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 日曜日――。
 守られる気のしない口約束では、今日で最後ということになっている。
 この日もユニフォームで練習場へ向かって行った。

「どういう頭をしていたら、こういうことを思いつくの?」

 そして、早速言い渡されたプレイを前に、まず先に冷え切った声で唯華は副顧問を軽蔑していた。
「いいじゃないか。楽しそうで」
「楽しいのはそちらだけでは?」
「なに、今日が終われば、少なくとも万引きの件は全て忘れてやる。志波姫としても、最初の目的は果たされるだろう?」
 嘘を言っては見えないが、唯華に対してニヤニヤしている。
 きっと、それが答えなのだ。
「さあ、早くしろ」
「心の中では、先生が地獄に落ちるように祈っておくので」
 恨み言の一つも言ってから、唯華はそれを受け取り装着した。
 副顧問が言い渡してきたプレイ内容は、犬のお散歩ごっこである。女の子に首輪を付け、四つん這いで歩かせようというのである。
 しかも、リード付きの首輪を巻いた途端だ。
「飲め、全部だ」
「水分なら入らないけど」
「いいから飲め」
 有無を言わさず、ペットボトルの飲料水を押しつけられた。
 犬の散歩、水分の強要、まさかとは思うが……。
「さあ、始めるぞ」
 水を飲み干すと、唯華は四つん這いを強要された。
(ああもう! 本当になんなの!? こんなのありえない!)
 犬の首輪があることで、単にポーズを変える以上の屈辱で精神が蝕まれる。
 しかも、この男はバドミントン選手、フレ女のエース、部活の主将――そういった看板に対して興奮している。部内ではトップの唯華を好きに扱い、屈辱的なプレイを強いることで、支配感に酔い痴れているのだ。
 床に両手と両膝を突き、唯華は四つん這い歩行を開始する。
 当然、そんな唯華の背中や尻を視姦して、後ろからニヤニヤと楽しんでいるのだろう。
「名前でも付けてやろうか? ポチって呼んでやろうか?」
「いい加減にして欲しいね」
 唯華は本気で苛立っている。
「なに怒ってるんだ?」
「怒らない方がおかしいから」
 人の処女まで奪った男に、どうして気を許すことがあるだろう。
 強要でもされない限り、決してすることのなかったプレイによって、唯華は両手を前足として使っている。右手を前に、左手を前に、膝を床に擦り付けた歩行で進んでいく。進めば進むだけ、屈辱感に自然と拳が固まって、爪が手の平に食い込んでいた。
「なあポチ」
「ポチじゃない!」
「はははっ、しょうがないなぁ? 志波姫ぇ、コートの周りを歩いてみて、どういう気分だ?」
「こんなことをさせて気分はどうだって、なかなかのご身分だね」
「まあまあ、言ってみろよ。今の気分を」
 副顧問は唯華の傍らにしゃがみ込み、気軽に尻を触ってくる。ペットを撫でて可愛がる手つきによって、ユニフォーム越しの尻は撫で回された。
「そうだね。飼い主の首を食い千切りたいかも」
 と、半ば本気で口にする。
「怖いことを言うなぁ?」
「もう一つ、今すぐ副顧問をやめてもらいたい気分もするかな」
「生意気め、その口は後で塞がないとな」
 ニヤっと笑う表情で、何を考えているかなど明白だった。
 フェラチオでもさせるつもりに違いない。
 ぐるりと一周させられると、副顧問は案の定ズボンのチャックを下げ始める。まるでお散歩中のエサであるように、ベンチに座って膝を広げて、唯華を股のあいだに招くのだ。
「どこまで犬扱いすれば気が済むの」
「ほーら、ビーフジャーキーだぞ?」
「この……」
 目の前に出て来た肉棒を咥えずにいると、副顧問はポケットからスマートフォンを取り出して、我が物顔で裸の謝罪動画を再生してくる。
「やればいいんでしょ」
 四つん這いの姿勢で咥え、手を使わずに行うフェラチオに初めて励んだ。
「あむっ、じゅっ、じゅず……ずっ、ずぅ……」
 上半身を前後に揺することにより、頭も前後に動いていく。
