぁぁ…………」
アリシアは戸惑い混じりに呼吸を乱し、色気を帯びた表情で肩を上下させ始める。
ピストン運動が始まるなり、揃って何かを我慢するような、快感を表情の内側に押し込めた顔となる。
兵士達の指はスムーズに、膣の内側でヌルヌルと軽やかに滑り動いて、オイルが奥まで擦り込まれる。媚薬成分が膣壁に直接浸透して、ますます敏感になった親子は、クリトリスまで突起させていた。
そして、その時である。
「ひゃぁん!」
マリエルが悲鳴を上げた。
それは明らかに、痛みとは別の何かに対する悲鳴であった。
「あぁぁん!」
その直後にはアリシアも似たような悲鳴を上げ、全身をぶるりと一瞬、僅かながらに痙攣させる。
震えた直後のアソコから、より一層の愛液が染み出していた。
(い、イカされるなんて…………)
マリエルはショックを胸にする。
(なに? 今のは何よ!)
絶頂というものを知らないアリシアは、一体どうしてアソコを擦られれば気持ち良く、しかも頭が弾け飛ぶかと思うほどの、激しい痺れにまでやられたのか。未だに理解しきることのないまま、戸惑いと動揺を浮かべていた。
「もう……十分なのでは……」
さしものマリエルも、耐えかねていた。
つい、許しでも請うような眼差しを向けてしまった。
「そ、そうよ……アソコはもう……」
それに乗っかり、アリシアも懇願の目を浮かべる。そこには快感に対する恐怖というべきか、未知の感覚との向き合い方がわからずに、今すぐにでも性的刺激から距離を取り、少し落ち着きたいというのが彼女の心境だ。
「そうですね。次はお尻の穴を調べさせて頂きます」
老兵の言葉を聞くなり、親子はかえって顔に緊張を強めていた。
確かにアソコから指は抜け、ピストンはこれで打ち止めになってくれるが、また次の試練が目の前に迫ったような感覚にそれぞれが強張っていた。
兵士二人は抜いたばかりの指をそのまま下へ、肛門の方に移して、まずは軽くくすぐった。
「ひゃ!」
「やあ!」
同時に悲鳴が上がった。
快楽電流が走るあまりの、脚がびくっと跳ね上がる反応と共に、ますます愛液が溢れ出る。どちらのワレメからも流れ出し、皮膚の表面を伝った滴が肛門の皺に飲み込まれる。指から付いたオイルに加え、そんな愛液によっても濡れた肛門へと、そして指は埋め込まれた。
指先から少しずつ埋まっていき、親子揃って内側を探られた。
「んぅ……あっ、んぅぅ……んぁぁ…………」
マリエルはより激しく息を荒げる。
「はぁっ、あぁ……やっ、だめ…………」
アリシアの顔にも悩ましげな色気が浮かんでいる。
兵士は指で探し回ってみることで検査を果たし、もう十分に調べてなお、指の出入りをさせ続ける。決して直ちに抜くことはなく、ユミルに指示された通りに何度かイカせる必要があった。
身体検査をするばかりか、性的な快感で辱めて、絶頂までさせろという命令なのだ。
「んぅぅぅぅぅぅ…………!」
「やぁぁぁぁぁぁ…………!」
そしてまた、二人の脚が同時に震え、今度は潮が巻き上がった。
仰け反るように背中を浮き上げ、胴体のアーチを成しながら、撒き散らした滴を周囲に落として、そのままぐったりと脱力していた。放心しきった顔で手足を投げ出し、しばらくはぼーっと虚空ばかりを見つめていた。
*
身体検査が終了して、検問所から門の中へと、ようやく通してもらうことになる。
親子の様子は普通ではなかった。
あんな検査をされた以上、それからまだ一時間と経っていないのに、ショックや屈辱を引きずっているのも無理はない。指を入れられた感覚に、絶頂した際の余韻が色濃く、全身がうずうずと敏感なまま歩いていては、いつものように振る舞いきれない。
だが、そればかりではない。
身体検査以外にも、二人の様子をおかしくしているものがある。
全身がオイルまみれであった。
この血に足を踏み入れる者は、身分をその問うことなく、等しく聖別を受けなければならない。
聖別用の、光の祝福を与えてあるというオイルを全身に塗りたくられ、それが体中に染み込んでいる。皮膚が水分を吸収して潤ったその上から、さらにまぶされ続けた結果、ぬらぬらと輝くコーティングに全身が包まれていた。
しかも、これにさえ媚薬が含まれている。
そんな効果を知らずにいるのは親子だけで、兵士達は知っていながら全身に塗りたくった。
しかも、その上から服を着させられ、下着もドレスも台無しである。身体の表面に滴が流れ、今にも滴り落ちているほどのオイルまみれで、下着はあっという間に油分を吸いきり、ドレスも内側から濡れだしていた。
足を伝って流れていき、靴の中まで入ってくる。
(なんなのよ……)
アリシアが憤るのも無理はなかった。
あんな身体検査に加え、人をこんな有様で歩かせる。こちらは王族だというのに、こうも酷い扱いをしようと思うなど、ユミルは一体どんな神経をしているのか。
