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 そして、ゼノヴィアはホロヌィエの前に引き立てられた。
 その後も町の徘徊を継続させられ、行く先々で視姦を受けた。同行するカバリヌ臣下が適当な市民に声をかけ、その都度その都度、ゼノヴィアのことを至近距離から視姦させる。胸を揉ませ、尻を触らせる。
 ゼノヴィアの体だというのに、勝手に触る許可を出され続けた。
 おかげでこの一日で一体何人に体を触られたかもわからない。

「ご気分はいかがですかな? ゼノヴィア殿」

 その上で、ホロヌィエが目の前に立っている。
「気分なんて、いいわけないわ」
 裸体をホロヌィエにまで視姦される屈辱で、頭に怒りの熱が溜まっていく。
「そう睨むこともないでしょう。一思いに処刑しないだけ、温情というものではありませんか」
「生かすのも政略のうちでしょう!?」
 ゼノヴィアは声を荒げた。
 残党軍に対する人質になる。ゼノヴィア自身にそんなつもりは毛頭ないが、ゼノヴィアとカバリヌの誰かが結婚すれば、この地にカバリヌ国家の歴史を刻むことになる。国威を象徴するにはうってつけだろう。
 だが、こうしてゼノヴィアのことは辱めている。
 ならばやはり、人質として扱ったり、王族を慰み者にすることで、気を満たすための道具にするのだろう。元王族を抱かせてやるから、色々と便宜を図ってくれ、などと取引の材料に使われるのもあり得る話だ。
(一体どうしたら……)
 ゼノヴィアは拳を握り締め、どうにもならない状況に苦悶する。
 だが、それでもカバリヌをこの地から追い払い、再びマーデンの歴史が始まる未来を信じていたかった。
 それというのも、残党からの接触があったのだ。
 カバリヌ臣下が声をかけ、至近距離からの視姦を何度も許してきた中に、密かに合図を送って来る者がいた。着ていた上着の裏に国旗のマークを縫い付けて、バレないようにこっそりと見せつけてくる者がいたのだ。
 しかも、カバリヌ国旗に×印を付けていた。
 あれはきっと残党軍だ。
 兵士やカバリヌ臣下がすぐ傍にいた状況で、具体的なメッセージは何もない。ただ残党軍が自分達の存在をゼノヴィアに伝えたという、それ以上でもそれ以下でもなかったが、このまま黙っているつもりはないとわかっただけでも十分だ。
 まだ少しでも希望が残っているとわかっただけ、どれだけ辱めの時間が続こうと、きっと耐え抜いてみせる理由ができた。
(耐える……必ず耐える……)
 まだ辱めのアイディアは残っているのだろう。
 ゼノヴィア達の立つこの場所は、大衆を集めるほどではないが、ちょっとした広場となっている。見学者を集めるには十分なスペースがあり、周りには数十人はいることだろう。そんな集まった市民が狼藉に走らないように、見張りの兵士が周囲に配備されている。
 そして、人々に囲まれた輪の中心で、ゼノヴィアとホロヌィエは対峙しているわけだった。
「ではゼノヴィア殿? 次なる楽しみといこうではありませんか」
(私はちっとも楽しくないわよ!)
「これを首に付けて頂きたく」
「く、首輪?」
 ホロヌィエが用意した首輪は、単なる金属製の輪ではない。長い紐が繋げており、ペットの動物を散歩させるのに用いる道具として作られている。
 犬のお散歩というわけだ。
 ホロヌィエが臣下に手放し、そのカバリヌ臣下がゼノヴィアの首に付けてくる。カバリヌ出身の臣下を抱え、すっかりカバリヌ国の人間というわけだ。憎しみがさらに増し、喉笛に紙付いてやりたくなる。
「では四つん這いになって頂こうか」
「四つん這いって……」
「お散歩ですよ。お散歩」
 それがホロヌィエの考えた趣向であった。
 ゼノヴィアを丸裸で四つん這いに、首輪の繋いだ紐で歩かせる。ペットのお散歩を演じたプレイを市民に見せつけ楽しもうというわけだ。
(う、裏切り者なんかに!)
「念のために繰り返しますが、逆らっても良いことはありませんぞ?」
「わかってるわよ。くぅ……!」
