アロマポットの香りとオイル、さらにドリンクの成分まで組み合わせた効果には、催眠のような作用もある。徹底的に感じさせ、絶頂を味わわせることで、立場の違いというものをわからせ、精神の奥底にまで刻み込む。
効果が薄れ、判断力の低下作用が消えてもなお、心理的に刻まれたものは残るという寸法で、自分が快感の虜であると思い知ったモスティマは、この店に通うようになったわけである。
そしてエクシアも、存分に思い知っていた。
「エクシア、とんだところに巻き込んでしまったみたいだね」
「そんなこと……」
二人は肩を寄り添い合わせていた。
もっとも、それは施術用のベッドの上、中年のフィールドの上である。二人は肩のくっつく距離で、お互いに慰めを求め合うが、その取らされているポーズは四つん這いだ。客席に向かって高らかに尻を掲げて、オイル濡れの輝きを見世物として見せびらかす。
「さて、お二人はこれまで少々反抗的でした」
中年は司会進行を気取ったように観客に語り聞かせる。
「そんなお二人にはやはり、お仕置きが必要と思われます。そのお仕置きの内容といえば、やはり当店としてはお尻をペンペンと叩いて差し上げるのが一番でしょう」
その瞬間だ。
ぺちん!
打音が鳴り響き、まず顔を歪めるのはモスティマだった。
「モスティマ……」
隣のモスティマが叩かれたことで、エクシアの目には一瞬だけ、その様子を気遣うものが浮かんでいた。
ぺちん!
だが、次はエクシア自身も叩かれて、それはすぐさま掻き消された。
二人は交互に尻を叩かれていた。
ぺちん! ぺちん! ぺちっ、ぺちっ、ぺちぃ!
ぺし! ぺし! ぺし! ぺちん! ぺちん!
客席から見た右のモスティマ、左のエクシアへと行われるスパンキングは、尻の様子がよく見えるように行われる。中年の身体が壁となり、視線を遮ることのない横合いのポジションから、外側の尻たぶを叩いているのだ。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
しばらくモスティマを叩いたら、次はエクシアの隣へ移動する。
また腕を振り上げて、叩き続ける。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
これを観客達は面白がっていた。
「ひゅー!」
「いい景色だぜぇ!」
ここにいる男達は、市街での乱闘を目撃するなり、自分自身がやられるなりして、それぞれペンギン急便の強さを知っている。モスティマを知っていた者もそれなりにいる中で、そんな二人が無様に尻を叩かれる光景ほど面白いものはない。
あのエクシアが、あのモスティマが……本当なら、決してこんな目に遭うはずのなさそうな顔ぶれの無様な有様ほど、客席を高ぶらせるものはない。
「いくつかなー?」
「叩かれて興奮してんじゃねーの?」
「言えてるぜ! ペンペンされて感じて見えらぁ!」
男達はこぞって嘲る。
「感じる……なんて…………」
エクシアは憤りに歯を食い縛り、シーツを硬く握り絞める。そんな拳の上にモスティマの手が置かれ、気休め程度には癒やしを感じていたものの、この状況下では僅かな癒やしなどすぐに吹き飛ぶ。
ぺん!
と、たった一撃で、慰めは台無しになる。
男達の言葉のせいか、叩かれての快感を意識してしまい、エクシアは自分の頭が真っ白になりかけたことを自覚していた。それも、絶頂の際にあるような、全身で快感が弾けて身体が痙攣して、それと同時にある真っ白な感覚だ。
ぺん! ぺん!
それと似たようなものをモスティマも感じていた。
(駄目だ……本当に、叩かれて興奮してしまって…………)
歯を深く食い縛っていながらも、手の平が尻たぶに当たれば気持ちいい。元より、痛みを与えるというよりも、立場をわからせる目的で叩いているのだ。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
音がよく鳴るコツを心得て、叩かれている実感を与えるために鳴らされ続けている音は、耳に対しても刺激になる。軽い力でペチンとやられた微細な痺れと、鼓膜を揺らす軽快な打音が快楽信号を生み出して、それがアソコを目指して一直線に駆けていく。
子宮の奥がヒクっと反応して、もしや叩かれているうちに新たに愛液が出てくるのではと、そんな不安を二人同時に抱えていた。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
そして、実際に濡れ始めていた。
叩き続けること数分、膣壁が疼き回って愛液は滲み出て、ワレメの周囲がヌラヌラとした輝きを帯びていた。せっかく乾いていたのだが、新しく濡れ直すことで輝きを取り戻し、客席は目敏くそれに気づいていた。
「おーおー!」
「濡れちゃって濡れちゃって!」
「マジにお尻ペンペンで感じるんだねぇ?」
二人揃って歯を食い縛り、顔を激しく歪めていた。
悔しかった。恥ずかしかった。
お尻を叩かれて感じてしまい、あまつさえ濡れるなどという、本人ですら知らなかったものを人前で暴かれて、それをからかわれるのだ。多大な恥辱に胸を絞められ、苦しささえ感じるのも無理はない。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
この時間が続くうち、軽い力にも関わらず、二人の尻たぶはほんのりとした赤らみを帯びているのだった。
スパンキングの手が止まる。
これでお仕置きの時間は終わったのだろうかと、てっきりそう思う二人であったが、次の瞬間に始まるのは性器への刺激であった。
「ひあぁ!」
「あぁぁ!」
二人同時に喘いでいた。
中年は二人のあいだの位置に立ち、二人分の性器を同時に愛撫し始めたのだ。指先でワレメを撫で、クリトリスに狙いを済ませてくすぐり抜く。手慣れた刺激の与え方を数秒も続けた後、しかし中年は即座に手を引っ込め身を引いた。
たった数秒だけ愛撫して、すぐさま身を引いた意味。
それは…………。
ジョロォォォォォォ………………!
中年は見抜いていたのだ。
今なら二人を失禁させられる。より一層の恥をかかせることができる。
過去何十人もの女を辱め、いいように扱ってきた経験から、失禁に追い込める直前の雰囲気をわかっていた。直感的にタイミングを見抜き、漏らさせるためのスイッチを押すかのように愛撫して、そして実際に放尿が始まったのだ。
ジョロロロロロロ………………。
二つの蛇口を捻ったように、細く黄色い水が真っ直ぐ下へ滴り落ちて、シーツに染み込み続けている。モスティマの、エクシアの、それぞれの膝のあいだで瞬く間に円が広がり、ぐっしょりとなった表面になおも注がれ続ける尿が飛沫を広げる。
モスティマ自身の、エクシア自身の内股に、飛沫のちょっとした滴がかかっていた。
二人は人権を失っていた。
それはただ、こんな場面を見られてもう生きていけないかのように思う、いわばその場の気持ちだけではない。もっと深い意味で、言うなればこの世界に存在していた自分の権利が、今ここで消滅していったかのような、大きなものを失った感覚に陥っていた。
二人の心理に刻み込まれたのだ。
自分達は惨めで卑しい存在であると、深々と……。
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