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 ところで、気づいてしまった。
「な……!」
 それを見かけ、アリッサは驚愕していた。
 覗き湯で激しくオナニーを行って、マリーサと合流を果たした後、もうしばらく町を見て回っていた時に、ジョージ行商隊の中で見かけた顔が出店を開き、美術品の売っていた。
 その商品の中にあったのは裸婦像だった。
 像といってもサイズは小さく、手で持ち帰る程度のものだったが、遠目に見た裸婦の体位に見覚えがあり、もしやと思って近づけば、案の定のものが並んでいた。
「な、なによこれ……なんなのよこれ……」
 ゴーランのモデルになった時、出来上がった作品を小型化したものが、テーブルにはゆうに十個近くもある。
 まんぐり返しの、天にアソコと肛門を晒した卑猥なポーズで、乳房も含めた全ての恥部が同時に見える。顔立ちから髪にかけて、細やかに仕上がったそれは、ゴーラン作品のコピーであった。
「……あ、アリッサさん」
 店員の男はまずいところを見られたような顔をして、気まずさ笑って誤魔化す。
「ねえ、マリーサ。やっとわかったわ」
 アリッサは言う。
「ジョージとかケビンとか、私への視線に違和感があったのって、初対面のはずなのに、見覚えあるみたいな顔してきたからよ。私はそれを奇妙だと感じていたのよ」
 ゴーラン作品のコピー品を取り扱っていたために、アリッサ本人の知らないところで、アリッサの顔を見たことのある人間が想像以上に溢れていた。ケビンにジョージにゴルディも、この像のことは知っていたのだ。
「弟子が師匠の模造品を売るそうです。本物は世界に一点のみですが、レプリカなら技術さえあればいくらでも生まれます。金持ちにしか買えない一点物より、誰でも買えるレプリカに需要があるのでしょう」
 マリーサは実に冷静に状況を語っているが、アリッサの方は顔が真っ赤だ。
 確かに露出性癖はある。裸を見せたい願望はある。
 だからといって、自分自身の知らないところで、こんな形で見られることなど、一体誰がいつ望んだというのか。
「冗談じゃないわよ……」
 信じられないものを見る目でテーブルを見つめるが、すると後ろから現れた客が、ぎょっとした顔で商品とアリッサの顔を見比べる。
「あ、あんた……!」
 驚いた顔をしてくる男に驚愕して、アリッサはすぐさま背中を向けた。
「ち、違うわよ!」
 そう言って、小走りで出店の前から逃げ出した。