 従わなくてはならない悔しさに歯を食い縛り、ゼノヴィアは多大な屈辱を胸にしながら、ゆっくりと地面に膝を突いていく。両手を落とし、四つん這いとなることで、それを見下ろす周囲の視線が余計に深く突き刺さる。
(なんて惨めなの?)
 まるで卑しい奴隷の身分だ。
 こんな惨めな自分を見下ろし、嬉しそうにほくそ笑んでいるかと思ったら、ホロヌィエのことがどんどん恨めしくなってくる。
(許さないわ。絶対に!)
「ほれ、歩きますぞ? ゼノヴィア殿?」
 ホロヌィエに紐を引っ張られ、首輪が軽く食い込んで来る。
「よくもこんな真似を……」
 呪わんばかりの眼差しで、ゼノヴィアはホロヌィエの背中を見上げた。
 悠々と歩く後ろについていき、ゼノヴィアは四足歩行の動物になりきって、四つん這いのままに歩いていく。
 もちろん、兵士も着いて来た。
 後ろを歩く兵士の視線を尻に感じる。
(おおっ、尻がフリフリと)
(これは面白い光景だ)
 カバリヌ兵も楽しんでいた。
 ゼノヴィアの歩行によって、尻の筋肉も可動している。脚が前後するのに伴って、太ももの筋肉に連なり尻肉も上下する。お尻がフリフリと左右に振られているかのような、見ていて面白い光景が出来上がり、それを後ろの兵士は鑑賞していた。
 周囲からの視線も、言うまでもない。
「あぁ……ゼノヴィア様……」
「そうか。あの人がマーデン王族の……」
「もうカバリヌのペットなんだ」
(………………っ!)
 屈辱を煽る言葉が聞こえ、ゼノヴィアは歯が折れそうなほどに食い縛る。平手だった両手を拳に変え、手の平の内側に爪が食い込むほどに、力強く握り絞めるのだった。
(誰がペットよ! 全部! 全部ホロヌィエのせいじゃない!)
 瞳に宿る憎悪がさらに膨らむ。
 国を裏切り、王族をこんな風に扱って、ホロヌィエはさぞかし悦に浸っていることだろう。それを何としても覆し、目に物見せてやらなければ気が済まない。
(殺すわ……)
 この男だけは本当に許せない。
(殺す――殺す――絶対に生かしておかない……!)
 しかし、心の中にどれだけの反意を抱き、チャンスさえあったなら必ずや……と思っていようと、この光景を見る市民がマーデン再興を夢見るはずもない。王族がペット扱いされる場面を見れば、誰しもが思うだろう。
 王族がこうなった以上、もう政治の中にマーデンを思う人間は残っていない。
 処刑、投獄、追放。
 そのいずれかによって排除され、この地をカバリヌとして扱う人間だけが城の中で政治を行う。その状況をひしひしと感じ取っているはずだ。
 しかも、こんな時にである。
(ううっ、トイレ……)
 ゼノヴィアはホロヌィエの背中を見上げ、それから背後のカバリヌ兵を意識する。
 長くこんな格好でいたせいか、だんだんと尿意が湧いた。
 かといって、誰に申告しようと、素直に行かせてもらえるとは限らない。むしろ、市民の前で漏らせとまで言ってきそうだ。こんな首輪に繋げて歩かせる行為を思いつくなら、人前で小便をさせる発想ぐらい、きっと出て来ることだろう。
(トイレに……行けない……)
 ゼノヴィアはそう考えた。
 こうなったら、尿意のことは隠し抜き、この一連のプレイが終わって牢屋の部屋に戻るまで、どうにか堪え抜くしかない。
 堪えて堪えて堪え抜き、牢に置かれた壺に用を足す。
 それしか、ない。
 今はまだ、尿意の気配が出始めているだけで、深刻な状態に陥るまでには数十分か一時間以上の余裕がある。それだけの時間があれば、きっと問題なくトイレを済ませられる。ゼノヴィアはその可能性に期待して、我慢の道を選んでいた。
 しかし、歩いた先に樹木が見えて来た時だ。
「ところでゼノヴィア殿は、犬のオシッコをご存じですかな?」
 オシッコ。
 ホロヌィエの口からその言葉が出た途端、ゼノヴィアは騒然とした。
(ま、まさか……)
「ああした木に匂いをつけ、マーキングを行うと聞いたことがあるのです。ゼノヴィア殿も、せっかくですから犬のようにオシッコをなされてはいかがですかな?」
「冗談じゃないわよ! なんでそんな――――」
