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 ボディースーツ越しに吸引器が付いたまま、馬車に揺られる時間を過ごし、宿泊場所に一日泊まる。
 部屋で一人で過ごすことを許されたが、ゼノヴィアに与えられた着替えは寝間着と下着のみで、食事や手洗いは全てボディースーツのままの行き来となる。しかも、吸引器の装着を義務付けられてしまい、外しているところを見咎められれば、ウェインや貴族達に何を言われるかがわからない。
 翌朝を迎え、やはり恥辱感を味わいながらゼノヴィアは着替えた。
 改めてボディースーツで外へ出て、吸引器の付いた姿で人前に姿を出す。
 馬車に乗り、一行は出発した。
 街道を行く最中、ゼノヴィアは言うまでもなく両手で肝心な部分を隠したまま、昨日と変わらず肩を内側に丸め込んでいる。俯いたり、顔を背けたりして、男の視線を意識から逸らしながら過ごしていた。
「ゼノヴィア候、この先には検問がある」
「……検問、ですか」
「行商の行き来もある道なのでな。不当な輩が出入りしないように設置してある」
「そうですか」
 今のゼノヴィアに元気などあるはずなく、小さな声で興味もなさげにぼっそり答える。
 検問など、身分の明らかな自分達には関係がないだろう。まして王族のウェインがいる。ウェインが衛兵に挨拶をして、すぐさま通って終わりだと思っていた。
 馬車が停まる。
「降りるぞ」
 ウェインに言われ、ゼノヴィアと貴族三人はこぞって外へ降り立った。
(……やっぱり、外は余計に嫌だ)
 こんな変態チックなものを着るのは、もちろんそれだけで嫌なのだが、こうして屋外に立たされると、尚のこと恥ずかしい。まるで自分が変質行為を働いているような気になって、どこまでも惨めになる。
(だいたい、なんで私まで)
 まともな服さえ着ていれば、共に挨拶に出ることに抵抗はなかった。
 しかし、こんな格好では中にいたい気持ちが勝る。
 しかも、ウェインは家臣達の馬車にも声をかけ、なんとゼノヴィアの家臣まで外に卸し始めていた。
(なんで…………)
 挨拶をすれば終わるのに、必要以上を外に出す理由がわからない。
 おかげでゼノヴィアに絡みつく視線が増え、目下の者からの視姦にますます体が縮こまる。城主として仕事を与え、仕えてもらう立場にありながら、家臣の目にこんな格好を晒す辛さは計り知れない。
(変態だ……)
(変態チックだ)
 心の声など、聞こえはしない。
 だが、見るからにそう思っている目を向けられれば、好きで着ているわけではないのに、変態扱いされているのが伝わって、叶うことなら透明にでもなってしまいたい。
 検問所は道沿いに石造りの施設を建て、そこに見張りの兵士を置いたものだった。
「ウェイン殿下!」
「長旅お疲れであります!」
 二人組の兵士が背筋を伸ばし、大きな声を張っていた。
「そちらこそご苦労だ。マーセルにラッセルだったかな」
「じ、自分達の名前を!? 覚えて頂けているのですか!」
「無論だ。ナトラに尽くしてくれる兵の顔は、一人でも多く覚えておくように努めている」
「まさか王太子殿の記憶に留めて頂けていたとは」
「まことに光栄であります!」
 二人の兵士は感激に震えていた。
 そして、ウェインの陰に隠れるゼノヴィアに気づいてくる。
「ん?」
「そちらの方は?」
(嫌! き、気づかなくていいのよ!)
「君達にも、もろもろの話は伝わっているはず。彼女がゼノヴィア・マーデンだ」
 人目に触れることを嫌い、視線から逃げるようにしていたが、しかしウェインに背中を押されて前に出される。
「おおっ」
「なんとも……」
 兵士二人が呆気に取られるのも無理はない。
(ああもう! そりゃそうよね! こんな変態みたいな格好、驚くに決まっているものね!)
 手で隠そうとする力が自然と強まり、肩はますます内側に丸まろうと縮こまる。
 ウェインを軽く睨んでから、居心地悪そうに俯いた。
「ところで、ここ最近は女性の泥棒が噂になっていたな」
 ウェインは世間話を始めていた。
(早く挨拶なんて済ませて、さっさと通ればいいのに!)
「目撃者の話によれば、実に見目麗しく、王家の血筋とさえ見えるほどだったとか」
(……早く馬車に戻りたい)
 ウェインが繰り出す話の内容など、ゼノヴィアの頭には入っていない。
 こうしているあいだにも、目玉が飛び出そうなほどに見開いた目が、始終ゼノヴィアに向き続けている。その視線から少しでも早く逃れたい。馬車の中に戻りたい。ゼノヴィアはそれしか考えられずにいた。
「おそれながら、マーデン様の容姿と似ていたとか」
「無論、似ているのであり、別人であるとわかっていますが」
 初めて会話が頭の中に引っかかり、嫌な予感がした。
(……私に、似てる?)
「似ているのでは仕方がない。まあ、事件のあった時間帯、ゼノヴィア候はマーデン領にいたわけであり、彼女の犯行であるなどありえない話ではあるが、仕事とは時として形式を重視すべきだ」
(もしかして……ここで私に何か…………)
「ゼノヴィア候には身体検査を受けてもらおう」
「な……! なんで…………」
 これもまた、辱めの一環なのだろう。
 パーティへの参加とは言っていたが、不満層にゼノヴィアの恥を見せびらかすやり方は、もうとっくに始まっているのだ。