 口内に出し入れさせ、少しでも早く終わって欲しい思いから、こんな男のためにも舌を蠢かせ、竿中を舐め回した。
「はじゅぅ……じゅむっ、ぢゅるぅぅ…………」
 亀頭をしゃぶり、玉さえ舐める。
 おぞましいものに対する奉仕に心を削り、やっとの思いで口内に青臭い味が広がる瞬間こそ、フェラチオという名の地獄から解放される瞬間だった。
 もちろん、いつものように飲まされる。
 ペロペロと綺麗に舐め取り、精液の汚れをひとしきり取り除き、唾液まみれに輝く状態にしてやって、やっとのことで本当の終了を迎えるのだ。
「満足したなら、帰らせて欲しいんだけど」
「何言ってるんだ。犬といったら小便だろう?」
「……は?」
「小便しろ」
 本当は予感していた。
 何故だか水を飲まされて、無理にでも水分を補給させられた時から、唯華の中にはそういう予感はあった。
 だが、思い違いであって欲しかった。
「な、何を言ってるの! だいたい、どこで!?」
「ここでいいだろ?」
「ありえないよ! どうしてここでするのさ!」
「それもそうだ。だから、小便をするための入れ物を用意してある」
 ベンチには副顧問の荷物が置かれている。
 大きめのバッグから取り出される黄金のカップを見た瞬間、唯華はかつてないほど大きく目を丸め、今までで最も信じられないものを見る眼差しで副顧問を見上げていた。
 団体戦の優勝カップだ。
 みんなで勝ち取ったものを、このためだけに持って来て、それを小便で汚させようとしているのだ。
「それだけはやめて! 昨日みたいに――さ、最後まで……していいから!」
 身を切る思いで、本番と引き換えにしてでも、それだけは避けようとした。
「いいや、やれ」
「ふざけないで! だったら、せめて別のところに――」
「これにしろ」
「なんで! バドミントンに恨みでもあるの!? そんなに競技が嫌いなの!?」
 もはや競技への憎悪でもなければ、こんなことを思いつく神経が理解できない。
「いいや? 特に恨みなんてないな」
「は……?」
 なんの恨みもなく、ただ単に性癖の一貫でこれを思いついていることが、唯華にはますます理解できない。
「特に恨みはないけど、他ならぬ主将が競技に小便を引っかけるって、興奮するじゃないか。僕はそれが見たいんだよ」
「あ、ありえない……なんで、そんなことを私が……」
 人の好きなものを、本人の排泄物で穢させるなど、だったら唯華に恨みがあるのだろうか。
「ほら、ワンちゃんのオシッコは片足を挙げてやるものだ」
「それだけはできない! もう一週間相手するから!」
 団体戦のカップとなれば、それは唯華一人のものではない。
 それに、敗退していった学校とて、このカップを手にするために汗を流して努力してきた。それら全ての頂点に立った証を小便で穢すほど、競技を侮辱する行為はない。それを主将にやらせようとする悪趣味さには戦慄しかなかった。
「仕方ないなぁ? なら、今からアソコを刺激しまくる。十分以上経ってもオシッコが出そうになかったら、尿意がないということで諦めよう」
 散々に拒絶の意思を声に出し、あまつさえ体を売る発言までした上で、ようやく引き出した譲歩がそれだった。
「だ、だから……何があっても、絶対……」
「うん。最後まで耐えきればいいだけだろう? 絶対にできないっていうなら、見事に耐え抜いてみせて欲しいな? 主将ならできるんじゃない?」
 副顧問はこれ以上は決して譲ろうとはしない。
(……もう……やるしかないの?)
 今のところ、申し訳程度にしか尿意はない。
 トイレに行けば、出ないことはないだろうが、まだまだ数時間以上は行かなくても良さそうな感覚だ。
「こればっかりは、何が何でも約束は守ってもらうから」
 怨念さえ宿った眼差しで睨みつけ、本当に心の底から不本意ながらに、唯華は副顧問の条件を受け入れる。
 しかし、こんな条件付きの遊びを受け入れること自体、心理的な拒否反応は強かった。

