まず、手錠が外された。
そのままでは不便だろうと、ホロヌィエの指示で錠が外され、両手は自由になったのだが、その代わりのようにゼノヴィアを囲む兵士の数が増やされる。拘束は解けたというのに、ますます脱走は難しくなっていた。
「ではゼノヴィア殿。マーデン市民……いえ、元マーデン市民を集めた舞台の上で、あなたにはストリップショーを行って頂きましょう」
「す、ストリップって……!」
ゼノヴィアは青ざめた。
この男は本気だ。
本気でゼノヴィアを辱め、恥辱のどん底に堕とそうとしている。ゼノヴィアがどんな風に泣き喚くか、既に楽しみでならないような邪悪な笑みをホロヌィエは浮かべている。
「無論、お嫌であれば、牢に繋いだ命と引き換えに、そういった趣向は中断致しましょう」
「くっ、くぅぅ……!」
ゼノヴィアは強く歯を噛み締める。
(そういうことなの? そうやって私を利用する気ね!)
意図が読めてきた。
ゼノヴィアに屈辱を強いれば、マーデン愛の強い者はまず怒る。元マーデン市民からの不信を買うのは避けられないが、どこかに潜む残党軍を挑発して、誘き出すにはうってつけのやり方だ。
ホロヌィエに従えば、マーデン奪還を望む勢力が罠に飛び込み、ことごとく討ち取られる可能性を上げてしまう。かといって、従わなければ目先の命が大量に奪われる。
「いかがなさいますか? 今ならゼノヴィア殿ご自身の意思を尊重しますが?」
(何が尊重よ!)
ストリップなどと言い出して、尊重も何もない。
「私としてはストリップの舞台に上がる方をオススメしますな。残党軍への挑発には、捕らえた勢力の公開処刑という方法もある。ゼノヴィア殿に関しても、力ずくで陵辱させるという手もありますからな」
一番マシな道をまず提示して、それを選ばなかった場合の未来を示してくる。
尊重と言いながら、結局は誘導している。
実質、強要と違いがない。
「どうなさいますか?」
形式だけは意思尊重のポーズを取り、ホロヌィエは改めて尋ねてくる。
答えは決まっていた。
「……舞台、上がればいいんでしょう?」
ゼノヴィアがそう答えた瞬間だ。
ニィィィィィ――――。
おぞましかった、
人の表情はこんなに歪むものなのかと、見ていて驚くほどに口角は吊り上がり、邪悪な笑みでホロヌィエの顔は変形していた。
見ていてゾッとした。
同時に納得した。
こんな男だからこそ、国を裏切ることができたのだ。
「ではゼノヴィア殿をご案内して差し上げたまえ」
「はっ」
ホロヌィエの命令に兵士が応じる。
「さあ、ゼノヴィア殿」
「こちらへ着いて来て頂きます」
表面だけでは王族への敬意を示しつつ、ゼノヴィアのことを囲むカバリヌ兵には、一人の少女にストリップを強いることへの躊躇いが感じられない。このカバリヌ兵達にとって、マーデンは制圧した土地であり、戦勝者である自分達が上なのだという意識は強く感じられた。
ゼノヴィアは案内に従って町を進む。
そして、広場に出た。
用意されていた舞台は、舞台とは言っても演劇を行うようなそれではない。本当なら大衆の前で声を張り上げ、演説をこなすためにある台は、現代でいうなら学校の校庭にある朝礼台がもっとも近い。
その木製の台に上がらされ、地上数十センチほどの高さから広場を見渡す。
「現在、カバリヌ人がストリップショーの開催を触れ回っております」
「それ故、今に人が集まるでしょう」
カバリヌ兵のうち二人が説明する。
しばらく待ったが、集まりは順調だった。
まばらにしか人のいなかった広場で、徐々に人口密度が上がっていく。一体何百、何千人分の視線が集まっているのだろう。一国の王女が台に立たされ、戦勝国に命によりストリップを強要される。単に市中を歩いて回るより、よほど国の終焉を象徴しやすいだろう。
人口密度が十分な域に達したところで、ゼノヴィアの隣に一人のカバリヌ臣下が上がってくる。
「元マーデンの市民達よ!」
彼は大きな声を響き渡らせる。
