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 身長計の台に足を乗せ、堀は柱に背中を付ける。背筋を真っ直ぐに伸ばし、腕のクロスがぎゅっと固く引き締めていた。
(もう、早く測って)
 いつまでも裸でいたくない。
 だから早々に足を進めて、こうして姿勢も正しているが、堀の真横に立つ教師は一向にバーに触れる気配も見せない。
「あの、早く測って下さいよ」
「腕は下ろしてね」
 涼しい顔で言って来た。
「腕って、そんなことしたら……!?」
 すぐそこに立つ教師の存在はもちろんそうだが、目の前にずらりと並ぶ男達のこともある。あの時の医師に、名も知らぬ三人の職員が集まって、まるで堀を鑑賞物か何かのようにして見守っている。
(こんなの! とんだ晒し者じゃない!)
 こうしてショーツ一枚でいることでさえ、顔から火を噴きそうな思いでいる。それを五人もの男の目に乳房を晒せば、余計に大きな炎が出るだろう。自分がどこまでおかしくなり、どれほどの感情の渦に飲み込まれるか、想像もつかなかった。
 しかし、教師は手心を加えてくれない。
「早くしてくれないと、困るなぁ?」
 あくまでも腕を下ろさせようと、プレッシャーをかけてくる。
「わ、わかりました……」
 重圧に負けたかのように、堀は腕のクロスを緩める。下ろそうとした瞬間、乳房を晒そうとした途端に、猛烈な抵抗感に見舞われた。腕を下ろす動作に対して、磁石の反発にも似た何かが起こったように、跳ね返される感覚で簡単には腕を下げられない。
「どうしたのかな?」
「だ、だ、だって先生……みんな見てますから……」
「うん。見てるねぇ?」
「お願いします。このまま測ってもらえませんか?」
「早く下ろして欲しいなぁ?」
 教師には堀の願いを聞く様子はなく、助けを求める思いで四人の男に視線をやっても、ただただ待ち侘びているだけである。配慮どころか、むしろ早くしろと言わんばかりの圧が放出され、ますます重圧がかかるばかりだ。
(ああもう! あとで何か破壊したい!)
 堀はとうとう腕を下ろした。
 反発を押しのけて、元のクロスの形へと、自然と戻ろうとするのも抑え、心の努力の末にやっとの思いで両腕をだらりと垂らし、乳房を曝け出すことになってしまう。

