ホテルの一室では男女のまぐわいが始まっていた。
下手なマンションよりも広々とした最上階の部屋は、さながら映画のスクリーンのように大きな窓から華々しい夜景が見下ろせる。窓辺のテーブルでワイングラスでも揺らすのが、ドラマのワンシーンならお約束であろうが、ここに泊まっているのは酒を飲めない歳の娘だ。
ベッドに横たわり、肢体に愛撫を受けているのは渋谷凛である。
「んぅ……! んあっ、あぁぁ……!」
乳房に吸いつき、舌を使った愛撫によがり、右手によって性器にも責めを受けている。
枕営業の最中なのだ。
見れば脇毛が生え揃い、陰毛も未処理のまま伸ばしてあるのは、相手の男の趣味である。彼に言われて、脇の出る衣装を着るのでもない限り、基本的には剃らずにいる。
「ではそろそろ」
男はゴムを装着する。
既に何度も体を重ねている凛は、自然と脚をM字に開き、彼を受け入れるための体勢を作り上げる。相手の要求など知り尽くし、もはや空気だけで自分のするべき行為を悟るまでになっていた。
慣れた動きで腰を近づけ、男は切っ先でワレメを割り開く。
「んぅぅぅ……! んっ、んぁっ、あぁぁ……!」
凛は背中を浮き上げていた。
「いいよ? 凛ちゃん」
愉悦を浮かべる男によって、激しいピストンが開始され、凛の体は活発によがりまわった。背中が何度もビクビクと跳ね上がり、よがらんばかりに脚が何度も開閉を繰り返す。シーツを鷲掴みに髪を振り乱し、汗ばんだ頬に束が張りつく。
「あん! あぁん! あん! あぁっ、あぁぁ……!」
大胆なグラインが膣を貫くたび、大きく上がる喘ぎ声が天井に届いていた。
「あぁん! ああん! あん! ああん! あん! ああん!」
絶えず電流を注ぎ続けているように、ピストンに合わせてビクンッ、ビクンッ、と、腰は執拗に震えている。背中が弾み上がっている。アーチのように反り上がった背中が落ちるたび、身体を打ちつけられたシーツから音が鳴る。
やがては射精する男だが、一度きりでは満足しない。
コンドームを外すなり、すぐに次の包装を破いて装着する。
「バックだ」
その一言で凛のポーズは変わっていた。
尻を差し出し、男が少しでも挿入しやすいようにと、上半身を少しばかり沈めて、角度の意識までしているのだ。
「よし」
男はほくそ笑む。
こうしていると、肛門に生え揃った尻毛が皺の回りで放射状に広がる有様がよく見える。毛を好む彼には、健康的なヒップのあいだに見える黒い毛は、実に素晴らしい光景なのだ。
そんな絶景にペニスを近づけ、腰を掴んで挿入する。
「あぁぁ……! あぁっ、あぁぁぁっ、あぁぁ……!」
凛は大きく喘いでいた。
「あぁん! あん! あん! あん! あぁん! あぁん! あぁん! あぁん!」
大事な喉を痛めはしないか、そんな心配をしたくもなるほど、激しい喘ぎで凛の口からは唾液が散る。ヨダレの垂れたみっともなさなど、快楽に飲まれた今の凛には意識する余裕もない。髪を振り乱しているうちに、たまたま口に入り込んだ一房をそのまま咥え、無意識にしゃぶっていることも気づかない。
肛門がヒクヒクと蠢いていた。
ピストンによって走る激しい電気に、肉体が自然と反応しての皺の収縮も、男にとっては鑑賞すべきものの一つである。
「いいよ? 凛ちゃん! もっと鳴こうか! 声を聞かせておくれよ!」
男も高ぶっていた。
ぺん!
と、尻を叩く。
腰を振りながら、もっと喘いでみせろとばかりに手を振り上げ、平手打ちで赤らみを与えていく。
ぺん! ぺん! ぺん!