「彼女はマーデン王族の血筋たるゼノヴィア・マーデン! ご存じのように、我らカバリヌがマーデンを勝ち取り、マーデン国はその歴史に終わりを告げた。今、それをより強く象徴するために、ゼノヴィア殿には一糸纏わぬ姿となって頂く!」
大衆は騒然としていた。
「ゼノヴィア殿のストリップショーの開催だ!」
囚われの身を晒すため、市中を徘徊するというお触れは出ていても、ストリップショーという告知は出ていない。初めてそんな事実を知った市民達により、広場には無数の感情が渦巻くこととなっていた。
「そんな……ストリップって……」
「くそ、カバリヌめ……」
「でも、あの子の裸、ちょっと見たいような……」
「馬鹿! お前は何を言ってるんだ!」
あらゆる声がひしめき合い、それは一つの巨大な塊となっていく。個々の声が無数に集まることにより、ざわめきという名の途方もなく大きな、目には見えない物体が形成され、それがゼノヴィア一人を包み込む。
見えない重みがどっと押し寄せ、ゼノヴィアの肩にのし掛かる。
(すごいプレッシャー……立っているだけでも辛いわ…………)
これから行うことを思うと、気は重くなる一方だ。
かといって、ここでストリップショーをやらなければ、これよりも最悪な未来が待ち受けている。ホロヌィエの誘導に乗るなど業腹だが、ゼノヴィアは一番マシな未来を選ばざるを得なかった。
残党軍が生きて勢力を伸ばしてくれれば、マーデン復活の未来が少しは見えてくるだろう。
自分がここで脱ぐことで、マーデン愛の強い市民が怒りを燃やし、奮起するきっかけにでもなってくれれば、それを残党軍が取り込む可能性はある。カバリヌにとっては、残党軍に対する挑発で、罠に誘き寄せるための作戦であっても、肝心の残党軍がそれに乗らなければ、そういった展開もあるはずなのだ。
少しでも良い未来を信じることで、ゼノヴィアは心を保つ。
逆に言うなら、意義を見出しでもしなければ、とてもストリップなどできそうにはない。
「では諸君! ご覧下さい! うら若き少女のストリップを!」
カバリヌ臣下が高らかに告げ、主役であるゼノヴィアだけを残して自分は台を下りていく。一人大衆と向き合って、ゼノヴィアはまず首のスカーフから取り去った。
ゼノヴィアのドレスは胸元を開け、谷間を露出しながらも、スカートは足首に届かんばかりの丈の長さである。
そこにスレイズを重ねていた。
スレイズ――あるいはコルセットと言ってもいい。この時代、この大陸における腹巻きと言い換えられる。そんな胴体に巻きつけるタイプの着衣を重ね、ドレスを上から締め付けている。胸部から腹部にかけてをくるりと包み、ちょうど乳房を持ち上げるかのようになっている。
そして乳房の真下、腹巻きの頂点にあたる位置には、装飾品として宝石が括り付けられている。緑色の宝石を中心にリボンが垂らされ、衣装をより華やかに見せていた。
これを今から脱ぐ。
(ホロヌィエ……殺す、殺す…………)
自分をこんな場所に立たせて、ストリップなどという辱めを実質的に強要してきた。国を裏切るに飽き足らず、そんな真似までしてくる男への憎しみは膨らむ一方で、いずれどんな風に殺してやろうかとさえ考え始める。
しかし、憎悪を晴らす想像は一変して重圧となった。
スレイズを外すため、両手を後ろに回した時、これから裸になることへの思いが強く大きく膨らんだ。まるで自ら国民を失望させ、カバリヌへの恭順を推し進めるかのようで耐えがたい。
ゼノヴィアがストリップを拒んでも、ホロヌィエが言っていたように、他にいくらでも方法があるのはわかっている。そちらの方がより残酷で、大きなショックを与えることになるのも、頭では理解している。
しかし、目の前の大衆を自ら突き落とすなど……。
もちろん、そういった国政の視点だけではない。仮にも年頃の乙女であり、思春期特有の恥じらいは多分にある。一人や二人の男を前に脱ぐのでさえ、きっと巨大な羞恥心に襲われることになる。
それが、こんなにも大勢の前だ。
体中が緊張感に蝕まれ、脱ごうとする手はひどく震える。スレイズを固定するための紐に触れ、ほどこうとはするのだが、必要以上に手こずった。