 じぃぃぃ……
 じいっ、
 じぃぃ――
 じぃぃぃぃ、

 当然のように視線は殺到する。
「わかってはいたけど、AAカップだよね?」
 教師も真横からチェックして、カップの判定まで声に出す。
「いいから! 測って下さい!」
 堀は力強く目をつむり、まぶたの裏側にある暗闇に閉じこもり、あとは緊張に強張りながら計測を待っていた。頭の上にバーが下ろされ、身長が明らかになる瞬間を、今か今かと待ち侘びていた。
 こうしていても、視線は気になる。
 みんなの目つきを見ないため、現実から目を閉ざすため、実際にまぶたを閉じているのに、かえって視線を想像してしまう。視線をレーザーのように可視化できたら、赤い真っ直ぐな光が胸中を這い回っているに違いないイメージが浮かび上がって、頬が発熱してしまう。
 しかも、教師の手が触れてきた。
「もうちょっと姿勢を綺麗にしようね?」
 などと言いながら、まるで点検や調整であるように、教師は堀の身体に手を当てる。
「ええっ!? あの……!」
 全身に悪寒が走った。
 真後ろから肩でも揉んでくるように、両手が乗せられてきたかと思いきや、引っ張る力をかけてくる。腕のチェックのように、二の腕から手首にかけ、上から下へと順々に揉んでくる。
「動かないでね?」
(う、うごか――えっ、なにしてんのコイツ!)
 信じられなかった。
 こんな格好にさせられた上、身体に接触までされるなど本当に最悪だ。手汗と体温の感触が皮膚に染み込み、嫌悪感から鳥肌が立ってくる。
「はい、じっとしてぇ?」
 腹に手が置かれていた。
 ずれないように、押さえるためであるように、しかし明らかに不要な接触をしてきている。手汗が生み出すちょっとした粘り気で、テープの粘着には程遠いが、かすかに付着してくる感じあがる。
(き、キモい……)
 もう泣きそうだった。
 頭にバーが下りてきて、あとは数値を読むだけかと思いきや、腹の上で手が動く。乳房に近づき、親指の側面が少しだけ、膨らみをさりげなく持ち上げてきて、堀はビクっと肩を震わせていた。
「ほら、動かない」
 ぱん!
 と、軽く叩いてくるようにして、胸の中央に手の平が乗せられた。今度ははっきりと乳房にも当たっている。指先が乳房の膨らみに届き、手の平から手首にかけても潰れている。左右の乳房それぞれに接触は及んでいた。
「あ、あのっ、先生――て、手が――手が――ちょっと……」
 理解できなかった。
 ここまではっきりと胸に手が来ているというのに、誰も教師のことを注意しない。四人の男達にも、堀の状況は見えているはずなのに、きっとここにはセクハラを許さない空気など存在していない。
 今ここは、この程度の接触は黙認する空間になっている。
「いいから動かない」
 堀は悟った。
 乳房に手が触れていることを受け入れ、静かに動かないようにしなければ、この身長の測定が終わることはないのだ。
 頭にバーが下ろし直され、堀は唇を噛みながら身動きを抑えていた。
(……アトデ殺ス)
 恨めしい気持ちも膨らんでいた。
 報復をしてやりたい感情が沸き立って、腹の中でふつふつと沸騰のように音を立てていた。
「……やっ」
 そんな堀が小さく悲鳴を上げるのは、もう片方の手が尻に触れてきたせいだ。バーを弄っていたはずの手が尻へと移り、指で撫でてきているのだ。柱に当たった尻の、ほんの少しばかり潰れた尻肉が、ショーツの上からすりすりと擦られていた。
(う、動いたら……終わんない……やり直しとか言われる…………)
 ぐっと堪えていた。
 堪えるためにまぶたを固く閉ざしていると、耳のすぐ横にまで顔の気配が迫って来る。数値を確かめるための顔が、耳の穴に吐息を流し込むような間近にあるせいか、教師の呼吸が生み出す大気の流れに頬を撫でられ、肌に鳥肌が広がっていた。
「はーい。いいよ?」
 やっとのことで解放され、すぐさま身長計を下りる堀は、即座に腕のクロスを固め直した。恨めしさを目つきに浮かべ、教師の背中を睨みつけるが、当の教師はのうのうとした顔で数値を伝え、職員がそれを紙に書き込んでいる。
(暴れたい、背中蹴りたい――)
 この屈辱をどうにか晴らしてやりたい衝動は確かにあった。
 かといって、幼少期や中学生の頃に比べて、決まった相手を虐めたり、決まった誰かさんをこき使うこともなくなって、今の堀は当時よりも大人しい。まさか本当に暴れてやろうなど、そんな大胆な行動に踏み切ることはないのだった。

