いよいよ三ヶ月が過ぎた。
性行為の実践授業を行う期間に突入して、それと同時に、もう冬馬とセックスをしても違反にはならなくなる。
せっかくの解禁日に実践授業の初日が被せてある。まず真っ先に沙弓の裸に触れるのは、決して冬馬ではなくなるように、始めから調整されていた。
そして、冬馬もまた授業に参加し、沙弓への愛撫を行うだろう。
最後にはクラス全員が沙弓の裸を見て触って、ひとしきり味わうことになる。
「なんでこう……」
沙弓としては、一刻も早く冬馬としたい。
早く冬馬とのセックスを重ね、校長とのセックスを塗り潰し、悪い思い出は少しでも薄めたい。できることなら記憶から抹消して、本当の意味でなかったことにしたいくらいだ。
しかし、沙弓は既に準備につき、一人目の相手をするためにベッドにいる。
どういう気を回してなのか、相手の顔や声がわからないように、沙弓はヘッドホンをかけている。ご丁寧にノイズキャンセリング機能が付いており、よほど高性能なせいなのか、試しに床を蹴ったり壁を叩いたりしてみても、決して物音は聞こえない。
せいぜい、呼吸やくしゃみなど、自分自身の内側から出る音くらいしか、沙弓の耳には届いて来ない。
加えて分厚いアイマスクだ。
顔の半分は覆い隠して、一片の光さえも入ってこない。視界を完全な暗闇に変えるマスクによって、部屋に差し込む太陽の明るささえも感じ取れない。
待機中はマスクなど外しているが、一人目がやってくる直前には、ヘッドホンに届く指示に従い、マスクをかけているのだった。
『楽しみだね? 沙弓ちゃん』
校長が通信を繋げて来るので、その声だけはヘッドホンから直接入り込む。
「楽しみなわけないから」
マイク機能が搭載されており、見た目にはマイクらしいものはなくとも、喋れば沙弓の声は向こうに届く。
『事前に説明した通り、本番行為は禁止。だけど奉仕は求められたらするように……具体的には、唇に持って来られたら咥えるように』
「はいはい」
『本番禁止については、許可なく行えば法的罰則があると脅しているし、監視もしていることは伝えてある。マイクを通じて一瞬でバレるってこともね』
「わかってるから、もうその説明はいらない」
ぶっきらぼうに沙弓は応える。
こんなマスクやヘッドホンなど、沙弓からすれば何ら配慮になっていない。沙弓から相手の正体がわからなくなるだけで、相手はきちんと有村沙弓を認識して、クラスの女子とわかって触ってくる。
どうせ、贔屓を封じるためだ。
冬馬の愛撫であれば、たとえ他の男子の方が上手くても、沙弓としては冬馬が一番だったことにする。冬馬の評価を無条件でトップにして、他の男子は二番目以上になどさせはしない。
それを封じて、無理にでも公平な評価を下させるつもりだ。
こういった方法については、保健体育の授業の中で、既に何度か繰り返し事前に説明されている。沙弓は所定の部屋で待機して、男子生徒は呼び出された順番にそこへ向かう。一日辺りの人数を割り振って、向こう一ヶ月はかけて実践テストを行い、沙弓の下す評価は全て本人の元に届く仕組みであるらしい。
評価の基準は簡単だ。
まず気持ち良くなったら得点を上げ、乱暴であったり適当ならば減点する。あまり気持ち良くなかったとしても、きちんと丁寧にやろうとする心がけがあれば点数として扱う。
爪が長かったら、膣に指が入る際、膣壁を痛める恐れがあるので減点。
フェラチオなど奉仕ばかり要求して、沙弓に快楽を与える意思が欠けていれば減点。
そういった一定の基準については数回にわたって聞かされて、プリントとして印刷したものまで渡されている。
(なんでこんな審査員なんかに……)
性指導制度のようなものがあるのなら、風俗嬢でも公的に雇えばいいのに、生徒にやらせる神経が理解できない。
『一人目、入ったよ? もう部屋の中だね。スタートの合図が入るから、頑張ってね?』
そこで校長からの通信は途切れ、あとは何も見えず、何も聞こえない、五感の一部が失われたような世界が広がる。
目と耳が使えないのだ。
男子にすれば、声かけによる開始の合図ができないため、そこでちょっとしたルールが設定されている。開始直前に手の甲を握り締め、それを合図とすることだ。沙弓は合図を受け取るため、ベッドから足を下ろした形に座り、膝に拳を置いているのだった。
決まった合図通りに手が置かれ、緊張を帯びた震えた手つきに握られる。
ぞわぁぁぁぁ………。
毛穴が広がり、鳥肌が立ってしまう。
好きでもない男に触れられるのは、所詮そういうものなのだ。
(冬馬、じゃないよね……)
冬馬相手に嫌がる素振りなど見せたくない。
だが、相手の区別がつかない以上、順番さえも明らかにされていないのに、いつどのタイミングで冬馬が来るか、沙弓にはわからない。
