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「恐れながら! ウェイン殿下と異なる意見を唱えることとなり、大変に恐縮ではありますが、靴下は残すべきと進言します!」
(なんなのよ……この人も……!)
 ゼノヴィアは衝撃を受けていた。
 当たり前だ。
 遥かに身分の低い使用人の身で、ウェイン王子に異を唱えることになってでも、自分の性癖を語ろうとしているのだ。
(馬鹿じゃないの!?)
 それがゼノヴィアの率直な意見だ。
「理由を聞こう」
 ウェインの眼差しが使用人に向く。
 使用人はまるで罪を咎められているような青ざめた顔をしながらも、決して己の意見を曲げずに背筋を伸ばして大きな声で答えるのだ。
「ブラフォード子爵の述べられたご意見! 無論のこと素晴らしいとは思いますが、それは靴下を残した上、しばしの後に脱がせてみることも可能なこと! しかし、逆はありえません! 一度脱がせた靴下を履かせたり、アクセサリーをかけ直すのは、後から靴下を取り去ることに比べて風情を損ないます!」
「ほう?」
「いかがでしょう王子! 私の思いにご賛同頂けますか!?」
「さて、賛同はともかくとしても、元よりどちらにも魅力は感じる。いいだろう。これで靴下は残す方に三票だ」
「ありがとうございます!」
(本当に馬鹿じゃないの!?)
 呆れてものも言えない。
「では続きを頼むぞ。ゼノヴィア候」
 改めてゼノヴィアに視線が集まり、恥じらいで頬が熱っぽく温まる。
 下らないことを熱く語り合う連中のために裸になるなど、ただでさえの屈辱が余計に膨らみ、もう何と言っていいのかがわからない。
 ゼノヴィアは背中に両手を回し、ホックを外す。
 カップが緩んだ瞬間に、頬から火の粉が弾けたように羞恥が強まる。肩紐を一本ずつ、順々に下ろしていくと、乳房を曝け出す瞬間にしだいに近づいていく感覚で、心の穏やかさも失われていく。
 もちろん、始めから穏やかなどではない。
 ゼノヴィアに胸中には今、羞恥の熱風が吹き込んでいる。脱ぎ始めの頃はまだしも緩やかだった熱風は、脱いだ枚数に応じて激しさを増している。緊張で全身が固く強張り、肩や腕の筋肉が必要以上に硬化していた。
 あとはブラジャーをどかすだけ、物理的には何一つ難しいことはない。
 だが、カップを指先に絡め取り、いざどかそうとした瞬間、途方もない抵抗力が働いた。ブラジャーを取り去る動作に対して正反対の力がかかる。ゼノヴィア自身が無意識のうちに力を込め、自分自身の動作に反発してしまっている。
(む、無理よ! 誰にも見せたことなんて……ないのに……)
 大事な体を初めて晒す瞬間がこんな形になることに、深い悲しみの念が広がる。屈辱で歯を噛み締め、無念で俯き、それに対して男達はニヤニヤと嬉しそうなのだ。乙女の心境も知らずに楽しむ顔が癪でならずに、ゼノヴィアの中でますます殺意は膨らんでいく。
 ゼノヴィアは右腕で胸を隠した。
 こうでもしなければ無理だと思い、ぎゅっと腕で我が身を抱き締め、腕と胸の隙間から引き抜く形でブラジャーを取り去った。この方法によってでさえ、腕に反発力が働いて、ただのちょっとした動作に必要以上の力を込めていた。
(ああ……もう……一枚しかない……!)
 ゼノヴィアにとってみれば、胸もアソコも、尻も隠してくれない靴下など、あってもなくても関係無い。
 身を守ってくれる安心感を手放して、心許なくなっていく感覚で、心ばかりか体でさえも落ち着かない。顔が強張り、心臓も激しく鼓動する。衣服を着た状態で谷間を出すのは、色気の演出程度で済むが、裸はそんな程度のものではない。
 乳首が見えてしまうのは一大事だ。
 ゼノヴィアが直面している緊張感は、もはや大事件を目の前にしたものも同然だ。
「腕を下ろすに下ろせない。その姿もまたなかなか」
 ブラフォードは得意げに口にする。
「おやおや、靴下まで脱がすべきと語ったくせに」
「そう言うなジェロームよ。あの顔の赤らみを見て、それを語らんとあっては名折れである。それが我らであろう?」
(や、やめて! 品評しないで! いちいち語らないで!)