「もちろん拒否なさっても構いません。その場合、一度の拒否につき何人処刑するかは、城に持ち帰ってから検討という形になりますが」
「ホロヌィエぇ……!」
「どうなさいますか?」
 ホロヌィエは勝ち誇っていた。
 今の勝者の立場なら、敗者に対して自分は何をしてもいい。それこそが今のホロヌィエの態度であった。
「今はトイレなんて……」
「では水をたっぷり飲んで頂き、出そうになってからでも構いません」
 どうやら、ゼノヴィアの尿意に気づいているわけではない。
 このタイミングで思いついたのは偶然らしい。
 今は尿意がないという主張を押し通しても、ならば尿意が出るまで待つとまで言ってくる。
(ふざけないでよ! なんでそんなことまで思いつくのよ!)
 思春期の少女を一体どこまで辱めれば気が済むのか。
 冗談じゃない、本当に冗談じゃない。
「どうですか? 今、なさいますか? それとも、後になさいますか?」
 ゼノヴィアは必死で頭を回す。
 後回しにした後、どうにか放尿を回避できる手立てはないか、必死になって考えるが、今のゼノヴィアにはそもそもの手札がない。政治について学ぶ機会もなく、何の力や後ろ盾もないまま捕まって、頼りといったら解放軍が自分を助けに来てはくれないかという、僅かな可能性ぐらいなものである。
(だ、駄目っ、先延ばしにしても、結局は……。だからって、今するっていうのも……)
 ゼノヴィアは迷い、慌てる。
 せめて放尿だけでも避ける道を見つけたい。
「い、いくら何でも、そこまでの野蛮を披露しては、市民の不信を煽りすぎるのでは……」
 辛うじて思いつくのは、そんな言葉だ。
「そうはいきませんぞ? ゼノヴィア殿」
 そして、ホロヌィエはゼノヴィアの考えをすぐさま看破する。
「ゼノヴィア殿。あなたはきっと、弁舌によってその身に降りかかる辱めを軽減して、屈辱を最小限にしようとお考えになられたのでしょう。このように扱われ、それでもなお、そのような心をお持ちになられるとは、いやはや関心致しますが、斯様な手に乗せられる私ではないのですよ」
 駆け引きなど素人に過ぎないゼノヴィアでは、老獪なホロヌィエをやり込めるのは不可能だった。
 それどころか事態は悪化した。
「では今すぐに放尿して頂きましょう」
「なっ!? 今すぐって、だからトイレは……」
「ええ、今は尿意がないと仰るのでしょう? それもまた、嘘やもしれません。たとえ真実だったとしても、ならば尿意が出てきた時、改めて放尿に臨んで頂くまで。さあ、そこの樹木に向かって片足を上げ、犬のポーズでオシッコをするのですよ」
 ホロヌィエは優越感たっぷりの顔でゼノヴィアを見下ろし、楽しそうに樹木を指す。
(あ……あぁ……嫌だ……そんな……そんな…………)
 ストリップや四つん這い歩行に留まらず、さらにそれ以上の辱めが待っている状況に、もはや絶望さえ浮かべていた。
「さあ、早くこちらへ」
 ホロヌィエは紐を引っ張る。
 それに引かれて、ゼノヴィアは歩かされる。
 樹木がだんだんと近づくことが、まるで処刑台へ一歩ずつ近づいているかのように思えてくる。悲劇と絶望の待つ樹木へと、とうとう到着してしまい、大勢の市民が見守る中で、ゼノヴィアは片足を上げていた。
 犬がオシッコをするポーズそのままに、樹木に向かって右足を上げていた。
(あぁ……私は……こんな……こんなところで…………)
 放尿の決意など、まさか固まってなどいない。
 出ないで欲しい、尿意には消え去って欲しいと願いつつ、しかし今ここで出なければ先延ばしになるだけだと思うと、いっそ今した方がいいのかもわからない。
 だが、出す出さないを迷う余地はなかった。
(な、なんで……やだ……!)
 ゼノヴィアは焦った。
 放尿など意識していないのに、ポーズを取っただけで我慢が緩み、体の方が放出へと移り変わろうとしているのだ。
(やだ! 出ちゃう! 出ちゃう!)
 ゼノヴィアはパニックを起こしていた。
 そうとしか言いようがないほど、焦燥は最高潮に膨らんでいた。
 そして、いよいよ決壊する。