     *

「んっ、んぅ……んぁぁ……あぁぁ…………!」
 唯華は四つん這いのまま、尻だけを高くした体勢で、頭や胸は床に付け、後ろからの愛撫を受けていた。
「どうした? あんな条件が出ているのに、君はそれでも感じちゃうのか?」
「うっ、うるさい……んっ、んぁ……!」
 綿棒が使われていた。
 ユニフォームの布をずらし、尻たぶの片方が丸出しに、性器と肛門が丸見えとなった状態で、肛門の皺がなぞられている。先端でくすぐってくる感触に、皺がヒクヒクと窄まって、いつの間に肛門で感じやすくなってか、声まで出てしまっている。
「いい声だよ。ほら、こっちもやってやろう」
 肛門に綿棒を差し込むと、次はもう一本の綿棒がワレメを擦る。
 だんだんと分泌される愛液は、綿棒の綿に吸い込まれ、ワレメとのあいだに徐々に糸が引きやすくなっていた。
「んっ、んっ、んっ、んぅ……んぅぅ…………」
「よし、次は指を入れてあげよう」
 綿棒が遠ざかる。
 しかし、尻には刺さったまま、膣口にも指が突き刺さり、そのピストンが始まるなり唯華は快楽に襲われる。
「おっ、あっ、あぁ……! あっ、くぅっ、うぅぅ……!」
「ほらほら、肛門まで反応してるよ? 前みたいに、綿棒が上下してるよ?」
「やっ、あっ、言わないで――そんなことぉ……うぅ……!」
「志波姫ぇ、君は負けられないゲームをしてるんだよ?」
「んっ、んぁぁ……!」
 指の出入りが快感を生み出して、床に頬を押しつける唯華は、そのまま床に熱く乱れた息を吐き出していた。
「いいのかな? そんな感じちゃってる様子で。負けたらカップにオシッコするのに、みんなで勝ち取った優勝を穢す羽目になって、本当にいいのかな?」
 煽ってくる言葉が屈辱感を高めてくる。
 歯をきつく食い縛り、歯茎がどうにかなりそうなほどに顎に力が籠もっていく。握り締めた拳の内側で、爪がとっくに食い込んでいた。
「しかし、もう五分か。早いもんだねぇ? じゃあ、そろそろ本格的に責めてあげよう」
 すると、指が抜かれる。
 本格的と言いながら、指のピストンをやめる理由はわからない。
 だが、何か丸いプラスチックを膣の中に埋め込まれ、そのスイッチが入った瞬間、ピンクローターの刺激に腰全体が震えるのだった。
「んぅぅぅぅ……! なっ、それって……! あぁぁぁ……!」
「ああ、ローターくらい知ってるんだね? そうだよ? ローターだよ?」
「んっ、あっ! そんな……道具まで……!」
「道具禁止なんてルールは作ってないもんね」
 膣に埋め込まれた卵形から、ブィィィィィ……と、無機質な振動によって膣壁が振るわされ、みるみるうちに愛液が分泌される。唯華自身の愛液がローターを包み込み、あっという間にアソコに馴染んで、ますます快感は高まっていた。
「あぁぁ……! あぁぁ……!」
 副顧問からすれば、ワレメからコードの生えた光景を楽しみつつも、さらに指で中身を開いて、綿棒によっても刺激する。
 狙いは尿道口だった。
「そっ、そこは……! あぁぁ……!」
 尿道口を直接突かれ、ローターで膣も振動させられて、肛門がピクピクと反応していることを示さんばかりに、尻の綿棒は上下している。
 尿意を煽られ続けた唯華は、やがて危機を悟っていた。
 副顧問から渡されたペットボトルは、フタを既に一度開けられていた。初めて開ける際の感じがなかったのだ。
 もし利尿剤でも入っていたら、そんな考えが浮かんだ時にはもう遅い。
「も、もう……! トイレに! トイレに行かせて!」
「片足を上げろ」
「そんなこと……!」
「カップにはしなくていい。片足を上げて、僕の見ている前でしろ!」
「うぅ……くぅぅぅ…………!」
「やらなきゃ許さないよ! ゴム無しで犯してやろうか!」
「うっ、くぅ……うぅぅ……!」
 唯華は涙ながらに右足を持ち上げて、犬が電柱に放尿する際のポーズそのままに、もう抑えきれない尿意を解放した。

