大槻唯の元にとあるドキュメンタリードラマの仕事が舞い込んだ。
その番組では社会的な意義や歴史、伝統など、深い背景を持つ行事やイベントの取材を行い、アイドルや俳優が実際にそれに接したり、参加してみる映像を収録する。そこに脚本に沿ったナレーターの台詞を添えるなどして、番組として放送されるわけなのだが、過去に扱った内容としては、地方のお祭り、地域のスポーツ大会、生徒に伝統芸を教える学校などがある。
では大槻唯が引き受ける内容とは何か。
――全裸登校週間。
某学校において開催される伝統行事だ。
その学校が江戸時代の私塾だった頃から続いているとされており、生徒達は一週間のあいだ裸で登下校を行い、学校生活を送っていく。身につけて良いのは靴下と靴、学校指定のリボンのみ。それ以外の衣服は一切まとわず、全裸で家を出発し、公共交通機関で学校に登校。部活や課外活動を終え、今まで帰っていくものだ。
例外としては、生理の場合にのみ、女子はショーツを穿くことができる。
その収録の一部は既に進みつつある。
『この全裸登校週間が長く続いている理由は何だと思いますか?』
放映される映像には、そんな質問がテロップとして表示され、実際に通っている生徒がそれに答える。
「どうすれば羞恥心を乗り越え、裸で外を出歩けるようになれるのか。全裸で外を出歩くことで起こりうる問題に、どのように対処していくか。全裸で外を歩くという非合理によって精神を鍛え、あらゆる問題に冷静にぶつかっていくための度胸や胆力を身につけられます」
それは脚本上用意された台詞ではあるのだが、学校としての模範解答でももちろんある。
生徒がそつなく答えるワンシーンを交えつつ、番組のオープニング映像は流れていき、やがてその日の放送回のサブタイトルが画面に浮かぶ。ここから本編に突入していくという流れであり、その本編開始から大槻唯の出番がやってくる。
『ちゃ、ちゃーっす!』
通学中の町並みを背景に、唯が画面に登場する。
声が震えていた。
いかにも平常心を装って、どうにかいつも通りにしようとしていながら、緊張によって震えきった声が出ているのは明らかだった。
見るからに顔を赤らめ、モジモジとしているのも無理はない。この番組ではゲストが実際に参加したり、触れてみる映像を撮るのが肝である。お祭りの収録であればそれに参加し、食べ物の取材であれば食べるところを撮り、スポーツであれば実際にやってもらう。
それは全裸登校週間においても例外ではない。
この映像を見たファンは、きっと度肝を抜かれることだろう。
アイドルの大槻唯が丸裸なのだ。
『大槻唯でーす! みんなアタシのことは知ってくれているかなー?』
しかも、ただの全裸ではない。
そこは立派な街中であり、一般の通行人や通過車両も背景に映り込んでいる。視聴者の立場から背景を見てみれば、全裸を気にした人々のチラチラとした視線がいかに多いかが窺える。唯のことをしきりに見ながら通り過ぎたり、しばらくのあいだ立ち止まったりと、好奇心を持って見ている者がいくらでもいた。
しかもテレビカメラの前である。
自分の裸が放送されるとわかっていながら、恥じらうなという方が無理な話だ。元々はモデルであり、グラビアがメインだったとはいえ、人前に立ったり写真を撮られることに慣れているだけで、AV出演やヌード撮影の経験があるわけでも何でもない。
唯は手で肝心なところを隠していた。
肩を内側に縮め込み、右腕では胸を隠して、左手ではアソコをぴったりと覆っている。腰をくの字気味に折り曲げて、テレビ向けに無理に浮かべた笑顔は引き攣ったものである。
『今日はアタシがゲストってわけなんだけどー。みんなは全裸登校週間って知ってるかな?』
唯が身につけているのは、制服用のリボンくらいなものである。
あとは靴に靴下と、肩にはスクールバッグをぶら下げている以外、下着の一枚もなく、だから背景に映り込む一般人は、もっぱら尻を眺めていることだろう。唯の真後ろを通りかかる車も、わざわざ速度を落として、通過しきる頃にってから元のスピードで去っていく。
『アタシが体験入学している学校では、そんな変わった行事があるってわけ。なーんか江戸時代の頃から続いてるって話で、歴史が深いってカンジ?』
ほっそりとしたしなやかな右腕からは、潰れた乳房の乳肉がはみ出ている。
『セーシンを鍛えるとか? タイオー能力を高めるとか? なんか色んな意義があるカンジで、この学校の卒業生ってみーんな大企業に就職したり、成功してるみたいなんだよねー』
唯は精一杯にやっていた。
周囲から突き刺さる一般人の視線、撮影スタッフの視線、これがテレビで放送されるという事実。恥じらいを煽る要素ばかりが集まって、胸をきつく締め上げられ、苦し紛れにどうにか浮かべた引き攣った笑みが心境を強く物語っている。
『ってわけで? 急にハダカでビックリしたと思うんだけど、今日はアタシをゲストに全裸登校週間についてやっていきまーす! みんな? チャンネルは変えないでねー?』
放映時にはCMが挟まる直前に、唯は事前に決まった通りの台詞で視聴者に向かって呼びかける。
ここでこのシーンの撮影は終わり、カメラ向けの緊張感が唯の肩からは抜けながら、なおも視線を意識し続ける。被写体としてのカメラに対する意識は緩んでも、多くの一般人やスタッフ達にも裸を見られている状況では、羞恥心の方が緩んでくれない。
これら一連の内容が、番組放映の際に流れる冒頭となる。
そして、これから登校シーンや授業の風景など、様々な場面を撮影して、それらを編集によって繋ぎ合わせる。一つの番組としてまとまったものが、全編にわたってテレビばかりかネット配信にまで流れるのだ。
自分の裸がそれだけ広々と公開される。
その事に、もちろん思うところはあるのだが、唯はこの撮影に納得していた。
あるいは懸命な説得によって説き伏せられ、納得させられたといってもいいのだろう。唯は全裸登校にまつわる歴史や意義について事前に説明を受けている他、卒業生がその後成功していった華々しいエピソードも聞かされている。
学校としても、有名なアイドルにアピールをしてもらえれば、絶大な効果が得られるはずだと信じている。学校の名が広まるばかりか、他にも同様の行事に取り組んでみようと、名乗りを上げる学校とて出て来るかもしれないのだ。
唯はそんな宣伝塔として、世間に全裸登校を知ってもらうきっかけとして、様々な撮影をこなすこととなっていく。
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