確かに、使用人に着替えを手伝わせるような衣服である。
かといって、一人での着脱が不可能なわけではない。手が届かない位置に紐があるならほどけないが、それは届く位置にある。リボン結びの紐を指先で捉えたら、あとは引っ張りさせすればほどけるはずだ。
何も難しいことがない。
それなのに、心臓が早鐘のように鳴り響き、身体の内側がうるさいせいで、やたらに手こずり時間がかかる。指先に捉えたはずの紐を見失い、再び捉えたかと思いきや、それはリボン結びのリングの方だ。
(ホロヌィエ……本当に、本当にあいつさえいなければ…………)
国が奪われさえしなければ、裏切り者さえいなければ――自分がこんな目に遭っている根本的な原因は、連鎖的に遡るならナトラによる金鉱山の占領ではあるのだろう。そこからさらに遡れば、そもそもマーデンがナトラに戦争を仕掛けている。その戦争の理由は政治のわかりやすい成果を求めてのことであり、事柄を繰り返し遡れば切りがない。
しかし、どんなに頭の中で出来事を振り返り、遡ってみたところで、ゼノヴィアが一番強く憎むのは、やはりホロヌィエなのだった。
やっと紐がほどける。
脱ぎ去ったスレイズを足下に落とすと、胴体への締め付けがなくなることで、ドレスはふんわりと緩んでいた。布と肌のあいだに隙間が生まれ、腰のくびれに沿ったカーブ状のラインは失われる。
だが、最終的には全裸となり、生肌まで晒すのだ。
「ゼノヴィア様……」
「あぁ、王女殿下が……」
ストリップを開始したことで、本当に脱ぎ始めているゼノヴィアへの眼差しが、無数に集まる市民それぞれに浮かんでいる。悲嘆に打ちひしがれる者もいるだろう。国の終焉を実感して、涙する者もいるだろう。マーデンへの愛国心から義憤に燃え、カバリヌ許しまじと決起を誓う者もいるのだろうか。
カバリヌに屈したゼノヴィア個人への失望もきっとある。
女の子が裸になろうとしている以上、性的な好奇心からニヤニヤとした視線を向ける者もいるはずだ。戦争や政治の背景がどうであれ、頭を空にしてただただストリップに興奮するような男が一人もいないことなどありえない。
(そうだ。ここで裸になったら、たとえマーデンが再起できても……)
ゼノヴィアは今頃になって気づく。
王族の名が貶められ、権威に大きな傷がつくのだ。万が一にも残党軍がカバリヌを追い払い、マーデン国の名を取り戻すことが出来たとしても、今回の出来事が後々に尾を引く可能性が出て来るのだ。
(最悪だ……こんなことに従うなんて……)
ゼノヴィアのドレスは上下一体だ。
着替えの際は背中の紐で締め具合を調節する。それは自分ではやりにくいので、使用人に手伝わせることになるのだが、脱ぐ分にはやはりリボン結びを引っ張ればいい。必要なだけ緩めれば、あとは脱ぐだけとなる。
そして、上下一体である以上、これ一枚を脱いだらそれで下着姿となる。
ゼノヴィアは改めて両手を背中に回した後、同じように手こずりながら、ただ紐を引っ張るだけに時間をかけ、やっとのことで緩めてみせる。
(ああ……いよいよ…………)
スカート丈を握り絞め、その瞬間だ。
ほんの数メートルの半径に集まる男の群れは、期待と悲嘆を織り交ぜた複雑な顔で、ごくりと生唾を飲んでいた。これだけの広場で、これだけ大勢集まっていて、全員の一人一人の表情などわかりはしないが、目に見えやすい範囲は別だ。
ゼノヴィアの目につく範囲で、男達はそれぞれ身構えていた。
性的な興味や期待感のほどは人によって異なるが、目の前でスカートを持ち上げて、その中身を見せようする瞬間を前にして、いずれにしても視線を奪われきっている。誰しもが自分に夢中になっているのを肌で感じて、ゼノヴィアはまだ下着も見せないうちから頬を薄ピンクに染め始める。
「ゼノヴィア殿? ホロヌィエ殿からの指示であります」
台のすぐ近く、ゼノヴィアの足下には、先ほどの大胆な開始宣言を行った人物が控えている。
「きちんと色っぽく、スカートの中身を見せびらかしながら脱ぐようにと」
(何なのよ! その指示は!)