     ◆◇◆

 石造りの建物に入れられて、ゼノヴィアは十一人もの男に囲まれる形となった。
(身体検査なんて…………)
 頭ではわかっている。
 まさか、本当に罪人と疑われているわけではない。
(辱めのためなのよね……)
 ゼノヴィアは体を固く隠し続けて、腰も後ろに引けている。肩を小さく縮めた状態で、目尻を小刻みに震わせていた。
「ではゼノヴィア様」
「姿勢を正して頂き、頭の後ろに両手を組んで下さい」
 この二人の兵士は、マーセルにラッセルだったか。
 指示を受け、姿勢を変えようとするゼノヴィアだが、恥ずかしさからどうしても動きは固くなり、手足の可動はスムーズにならない。ぎこちなく腕を動かし、吸引器の付いた胸を晒して、ようやく頭の後ろに手を組んだ。
 クリトリスにも、親指ほどの大きさになる吸引器が付いている。
「では検査を始めていきます」
「お体に手を触れる失礼、お許し下さい」
 マーセルが正面に、ラッセルが背後に、ゼノヴィアは二人の兵士に前後を挟まれ、すぐさま検査の手は伸びてきた。
(うっ、触られて……やだ…………)
 二人の手つきは、服の上から手を置いて、内側に物を隠していないか探ろうとするものだ。こんなピチピチのボディスーツで、そんな意味などないはずなのに、マーセルは脇下の肉をさすって、ラッセルの後ろからの手は、腰のくびれをポンポンと軽い力で叩いている。
 全身がぞくぞくした。
 体中を触られる感覚に肌が泡立ち、顔がみるみる引き攣っていく。
 手で調べられている不快感は言うまでもなく、ゼノヴィアが受ける仕打ちは、ウェインを中心に、貴族三人、家臣五人に、全て見られている。
「では脱がせて頂きます」
 ラッセルの手が背中に触れると、チャックが下ろされた。
 布の割れた隙間から、生肌が覗けて見えるようになったところで、脱がしやすいために両手を下ろすよう言われる。ゼノヴィアは両腕の力を抜き、だらりと垂らした。
(また……また丸裸に……あぁ……嫌だ…………)
 皮を剥くかのようにして、肌に張りつくボディスーツは剥がされていく。
 顔はとっくに真っ赤である。
 ボディスーツが下がっていき、乳房が出て、腹が見え、露出度が上がれば上がるだけ、ただでさえ赤い顔の温度が上昇する。顎先から頭のてっぺんにかけ、徐々に熱が伝わるように、まんべんなく熱されていた。
 一糸纏わぬ姿となり、乳首が見える。アソコも見える。
「剃っていらっしゃるんですね」
 剃ったのでなく剃られたなどとは知らず、マーセルはアソコに気づいてしゃがみ込む。
「ではチェックしていきましょう」
 ラッセルが言うなり、マーセルは立ち上がる。
「改めて、両手を頭の後ろに」
 再び組まされ、ゼノヴィアは目をつむる。
(こんなにたくさんの人に、胸もアソコも……)
 自分の乙女としての価値が削り取られているようで、悲しくて泣けてくる。
「では失礼を」
 その瞬間、マーセルは乳房を揉んできた。
「なっ! な、な、な、なにを……!」
「動かないで下さいね」
 後ろからは押さえ込まれた。
 頭の後ろに組んだ両手は、ラッセルによって手首を掴まれ、握力による固定で抵抗を封じ込まれてしまっていた。
 羞恥プレイは受け入れる。
 だから裸にもなる。
 しかし、体への接触を許すなど聞いていない。
「そ、そんな! ウェイン殿下!? これは身体検査というには――」
 動揺しながら助けを求める。
 すると、マーセルは乳揉みをやめ、ウェインに目を向け指示を待ち始めた。
「問題ない。続けろ」
「は!」
 乳揉みは再開されてしまい、ゼノヴィアの豊満な乳房には、指が深々と食い込んで来る。蠢く指遣いによって絶え間なく変形が繰り返され、揉まれるうちに乳首は突起していた。
「あっ、うぅっ、んぅ……!」
 ゼノヴィアは歯が潰れそうなほどに強く食い縛り、歯軋りの音を立てていた。