     *

 座高計でも、およそ似たような流れになった。
 腰を下ろし、柱に背中をつけ、背筋を伸ばせば頭にバーが下ろされるも、教師はやはり身体に触れてくる。姿勢を調整するためであるかのように、ずれないように押さえるように、肩や腕を触ってくる。腹に手を当ててくる。
 堪えに堪え、堀が一方的に我慢を強いられている中で、教師の方はいよいよ乳房の上に手を乗せる。手の平の中央に乳首を捉え、明らかに揉み始めた。
 もちろん、身長計で受けた接触行為にも驚いた。
「せ、先生!? 揉んでますけど」
 しかし、今度の今度は思わず声を上げていた。
「ああ、気にしない気にしない」
「気になりますけど……」
「いいから動かないように。じゃないとできないでしょう」
「……はい」
 何一つ納得がいかない。
(おかしいでしょ!? 何で今、私の方が注意されたの!?)
 頭に触れてきたバーの中から、教師はすぐには数字を読まず、指に強弱をつけて、あばら骨から掻き集めんばかりに胸を揉んでいる。こうまで意味のない接触を、どうして受けなければいけないのか、まるで理解ができなかった。
 不意に乳房から手が離れるも、その手は太ももへと移るだけだった。
 そして、気まぐれに時間をかけられ、本当なら一分以内かそこいらで終わっても良さそうなないように、およそ数分はかかっていた。

 ――体重計。

 ここまでの一連の恥辱にありながら、体重を知られることが気になるなどおかしいが、こんな教師にプライバシーを把握されたくない気持ちはやはりある。いや、むしろここまで仕打ちを受けたからこそ、追加で体重まで知られなくてはならない無念があった。
 体重計に足を乗せ、デジタル目盛りに数字が現れる。
 堀が乗っている体重計は、土台から柱を伸ばし、何故だか向こう側に数字を表示する形となっている。堀自身に数字は見えず、教師の側からのみ、体重は明らかになる。
「…………」
 黙しているのみ、何故か数字を読んでくれない。
「先生、早くお願いします」
「腕、下ろそうか」
(コイツ……)
 教師を中心として、四人の男がそれぞれ左右に立ち並び、五人分の視線が堀一人に集中しているのだ。確かに、先ほどから乳房は公開してしまっているが、せっかく固めた腕のクロスをまたしても解かなくてはいけない気持ちには、いよいよ諦めの念さえ浮かんで来る。
(はいはい。下ろせばいいんでしょう? 下ろせば)
 堀は両腕をだらりと垂らし、気をつけの姿勢を取る。
「はい。いいよ」
 読み取った数値を、教師は職員に伝えていた。
 職員が持つ書類の中には、堀の情報がああして書き込まれているのだ。