 顔から炎が噴き出そうだった。
 この恥じらいの仕草や顔の赤らみを見て、その素晴らしさを語るための言葉が、貴族三人はおろか、きっとウェインの頭の中にさえ広がっている。
 こうして腕で隠すことにより、かえって皆を盛り上げているのはわかっている。
 わかっていても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
(いっそケロっとしていられれば! でも、無理……!)
 片腕だけで胸を隠していたゼノヴィアは、とうとう残る左腕まで使い、ぎっしりとクロスを固めてしまう。
(しゃがみ込みたい! 逃げ出したい!)
 平然と涼しい顔で裸を見せ、だからどうしたと言わんばかりに嘲り返してやれたなら、一体どんなに良かっただろう。そうできるだけの図太さで、羞恥心など無いも同然に押し込むことさえできたなら、男達を余計に楽しませずに済む。
 しかし、無理なのだ。
 乳房が吸引力を発揮するかのように、両腕のクロスが深く食い込み、決して離れようとしてくれない。
「さて、マーデン侯爵。その様子ではいつになったらパンツを脱ぐことができるのか。最後の一枚を脱ぐことに、どれほどの時間をかけるのか。これは見物だなぁ?」
 ヴィンスは大声で煽ってきた。
(ううっ、うるさい! うるさい!)
「確かにヴィンス公爵の言う通り、そうして胸を晒せずにいる姿を拝むだけでも、我らにとっては面白くてたまらない。なあ、ジェローム伯爵」
(やめて! 語らないで!)
「然り然り、恥じらいの例えとして、顔から火が出るなどと言うものだが、今のマーデン侯爵がいれば部屋が暖まるかのようだ。その恥じらいの炎一つで、ナトラの冬さえ越せるのでは?」
 などと冗談めかして言うと、ジェロームの言葉で笑いが広がる。
「それは言い過ぎだぞ? ジェローム伯爵。とはいえ、先ほどよりも部屋が暖かい気はするがな」
 ウェインまでもが語ってくる。
(やめて! 本当にやめて!)
 ゼノヴィアはとうとう本当にしゃがみ込み、恨みがましい視線を周囲に飛ばす。
「はははっ、可愛い可愛い」
 それを見て真っ先に出てくるのが、茶化すようなブラフォードの言葉と、それに伴い笑いながら頷く表情だった。
(ううううう! 殺す殺す殺す! みんないつか殺すわ!)
 ゼノヴィアは背中を向け、震えながら立ち上がる。
 しゃがんだままでも脱衣は可能だが、あえて立つのは意地だった。笑われながら、立つことすら出来ないなど、ただでさえの屈辱に重ねて余計に悔しい。
 せめて立ち上がる姿勢だけでもと、そんな思いから実際に立ってみせ、全ての視線を背中と尻だけに受け止める。
「なるほど?」
 そんなゼノヴィアのやり方にさえ、やはり言葉は飛んで来る。
「確かに裸になるとは宣言したが、全てを曝け出すとは言っていない」
「ははっ、これは一本取られましたなぁ?」
 まるで残念がる風でなく、それはそれで面白がる声だった。
(と、とにかく……脱ぎきれば終わるのよ……!)
 ショーツの中に指を入れ、下げようとするのだが、またしても猛烈な羞恥心が働いて、動作に対して反発力が発生する。見えない抵抗力と、脱ごうとする力が拮抗して、腕力が押し合うように腕の筋肉が震えてくる。
(ぬ、脱ぎきれば……脱ぎきれば…………)
 唇を丸め込み、眉間に皺を刻んだ顔で、どうにか反発力を押さえ込む。
 やっとのことで少しでもショーツを下げ、ほんの僅かにでも尻を見せかけた瞬間、顔が燃えさかるような感覚で動作が止まった。お尻が見えた途端に盛り上がり、様々な言葉で品評されるイメージが膨らんで、下げるに下げられなくなったのだ。
(みんな一々語ったりするから!)
 恥ずかしさだけで顔が熱い。
 ここまで羞恥を醸し出しては、これで雪を溶かせそうなど、またしてもからかい混じりに語られることになる。
(そ、そうよ。恥ずかしがるから余計に恥ずかしいのであって、だから恥じらいを捨てることができれば……)
 ケロっとした顔で、涼しい表情を浮かべてやろうと意思を固めて、もう一度ショーツを下げる。
「割れ目が見えてきましたなぁ?」
 抑え込んだはずの羞恥は、一瞬にして解き放たれた。
(やっぱり無理よ! 捨てようと思って捨てられたら、最初からこんな思いしないわ!)