騎手が鞭で馬を操るような気持ちになりきり、男は楽しく凛をいじめ抜く。
そして、叩かれることで興奮を増し、凛はビクビクと絶頂していた。急な痙攣で体中を震わせて、お漏らしのように愛液を内股に滴らせていた。
「イったか。だが俺はまだイってないぞ?」
男は構わずピストンを繰り返す。
この激しい夜を過ごして、朝になっても疲れが取れないほどに、凛が繰り返しイキ果てたのは言うまでもない。
だが、凛はこの時間と引き換えに一つの仕事を得た。
海外ライブだ。
これから半年後、飛行機で海を渡って、その先で行うライブが成功を収めることになる。
凜々しい眼差しでマイクを握り、磨き抜かれたダンスと歌声を披露する姿を見て、ファンは誰一人として想像すらしないだろう。
あの時間、男が満足する頃には、ゆうに十個以上の精液溜めのゴムを周囲に散らかし、品のない姿でぐったりと果てた姿があった。
*
そのライブの前にはもう一つの出来事があった。
男が約束したのは、面接の場に凛を推薦するまでであり、実際にイベントに抜擢されるかどうかは凛しだいだ。
面接の実施場所は某高層ビル。
アポイントは済ませてあり、受付で凛が名前を出せば、速やかに案内される流れとなっている。何度絶頂したかもわからない、昨晩までの余韻を股に抱え、凛は男に送られながらビルの前に降り立った。
「では行ってきたまえ」
男は運転席から凛を見送り、凛もそれに会釈を返す。
去って行く高級車を背に、凛は面接へ向かって行った。
受付で名前を出して、数分後には案内の職員が現れると、その案内人によってエレベーターに乗せられて、面接会場の前で待機を言い渡される。その際に、何故だか水を飲むように言われ、紙コップに入れた水を飲まされた。
それから、しばし待つ。
五分ほど経ち、直前まで面接を受けていたライバルがドアの中から出てくると、それと入れ替わりで凛は面接官の前へ向かっていった。
面接の場には、三人の中年がいた。
白髪、眼鏡、肥満の、それぞれ容姿の醜い中年達は、凛を見るなり鼻の下を伸ばし、衣服の下にある肉体に想像を及ばせ始める。
(凄いあからさま。でも、あの人に聞いていた通りか)
遠慮のない視姦に、思わず萎縮したくなる凛だったが、マナー通りの定型的な挨拶を行い、ライブにかける自分の思いをつらつらと語っていく。
そうしながら、凛は思う。
(さっきの子も、単なる面接だったの? それとも……)
凛は大物の後ろ盾を得てここにいる。
しかし、あの人が手をつけているアイドルは、何も一人だけとは限らない。もし他にもアイドルを抱いていて、同じ条件を持つライバルがいたら、凛が選ばれる可能性は確実なものではなくなってしまう。
三脚台の固定カメラは、面接を記録に残すためだと聞いている。
裏の事情を持つアイドルであっても、そうでなくても、どちらにしろ撮るのだろう。
それに加えて、三人の中年がそれぞれスマートフォンを構え、明らかに動画撮影を始めているのは、きっと凛が裏の事情を持っているからだ。
「ところで渋谷凛さん。君は『あの人』の推薦でここにいるわけだね?」
と、肥満中年は尋ねてくる。
「はい。その通りです」
「ではだね。このライブ面接に賭ける覚悟の強さをわかりやすく見定めるため、君には今から服を脱いでもらいたい」
(……来ちゃったか)
脱衣の要求に対して、凛が心に呟く言葉はそれだった。
あの人から、こういう展開になることは聞いていた。
だから、良くも悪しくも特別な扱いを受ける自分は、普通なら確実に選ばれる。それを揺るがす可能性があるのかどうか、凛には正直わからない。
(でも、せっかくのチャンス。形はどうあれ、絶対に掴み取りたい!)