親子は執務室への案内を受けていた。
そのあいだにも、知らず知らずのうちに媚薬成分の浸透は進んでいき、体中の感度は上昇している。肌を風に撫でられただけでさえ、不思議と妙に気持ち良く、スカートの部分が足に擦れただけで声が出そうだ。
それを本人達は、全て検問の余韻のせいだと思っていた。
検問所からユミルの城まで、オイルは一向に乾く気配すらなく、もはや皮膚の表面から分泌され、滲み出ているのではないかと錯覚するほどに滴り落ちる。衣服が余すことなく肌に張りついた状態で、やがて二人は執務室の中へ通された。
ようやく、領主ユミルと直接の対面が始まった。
「ようこそ、王女殿下。ならびに次期王女アリシア様」
しゃあしゃあと、自分は何の問題もなく出迎えてみせているように、いたって礼儀正しい礼の振る舞いを披露していた。護衛をつけないことにより、王族である二人を決して警戒していないアピールを行いつつ、丁寧な言葉遣いで礼儀作法を守っている。
もっとも、その外見は一体何歳児か。
魔法で外見を若返らせ、実年齢より遥かに幼く見える話は聞いていたが、十歳かそのあたりの女児にしか見えはしない。
(これでお母様と同い年、ね)
英才教育を受けた子供なら、作法に則る振る舞いくらいはこなすだろう。
しかし、見ているうちにだんだんと、アリシアは彼女に警戒心を抱き始めた。見た目はこんなにもあどけなく、外見だけに関して言えば、思わず抱き締めて可愛がりたくなってしまう。
「では早速ですが、マリエル様。兼ねてからの用件について、お話を進めていきましょう」
ユミルはごくごく自然に仕事へと話を切り替え、政治について話し合いを始めようとしているのだ。領主なのだから当然といえば当然だが、それを女児の外見で、背も低いのに行っている様子には、見た目に反してあどけなさが欠けている。
まるで肉体は成長せず、中身だけが歳を取ったかのような――と、そう例えたくもなるのだが、その通りに実際に実年齢は高いのだ。
事前に用意してあるテーブルの、高い椅子へとどこかよじ登るようにして座る動きは可愛いが、いざ席についたなら、ユミルの顔は政治家のそれに切り替わっていた。玩具で遊んで楽しみそうな幼稚さの一切が消え、立派な大人との対面が始まっていた。
体中のオイルを気にしながら、アリシアは母と共に席につく。
「まずは先の私達の扱いについて追及したいところではありますが、それは一度後に回して、先に前々からの用件について話していきましょう」
マリエルはそう切り出す。
検問所での出来事は許さないとしつつも、それを今すぐには話題にせず、領地における市民の扱いについての流れに持ち込む。
「さて、民のあいだに格差が生まれること。それそのものは避けようがないのでは?」
ユミルはごく当たり前のことを言い出した。
畑や牧場で食料を作る者、武器や防具を作る者、それを身に着け戦う者。国中の人間がみんなでそれぞれの役割をこなし、他者の役に立ち続けていなければ、国というものは回らない。そこに暮らしや資産の違いが生まれるのは当然だ。
格差について全否定はする気はない。
ことの問題は、そもそもそんな話ではない。
「重税を課し、不当に搾取しながら、上澄みだけを優遇する在り方は、本当に問題のないものでしょうか。何事にも程度というものがあり、重税一つを取っても民に対する弾圧となり得ます」
日頃のおっとりと、穏やかな顔付きはどこかに消え、マリエルはいたって真剣に、鋭い眼差しで上に立つ者の在り方について語っている。
「とは言うが、民には十分なものを還元している。良い暮らしをさせ、良いものを喰えるようにしている。見合ったものを与えている以上、これは単に方針の違いでしかないと思うが?」
「町は確かに綺麗なものです。人々の身なりも良いわけですが、実際には貧民街の面積が一般市民の土地を上回っていますね?」
つまり、人口比率の上でも、奴隷かそれに近い身分が多い。税を吸い上げ、搾取するための層を厚くすることで、一般市民への還元率を高めている。
そもそも、この町でいう税には人的資源も含まれており、例えば人を奴隷として売り飛ばすことでも納税が成立する。
良い暮らしをして、優遇されている人間達は、滅多に不満の声を上げないだろう。
だが、魔法力の高低によって人の価値を決めている以上、もしも大魔術師の夫婦のあいだにまったく素質のない者が生まれれば、親の身分に関係なく奴隷の烙印を押される仕組みだ。
細かい点を挙げるのなら、金と権力を持つ親なら、自分の子供だけは――と、魔力がなくても特別扱いができるわけだが、それをやる力がなければ否応無しに子供を奪われ、奴隷街送りとされるのだ。
生まれた子供にたまたま素質がなかった場合、愛すべき我が子が制度によって奪われる。