 さらに乳首を指先で転がすタッチになると、くりくりといじめ抜く責めにより、上下左右のあらゆる方向を向かされる。乳輪をなぞられ続け、それらの愛撫に甘い痺れが乳房に溜まり、顔どころか体まで火照り始めた。
「乳首が硬くなっていらっしゃいますね。ゼノヴィア様はどうやら感じておられるようで」
(な!?!? なにを言うのよ!)
 ゼノヴィアは動揺した。
 体のことを指摘される恥辱感もそうなのだが、こんな事実を発表されれば、すぐそこにいる面々がどう反応するかもわかっていた。
 あらゆる言葉を聞かされる。
 そんな焦燥に駆られ、実際に貴族三人の言葉が責め苦となった。
「ほーう? 感じると」
「とんだエロ乳首だなぁ?」
「我々もやってみたいものだ」
 貴族が口々にコメントを投げてくる。
 乳首から手は離れ、これで胸は終わったのかと思いきや、マーセルはしゃがみこんでアソコに顔を接近させる。
「では下の方も失礼致します」
「いやぁぁぁ…………!」
 ゼノヴィアは悲痛な顔を浮かべた。
 指の腹がワレメに沿って往復して、軽やかな愛撫をしてくる。産毛だけを撫でるタッチに腰が震え、こうした刺激が少し続けば湿り始める。
「お、濡れてきたようです」
 マーセルがそう口にした瞬間だ。
「どの程度濡れている? なるべく実況してくれ」
 ブラフォードが即座に命じる。
「はっ、では私の拙い語彙ながらに、今のところ肌が汗ばむような、かすかな濡れ具合といえるでしょう。とはいえ、私の指に応じて、腰がかすかに、本当にかすかですが、モゾモゾとしておりまして、感じているのは間違いないかと」
「なるほど」
 頷くブラドフォードだが、ゼノヴィアの心はこうである。
(やめてえええ! 言わないで! そんなに詳しく言わないでよ!)
「クリトリスにも指をやってみましょう。おっ、触った途端、一瞬だけ腰が引っ込みました。刺激が強かったのでしょうか。しかし、クリ責めを始めた瞬間、ワレメの方からじわっと広がってくる感じがありました――うむ、どうも糸を引くようになりましたね」
(あああああああああ! 引かなくていい! 糸なんか出なくていいのよ!)
「濡れ具合が増してきました。感度が上がっているのでしょうか? だんだんと腰のモゾモゾとした反応がわかりやすくなってきましたよ? 最初は本当にかすかだったのに、もう膣内に指を入れても問題がなさそうです」
「待って!? 指って、まさか――――」
「身体検査ですから」
(あっ、あぁぁぁ……! 指がっ、指がっ……!)
 中指が挿入され、膣内に収まる異物感にゼノヴィアは体中を引き攣らせる。
「温かいですね。入れてみると、膣壁から滲み出てきているのはよくわかりますよ? なんと例えましょうか。水を吸わせた布から染み出てくる? 何分、体ばかり鍛えた身なので、これ以上の良き表現は、私ではできそうにありません」
「いや、十分だ。なあ、みんな」
 ブラフォードは家臣五人組に目をやって、その五人はそれぞれ頷く。
 その様子に気づいたゼノヴィアは、こんな姿を自分の家臣にまで見られているのだと、改めて恥辱感を強めていた。
「当たり前ですが、何も隠し持ったものはありません。アリバイもそうですが、ゼノヴィア様の身分で泥棒など……よしんば何か理由があっても、密偵を使うはずですものね」
 マーセルは指を引き抜く。
 その際でも、彼は実況を忘れなかった。
「お? なかなかの糸が引きましたよ? 花の茎くらいはありますかね。それに私の指にも、たっぷりと愛液がまぶされています」
「あっ、うぅぅ……さすがに……もう終わりですよね…………」
 そうあって欲しい願いを存分に込め、ゼノヴィアは周りに問う。
「いいや、まだまだあるぞ」
 ウェインの言葉にゼノヴィアは苦悶を浮かべた。
「一体他に何が! だってアソコに指まで入れて、身体検査としては十分すぎる――いいえ、過剰すぎるくらいでは!?」
「マーセル、ラッセル。ゼノヴィアのスリーサイズを測れ。加えて乳輪のサイズや肛門も調べ、尿検査と検便を執り行う」