腹を括って、凛は脱ぎ始めた。
枕営業であの人の相手はしているが、今のところの凛にある経験は、逆に言うならそれくらいだ。大勢の前で裸になった経験はなく、水着撮影がせいぜいである。
水色のジャケットを脱ぎ、薄らと頬が染まっていくのを感じながらも、凛はシャツをたくし上げていった。
ピンク色のブラジャーを晒し、次にはデニムを脱ぎ始める。
留め具を外し、チャックを引き下げた凛は、そのままデニムを下ろしていき、たちまち下着姿となっていた。
(結構……恥ずかしい……)
枕相手の男には見せ慣れても、ここにいるのは初めて会う相手である。自分では平気だと思っていたら、想像以上に羞恥心が膨らんで、今の自分はどこまで赤面していることか。
下着は上下共にピンクのレースだ。
可愛らしさを重視して、薄色の生地に濃い色のイチゴレースを縫い付けている。あるいは数珠つなぎのようになったイチゴといってもいい。それがショーツのフロントやカップのアーチ部分を飾り立て、ブラジャーは肩紐の頂点にも可愛らしくリボンを付けている。
そんな凛の下着姿に、三人の中年達は満足そうな笑みを浮かべる。
(続き、脱がないと……)
躊躇いはあったが、凛は背中のホックを外す。
膨らむ羞恥心を堪えつつ、目を瞑ってブラジャーを取り外し、さらにはショーツのゴムにも指を入れ、するすると下げていく。
こうして凛は全裸となった。
「下着はこちらへ」
眼鏡中年にそう言われ、まるで弱点を差し出すような気持ちで手渡すと、早速のようにショーツもブラジャーも弄ばれる。興味津々に広げたり、ショーツのクロッチを確かめ、おりものの痕跡を見ようとする。
自分の下着が思い思いに楽しまれている状況に、胸を強く締め付けられ、凛は密かに歯を食い縛る。
「では裸になったところで、改めて自己紹介をお願いします」
白髪眼鏡が指示してくる。
自己紹介は既にしているはずなのだが、裸の状態でもやらせたがる。これも枕相手のあの人から聞いた通りの流れであった。
「346プロダクション所属、渋谷凛です」
目標や心意気、そういった事柄は既に語っている。
ここから先で述べるべきは、もっと違う事柄だ。
「スリーサイズは上から八二センチ、五八センチ、八五センチ。オナニー経験有り。初体験は今から半年ほど前になります」
顔がますます赤らむ感覚が自分でわかる。
(今、どれくらい赤いんだろう)
頬から広がる赤色の具合を凛は自分で掴みきれない。
(どれだけ恥ずかしかったとしても、私は海外ライブに出たい。初めてライブに成功したときのあの感覚、今でも忘れられないから……)
大勢の前に立ち、歌とダンスを披露する。
それは生半可な覚悟で出来ることではないと思っていたが、プロデューサーの熱いスカウトで説得された。事務所への所属が決まってからはレッスンの日々が始まり、晴れて迎えたライブでの成功は胸に深く刻まれている。
イベントが終了してもなお、体が火照ったままだった。
あの感覚を知ってしまい、より大きく羽ばたきたいと思ったところへ、やがて現れたハンサムな男に枕営業を持ちかけられた。すぐさま受け入れたわけではなかったが、自分という男を後ろ盾に得れば、いかにメリットがあるかを散々に説かれ、ついには折れ、凛は処女を散らすことになったのだ。
枕営業に身を落としてでも、高いところへ羽ばたきたい。
もっと大きな場所でライブをして、熱い興奮を手にしたい。
自分の衝動に従って、レッスンと枕の日々を重ねた先で、この海外での仕事のチャンスはやって来たものなのだ。
(絶対、掴んでみせるから)
ライブに賭ける熱意が凛の胸にはある。
「スリーサイズが公式プロフィールとは違うようだね?」
肥満中年が指摘してくる。
「……は、はい。ここでは本来の数字を伝えました」
「ま、事務所の指示といったところか。で、オナニー経験有りということだけど、指は入れたことがあるのかな?」
「……あります」
「初めてオナニーした時は、処女? 非処女?」
「処女の時です」
セクハラじみた質問に、凛の心は恥辱に震える。