 チョロロロロロロロロロ………………。

 黄金のアーチが樹木の表面に降りかかる。
「ああ……!」
「王族があんな真似を!」
「本当に! 本当にオシッコをしている!」
「あれが王族だって?」
「ゼノヴィア様……いくら何でも堕ちすぎだ……」
 放尿と同時に降りかかる様々な声が、ゼノヴィアの心を締め上げる。
(ち、ちがうわよ! 私だって好きでしているわけじゃ! あなた達だって、強要されているのはわかっているでしょう!?)
 そうだ、もう尿は出した。
 命令には確かに従ったのだから、すぐさま打ち止めにしてしまおう。出した瞬間、すぐに途切れたとなれば、それでどうにか済むはずだ。
 もちろん、済むとは限らない。
 少ししか出なかったのなら、ではやはり時を改めて、という展開になる可能性もあるのだが、パニックに陥ったゼノヴィアでは、そんな細かな可能性は考えていられない。ここで尿が途切れれば、きっとどうにかなるとばかり考えていた。
 思いついた考えに飛びつき、必死でそうしようとした。
 だが、止まらない。
 下手に下腹部に力を入れ、我慢を試みたことで、かえって尿の勢いは強まった。

 ジョロォォォォォォォォォ…………!

 出力を強めたアーチは、みるみるうちに樹皮を濡らす。
 水分が染み込み、吸水限界を迎えた表面から地面へと流れ落ちていく。着弾点で弾ける尿から飛沫が散り、周囲の土にはいくつもの滴が落ちる。雨粒をポタポタと、適当にバラ撒いたかのような痕跡が増え続けていた。
 尿は土に染み込み始め、やっとのことで勢いは緩み始める。

 チョロロロロロロロロ………………。

 出始めと同じ勢いに落ちる。
 さらにそこから出力が低下して、アーチのカーブ具合は緩んでいく。樹皮への着弾地点も下へ下へと下がっていき、土に直接垂れ流すまでに弱まった。
 やっと途切れる。
 結局は十分な放尿を行って、全てを出し切った上で途切れたのだ。
「はっはっはっはっはっはっは!」
 ホロヌィエは高笑いしていた。
「見たか諸君! マーデン王族唯一の生き残りであるゼノヴィア殿は、もはやカバリヌに逆らう力を持っておられない! このように放尿の命にさえ従い、人前で恥も知らずに解き放つまでに堕ちているのだ!」
 その場に集まっていた市民に向け、ホロヌィエは演説する。
 ゼノヴィアがいかに卑しく、下等な存在に成り下がったか。尊いはずの血を汚し、奴隷以下にまでしてみせたか。カバリヌ兵がゼノヴィアを捕らえ、ストリップを強要するため台の上に引っ立てるまでの流れを語り、ついには今ここで放尿したのだと、大きな声で聞かせている。
 ざわめきが広がっていた。
「なんてことだ……」
「あれが王族の末路だなんて」
「戦争に負ければ、いかに尊い血の持ち主もああなるのか」
「マーデンは終わった。実感できるな」
 国の終わりを突きつけられたように感じる声が聞こえる。
 それらの声は、どこか悲しみに暮れるようである。
「すげー光景だったな!」
「ああ、王族のあんな姿、百年の歴史を辿ったってありはしないぜ!」
「長い歴史の中でも、そうそうないレアな場面を目撃したんだ!」
「目に焼き付けたぜ!」
 面白い光景を見たことで、大喜びしている声もある。
 女の身ではしたない真似をすれば、興奮する男は必ずやいるわけだった。
「我々もしっかりと拝見させて頂きましたよ?」
「ねえ、ゼノヴィア殿。一体どんなお気持ちですか?」
 カバリヌ兵が嬉々として囁いて、言葉による辱めと追い打ちをかけてくる。
(死にたい……! 死にたい、死にたい……!)
 ゼノヴィアは目に涙を溜め込んでいた。
 こんなことをさせられて、ごくごく平然としていられるような思春期の少女などいない。尊厳を深く傷つけられ、もう生きていけないかのような深刻なものを胸に抱え、頭を激しく振り乱す。
 脳の中から記憶を振り払ってしまいたいように、周囲の声を拒んで弾き返したいかのように、ゼノヴィアは髪を振り乱し続けていた。



 
 
 

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