 だが、理屈ではわかっているのだ。
 躊躇っている有様、恥ずかしくて動けない様子、こうしている今にも男達は心躍らせ、ゼノヴィアの姿を楽しんでいる。早めに済ませることが一番で、躊躇いで時間を長引かせれば、かえって地獄も長引いてしまう。
(我慢、我慢よ! 捨てられなくても、我慢して耐え抜くことなら! それで少しでも早く脱いでしまって、地獄から早めに抜け出すのよ!)
 ゼノヴィアは思い切ってショーツを下げ、やっとのことで反発力を押し切った。尻を丸出しに、太ももにまで下げたところで、五人分の視線が全て一点に集中してくる感覚に、頭が焼けるような思いがした。
(うぅぅぅぅぅぅぅ……!)
 耐えて、耐えて、耐え抜きながら、ゼノヴィアはしゃがみ込む。
 しゃがんでいきながら脱ぐことで、少しでも尻を見えにくくしながら、ショーツの穴から足を抜き去り、とうとう全裸になるのだった。
 靴下はあるだのないだの、ゼノヴィア自身にそんなことを考える余裕はない。
(なってしまったわ! ぜ、全裸に! 全裸に!)
 しゃがみ込んだまま、腕で乳房を押し潰し、手の平でアソコを覆い隠した。
「なりましたなぁ? 裸に」
「後ろ姿といえど、十分にそそるものがある」
「こうして皆でいるから理性は保たれるというもの。一人きりでこれを見てしまっては、いかに我らとてたちまち獣となることだろうなぁ?」
 剥き出しの背中だけでさえ、貴族三人は愉快に語らい始めている。
「ゼノヴィア候」
 ウェインに名を呼ばれ、ゼノヴィアはビクりとした。
「な、なんでしょう……この通り、全てを脱ぎました……こ、これで……私に対する気持ちを晴らせたのであれば、ここを訪れた意義はあったものと考え……ます…………」
 尊厳を削り取り、無念に打ちのめされながら、悲しい思いでゼノヴィアはそう語る。
「そうだな、ゼノヴィア候。ここにいる三人についてはもう問題ないだろう」
 振り向く余裕などないゼノヴィアの後ろで、ウェインは貴族三人に目配せする。三人は満足しきった顔で頷くが、まだ何かを求めたい目つきを浮かべ、新しい目論見を持った眼差しでゼノヴィアの背筋に視線を向ける。
「で、では……これで…………」
 自分でも驚くほど声が震えている。
「これでパーティの参加権は得られたわけだ」
「……っ! うっ、そう……ですね………………」
 そうだった。
 裸になってみせることにより、晴れてパーディへの参加を許されるような言い回しだったのを、今更になって思い出す。
「ところでゼノヴィア候、裸になるだけでその有様だ。パーティでの恥に耐えるには、あと少しばかり訓練をしていかれては?」
「く、訓練と……いいますと…………」
 嫌な予感しかしない。
「パンツを持って来てくれ」
 使用人へ命じる声に、ゼノヴィアはビクっとなった。
 すぐ傍らに迫るなり、使用人はゼノヴィアへと手を差し伸べる。もちろん、レディを立ち上がらせるための、紳士の振るまいというわけではない。握り締めたショーツを寄越せということである。
(……殺すわ。いつか)
 目に涙を滲ませながら、激しい痙攣を帯びた震えた拳を持ち上げる。握り潰さんばかりの凄まじい筋力が籠もってしまい、石よりも固い指を解き放ち、ゼノヴィアは使用人にショーツを手渡す。
 下着を異性の手に落とした瞬間、胸を深く抉り抜かれる思いがした。
「ほう? これはこれは」
「布も上質」
「クロッチにもほれ、女の痕跡があるではないか」
 使用人からショーツを受け取り、語らい始める貴族三人の言葉に、顔が燃え上がりそうだった。とっくに耳まで染まりきっている。顎も頬も強張っている。唇が震えている。目尻に涙が溜まっている。
「立て、ゼノヴィア候」
 その上、ウェインから下される命令は残酷だった。
「どうした。立て」
 重ねて下される命令。
 ただ立って、姿勢を変えるだけの話が、本当に重い命令と感じられた。
「……………………はい」
 悲しみに打ちひしがれ、これから死ににいくような思いで立ち上がる。ゼノヴィアが見せているのは後ろだけだが、これで艶やかな白い尻は隠れもせず、全てが綺麗に丸見えである。