「殿下!? それは何の必要があって……」
「うーむ。何かこう、女性特有の疫病があったようななかったような。そういうわけで、防疫の観点から検査項目を増やしておこう」
「殿下……!」
 それがデタラメであることなど考えるまでもない。
 きっと、そこまでしてゼノヴィアを辱めたいのだ。
(不満層って、この三人って、ここまでしないと黙らないの?)
 貴族三人組へと、信じられないものを見る目を向ける。
(それとも……殿下の趣味で……いいえ、そうは……思いたくない……)
 ゼノヴィアが様々な思いに打ちひしがれているあいだにも、マーセルは巻尺の用意を済ませていた。
「失礼します。ゼノヴィア様」
 巻尺、紐状のものに目盛りを振り、長さを測るだけの道具だが、この場においてはそれが羞恥を煽る一手となる。
 マーセルはゼノヴィアの身体に巻尺を巻きつけて、乳房の上に目盛りを合わせてきた。
「ほほう。九三センチですよ」
 数値が発表された途端である。
「これはこれは」
「デカパイだとは思っていたが」
「数字として聞くとまたなかなかだ」
(なんで盛り上がるのよ! サイズなんかで!)
 マーセルはメジャーをずらし、腰にも、尻にも巻きつける。
「ウエストは五六センチ。ヒップは八八センチですな」
 これで三つの数字が発表され、ゼノヴィアのスリーサイズはこの場の全員の頭に叩き込まれた。
 そればかりではない。
「乳輪のサイズが三・九センチで、乳首は一・五センチ。ではワレメに移りまして、この線の長さは七センチみたいですね」
(なんなの――本当になんなの――)
 スリーサイズに飽き足らず、ありとあらゆる部位にメジャーが当てられ、果ては性器のサイズまで計測してくる。
「そろそろお尻の穴にいきましょうか」
 マーセルの言葉は絶望を煽るものだった。
「お尻の穴って……本当に、そんなことをする必要が…………」
「マーデンのためだろう?」
「………………わかりました。ウェイン殿下」
 マーデン領のことを言われては、ゼノヴィアには何も言葉を返せない。
 そして、肛門を見やすいための、ポーズの変更を指示されて、ゼノヴィアは自分で自分の足首を掴むことになる。
(どうにかなりそう――頭がっ、壊れそう――――)
 尻を高らかにしたことで、ゼノヴィアは悶絶していた。
 目を開けてなどいられずに、まぶたの裏側にある闇に閉じこもり、唇を口内に丸め込む。この場の全員に肛門を見られる激しい羞恥に駆られ、頭が燃え上がる勢いだ。
「さすがはゼノヴィア様」
 家臣の声だ。
「綺麗なお尻の穴です!」
「恥じることはありません!」
(そんなフォローしないで! 余計に惨めよ!)
「尻の穴も、アソコも、どちらも非常にお美しい!」
「血筋と共にお体まで尊い!」
(お願い! こんな時に褒めないで! だ、だいたい! アソコって――)
 ゼノヴィアは尻ばかり意識していた。
 しかし、考えてもみればこの体勢は、肛門と同時にアソコもばっちりと見えるはずだと気づいてしまい、ますます顔の炎が大きくなった。
(もう……頭が焼けそう……!)
 そんなゼノヴィアに容赦なく迫り、肛門に顔を近づけ、至近距離からの観察を始めるのはラッセルの方だった。
「肛門の皺は十本ほどですね」
「~~~~~~っ!?!?!?!?!?」
 皺の本数などという、予想もしなかっさ数字まで声に出されて、ゼノヴィアの頭に無数の火花が弾けていた。
「直径は、ふむ。二センチですか」
 巻尺が尻に近づき、皺の直径まで暴かれて、こうなると秘密という秘密が明かされ尽くしてしまったような、弱点が知れ渡った感覚がした。いいや、弱点どころか、付け込まれたら困る情報が今この場に広がっている感覚だ。
「となると、あとは尿検査ですね」
 そして、その言葉がゼノヴィアの羞恥を煽る。
 無理だ。
 いくらなんでも、そればかりは無理だ。
 おっぱいを揉まれてもいい。尻を触られてもいい。
 だから、だから、どうかそれだけは――。

