そして、最後の最後でハプニングは起きた。
いや、既に十分なハプニングが起きている気もするが、それにしてもマリーサが深々と頭を下げ、必死に謝ってくる姿など、一体いつぶりのことであろう。
熱々の紅茶をうっかりこぼし、アリッサが火傷して大泣きしたのは、もう年齢は忘れたが小さな頃の出来事だ。マリーサが自分に謝ってくる姿で、記憶にあるのはこのくらいなものである。
「……いいわ。許すわ」
余所の貴族なら、これで処刑することもあるのだろうが、マリーサには並ならぬ愛着がある。貴族の血筋に生まれたアリッサと、使用人の家系に生まれたマリーサだから、こうして主従関係があるものの、そうでなければ純粋に姉として慕っていたはずだ。
姉妹に対するような愛情で、マリーサのことが大好きな身で、懲罰も解雇も考えられない。
それにアリッサには負い目がある。
チャラになった扱いだが、裸マントの件でマリーサを謝罪に巻き込んだのは、アリッサ自身は未だに気にしているところだ。
宿の高価な備品を壊してしまった。
しかも、思いもよらぬ高額な美術品だ。いかにアリッサだろうと、さすがに持ち歩いていない金額では弁償できない
「とにかく、一緒に責任者のところへ行くわよ。家に説明する必要が出た場合は、必ず私がやったことわ。でないと、私がよくても周りの方がマリーサを首にしろって言い出すかもしれないから」
自分を盾に使用人を守るなど、余所の貴族からすれば、どれほどの愚行に見えるだろう。
だが、マリーサを手放す気などアリッサにはない。
「お嬢様……」
「さあ、行くわよ」
一体、何をどうして壊してしまったのかは知らないが、ともかくアリッサはマリーサを伴い支配人の下へ行く。
屋敷か城にあるような、豪奢な装飾を伴った木彫りの扉の奥へ進むと、まずそこに飾られていた美術品に驚いた。
――アリッサの裸婦画だ。
部屋に入って真っ先に、スーツを纏った支配人が巨大な一枚絵を背にしていたのだ。両手を広げるよりもなお大きく、きっと自分の身長よりも高い裸婦画は、金色の額縁に納まって、白亜の壁に飾られていた。
まんぐり返しの、全ての恥部と共に顔まで見える体勢には覚えがあも、絵のために脱いだ覚えがない。
だが、すぐに理解した。
これはアリッサ本人でなく、裸婦像の方をモデルにして、画家が手がけた絵画なのだ。
「驚いたよ」
支配人は言う。
「私はゴーランの作品を気に入っていてね。弟子による模造品を取り寄せて、いくつか飾ってあるのだが、君はモデル本人だろう」
「え、ええ……」
自分のいやらしい姿が飾られている状況に、アリッサは頬を朱色に染めていた。
見れば部屋の左右には、様々な裸婦像が立って並んでいるのだが、その中にはゴーラン製のアリッサ像も――模造品らしいが置かれていた。
「さて、君の姉が壊してした壺は百年前に手がけられた歴史的作品でね。あの損失は歴史的損失に等しいよ。金なぞで埋め合わせることなどできはしない。歴史に対する補填など不可能だからね」
「妹である私も一緒に責任を背負うわ。何でも言いなさいよ」
アリッサは強気に言う。
「では言わせてもらうが、私はこれを金銭的な損失だと思っていない。歴史的損失だ。修繕師を雇えば修復は可能だが、一度壊れた事実は変わらない。と、まあ前置きが長くなったが、君達には修繕費用を求めるのが現実的なところだろう」
「いくらよ」
いざとなったら、屋敷に連絡を行えば、それ相応の大金は引っ張り出せる。何ならギルドで大金の仕事があれば、そちらの選択肢もある。
「いいや、何せ大金だ。貴族でもない限り支払いは不可能――なるほど、修繕費用を求めるのが妥当なところだというのに、その修繕費用の請求ができそうにないわけだ」
支配人はアリッサの身分を知らないらしい。
知られていても困るのだが、こちらを少し羽振りの良い平民程度に思っている。支払い能力があるなどとは、夢にも思っていないようだ。
「そこで考えたのは、私の与える罰を二人に受けてもらうことだ。なに、牢屋に入れということではない。私の言うことさえ聞いてくれれば、全てをなかったことにしよう。支払いを求めることもなければ、司法に判決を求めることもしない」
雲行きが怪しい。肉体を差し出す流れだろうか。
「まずは全裸土下座をしてもらう」
しかし、肉体的な要求ではあっても、アリッサが想像したものとは違っていた。
「私に全裸土下座をした後、ストリップ小屋でストリップ嬢として出演し、とある温泉で湯女として一日働いてもらおう」
支配人が直接二人を抱くのかと思いきや、客を取らせる形らしい。
湯女としての仕事は、一体どこまでするものなのか。果たして挿入はあるのか。いずれにせよ支配人の手配によって働かされ、その仕事の内容がそのまま二人に対する罰になるわけだ。
どうするべきか、しばし迷う。
支払い能力があると表明するには、身分を明かすか、ギルドで大金を稼ぐと大見得を切るしかない。ギルドの場合は実力の信用に加え、大口の案件がなければ、交渉は成立しない。
では身分を明かすか……。
だが、証明できる品物を持参しているわけでもなく、口頭のみで信じさせるのは困難だ。もはや方法はないのだろうか。
「……わかりました」
マリーサが観念してしまい、隣で早速服を脱ぎ始める。
「ま、マリーサ……」
足下に衣服を散乱させ、下着姿にまでなったマリーサを横目に、こうなればアリッサも脱ぎ始める。
そして、土下座が並んだ。
二人揃って床に額を近づけて、絨毯の模様や繊維が視界の全てとなる。垂れ下がった前髪が床に触れ、一気に恥辱感が込み上げた。
貴族の身分で、普通は体験することのない扱いだ。むしろアリッサこそが平民を平伏させ、人を土下座させてもいいところ、自分自身が屈辱的な仕打ちを受けている。
支配人の気配が近づく。
その移動によって、彼からすれば足下に二人の美女が並ぶ形となる。白い背中に連なる尻へと、ニヤニヤとした視線が這っていくのが感じられ、その視姦の感触にアリッサは身体を疼かせた。
「ふん」
支配人はさらに後ろへ回り込み、しゃがみ込むなり尻を覗いた。
今のこの姿勢で、肛門は見えているのかいないのか。性器の方は間違いなく見えている。
「んっ……!」
その時、尻毛をつまんで引っ張られ、アリッサは思わず声を上げてしまう。
すぐさま、マリーサのモゾっと動く気配がしたが、同じことをされたのだろう。
「では二人とも、ストリップ小屋で働いてもらう。その後は湯女として男の入浴に付き従い、まあ色々とサービスしたまえ」
こうしてこの場は切り上げて、二人は再び服を着る。
だが、それから使いの者によってストリップ小屋に案内され、その出演者とされる頃には、専用の衣装で脱衣を披露することになる。
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