「こちらを向け」
 ただ身体の向きを変えるだけの命令も、姿勢を変える以上に重々しく感じられた。
 腕でしっかりと乳房を隠し、アソコはぴったりと覆いきり、肝心な部分は隠して振り向くと、五人の男達全ての視線に全身を舐めまわされ、顔どころか体中にまで羞恥の炎が広がる感覚がした。
 体が恥ずかしさを訴えかけ、羞恥の信号を激しく放ち続けることで、隠しているはずの乳房が熱い。アソコが熱い。それは決して興奮ではなく、ひたすら恥ずかしい思いからなる反応だった。
(下着が……)
 見ればショーツはウェインの手に渡り、手の平の上にクロッチが乗せられていた。重力にあわせて捲れ落ち、その手の上にはおりものの痕跡があらわとなっている。しかも、それを指で撫で、愛でているのだ。
 見ていられず、ゼノヴィアは目を背けそうになる。
「気をつけ」
「そんな…………」
「気をつけだ」
「…………………………はい」
 答えるものの、ゼノヴィアの両手は固い。全身が石像に変わったように、姿勢を変えるだけのことがなかなか出来ない。隠していたい思いのあまり、胸にもアソコにも吸引力が働いて、手や腕を吸い付け離そうとしない。
 それを強引に引き剥がし、ゼノヴィアは両腕をだらりと下げた。
(あぁぁ……! 全部! 全部が! あぁ……!)
 頭が燃え上がった。
 寄せれば谷間ができるほどに豊満な乳房は、ぷるっと瑞々しくも前に突き出て、その先端には輝かしい乳首を立たせている。三角形に整った陰毛は、人並みの太さでその部分だけを覆い隠して、しかしその下にある初々しいワレメは隠れていない。
「これはこれは」
 ブラフォードがいかにも関心する。
 その横で、ジェロームが詩的な表現を繰り広げる。
「なんと素晴らしき乳房か。取れたての果実のように、見ているだけで甘い香りが漂うかのようであるぞ。その上、ピンク色の乳首の輝かしさたるや、まるで宝石のようだ。王族の血筋だけあって、血統ばかりか乳房さえもが尊いわけだ」
(や、やめてぇ……!)
「陰毛を見よ。あの生え方を見るに、ハサミやカミソリであえて整えるまでもなく、元よりあのように綺麗な形をしておるではないか。外から内へ倒れ込むような生え方がわかるだろう? 外側の毛になるほど細く産毛のようになり、内側であるほど濃いめの毛は、ああして中央のところで三角形のように盛り上がっている」
(やめてってば! 本当にやめてってば!)
 体つきにまつわることを声に出されて、陰毛まで詳細に語られる恥辱の上に、ショーツをウェインに握られている。
 こんな状況があるだろうか。
「ゼノヴィア候、実に素晴らしいものを見せてもらった。心意気といい、そして体つき、誠に有意義な時間であったぞ?」
 そのような言葉で締め括られ、試練は終わり、着替え直すことが許される。
 しかし、パーティへの参加権を得たに過ぎないのだ。
 屈辱に、恥ずかしさに、拳が震える。
 使用人の手でショーツが返され、それを受け取るゼノヴィアだが、布にこもった温かさは、きっと自分自身の体温などではない。男達に触られ尽くし、手の温度が移ったもののように思えてならない。
 それを穿く気持ちさえ、穏やかなものではなかった。
 最初の試練でこんな目に遭ったということは、ゼノヴィアに課せられる試練には、まだまだ続きがあるということだ。
 だが、青ざめることはできない。
 心境としては、恐怖や絶望で顔面蒼白も同然だったが、おぞましいほどの羞恥の余韻で、ゼノヴィアの頬には延々と桃色が残り続けた。
 与えられた部屋に泊まって、夜を過ごす時にさえ、視姦によって体中を舐め尽くされた感覚がありありと蘇る。いつまでたっても桃色が引かず、やっと眠れたと思った時には、ストリップの体験がそのまま夢の中で再現され、朝陽で目覚めた時ですら、ゼノヴィアの頬には桃色が残されていた。



 
 
 

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