     ◆◇◆

「どうか放尿だけはお許し下さい! お願いします!」
 ゼノヴィアは全裸のまま膝を突き、深々と頭を下げて懇願していた。
 尿検査どころではない。
 検便まで言い渡され、ゼノヴィアに浮かぶのは絶望だった。
「いいのかな。ゼノヴィア候」
「ウェイン殿下。こ、こうあっては……胸に何度触れられても構いません。尻にも、秘所に触れられても構いません。ですから、どうか…………」
「他で補うから、許して欲しいと?」
「……その通りです」
 今のゼノヴィアの立場では、下手に出る以外にない。
 ウェインの心をどうにか動かし、少しでも容赦を頂くしか、ゼノヴィアが放尿から逃れる術などなかった。
「駄目だ」
 無情な答えに、頭がくらりと揺れた。
「そんな………………」
「放尿はしてもらう。皆の見ている前でな」
 そう言われ、ゼノヴィアは思わず顔を上げていた。
 貴族三人組がニヤニヤしているなど予想の範疇、兵士二人の顔を窺っても、特に反対を述べる様子はない。他に縋るものといったら、ゼノヴィア自身の家臣だけたが、こうなると連れて来る家臣の選び方には後悔しかない。
(もっと……忠誠心の高さで選んでいれば…………)
 五人もいながら、その誰もゼノヴィアの許しを請おうとしない。
 それどころか、期待の眼差しさえ浮かんでいた。
 マーデン側の家臣ですら、きっとゼノヴィアの放尿を見たがっている。
(どうして……こんな…………)
 こうなると、大元にまで遡り、あの時どうして軍を動かしてしまったのかさえ、大いに後悔し始めていた。戦争のきっかけになってしまい、青ざめながら首を差し出すことまで考えたが、今になって改めて後悔の念が膨らんでいた。
(やるしかないの? 人前で、オシッコ……なんて……)
 兵士二人が奥へ引っ込み、何か道具の用意を始める。
「ゼノヴィア候、テーブルに乗るんだ。そして、脚を開け」
「………………わかりました」
 ゼノヴィアは痛感した。
 ここに味方は一人もいない。
 そして、禊ぎが終わるまでは、人権や尊厳といったものさえない扱いなのだ。
(それでマーデンを守れるなら……)
 その思いだけを寄る辺にして、ゼノヴィアはテーブルに乗り上がる。
 ゼノヴィアが受けたポーズの指示は、体育座りのようにしゃがみ、座り姿勢で脚をM字にするものだった。
「ゼノヴィア様」
「どうぞ、こちらに用をお足し下さい」
 兵士二人が用意していたのは尿瓶であった。
 ガラス職人が作った放尿用の瓶は、この時代のトイレとしても、医者が患者の尿を採取するためにも使われている。
 それを受け取ったゼノヴィアは、瓶の口を自分自身の股に宛がった。
(本当に? 本当にするっていうの?)