しかし、努めて平静を保とうと、普段の涼やかで凜々しい目つきを維持しようと、凛は表情を取り繕う。羞恥心を追い払い、顔の赤らみさえも撥ね除けようと意識するが、赤面ばかりはどうにもならない。
「処女の頃から指を入れていたのかな?」
普通は話すことのない内容を掘り下げる流れに、凛はクールな表情を装いつつ、密かに奥歯を噛み締める。
「……入れています。あの、いきなりではなくて、初めて指を入れた時は痛かったので、慣れるまではあまり入れていませんでした」
指の挿入は認めつつ、そのままでは自分は淫らな女であると宣言するかのようで、その気恥ずかしさから言い訳じみたことを付け足してしまう。
だが、事実だ。
初めて指を入れた頃は痛みがあり、しかし挿入での快感にはどうしても興味があり、少しずつ慣らしていったのだ。
質問を重ねてくる肥満中年に対し、凛はそのことまで含めて丁寧に答えていった。
「では処女を失うまでのあいだに、何本まで挿入可能になったのかな?」
「さ、三本……」
「それはエロいねぇ? 最初は痛かったんでしょう? 痛みになれるまで慣らしていって、だんだん二本入るように、それから三本入って、時間がかかったでしょう? 地道に開発しちゃいたいくらい、オナニーが大好きだったんだねぇ?」
それは質問でも何でもなく、ただ凛のことを煽っていた。
「うんうん。渋谷凛はオナニー好きな女の子だ」
「何歳の頃からしてたのかなー?」
「かなり早かったりして」
「あらあら、もしかしてアナルまで興味あったりしない?」
男達の好き勝手に盛り上がる様子に、屈辱感を煽られて、凛は密かに拳を震わせる。こんな風に自分のオナニーを話題にされ、茶化されたりネタにされる不快感と恥ずかしさは耐えがたいものがある。
面接の場だから、凛は抑えていた。
枕相手がセッティングした面接は、元より非常識な形式を取るものとして、凛にも事前に伝えられている。そこに面接の様子を撮るカメラがあるというのは、つまり凛は今ここでも枕相手の趣味に付き合っていることになる。
「実際どうなの? アナルオナニーはする?」
今度は眼鏡中年が訪ねてきた。
「お風呂場で、とか……。綺麗にしてある時なら……」
「へぇぇぇ? やるんだね? それも何? 処女の頃から?」
「………………はい」
「へぇ? 処女の頃からアナルオナニーを!? 凄いね! 凄いよそれは!」
眼鏡中年は大袈裟に驚いてくる。
他の二人も好奇心に満ちた目を向けてきて、裸で立っていることと、この受け答えの内容と、一体どちらが恥ずかしいのかわからなくなりそうだ。
「アナルセックスとかさ。そういうのがあるって、知っていたんじゃない? だから興味を持ったって話じゃない? ねえ、どうなの?」
白髪中年は肛門について掘り下げようとしてくる。
「そ、そ……そう……です…………」
「エッチだねぇぇ? それでお尻にも指が? 何本? ああ、処女のね、未経験の時点で入る本数ね?」
「お尻も……三本…………」
この話が続けば続くほど、凛はだんだんと前を向いていられなくなり、目が無意味に左右へ泳ぐ。ただでさえ落ち着かないのに、こうして秘密を掘り起こされていることで、余計に体がそわそわして、全身が貧乏揺すりをしそうになる。
「アナルオナニーで三本、前のオナニーでも三本! 処女の頃からチンポを迎え入れる準備が出来ていて、満を持して枕営業の相手に口説かれちゃったわけなんだね?」
「そう……なります…………」
「で? 抱かれるようになってからも、オナニーはするのかな?」
「…………はい」
「偉いねぇ? エッチで偉いよ凛ちゃん!」
「うんうん! 素晴らしい!」
「君はいいアイドルだよ!」
淫らであることを殊更に褒め称え、大喜びで持ち上げてくる中年三人の言葉に心を抉られ、ますます惨めな思いになってくる。
しかも、こんなことで良いアイドルなどと褒められたのだ。
(……違う。ここにいるのは裏の私で、こんなのは舞台裏みたいなもので、表で輝く時の私はそんなんじゃない!)