     *

「え、嘘……ちょっと、なにこれ…………」
 宿に戻ると、ロビーに行き交う男の多くが両手に裸婦像を抱えており、自分の裸がこんな形で溢れかえっている状況に、アリッサはオロオロしていた。
「まさか人気が出ているとは」
「マリーサ? 私達って、こんな荷物を守っていたわけ?」
「取り扱う品は多岐に渡っていましたが、まあそうなるでしょう」
 マリーサは冷静に語っているが、アリッサはそうはいかない。
 こうしている今にも、どこかで誰かがアリッサの体を見て、オナニーのネタにしているのだ。宿で知り合った男達三人さえ、ひょっとすれば所持している。
「大丈夫ですか?」
「は、はは……はははは…………」
 アリッサは笑っていた。
 あまりのことに、もはや笑うしかなくなって、引き攣りながら壊れた笑いを浮かべていた。ぼんやりと彷徨う足取りで部屋へ戻れば、どんよりとしたものを醸し出して座り込み、気落ちしたまま顔も上げられない。
「お嬢様、何か料理を持って来てもらいましょう」
「……そうね」
 生返事。
 今のアリッサにはマリーサの言葉が届いていない。
「私は少々お手洗いに。少しのあいだ、お一人で過ごす時間が必要かと」
 マリーサが離れていき、部屋の真ん中で一人になったアリッサには、今の言葉でさえもきちんと頭が処理していない。ショックのあまり、何か声をかけられた程度にしか感じておらず、言われた内容を何一つわかっていない。
 ひたすら放心しきっていた。
「ははっ、はは……はは…………」
 一人になって、数分後には再び壊れた笑いを浮かべる。
 とはいえ、今までの体験から立ち直ってきたアリッサだ。
 このまま心が崩壊するかといったら、そうでもない。落ち込みムードから徐々に心を取り戻し、アリッサは持ち前のマゾヒズムで今度は逆に興奮していた。
 M気質の性格故に、露出性癖が身についたアリッサである。
 だったら、自分の裸が出回る状況も、そうしたM気質をくすぐるものだ。
 もし、あの三人が裸婦像を使ってオナニーをしていたら?
 顔見知りによってネタにされている状況を想像すると、ますます興奮を煽られる。覗き湯で温まった肉体には、まだまだ性欲を求める元気が残っていたこともあり、アリッサは服を脱ぎ始めていた。
 裸で床に寝そべって、股を開いてアソコに指を挿入する。
「あっ、んぅぅぅ……! も、もう……! 傭兵部隊も、ギルドの人達も……! あっ、あぁぁぁ……!」
 果ては行商隊の全ての男が一人一個ずつアリッサの裸婦像を所持していて、今まさにオナニーに使われている最中に違いないと想像する。ますます興奮のスイッチが入り、指の出入りは活発に、M字の足がモゾモゾと開閉するようになり、すっかり肉欲の中に溺れていた。
 そんな時である。
 急にドアがノックされ、従業員が部屋に入り込んでくる理由をアリッサは知らない。先ほどのマリーサの言葉がきちんと頭に入っていれば、こうはならなかったが、内容を理解しない生返事のせいで、この事態は起きていた。
「え……!?」
 男のぎょっとした声。
「は?」
 きょとんとして、呆然と固まるアリッサ。
 そう、料理を持って来た男と、何も気づかずにオナニーをしていたアリッサで、目と目が重なりあったまま、まるで時間が止まったように、お互いに放心していた。
「ち、ちがうわよ!?」
 アリッサはようやく状況を悟り、大慌てで弁解する。
「あなた! 料理ね? 持って来てくれたのね?」
「は、はい……」
「頼んだのはマリーサね? そういうことね? ノックはしたのかしら?」
「しましたが……」
「してたの!? そ、そう……わかったわ! 今見たことは、全て忘れ――」
 忘れろと言いかけて、アリッサはつい自分自身の言葉を句切ってしまう。
 この状況はむしろ興奮すべきものであると気づいて、オナニーで温まったアソコがますます熱を高めていた。
「失礼しました。何も気づかず、大変にお恥ずかしい思いをさせたのは、全てこちらの不手際です」
 その従業員は丁寧な言葉を繰り出しながら、見るからに焦燥していた。偶然とはいえ、予想もしない形で客に恥をかかせてしまい、内心動揺しているのだろう。
「一つ聞くんだけど、裸婦像って持ってるかしら。かなり卑猥なやつなんだけど」
「ら、裸婦像ですか?」
 彼からすれば、この状況でこの質問は、まるで意味がわかるまい。
「そのね。私、そっくりの……」
「…………持ってます」
 従業員は恐る恐るといった顔で、しかし真実を答えていた。
「……そう。あれのモデル、私なの」
「そうなのですか?」
「誰にも言わないと約束するなら、少しだけ見てもいいわよ。一分だけね」
 アリッサは恥じらいを浮かべつつ、体を隠すことなく直立不動で、ゆったりと腕を下ろして視線を浴びる。従業員はごくりと息を呑み、ズボンの中身を膨らませながら、胸からアソコにかけてまじまじと眺め回した。
「あの、どうもすみません。しかし、大変に良いものを見させて頂きました。約束通り、誰にも口外しませんので」
「ええ、よろしく。お料理、ありがとうね」
 こんなやり取りで従業員を外へ見送り、次の瞬間にはテーブルに並んだ料理に目を移す。

 まあ、なんというか……。
 性欲の次は食欲よね!

 これがアリッサだった。
 すぐに服に着替え直して、椅子に腰かけるアリッサだが、もちろん何も気づいていない。
 マリーサが今の一連の内容を覗き見て、影で興奮していた気配は、さしものアリッサにすら読めてはいないのだった。



 
 
 

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