 チョロロロロロロ…………。

 練習場でオシッコを出してしまっている。
 そんな自分の状況に耐えきれず、唯華は床に額を押しつけ、手の甲を噛み締めながら、まぶたの筋力が許す限り全力で目を閉じていた。
「はははっ! ワンちゃんだワンちゃん!」
 屈辱的な言葉が胸を抉り、心が切り刻まれていく。
 そして、唯華は気づいていない。
 口先ではカップにはしなくて良いと言った副顧問が、黄金水のアーチに合わせて物を置き、さらには動画まで撮っていることに、さしもの唯華も気づく余裕がなかった。放尿を見られている羞恥に耐えることだけで精一杯で、パニックにも似た状態では周りの状況になど気づくことはできなかった。
 尿のアーチは十秒、二十秒とかけて勢いを保ち、優勝カップの器に降りかかる。最初は器の中に尿が溜まって、勢いが緩むにつれてアーチが縮むことにより、外側が濡らされる。
 やっとのことで尿は収まり、しかし地獄は終わらない。
「よーし、そのままそのまま」
 副顧問はティッシュを用意して、唯華のアソコを拭き始めたのだ。
 後ろ側からアソコを覗き、滴の残ったワレメにティッシュ越しの指が押しつけられ、赤ん坊の頃にしかされないようなトイレの世話をされる恥辱に打ちのめされる。
「……私に恨みでもあったの? そんなに私が嫌いだった?」
 涙ぐんだ声で、唯華は本気で尋ねていた。
「いいや、別に?」
 恨みを買ったわけですらなく、本当にただの個人的な性癖だけで屈辱的な真似をさせられた事実を痛感して、唯華はますます打ちのめされる。
 挙げていた足を下ろし、そして気づいてしまった。
「そんな……! 話が違う!」
 顔面蒼白だった。
 肩越しに振り向いた先にある濡れたカップに、壮絶なまでのショックを受け、眼球が飛び出てもおかしくないほど目が丸まり、唯華は心に追い打ちを受けていた。
「私が……そんな……私が…………」
 無論、トイレに行く暇もないような尿意を利用して、口先では唯華を騙し、目論見通りに小便をかけさせたのは、副顧問の行動だ。
 しかし、まるで自分こそがとてつもない罪を犯したような心理に陥り、いくら唯華でも目尻に涙を溜め込んでいた。
「ほら」
 そんな唯華に動画を見せ、カップにかけている瞬間を突きつけるほど、残酷な仕打ちはないだろう。
「雑巾だ。綺麗にしようか」
 こんなことをさせた副顧問の方こそ、本当なら掃除をするべきだろう。
 だが、性暴力に走って生徒を意のままに従わせ、身勝手な欲求を満たす人物が、自分で掃除をするはずがない。
 唯華自身も罪悪感に陥って、脱力しきった力ない手で雑巾を受け取ると、無言で淡々と床を拭き始めるのだった。
「あーあー。他の部員に見せてみたいねぇ?」
 副顧問は床を拭いている唯華に追い打ちの言葉をかける。
「主将がこんなことをしたと知ったら、どんな顔をする? どんな失望の表情が並ぶかな? 今の掃除している姿だって、見たらショックを受けるだろうなー」
 動画撮影の状態となったスマートフォンを向けながら、副顧問は唯華を煽り続けていた。
 唯華はひたすら打ちのめされ、心を細かく刻まれて、いくら何でもこれでメンタルが傷つかないわけがない。
 心の死んだ唯華へと、それでも拭き掃除が終わると同時に性交を強要する。副顧問の行いはまさしく死体蹴りそのものだった。
 それから、唯華は下を向いたまま帰っていく。
 この日は誰とも口を利かずに布団に潜り、一人塞ぎ込むのも無理はなかった。

     *

 しかし、唯華は強かった。
「ごめんねー。昨日はちょっと、重くてさ……」
 腹に手を当てながら、ルームメイトにはそんな風に誤魔化して、部活にも今まで通りに顔を出す。裏で起きている出来事など、何一つ起こっていないかのように唯華は振る舞った。
 そして……。
 部活が終わった後のスマートフォンには、副顧問からの連絡が入っている。

『次は水曜日に来い』

 行かなければ、誰かに唯華の動画を見せつけると言っていた。
 狙い目の女子を呼び出し、性格の弱さに付け込んで、無理を言って押し通す作戦らしい。大人相手にもきっぱりと言える強さがなければ、抗いきれずに強引に同意させられ、体を許す羽目になるだろう。
(いいよ。私がそうはさせない)
 望み通り、今だけは相手になってやろう。
 だが、頭の中では算段を組み立てている。
 一体どうやって訴えれば、話が過度に表に出ず、副顧問の不祥事で大会出場停止といった事態を避けながら、転勤なり退職なりで学校から消えてもらえるか。
(……今のうちだけだよ)
 その気持ちを胸に、唯華は副顧問との関係を継続することになるのだった。



 
 
 

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