アイドルへのプライドから、凛は心でそう叫ぶ。
「では君が企画中のイベントに相応しいか。その肉体を検分させてもらう」
白髪中年の言葉を契機に、三人は一斉に立ち上がり、ぞろぞろと凛の回りに集まった。スマートフォンを手にしながら、本人の意思など確認せずに写真を撮り、胸や尻に思うように顔を近づけ観察してくる。
「それにしても凄い毛だねぇ?」
「脇毛とかさ。衣装によってはちゃんと剃るんだよね?」
「ま、これがあの人の趣味か」
思い思いのことを口にしながら、勝手に触りまでしてくるのに、凛は耐えていなくてはならない。枕相手の男からは、こういう面接になると聞かされて、凛はその上で来ているのだ。
「君はこうやって乳首で感じたりもするのかな?」
肥満中年が真正面から乳首を摘まみ、もう片方の手では乳房を写真に撮り続ける。
「……は、はい。感じます」
無理にでも笑顔を浮かべ、快く受け入れてみせていた。
「尻毛凄いねー」
後ろからは白髪中年の声が聞こえ、直後に尻に手が置かれる。撫で回してきたかと思いきや、割れ目からはみ出た毛を引っ張り、弄んでくるのだった。
「下の方もチェックしてみようかー」
眼鏡中年がアソコへしゃがみ、まずは指で毛むくじゃらの部分を掻き分ける。弄び、おもむろに引っ張って、ひとしきり弄り回した挙げ句にクリトリスに指を置き、手慣れたタッチで刺激してくる。
「んぅぅぅ……!」
「気持ちいいのかな?」
「はいっ、クリトリスもよくオナニーで触っていましたので」
引き攣りそうな顔を強引に笑顔に変え、歪な表情を作り上げ、凛は本当に無理にでも笑っている。何をされても笑顔は崩さず、この身に起きていることは全てそよ風に過ぎないように受け止める。
(テストだと思って、なんとかやり過ごすしかない)
わざといやらしい言葉をかけたり、取り囲んで触ってくるのは、人前に立つアイドルとしてどれほど忍耐力に優れているか、直々にチェックしているからだ。
……なんて、わけはない。
触りたくて触っているし、面接での受け答えも全てセクハラに過ぎないと、頭の片隅ではわかっているが、テストだと思った方が耐えられる。だから必死に思い込み、これは耐久テストなのだと脳内では設定を作り上げていた。
そして、そのうちに凛は感じた。
(うっ、なんか……)
感度の高い肉体が、こういう形で触られても反応をしてしまう。
それはもちろんあるのだが、それだけではない。
尿意を催していた。
まだ大したことはない。当分は我慢できるだろう。
特に危機的状況ではないが、出そうと思えば出せてしまう感覚が気になってしかたがない。ただでさえ落ち着きの得られる状況とは言えないのに、余計に落ち着いていられない。
「ではそろそろ」
三人の中年達は離れていく。
検分とやらに満足して、これで面接が終わるのだろうかと思った矢先、何やら箱を持って来る眼鏡中年のニヤつきを見て、まだまだ恥辱の時間は続くと悟る。
「この中から好きなものを選んで、オナニーをしてくれたまえ」
アダルトグッズを詰め込んだ箱だった。
眼鏡中年は箱の中からテーブルの上に並べ始めて、ピンクローターやディルドが次々に置かれていく。男性器をリアルに再現したタイプから、ピンク色のタイプまで、ディルドだけでも種類は豊富で、アナルパールまで並んでいる。
凛は迷った。
(選べなんて言われても……)
そもそも、何の抵抗もなく脱いでいるわけではない。
ただオナニーをしてみせろというだけでも、大いに躊躇いたいところ、自分の手で使う道具を選べなど、こうも屈辱を煽るアイディアがあるだろうか。
(でも、この人達の機嫌を良くしないと――)
そんな意識が凛の中で働いて、ならば何を選べば一番彼らが喜ぶか。
一瞬、リアル造形のディルドに目がいった。
(い、いや……これは…………)
それを選ぶことには抵抗感が出てしまい、ならば代わりに選ぶのはバイブであった。膣用とアナル用を同時に選び、膣用の方にはクリトリスを責めるためのブラシも付いている。
「三点責めというわけか」
「うんうん。いいねぇ?」
ローションをまぶし、滑りを良くして挿入する。スイッチを入れると振動して、すぐさま凛の下半身には刺激が走る。
「んぅぅぅぅ…………!」
凛は喘いだ。