ホロヌィエへの怒りが止まらない。
この場にいない男に対して、ゼノヴィアはみるみるうちに視線を強める。頭の中には嫌というほどその顔が色濃く浮かび、まるで目の前にいるかのように睨みつける目つきに変わっていく。
ゼノヴィアはスカートを上げ始めた。
まずは白い脛が、それから膝が、だんだんと肌が見えるにつれて、男衆の瞳に宿る期待感は増幅している。突き刺さる視線の圧は強まってくる。
丈が長い分、巻き取るように、丸めるように持ち上げる。
膝より上の領域が見え始めると、さらに視線の圧は強まって、鼻息の荒さがひしひしと伝わって来る。台のすぐ真横にいる臣下の男も、周囲で台を取り囲み、必要以上の接近を許さないよう、武器を握って市民を威圧している兵士も、ゼノヴィアの下着が見えそうになればなるほど、ニヤニヤといやらしい意識を向けて来る。
そして、とうとうショーツの三角形の先端がちらりと覗けて見えていた。
それはゼノヴィアにほど近い、たった数メートル以内の距離から、それも下から覗き込む角度で見ていればこそ、いち早く色を確認できたと言える。
「し、白だ……!」
衝撃に打たれたように、一人の男が目を丸めていた。
もちろん、下着の色で驚きなどしないだろう。白など一般的な色に過ぎない。それでも男が驚愕で目を見開き、どことなく震えた声を上げたのは、王族の下着を見てしまったからだ。
本来なら、決して拝む機会はない。
見てはいけないものを見てしまった動揺で、心臓が跳ね上がっているのが見ていてわかる。両手で胸を押さえ、自らの興奮を静めようとしながらも、鼻息を荒くしている。無意識の行動なのか、しっかりと覗き込もうと、だんだんしゃがみ込んでいく真似までしていた。
(いや……!)