 みんなが見ている。
 ゼノヴィアのことをアーチを成して取り囲み、誰もが放尿の瞬間を見逃すまいと、瞬きすらせず凝視してくる。
「王家の放尿だと思うと興奮しますなぁ?」
 ヴィンスがそんなことを言い出した。
「うむ、このように皆で楽しむ機会など、あんな出来事でもなければあり得なかったろう」
 ブラフォードがそれに同調する。
「尊い血に生まれし、尊い放尿をしかと見せて頂こう」
 ジェロームはわざとらしく『尊い』という言葉を繰り返し、「お前は王家の血筋なのにこんな恥をかくつもりか?」と、遠回しに煽ってくる。
 家臣ですらそうだ。
「まさかゼノヴィア様の……」
 その言葉が全てだ。
 彼ら五人の中には、仕えるべき主君の恥を見ることで、大いに興奮する気持ちがあるに違いなかった。
(うっ、うぅぅ……でも、泣かない……私は……泣かないわ……)
 目尻に涙を溜め込みながら、せめて泣き喚く真似だけはするまいと心に決める。
 ゼノヴィアは尿意の放出に意識をやった。
「さて、出せるかな? ゼノヴィア候」
 ウェインの目にも期待が浮かぶ。
「すぐには出ません。しばしお待ちを……」
 いっそ、尿意などなかったら、せめて先延ばしにできるかもしれない。たとえ次の機会に回されても、今この場では試練を避けられただろうか。
 最悪なことに、その気になれば出そうな程度には尿意があった。
 しかし、緊張のせいか上手く出せない。
 やるしかない状況で、諦めの念から出そう出そうとは思っているが、緊張や抵抗感で引っ込んでいるのだろうか。あるはずの尿意が解放されず、ただただ放尿のポーズだけを取り、時間だけが過ぎていく。
 ゼノヴィアは目を瞑り、固い拳を口元に押し当てた。
 手の甲を噛みながら、もうじきの予感に尿瓶を握る手が震える。
(もうすぐ…………)
 何かに観念するような思いでいると、チョロッ、と。手始めに一瞬だけ、ほんの少量だけが瓶の内側に飛び出して、指先程度の小さな水たまりを底に作った。
 これをきっかけに、ゼノヴィアは放出を開始した。

 チョロロロロロロ………………。

 黄色いものが尿瓶の中に流れ込み、底に少しずつ溜まっていく。
「おおっ、ついに出て来たか」
 ウェインが勝ち誇っていた。
「はははっ、みっともないみっともない」
「他人に用足しを見せるなど、恥というものをご存じないか」
「まったくだ。乙女らしく恥じらいを持った方がいいぞ?」
 信じられなかった。
 貴族三人から繰り出される煽り言葉の数々は、ゼノヴィアの胸を深々と抉り抜き、プライドを打ちのめす。
(やらせておいてぇ……!)
 ゼノヴィアは歯が砕けそうなほどの激しい歯軋りを行っていた。