内股になり、太ももを引き締めて、アソコを両手で押さえて腰をくの字に折り曲げる。二つの穴で振動して、クリトリスにも強い刺激が走って腰が震える。腰がくねくねと左右に動き、脳が快感に染まりそうだ。
「あぁっ、あぁぁ……! あっ、あぁぁ……! あぁぁ……!」
「随分と気持ちよさそうだ」
「さすがはエロアイドル」
「感度良好なわけですなぁ?」
凛の喘ぐ姿に中年達は大いに喜ぶ。
「あっ、あぁっ! あん! あぁぁん!」
肉体は高ぶり続け、既にイクのは時間の問題だった。
太ももを引き締める力は強まって、腰をしきりに振りたくる。内股には愛液が滴って、皮膚の表面を伝って下へ下へと流れ落ちている。
「はははっ、そろそろかな」
「いや、もう少しかかるでしょう」
「うーん。あと一分くらい?」
などと、絶頂のタイミングを予想し始め、中年達は盛り上がる。
「あっ! あぁぁ……! あぁぁぁ……!」
皮膚を伝った愛液が膝を通過し、ふくらはぎまで濡れだして、腰を振りたくる動きはしだいに活発になっている。この凛の動きを後ろから見てみれば、とんな尻フリダンスである。
絶頂への予感は膨らみ、ついに弾けた。
「あぁぁぁぁ…………!」
全身を震わせて、首で仰け反り天井に向かって大きく喘ぐ。
もう無理だと言わんばかりにローターのスイッチを切り、凛は床にへたり込む。
「予想とは一秒くらいずれちゃったかなー」
「ま、でも良いイキっぷりだったねぇ?」
「うんうん。いいエロアイドルだ」
凛の絶頂した様子を見て、中年達は満足そうな表情を浮かべている。
(頭が真っ白……何も……考えられない……)
少しのあいだ、ものを考える余裕もなく、一分ほどは休んでから、よろよろと立ち上がる。玩具を返そうとしたところ、何故だか「まだ付けたままでいい」と言われて、理由もわからず穴にバイブを差したままに立ちすくんだ。
「では最後に、全裸土下座をお願いします」
ここまで恥辱に満ちた面接をこなし、最後の最後にやって来るのが、そんな信じられない要求だった。
(な、なにそれ)
さすがの凛も引き攣っていた。
「聞こえませんでした? 全裸土下座ですよ?」
「土下座って、ここまでしたのに……」
全裸でセクハラ質問に耐え、オナニーまで披露して、それでもまた次の要求が残っていること自体が信じられない。もういいではないか、これで解放して欲しい。凛はそんな思いを大きく抱えていたが、すると中年三人はあからさまに首を傾げる。
「あれぇ? いいのかなぁ?」
「他の子はそこまでやったよ?」
(うそ……)
それがブラフか、真実か。
凛には判断のしようがない。
だから凛の立場では、真実として受け止めざるを得ない。ここまでやって、これでイベントに選ばれないなど、それでは尊厳を切り売りした意味がない。だったら、一層のこと全裸土下座に従って、より確実にしなければ、屈辱に耐えただけ損などやっていられない。
もちろん、そんな真似ができるかと思うプライドは残っていた。
しかし、それでもライブに出たいのだ。
(あの感覚……あの熱さのためなら…………)
凛は膝を突き、正座の姿勢となってから、上半身を前へ前へと倒していく。
尊厳が崩れ落ちていた。
品格が罅だらけに、指でつつけば簡単に崩壊するほど痛んでしまい、ボロボロと破片が零れ落ちている。そんな感覚が凛にはある。
中年達は実に楽しみそうにしていた。
女の子が丸裸で、自分達の前に頭を下げ、土下座までする瞬間に、至福の喜びでも覚えるというわけだろう。心の底からいい気になって舞い上がり、思い出の映像でこの時の気分にこれから何度も浸るのだ。
ふざけている。
そうは思っても、凛は床に額を近づけて、土下座の形を作り上げていた。
「……お願いします。どうか私をライブに選び、出演させて下さい」
凛の視界にあるものは、垂れ下がった前髪で周囲の景色が遮断され、眼前に迫った床の素材だけだった。
「いやぁ、そこまで頼まれてはね」
「あの人の推薦ということもあるし」
「是非、前向きに考えないとねぇ?」
自分でやらせておきながら、さも凛が自らここまで恥を晒したような口ぶりで、周りに集まり見下ろしてくる。周囲に迫る気配から、中年達は凛の土下座をまさに足下にしているのが伝わった。
「では玩具のスイッチを入れたまえ」