ゼノヴィアはそんな男の様子から目を背ける。
背けるが、それでも頭の中には人質のことがある。ゼノヴィアは健気にもスカートを上げ続け、なおも露出面積を増やしていた。
今はまだ、際どい角度から覗かなければ、下着など見えはしない。
それがだんだんと後ろの方にも見えるようになっていき、ついには完全にスカートをたくし上げ、中身を見せびらかした状態が出来上がる。どうぞ下着を見て下さいと、慎ましやかに披露するように、ゼノヴィアは大衆にショーツを公開していた。
「マジに白か」
「いいパンツだ……」
「あ、ああ……さすがに高級品だ……」
「いい職人が作ったんだろうなって、遠目からでも伝わって来る」
事実、高価な生地を使い、職人技で仕立てたゼノヴィアのショーツは、肌触りの良い滑らかな生地がグラデーションを成している。下の方は純白でも、上へいくほど水色へと移り変わって、腰回りにはレースをぐるりと一周させている。
この時代、こんな風に布にグラデーションをかけるには、よほど巧みな染料の扱いが必要となる。
(うぅ……こんな大勢に…………)
スカートを握る拳に力が籠もり、だんだんと震えてくる。
だが、ストリップは終わっていない。
ショーツどころか、この調子で全てを脱ぎきり、大衆に丸裸まで晒さなくてはならないのだ。
◆◇◆
ゼノヴィアがショーツを晒したことで、大衆の中には様々な感情が渦巻いている。
(よくもこんな真似を――)
(礼儀も節度も知らないカバリヌ人め)
王族が辱めを受けていることで、そんな風に思う市民は当然いる。
だが、ゼノヴィアの前には本当に大勢いるのだ。とても人数など把握できない、数千人としか言いようのない数を前にして、自分に向けられた感情の種類を一つ一つ精査している余裕はない。
単純に目が届かない。
遠くの顔は、それより手前の顔に阻まれ見えなくなり、義憤に駆られた市民の顔は、ゼノヴィアの前からことごとく埋もれている。怒りに燃える面々が先頭にでもいたのなら、それがせめてもの救いになっていただろう。
(白だ白だ!)
(顔も真っ赤で、すげー可愛い)
(これから全裸になるんだよな)
マーデンを害したカバリヌの行いに怒るでもなく、むしろ喜んでゼノヴィアを視姦するは、国の一大事より、目先のストリップにしか興味のない男である。そんな輩に限って先頭に集まって、おかげでゼノヴィアの視界に入る顔といったら、いやらしい視線ばかりだ。
(みんなでそんな目を……いいえ、きっと違うわ……きっと、カバリヌを許せないと思っている人達だって…………)
そう、それはいる。
しかし、ゼノヴィアの目が届く範囲にはいない。
(早く下着姿を見せてくれ!)
(ブラもグラデーションあるのか?)
(っていうか、おっぱいデカいよな!)
(ああ、揉みてー!)
(きっとケツもエロいんだぜ)
邪な感情ばかりが絡みつき、ゼノヴィアの胸を締め上げる。
そんな中でゼノヴィアはさらにたくし上げていき、ショーツどころかヘソさえ見せる。さらにその上まで、肋骨さえも露出したところで、ブラジャーの色が少しずつ見えようとし始めていた。
そして、全てを脱ぎきった。
ブラジャーが見えるまでにたくし上げ、そのままシャツを脱ぐような動作によって、上下一体のドレスを手放す。顔が一瞬、たくし上げた布に隠れて、脱ぎきることでもう一度見えた表情は、完全な赤色へと染まり変わっていた。
下着姿となったゼノヴィアには、その肉体を称えるための歓声が浴びせられる。
「おおおお!」
「なんとも美しい!」
「さすがは王女様だ!」
先頭集団が興奮していた。
ショーツ同様、ブラジャーもまたグラデーションを帯びており、下弦は白で上弦は水色と、色合いが移り変わっている。ドレスの作りが胸元を露出する構造のため、それに合わせて選んだ下着も、谷間を強調するものである。ハーフカップで布の量は若干少なく、乳房を中央に寄せ上げてバストの色気を出す作りだ。
(あぁ……恥ずかしすぎる…………)
ゼノヴィアは両手を背中に回す。
指先でホックを見つけるが、それを外す動作に踏み切れない。ただ外そうとするポーズを取るだけで、ゼノヴィアは固まってしまっていた。
(嫌だ……こんなの嫌だ……何とかならないの……?)
願う気持ちで周囲を見る。
しかし、そんなことをすれば、大衆の顔という顔の数々が視界を埋め尽くすだけだった。先頭集団のいやらしい顔ばかりが目立ち、義憤に駆られた者の様子は、位置が遠くてゼノヴィアからは見えはしない。
恥辱感を強める視線ばかりが集中的して、ブラジャーを外すことへの抵抗感を強めていく。躊躇いで時間がかかり、なかなか外すことはできなかった。
それでも、やがてはぱちりと外す。
(うっ、うぅぅ…………!)