とにかく、まずは一人目の相手を済ませるため、合図に応じてベッドの上に横たわる。
すると、相手の男子もベッドに上がり、いかにも恐る恐るといった、緊張によるたどたどしさに満ちた手つきでの愛撫は始まった。
誰かもわからない相手の愛撫は、いかにも触ることを怖がるような緊張にまみれたもので、しどろもどろに肩や腹をくすぐるのが精一杯なのが伝わってくる。そのまま何もできずにいればいいものを、一人あたりの時間が決まっているから、結局は意を決して、胸を揉み始めてくるのだった。
(誰か知らないけど、せめて丁寧にしなさいよ)
乳房を握ってくる握力が少し強い。
心の中で減点を決め、とはいえ軽い痛みに大袈裟な反応をするつもりもなく、ただただ時間の終わりを待って、沙弓はじっと寝そべっていた。奉仕を求められたら応じるように、校長からは言いつけられているので、口元にペニスが来ないことを内心で祈りつつ、寝て過ごすだけの在り方に徹していた。
楽しむ必要はどこにもない。
審査員としての仕事を与えられたので、自分はそれを淡々とこなせば良い。
クラスメイトに裸を見られ、触られている最中であることはなるべく忘れ、沙弓はじっと我慢をしながら、相手の手つきや力加減をチェックしていた。
性器に指が来る。
最初は雑にワレメを擦り、やがて穴に指を入れたがっているのが、探らんばかりの手つきから伝わるものの、膣口の発見に何秒も何秒も手間取っていた。冬馬が相手なら、沙弓もきちんと足を開いて、自ら迎え入れたいところだが、相手が不明ではそんな対応をする気も起きない。
やっと膣口を発見して、相手は指を出し入れしてくる。
しかし、ロクに濡れてもいないアソコに、少しばかりガシガシと、勢いを付けすぎた。愛液による滑りのない、あまりヌルヌルとしていない状態での激しい摩擦は、ただただ膣壁に負荷を感じるばかりであった。
(減点、減点……はい、減点……)
相手は生まれて初めてなのだから、仕方がないといえばそうなのだろうか。
こうなると、校長がいかに上手いかが身に染みるが、校長を褒めてやるのも癪なので、沙弓は心の中からあの肥満の顔を追い出した。
やがては一人目の時間が終わり、ヘッドホンにアナウンスが来ると同時に、室内のスピーカーにも同一の声が流れている。沙弓自身に聞こえるのはヘッドホンの声のみだが、一人目の男子は名残惜しそうに少しだけ、あと数秒だけ沙弓の腹を撫で回し、そして部屋を出て行った。
『はーい。お疲れ様ー。評価表に記入をお願いねー』
校長からの通信を聞き、沙弓はアイマスクを外して記入を始める。
机に用意していた評価シートには、名前の欄には『一人目』と記しつつ、愛撫が雑か丁寧かのチェック欄にペンを走らせ、他に思うところがあれば記述欄に書き込んでいく。AからEの五段階評価のうち、悪いが一人目はDとした。
正直、少しは躊躇いもある。
もしも、万が一にもあの一人目が冬馬であり、よりにもよって彼氏に低評価を付けてしまっていたらどうしよう。そんな不安もありながら、かといって単なるクラスメイトに高評価をつけてやるいわれもなく、雑であったり、力が強すぎると感じた相手には、容赦なくD以下の表かをしてやろうと、沙弓は心に決めていた。
その後、沙弓は身体を清掃する。
衛星用のボディペーパーで細かく拭き取り、一人目の手垢を取り除き、次の開始時間が迫る頃には二人目を迎える準備に入る。
同じように待ち構え、決められた合図が来ると同時に横たわり、ただただ淡々と無言で愛撫を受け続ける。
二人目は痛くはしてこなかったが、単に自分がオッパイを揉みたいだけで、沙弓のことを気持ち良くさせようとする感じに欠けていた。教えられた評価の基準で、そういったものを感じなければ得点は付けなくて良いことになっているので、せいぜいC止まりとしておいた。
三人目は力が強く、爪まで食い込む力で揉まれたので、さすがに口頭で注意してやったが、その後も丁寧とは言い難くDとした。
四人目は注意してもしばらくすると元の力加減に戻ってしまい、言っても言っても乳房に食い込む握力が気に入らず、こればかりは最低評価を付けることにした。
そして、今日のところは終了して、五人目以降はまた明日からになるのだが、今のところ奉仕は要求されずに済んでいる。
(もし要求してきたら、絶対に評価下げるから)
沙弓は内心、そう決めていた。
フェラチオなど、相手が気持ちいいだけで自分には快感がない。自分だけが満足するような行為を、好きな相手にだったらしてもいいが、そうでもない相手にはしたくない。校長にだって本当はしたくない。
そもそも、減点と言わず、その時点で最低評価を付けても良いと、そう許して欲しいくらいであった。
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