命じられ、凛は再び起動する。
「んっ、んぅぅ……んぁぁ…………はぁぁっ、あぁぁ…………!」
スイッチは『弱』に抑えたが、それでも膣と肛門を内側から震わされ、クリトリスにも与えられる振動に、凛はたちまち息を乱した。
「では我々は審議を行ってくる」
「すぐに済むけど、戻って来るまで土下座のままでいて欲しいな」
「もしいなくなったり、土下座を途中で解いたりしたら、採用になっても取り消すからね」
中年達は言い残し、揃って部屋を後にしていく。
(このままって……)
凛はカメラの存在を思い出す。
三脚台に立っているのは、ただの録画用だろう。どこかに中継しているとは限らないが、もしも監視されていたら、という考えは頭を掠める。
(ここまで来たんだし、なら最後まで……)
そうは思っていた。
だが、一方で不安が膨らんでいた。
(早めに戻ってくるよね……でないと……)
性器に刺激を与えているせいで、尿道口にもバイブの振動が及んで来て、尿意が刺激され続けている。だんだんと我慢が辛くなる予感がして、早く戻って来て欲しい願いは秒刻みで強まっていく。
「んぅ……あぁ…………は、やく…………」
歯を食い縛り、尿意を堪える。
ほんの数秒前までは、まだ平気だと思っていたのだ。それが急速に危うくなり、今にも漏れそうな危機感が膨らんだ。
(まだ? いつになったら――や、やばい――本当にやばいから……!)
凛は焦った。
このままでは本当に手遅れだ。
中年達が戻って来ても、服に着替えた上で、さらにトイレまで移動する時間のことまで考えると、もう絶望感しか湧いてこない。
(やばい――やばい――やばい――やばい――やばい――)
焦りに焦り、凛はそわそわしきっていた。
落ち着きを失い、体が意味もなくモゾモゾと動いている。その一方で下半身は尿を押さえ込むために強張って、我慢のために使いうる筋肉を少しでも硬化しようと努力している。
(本当にやばい! は、早く! お願い早く! じゃないと――!)
瞳が焦燥に震えきっていた。
こうなったら、一層のことさっさとトイレに行き、素早く戻って土下座し直せば、それでどうにか誤魔化せるのではないかと考えつく。だが、ここまで尿意が強まっては、もはや下手な身動きを取ることさえ恐ろしい。
もう遅いのだ。
凛は我慢の限界を迎え、もはや一分も堪えられないところまで来てしまった。
「お待たせー! 合格だよ?」
「あれ? なんか臭うねぇ?」
「はははは! トイレなら許してあげたのに!」
手遅れになった矢先に、中年達は戻って来る。
凛の様子を見るなり、まず臭いのことを言い、さらには笑ってくる。しかも、トイレという事情なら土下座を解くことが許されたなど、そんな事実を今更になって伝えられても後の祭りである。
(うっ、私……こんなところで…………!)
とうとう決壊したのだ。
合格の言葉を聞いたその瞬間から、我慢は限界を迎えていた。
アソコから温かいものが溢れ出し、土下座という姿勢のために、自分自身の足や髪が水たまりに浸ってしまう。円形状に広がる黄金水は、一度放出が始まれば、まるで我慢が利かずにみるみるうちに溢れてしまい、一滴残らず出て行く勢いだ。
床についた両手も尿に浸され、この人生でもっとも惨めな気持ちを味わっていた。
バイブは未だ震えている。
「んっ、んぅぅ……んぅぅぅぅぅ…………!」
こんな状況でも気持ちが良く、尿に愛液が混ざっているのは言うまでもない。
「ま、いいよいいよ? オシッコを我慢してまで土下座を維持してたんだ」
「ライブに選んであげようじゃない」
「ああ、でも帰る前に掃除していってね? 雑巾用意するからさ」
社会的な死を味わった気持ちにさえなっていた。
オシッコを漏らすだけでもありえないのに、凛は全裸土下座をしたまま漏らしたのだ。それをこれから、自分の手で掃除する。
大声で泣きじゃくりたい思いがした。
実際、涙が流れていた。
それから、凛は泣きながら雑巾を受け取って、世にも惨めな拭き掃除を行った。
これらの記録は全てカメラに収まって、中年達はもちろん、枕相手の男の手にも渡って、後々まで楽しまれる。
このような失態があったことなど、ファンは知らない。
ただ、渋谷凛激似と称される動画の流出はあったという。
コメント投稿