ブラジャーによる締め付けが少し緩んで、乳房が内側から少しだけ、本当に少しだけだがカップを押し返す。たったそれだけで、心許ない気持ちは大きく膨らむ。
(我慢よ……耐えるのよ……耐え抜けばきっと…………)
未来を信じようとすることで、どうにか地獄の恥ずかしさを耐え忍び、ゼノヴィアは固く震えたぎこちない動きで肩紐を一本ずつずらしていく。
そして、ゼノヴィアはブラジャーを取り去った。
足下に下着を落とし、豊満な乳房を晒した時、視姦に熱意を燃やす面々がより一層のこと目つきをギラつかせる。先頭集団のあいだに興奮が広がり、鼻息の荒い声が今にも耳に届くかのようだった。
(うぅぅぅぅぅぅぅぅ…………!)
顔が燃えるように熱い。
羞恥の熱を帯び、頬は真っ赤に燃えている。
男の握り拳よりもなお大きい、瑞々しい半球ドームの先端では、ピンクの乳首が恥ずかしさのせいか突起している。おびただしい数の視線を感じて、見えない何かにジリジリと焼かれ続ける刺激を感じて、無意識のうちに反応させているのだ。
(……こ、これで……こんな状況でっ、最後まで脱ぐの!?)
胸に羞恥の炎が広がり、体内が焼かれるかのようだ。
ショーツを脱ぐため、腰の両サイドの部分に指を入れ、あとは下げるだけの体勢を取るものの、やはり即座には体が動かない。ブラジャーの時と同様に、まずは激しい抵抗感で体中が固まって、簡単には脱げないのだった。
だが、脱ごうと脱ぐまいと、ゼノヴィアは大衆の視線からは逃げられない。
台の周囲にはカバリヌ兵の見張りがあり、逃げればゼノヴィアのことを引っ捕らえ、力尽くで押さえてくるだろう。人質の件もそうだが、脱走という選択肢は始めから塞がれている。
(陵辱よりはマシ、陵辱よりはマシ、陵辱よりはマシ――)
自分自身に言い聞かせ、どうにか心を保とうと努めている。
ようやく、ショーツを下げ始めた。
(あ、あぁ……これで、何もかも…………)
いつか人前で裸になる。
それ自体については前々から考えていた。
王族である以上、政略上の結婚は避けられない。自分はどこかの貴族や他国の王族など、それ相応の身分の者と結婚するものと考えていた。世継ぎのことがある以上、子供を生むためにはそういった行為を伴う。
いつの日か、夫となる相手の前で肌を曝け出す日は来る。
そういった未来について、おぼろげながらに考えたり、いずれは覚悟を決める必要があるのだろうと思いを巡らせたことはある。
だが、こんな形で裸になるなど、かつて考えたことすらなかった。
(惨めだ……惨めすぎる…………)
王族のはずの自分がこんな扱いを受けている。
このことでも、マーデンはもうカバリヌに支配されているのだという実感がより一層のこと強まって、残党軍がカバリヌを撥ね除けたり、マーデン再興の未来を思く気持ちが薄れそうになってくる。
(いいや、それでも……ううっ、耐え抜くのよ……!)
ゼノヴィアは歯を食い縛った。
ここで泣き喚きでもしようものなら、まだ希望を持っているかもしれない市民さえ、絶望の淵に叩き落とすことになる。せめて気丈に振る舞って、心折れない姿を見せることで、カバリヌへの反乱分子を奮い立たせたい。
(きっと、きっと何とか……)
ゼノヴィアはショーツを下げる。
頭から炎でも噴き上がるかのような、耐えがたい羞恥心をぐっと堪え、脱いだショーツを足下に放った時、全身が外気に包まれていた。アソコの表面を風が撫で、先頭集団の視線は性器にも殺到する。
(くぅぅぅ…………!)
耳まで真っ赤であった。
表情が羞恥に歪むことを押さえられない。今の自分はどんな表情になってしまっているか、想像さえつかなかった。
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