 チョロロロロロロ………………。

 一度出て来た尿は止まらない。
 額が強張り、眉間に深い皺が寄り、顔中の筋肉が硬化して震えている。放尿を見られる屈辱だけではない。やらせておいて、その上で言葉によっても傷つけてくる彼らへの怒りにも震えていた。
「ゼノヴィア様の放尿……」
「とても……素晴らしい……」
 臣下も臣下で、野次こそないが、さも素晴らしい芸術でも見たように見惚れてくる。その意味がわからない。マーデン出身のはずなのに、こんな形でナトラに馴染んで、一緒になって楽しんでくるなど最悪だ。

 チョロロロロロロ…………。

 勢いは緩むが、まだ止まらない。
 自分自身の尿で、尿瓶が少しずつ重くなる。
「なかなかの勢いで元気がいい!」
「たっぷり水を飲んできたか?」
「臭いはどうだ? 臭かったら嫌だなぁ?」
 こうして放尿姿を視姦され、言葉を浴び続けるのは、もはや残酷な拷問のように苦痛極まりなかった。絶叫したいほどに辛く、周りがみんな恨めしくて、殺してやりたいと同時に消えていなくなりたい願いも切実だ。
「くっ、くぅぅ…………」
 やっと、尿が途切れ始める。

 チョロッ、チョロッ、と。

 あと数回だけ勢いを見せ、それを最後に出ることはなくなって、尿瓶の中には十分な黄金水が溜まっていた。
 ワレメには滴が残り、放尿は終了する。

「いやぁ! お見事!」

 ウェインが拍手を始めていた。
「……は?」
 ゼノヴィアは呆気に取られる。
 ウェインにつられ、周りの面々も一人ずつ、だんだんと拍手の音を鳴らすようになり、こんなことを称えられる意味がわからずに、羞恥と屈辱の余韻と共に、ゼノヴィアはひたすらに困惑していた。
「え? なっ、なんなのですか?」
「いやなに、よくぞ試練に耐えたものだと褒めているのだ。王太子である私がその懸命なる努力を評価して、直々に滴を拭き取ってやろう」
「拭くって……もしかして…………」
 ゼノヴィアは引き攣る。
「なるほど、さすがは殿下ですな」
 ヴィンスは関心していた。
「小便の世話など、本来ならば王子のすべき振る舞いではあるまい。それをあえて自らやろうというのが度量を示し、なおかつマーデン侯爵には高い評価の姿勢を示す。これがわからぬあなたではあるまい?」
 アソコを拭こうという話で、さも政治的に優れた立ち回りであるように、ヴィンスはウェインを褒め称えた。
「ではこちらを」
 ウェインは兵士から布を受け取る。
「さあ、それをどけたまえ」
 迫るウェインを前に、ゼノヴィアにはそれを拒む道がない。
 ここで拒めば、せっかくここまで耐えたのを無駄にするかと言わんばかりの論調を唱え、皆でゼノヴィアを責め始めることだろう。
 まだ戦勝パーティに参加すらしていない。
 ここでこじれるわけにもいかず、ゼノヴィアは尿瓶を横へどかした。
(うっ、嫌だ……し、下の世話だなんて、まるで赤ん坊…………)
 布越しの指が触れてきて、拭き取るために擦り込まれる。布の摩擦に苦悶して、今にも頭が壊れそうである。
 十分に拭き取って、ウェインの手はアソコを離れる。
 だが、ゼノヴィアのワレメには、指のしっかりと当たってきた余韻が残されていた。

「これなら、検便にも臨めるだろう」

 そして、ゼノヴィアは青ざめた。
 耳まで染まりきる赤面から一片して、絶望に顔面蒼白となっていた。



 
 
 

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