そうした側面を持つ以上、裕福な一般市民の一部からも助けを求める声は上がって、それが王都に届いている。
「それに魔力の高低による扱いの変化については、我が国では制約を設けています。ユミル、あなたの領地はその制約を破ってはいませんか?」
魔法力による身分差問題を是正するため、歴代の王族達はまず規制を思いついた。
話は単純、魔力の有無が関わらない、魔法がなくとも持ちうる素質を尊重して、差別をしてはならないとする法律を作ろうとした。だが、それを阻まんとする勢力とぶつかり合うため、反発を和らげつつも押し通すための妥協案として生まれたのが、魔力量による基準である。
人を奴隷として扱っても構わないのは、魔力量が一定基準以下の者のみとする。
という規制をかけ、人の奴隷化率を下げることには成功している。さらには年々の改正を加え、基準値をだんだんと下げており、魔力が少ないという理由だけで奴隷になるケースは時代ごとに減っている。
そして、ユミルはその規制を破っている。
マリエルはつまり、それに関する報告の声を手に、今この場にやって来たわけだった。
「話は理解した。私とて、領地の没収などはされたくない。うっかり基準を超えていたというのなら、それを改善するとしよう」
妙に素直に聞き入れるのは、まだ何か裏があるからに他ならない。
母は警戒を怠っていない。
だからアリシアも、ユミルは一体次に何を言い出すのか、注意深く耳を澄ませていた。
「ただし、私はお二人に決闘を申し込みたい」
随分なことを言い出した。
確かに、この国には話し合いの決着をつけるため、決闘の勝敗によって全てを決めるための法律が存在する。それは戦争を背景にした武力優遇時代の名残であるように、既得権益の維持どころか、増幅する目的で作られたものだ。
魔力によって身分差をつける上、しかも魔力を駆使した魔法決闘の勝敗で決着をつける。
魔力主義者が作り出した法律で、維持派のせいで王族の声によってもなかなか撤廃できない悪法だ。しかも、以前の王族にはこれを利用してしまった者がいて、本人としては魔力主義の政策を潰す目的ではあったが、王族でもこれを使ったという前例が生まれたことで、現在では撤廃が困難と化している。
その前例をまた作ってしまうことになる。
(どうするのよ。お母様)
不当な差別の撤廃こそ考えてはいるものの、王族とて血筋によって高い魔力を維持している。王族自身が他ならぬ魔力主義の権化であるのも、奴隷扱いを含む是正が簡単には進まない原因の一つだ。
かといって、国王の資格条件から魔力量や血筋を撤廃すれば、他の者に国王のチャンスが巡る分、後継者争いに発展する。王の権力ともなれば、それは内乱にさえなりかねない争いの火種のため、魔力による差別をなくしたいのに、王自身は高等な魔力を持っていなくてはならない点も、物事を複雑にしている。
「さて、どうなさる。王族が安易な決断はできないのでしょうし、話を持ち帰ることも構いませんが、可能であれば今この場で返事を頂きたい。受けますか? 私の決闘の申し込みを」
ユミルは不敵な笑みを浮かべている。
(勝てるつもりなの?)
魔力主義の世界で権力を持つには高度な魔法が欠かせない。
よって、領主として君臨できる時点で、弱いことはまずあり得ないが、王族と戦って勝てる自信でもない限り、安易な決闘の申し込みなどしないはず。それとも、何か卑怯な手段でも用意しているのかと、アリシアは密かに勘ぐっていた。
「受けましょう」
マリエルが答える。
正気かと思う目で、アリシアは母の横顔を見た。
きっと、前例を増やすことは百も承知の返答だろうが、決闘法もマリエルやアリシアにとってはいつか撤廃したいものの一つである。その撤廃が余計に困難になりかねないのに、本当にそれでいいのだろうか。
「ただし、私が勝利した場合の条件として、奴隷解放や税制度の改善など、改革を行う他にも、決闘法の撤廃派に名を連ねて頂きます」
リスクと引き換えに、リターンを得るつもりらしい。
王族のお前だって、決闘法を使ったじゃないか――とする主張は、どうしても力を強めることにはなるが、その代わり撤廃派の駒を増やせるなら、という計算に違いなかった。
「ふむ、構いませんよ。ただ、そのような条件を加えるというのなら、こちらとしても一つだけ加えたい」
「聞きましょう」
「あなただけでなく、娘も決闘に参加すること」
信じられなかった。言葉が出なかった。
王族と貴族というだけでも魔力格差があるはずなのに、それを同時に二人も相手にしようなど、無謀にもほどがありすぎる。
アリシアの絶句だけでなく、母の横顔にもやはり、信じられないものを見る目が浮かんでいた。
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