     *

 スリーサイズを測る段階になり、教師はメジャーを用意していた。
 あれを胸や尻に巻き付けられるのかと思ったら気が重い。身体に接触されるだろう。平らな胸のサイズを明らかにされ、ヒップまでこんな教師に暴かれる。鬱々とした気分になって、決して明るい表情などしてはいられない。
「さて?」
 だが、教師は何故か堀の横を通り過ぎ、脱衣カゴへと向かっていた。
「あれ、先生?」
「パッド入り、だよね?」
「ちょ……………………!?!?!?!?」
 堀は軽く恐慌していた。
 自分のブラジャーが教師の手でつまみ上げられ、その右手にぶら下がっている光景に、青ざめているのか赤らんでいるのか、そんなことは堀自身にもわからない。とにかく受けた衝撃で頭は真っ白に、次の瞬間にはブラジャーを引ったくり、奪い返しているのだった。
「何してるんですか!」
「脱ぐ前と、脱いだ後とで、どうもバストの変化が大きくてね。服の厚みとかじゃ説明がつかない気がしたから」
「気がしたって、一体どんな目を……」
 パッド入りは事実でも、何もボールを詰めていたわけではない。申し訳程度にしか大きく見せてはいないはずの、たかがパッド程度による差を見抜くなど、日頃から女子の胸を観察しているのだろうか。
(ありえる! キモいもん!)
「パッド入りのサイズも測っておこうか」
「なんで……」
 かくして、一時的にブラジャーを着け直すこととなり、下着姿となった堀へと、教師のメジャーが巻きついていた。
「あーあー。Aカップ用って書いてあったけど、パッドで隙間埋めてるよねぇ? 本当はAAカップなんじゃないかな?」
(うるさいから)
 教師は抱きつくかのように腕を回して、背中を指先で撫でながら巻いてくるやり方にぞっとして、寒気を感じながら、そしてブラジャーのカップの上で目盛りが合わさる。
 測り終われば、すぐにでも外し直すことになる。
(はあ、せっかく着けたのに……)
 ブラジャーがあるだけでも、乳房を隠して恥ずかしさを軽減できるのに、わざわざ着け直した上でもう一度手放すことの心細さといったらない。顔の赤らみを薄れさせ、改めて赤面し直す堀には、脱衣カゴの中へと放り込み、今しばらくの別れを告げなくてはならないブラジャーの存在が恋しくなっていた。
「さぁて、何センチくらい差があるだろうね?」
 生の乳房を晒した状態で、目の前の教師がメジャーを伸ばす。
「いいから、早く測って下さいよ……」
「はいはい」
 教師は抱きついてくる。
 本当に抱きつくわけではないが、腕は確かに背中へ回り、このまま少しでも力を込められれば、お互いの身体は密着してしまう。それでなくとも、髪の下にメジャーを通し、背中の上に合わせて手前に出そうとする挙動によって、太った身体が何度かかすかに擦れていた。
 教師がメジャーをピンと伸ばした。
 メジャーが背中の形状に沿ったカーブを成し、教師の手により真っ直ぐ手前に伸ばされることにより、一時的なU字が作られる。あとは折り畳むようにメジャーを乳房に重ね合わせ、目盛りから数字を見るだけだ。
 目盛りは乳首で合わされていた。
(んっ、あっ、ちょっと……あっ、こいつ、絶対わざと……くぅ…………)
 目盛りを合わせようとして、いかにも苦戦して手こずってみせながら、メジャーで乳首を弄られていた。指で直接触れることはなく、あくまでメジャーを使って上下に転がし、そのせいで生まれる甘い痺れを堀は堪えた。
「へえ? こんなに変わってたんだ。薄いのは変わらないのにねぇ?」
(……うるさいわよ)
 乳房についてコメントしてくる言葉が嫌でならない。
「ではアンダーバストを」
 教師はそのままメジャーをずらし、乳房の真下に目盛りを合わせる。これでこんな教師の手によって、カップが直接明らかにされてしまう。
「AAカップだねぇ?」
 乳房に顔を接近させ、数字を確かめた直後の、見上げてくる教師のニヤつきように寒気が走り、堀は大いに引き攣っていた。
 さらにメジャーは下へとずらされ、今度はウエストが測定される。
 腰に巻き付ける際にも、無駄にくびれに手を乗せて、触ってきながらの調整が行われ、堀からすれば痴漢を受けている気持ちに他ならない。これだけニヤニヤしている教師は、実際に触りたくて触っているだけだろう。
 それを注意する声は存在せず、教師の行いはここでは容認されている。
(お尻か……)
 もう、絶対に触られる。
 不快感に耐えなくてはならない運命に泣けてくる。というより、もう先ほどから堀は始終涙目だ。
 バストからウエストへの移動は、メジャーをそのまま引っ張りながらずらしていた。ところがヒップの測定では、改めて巻き直そうと、またしても抱きつくような形で腕を回された。股間に限りなく顔が近づき、見下ろせば髪の薄れた頭部が底にある。
(うっ、ぐぅ……)
 べったりと手の平を貼りつけながら、メジャーの紐を手前に出す。あからさまに尻を触られるのは案の定のことだったが、やはり大きな不快感で肌が震えた。
 ショーツのクロッチ上で目盛りが合わさる。
 性器に近いギリギリの位置でもあり、下着に触れられている嫌悪と羞恥も実に強い。こんな下腹部に視線を注がれ、数字の確認のために顔を近づけられるのは屈辱的だ。
「はーい。あとはもっと細かい測定もするからね?」
 こうして、ヒップが記載されていく。
 身長、座高、体重にスリーサイズにカップ数まで明らかにされ、書き込まれていく気分は良いものではなかった。



 
 
 

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